満州国演義 (6) 大地の牙

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (425ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104623075

作品紹介・あらすじ

国難に直面したとき、人々が熱望するのはファシズム。昭和十三年、日中戦争が泥沼化する中、極東ソ連軍が南下。石原莞爾の夢が破れ、甘粕正彦が暗躍する満州に、大国の脅威が立ちはだかる-"大戦前夜"の満州を描く、入魂の書下ろし七五〇枚。

感想・レビュー・書評

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  •  三、四年の間、すっかり無沙汰にしていた満州国演義シリーズを久々に手に取る。冬場でオフシーズンで仕事が暇なんだからちょうどいいや。冬の北海道旅のあいだも、このお弁当箱みたいに重たい本を持って歩いたけれど、外は吹雪いていることも多く、電車であれバスであれホテルの窓辺であれ、ガラス越しに感じられるのは零下の真冬。モノトーンの昼と真っ暗な夜ばかりだ。だからこの本の舞台背景になっている満州は、とても身近に感じられる。嘘だと思うのなら、船戸ファンよ、このシリーズを読むに最適なる白い北海道へお越し頂きたい。そしてこの重量級の作品を、冬の泣き叫ぶような風の音に耳を傾けながら、活字を追ってもらいたい。正統派船戸満州読書術です。

     満州国演義もかなり時を経て物語を経て主人公たち、即ち敷島四兄弟も変化を遂げた。変わらないと思えるのは、奉天特務機関員中佐・間垣徳三くらいか。いや、その間垣も時代の趨勢に初期の思いとは流れが随分ずれて来ているっていうことの危険を動物的勘でぴりりとだけ感じているみたいである。そう、時代は多くの満州事変当事者たちの思惑とずれてしまっている。いつ、日本の方向性がずれ始めたのかは、誰にもわからない。満州国建国の理想がどのくらい泥にまみれ、正当なる実現のかたちとは違った方向に向き始めたのかは、やはり誰にもわからない。しかし、誰もがずれ始めた時代の足音を耳にしてはいるのだ、確実に。

     本書はその意味で、他巻に比べ静謐に満ち満ちてはいるけれども、その分だけ異様に恐ろしい。空気には一触即発の火薬でも混じっているように呼吸すら安心してできない。すべてがあらゆる人間の思惑の中で駆け引きされ、売り渡されたり踏みにじられたり、やけに慌ただしい。それが理想を失いかけた満州の現実となっている。

     抗日運動の激化する山中で苦労していた敷島三郎は、ノモンハンの間近まで歩を進め、恐るべき現実と向き合うことになる。本書の白眉であるノモンハンの惨憺たる結果を船戸の筆でさえ十分に描ききることができないでいるのが読者としてももどかしい。

     山本薩夫がメガホンを取った映画『戦争と人間 第三部 完結編』ほどノモンハンの凄惨さを描いた映像をぼくは他に知らない。原作者の五味川純平ですらノモンハン全体を描ききれたかどうか。五味川原作は悲惨のピークを太平洋戦争に持ってきているので、ノモンハンは原作にとっては単なる序曲みたいなものだ。しかし、山本映画を観た者にとってノモンハンは初期の硫黄島みたいなものだ。ソ連が本気を出したら日本など戦場ではいくらも持たない。戦車隊突撃兵。天安門事件みたいに。

     本書はノモンハンが命令を無視して独断で行われた作戦であり、そして大敗と未曾有の被害であったところ、さらにその被害が誠実には日本に伝えられていない虚しさを、登場人物のほぼすべてがl共有するところで完了してゆく。戦争とは、秩序の喪失であり、だからこそ人命の大いなる損失を伴う誤断に満ちた空虚な破滅なのである。その空しさを人間がどれだけ繰り返してきたのか、あるいは今も継続しているのかを、船戸文学は世界中のあらゆる世界を舞台に描いてきた。今、彼の使命の集大成として、歴史の語り部は血みどろのペン先を昭和日本の選択に向けている。

     今のぼくらができることは、黙々と血と風雪で綴られた満州史に眼を向けるばかりである。

  • 満州国演義シリーズ第6作。近衛文麿内閣は「爾後、国民政府を対手とせず」という声明を発表。国交断絶ともとれる発言でますます泥沼化する日中戦争。日本軍は重慶を爆撃、その後ノモンハンではソ連軍と激突する。圧倒的な力の差で敗北した日本軍にさらにアメリカから石油や屑鉄などの対日輸出禁止を言い渡される。一方欧州ではドイツとソ連で不可侵条約が結ばれるがドイツのポーランド侵攻で第二次世界大戦が起きようとしていた。四兄弟の末っ子四郎は間垣徳蔵の斡旋により満州映画協会に就職する。詳細→
    http://takeshi3017.chu.jp/file9/naiyou10144.html

  • 敷島三郎、抗日軍に捕まるが、脱柵した日本人に逃がしてもらう。
    ノモンハン事件
    楊靖宇、撃たれる。
    敷島四郎、満映に就職。

  • 日中戦争が戦局を泥沼化させていた一方で、国際情勢が大きく動き出すのが本巻の時期。
    大粛清により国内を掌握したソ連のスターリンがヒトラーとの駆け引きの末に独ソ不可侵条約を締結。ドイツのポーランド侵攻を契機として第二次世界大戦が勃発する。
    ソ連がドイツによるポーランド攻撃を承認する一方で、ドイツ側はソ連のフィンランド侵攻を黙認することがこの不可侵条約の裏取引だったそうな。

    日本とソ連との間での国境紛争ノモンハン事件があった直後にこの独ソ不可侵条約は締結されており、ナチスドイツとの同盟を期待していた当時の日本首相が「国際情勢は複雑怪奇」と言って職を投げ出すのは有名な話。

    この辺りの経緯を追っていくと、後に起こる太平洋戦争が、ドイツやソ連やアメリカとの関係性に翻弄されていくうちに起こった戦争なのだなということがなんとなく見えてくる。
    昭和期の日本が何故太平洋戦争まで暴走してしまったかについての詳細は意外と知られていないけれど、様々な矛盾を抱えたまま物事だけが進み、どんどんわけがわからなくなって誰も事態を止められなくなり突き進んでしまった、というのが実態なのだと思う。
    誰が悪いとかどうすれば良かったとかじゃなくて、軍部も政治家も企業も一般市民も、何もかもが制御不能に陥り、おかしくなっていたのだろうなと。

    ノモンハン事件、独ソ不可侵条約、第二次世界大戦勃発といった歴史の教科書にも載るような国際情勢の大きな動きに対して、相変わらず本作では全く現代には伝わっていないような細かな出来事まで掲載している。
    例えば、あの日産自動車が満州国経営に大きな影響力を発揮していたことなんかは本書を読むまで知りもしなかったし、ナチスドイツや日本と連携して対英戦争準備を進めようとするインドやビルマの人々の動きだとか、藍衣社などの中国ゲリラに対して日本が仕掛けたジェスフィールド路76号という暴力組織による破壊工作なんかもそう。

    印象深かったのは、吉本興業が陸軍と結び付き兵士を慰問するために「笑わし隊」というお笑い芸人を送り込んでいたという話と、菊池寛など多数の文豪が日中戦争賛美のプロバガンダのために従軍していたという話。
    戦争の悲惨さを現代に伝える文献や資料は多いけど、戦争に便乗する人間の姿を描いたものはあまりない。
    でも、自動車産業や新聞メディア、さらには文学やらお笑いやらまで、様々な事業が戦争を餌に利益をあげようとしていたことは、現代に生きる人々にとっても覚えておくべき事柄なんだろうなと思う。

  • 2015/05/27完讀
    ★★★★☆

    上一次讀這個系列居然已經是三年前的事,最近發現終卷終於出版,可以安心地開始看了!!!不過事隔三年,裡面的虛擬人物關係都忘得差不多了,因此剛開始讀的時候一直在想誰到底是誰@@

    卷中太郎屬於幣原親英米派,但是國內的外交氣氛幾乎往親獨派一面倒,滿州國(甘粕)和義大利互訪,中國租界的殺人事件英國政府拒絕引渡犯人,引起日本輿論更憤怒,親獨派勢力高漲,內閣更迭後,只剩米內光政一個人在踩剎車。一旦親獨派成功推動三國軸心,日本就勢必和英米正面對決。太郎也為阿媽丁路看租了房子作為偷情之處。

    前馬賊覽把次郎這一集前面都在觀戰(其實我已經完全忘記他為什麼會變這樣了。。。),後來他恐嚇間垣不要再操控弟弟四郎,因為四郎不斷被間垣使用,以達成間垣個人的信念,不能讓親德派得逞發展成對英米全面戰爭(且他認為新政已經無法刺激經濟,羅斯福其實偷偷在等待戰爭)。日方在中國的戰爭不斷挺進,攻破徐州,登陸廣東,挺進武漢,也開始招募忘八在武漢經營妓院(以免又釀成南京事件造成國際觀感不佳),四郎在那裏幫忙軍醫檢查性病。次郎對間垣提出要求,讓四郎到滿州國新京的滿映公司就職,從事他以前有興趣的演劇。四郎到那裏再度和十一年前的舊愛松平映子死灰復燃。而次郎開始覺得觀戰的生活太無聊,又開始接工作,猶太人フリーマン(滿州鼓吹共和平等、各民族真心攜手的石原,和東條交惡,石原終於被鬥倒回國,滿州國終於徹底成為軍部的禁臠,石原想像的農耕自食也被大資本農業政策進入所取代,此人正在推行歐洲猶太人逃出後落腳滿州,滿州受猶太大資本投資之計畫)也來找他暗殺德國鼓吹反猶太之生理博士。印度人ジャフル為了賺取印度獨立的資金(因為宗主國英國現在被德國纏住無法脫身,正是好機會),在上海賣鴉片,委託次郎進行一些暗殺、攪亂和破壞的髒活。當時上海主要是英國和青幫(賣鴉片替國民政府賺資金)獨佔市場,印度人想要在此分一杯羹,就必須打開市場。

    日本軍部知道中國戰爭是泥沼,現在所扶植的政權不是不夠力就是互相惡鬥,因此一直不斷遊說汪兆銘,因為他是唯一可以成立比較有說服力的親日政權者。汪終於下定決心逃離重慶,在日本人保護下(因為青幫一直追殺他)輾轉終於來到上海。日本人提供資金,原cc系丁默邨(中了青幫鄭蘋如的美人計)和李士群在ジェスフィールド路76號成立秘密機關,夜夜和青幫火拼。後來汪終於踏出成立政權的第一步。

    這本書另外提到蘇日曾在張鼓峰小規模衝突,關東軍就開始自行暴走,軍部擔憂會分散日後進軍武漢的兵力,好不容易靠外交解決這件事;沒想到在滿州事變先斬後奏的不良風氣影響下,國境不清楚的諾門罕,辻政信參謀等過度輕敵,無視軍部制定躁進突進的作戰計畫,把小型衝突變成和蘇大規模的慘烈戰爭。蘇聯此時因為和德國展開互不侵犯之交涉,開始放心把軍東調,此為關東軍始料未及之處,而中央軍部相當震怒於關東軍暴走便成立第六軍團壓在關東軍上面,反倒造成混亂,導致俄軍新式坦克大量壓境、日軍無力反抗(日方完全不知道俄國人換坦克,還在做莫洛托夫雞尾酒丟坦克期待它們自爆;但俄國人改用重油的坦克,這一招早就沒效,日軍就直接被輾過了),幾乎全滅潰敗,連日死傷慘重。三郎也目睹這個鼻酸的戰役,但是日本國內完全沒有任何報導,也不敢報導。後來因為俄軍要進攻波蘭芬蘭所以把兵調回,才靠外交解決這件事。

    三郎身為特務憲兵大尉,同時也在追討打游擊戰、不停招募滿人抗日的抗日連軍,因此鎮日東奔西跑,也看到軍警矛盾化。卷末尋尋覓覓抗日連軍楊靖宇(因為要抓他,滿人大量被採用為警察,為確保工作機會,滿人又保護他。。。。)被他團軍警所殺,三郎感到一陣虛無。

    **
    這本書裡面很多人來來去去雖然都有只是來傳報紙公文之嫌,但是就覺得很好看。相較之下剛看完的中村那本也是很多史料(而且很多餘贅,讀完前田第一卷覺得好多重複),但不知為何就是給我堆砌的感覺。或許這就是做為小說家的力量差異,編織的功力差異吧?當然也不能說這部書完全沒有小說家操弄的痕跡,四兄弟就是在受時代(以及小說家)擺布,但是還是喜歡這部作品,讀起來就是讓人不忍釋卷,而且可以感受到整個時代如何激盪,時代的氛圍和呼吸的立體感。

  • 政府として手をこまねき、たまさかの逢瀬を楽しむ太郎。憲兵という微妙な立場で戦場を駆け、信念と混迷との間で葛藤する三郎。安穏たる生活から脱して、再び牙をむく次郎。そして、ひとまず次郎に救われつつも、目標を定められずに生き続ける四郎。どのみち日本は墜ちていくが、彼らの運命やいかに。

  • ノモンハン事件のほかにはコレといった大きな進展が無く読むのに丸一ヶ月かかった。エンディングに向けて敷島四兄弟の運命はどうなるのだろうか。

  • ノモンハン勃発!汪兆銘政権も発足して三国同盟に雪崩れ込む寸前の焦燥感。里見も出て来て裏面史炸裂。

  • 段々破滅が近づき読むのが辛くなる。しかし日本は真珠湾攻撃の前に既に敗戦していたと言ってよい状態であったのは初めて知った。国としての体をなしていない。個人個人の鬼畜な振る舞いや無能で無責任な上官などはあっさり触れられているだけであるが、国全体として日本全体としてのダメさ加減には悲しくなる。

  • エルロイのアメリカンタブロイドのように実際の歴史とフィクションが混然一体となったストーリーでどんどん読める。戦場や事件現場に立会う主人公四兄弟が誰も死なないところが非現実的。

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