きつねのはなし

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104645022

作品紹介・あらすじ

京の骨董店を舞台に現代の「百物語」の幕が開く。注目の俊英が放つ驚愕の新作。細長く薄気味悪い座敷に棲む狐面の男。闇と夜の狭間のような仄暗い空間で囁かれた奇妙な取引。私が差し出したものは、そして失ったものは、あれは何だったのか。さらに次々起こる怪異の結末は-。端整な筆致で紡がれ、妖しくも美しい幻燈に彩られた奇譚集。

感想・レビュー・書評

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  • 京都には魔物が棲んでいます。それはこの本の話ではなく、この前京都に旅した私の実感です。

    「ついこの間の戦(いくさ)」と住民が言えば、それは74年前のことではなく、ましてや外国との戦さのことではなく、600年前の応仁の乱のことだと言うのだから、時間の概念が違うのです。だから、秀吉が築いた都をぐるりと周らす堤を築くために掘られた溝に捨てられた無縁地蔵を、未だに住民が懇ろに供養しているのが、平気でそこら彼処にあるのです。

    さて、はなからいつもの森見登美彦と雰囲気が違うこの短編集、21世紀の現代に延々と続いている吉田神社の節分祭に、主人公の男が魔物と取り引きをして得たものは、それはもうホントは何だったのでしょうか?ナツメさんは本当は何者だったのでしょうか?(「きつねのはなし」)

    千年の都に張り巡らされた神秘的な糸が、それはもう、不思議な音を立てています。私はウソと信じながら迷い込み、迷宮の壮大な門の前で引き返した気がします。(「果実の中の龍」)

    (「魔」)という名の短編であるのにも関わらず、これはジュブナイル・青春ストーリーとも言っていいような短編。でも、ある一点を除いて。それが、この本の一頁から最後に至るまで棲みついている魔物のひとつであるから。

    吉備国の弥生時代には、龍の信仰が確かにあり、何かうねうねとした奇怪な模様が壺に書かれています。やがてその模様が、古墳時代の大王の代替わりの際に使われる壺の特殊器台の模様に変わって行くのに、更に数百年の年月を要したとのことです。すみません、物語とは全く違う話を最後に書いてしまいました。(「水神」)

    決して怖くはないのです。ただただおそろしい。

  • きつねの面、胴体の長いケモノ、芳蓮堂。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    本書は、先日読んだ「恋文の技術」(森見登美彦・著)の中に登場する“森見登美彦”が書いた小説として書名が登場しており、手に取りました。

    「きつねのはなし」は、「きつねの面、胴体の長いケモノ、芳蓮堂」という3つ、ないしは2つのキーワードで、細くつながれた4本の短編集です。
    ホラー・ミステリというよりは“怪談”といった方がぴったりくるお話たちで、どのお話も奇妙ではあるものの、すっきりとしたオチはありません。
    現代を舞台にしたようなお話ではありますが、描写には“現実味”がうすく、読んでいると恐怖というよりは奇妙さの方が勝ります。

    その中でも一番、怪談ぽかったのは「きつねのはなし」と「果実の中の龍」でした。
    特に「果実の中の龍」は、姿を消さざるをえなくなったであろう“先輩”が、どことなく哀れであり、またのちの単行本「熱帯」(森見登美彦・著)の断片のような雰囲気も感じました。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    森見登美彦さんの作品は大きく分けると「夜行」「きつねのはなし」のような怪談系統と、「恋文の技術」「夜は短し、歩けよ乙女」のような、古めかしくもシュールで笑える大正みたいな恋愛コメディの2系統があるように思います。

    ただ、おなじ系統であっても、ひとつひとつの作品が自分の好みに合うかどうかで、おもしろさは変わってきます。
    今回の「きつねのはなし」は、キーワードがのつながりが細すぎて横の糸が楽しめなかったこと、奇妙さの内容も文章から読みとりにくかったため、☆2つとさせていただきました。

  • 昨今の個人的活字離れ状況をなんとかしようとクリスマス休暇三日目にしてようやく自室の「積ん読棚」に手を伸ばした。ぱらりとめくって目に入った目次から本文庫が短編集であることに気づきなおさら好都合とまずは書名にもなっている「きつねのはなし」を読みきってみた。で、レビュー側の活字離れもひどかったので残り三編を読み切る前に書いてみようかと…

    とはいえミステリアスな展開の短編について自身のネタバレレビューは避けたい信条に沿って書き綴るのはなにかと難しいので、作品を味わいながら脳裏をかすめた映画作品を並べてお茶を濁すことにする。

    まず「鴛鴦歌合戦」(1939)。骨董というキーワードでポーンと浮かんでくるのは本作品で志村喬が演ずる骨董ぐるいのオヤジ像。本作で登場する骨董屋は三十路の女主人によって切り盛りされる店ということで背景は全く異なるのではあるが。

    京ときつねということばの組み合わせに着目するとやはり「恋や恋なすな恋」(1962)。京都という街がほんの少し前までは少し離れると野っぱらだらけだったということを想起しにくい方にはこれがよい。瑳峨三智子の美貌が魅惑という言葉を引き立ててくれる。

    後半の話の流れについては「怪談」(1965) に含まれていた「茶碗の中」と一気21世紀作品の「蜜のあわれ」(2016) が思い浮かぶ。水の中から思わぬ…といえばそれぞれに味がある展開。

    ああ、そして「京+得も言われぬモノ」といった感じのキーワードでひっかかる「嵐電」(2019) という作品があったことを忘れていたので時間差で追記。京の町には今も変わらずそうした雰囲気が漂っているのだということを再認識させてくれた作品。

    森見登美彦作品との親密度はまだ浅く、2018年度のJAPAN CUTSを通してアニメ化された「夜は短し歩けよ乙女」(2017) を鑑賞したことがその始まり。その衝撃度は必要十分ではあったもののその後はその原作を読んだだけにとどまっていた。本作をきっかけに再度ギアが上がることを期待したい!

  • 再読。
    初読からずいぶん時間が空いたので、新鮮だった。「水神」はもう一回読もうっと。

  • どれもすっきりしないお話でしたが、不思議な感じでちょっと不気味なお話でした。それぞれのお話がどこかで繋がってるんですね。ナツメさんって何者??ある意味、一番不気味です。

  • 従来の森見作品の主要成分である「阿呆なお笑い」は一切使用されていません!(出版順ではこちらが先なのでこういうと変だが)、『走れメロス』『宵山万華鏡』で見られたようなシリアス怪奇テイストの作品が揃った短篇(中篇?)集なのである。でも、こういうモリミーもいいなぁ。舞台は相変わらず京都、主人公も男子大学生という設定は他の作品にも共通しているのだが、人気のない小路に迷い込んだ不安感のような、暗闇で何かの気配を感じた様な不気味な感覚のする作品群。敷居の高くない骨董品(古道具)屋「芳蓮堂」、狐の面をつけたひと、幻燈、龍の根付き、闇の中で動く胴の長い謎のケモノ。4つの作品の中で、それぞれどこかで絡んでいる。なかでも最初の『きつねのはなし」の不気味さは異様で一番印象に残った作品だ。【以下覚え書きのためあらすじ記載。ネタバレはないが未読の方は一応ご注意を】『きつねのはなし』骨董品屋「芳蓮堂」で店主の若き女性ナツメさんの元でアルバイトをしている武藤。不注意で割ってしまった納品の始末をつけるために天城という得意先に訪れた。彼の要求を聞いてはいけないと注意されていたのだが…。電気ヒーター、狐の面、恋人の写真…取り返しのつかないことになったような後味の悪さ、不気味さが残る。『果実の中の龍』シルクロードを巡る旅、読書家の菓子職人、大道芸人の兄…さまざまな特異な体験談を魅力的に語る先輩に興味を持ち、いつしか足繁く彼の部屋を訪れるようになった。切ない余韻。『魔』酒屋の次男坊の家庭教師をする「先生」。この界隈で最近通り魔が現れ被害が出ているらしいと話を聞く。謎のケモノが怪奇的。『水神』祖父の通夜の出来事。祖父の柩を囲み、父とふたりの伯父とともに、骨董屋が届けてくれる家宝をを待っていた夜。初代、曾祖父、祖父のさまざまな話が懐かしそうに語られる。そして…。

  • 表題作が一番怖かった

  • 何と言ったらいいのか、実はよくわからない。読み終えた後、言いようのないスッキリしない気持ちが残った。4話とも同じ小道具が使われていて関連がありそうと思わせておいて、そのあたりの説明が詳しく出てこないので消化不良気味。ものすごく怖い本というわけではないけれど、皮膚に残るような、後からゾワッとくるような怖さが印象に残った。「きつねのはなし」なだけに狐につままれたような気分。雰囲気は嫌いじゃないですが。

  • 本のタイトル「きつねのはなし」を含む、全4話の短編集です。骨董店「芳蓮堂」に縁している人達の話のようです。1話目の「きつねのはなし」は不思議さと、少しのホラーが味わい深く混ざり合っていて楽しく読めましたが、その次から挫折しました。主人公が目で見た物をそのまま書いたような感じで、何か惹かれる物がここにあるのか、私にはわかりませんでした。パラパラめくってみると、同じ骨董店の名前が出て来てたので、骨董店つながり?気にはなりましたが、淡々と続く世界が退屈で、先へは進めませんでした。

  • 骨董品を扱う芳蓮堂でバイトしていたとき、
    店主のナツメさんの言いつけを守らずに取引してしまったお客さんの天城さん、不可解な死をとげた須永さん、狐のお面。

    大学の知的で物知りな先輩の壮大な話が全部嘘だと、彼と親しかった結城さんに教えられた別れ際。

    家庭教師先の近所で見た狐のような顔をした胴の長いケモノと、頻発する通り魔と教え子と取り巻きたち。

    祖父の通夜に屋敷に集まった父に伯父たちと話した生前の祖父の奇妙な行動、先祖にまつわる諸説と溢れだした水。

    ファンタジーありホラーあり。
    奇妙で不可解で気味が悪いけれど、背筋がぞっとする恐怖ではなくてワクワクする感じ。
    胴の長いケモノがコワイ。

    どこに真実があってどこに詳細がつながっていくのかわからなくてもどかしい。)^o^(

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著者プロフィール

1979年、奈良県生まれ。京都大学大学院農学研究科修士課程修了。2003年『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。07年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞を受賞。同作品は、本屋大賞2位にも選ばれる。著書に『きつねのはなし』『有頂天家族』など。

「2022年 『四畳半タイムマシンブルース』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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