- Amazon.co.jp ・本 (154ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104669011
作品紹介・あらすじ
碧い海が美しい敦賀の街。ひっそり暮らす男のもとに神様がやって来た-。「ファンタジーか」「いかにも、俺様はファンタジーだ」「何しに来た」「居候に来た、別に悪さはしない」心やさしい男と女と神様。話題の新鋭、初の長編。
感想・レビュー・書評
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ファンタジー(登場人物名)がいてよかった。ちょっとヘビーそうだから読み終えることが出来たか不安だったっていうのが私の理由だけど、主人公の河野もそう思ってたりして、なんて想像。
もしかすると会ったことがないのに知っているって設定はそういうことなのかな。
会話文が多くても変になれなれしい印象はなくて、いろんなものを削いだ文章はただクールな読み心地だけに落とさずにページが進むにつれ、必然を感じさせる。
主人公だけが孤独じゃないのもリアルでよかった。
孤独に向き合う人の物語を景色の美しい描写が支えていたような。
ラストの初冬の空、海、砂浜、暗闇、チェロ、再びの雷雲。
悲しいけど、美しいシーンでした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ファンタジーがやって来たのは春の終わりだった。
宝くじに当った河野は会社を辞めて、碧い海が美しい敦賀に引越した。何もしないひっそりした生活。そこへ居候を志願する、役立たずの神様・ファンタジーが訪れて、奇妙な同居が始まる。孤独の殻にこもる河野には、二人の女性が想いを寄せていた。かりんはセックスレスの関係を受け容れ、元同僚の片桐は片想いを続けている。芥川賞作家が絶妙な語り口で描く、哀しく美しい孤独の三重奏。(「BOOK」データベースより)
読み始めた時はゆったりとした雰囲気を味わう小説かと思っていたら、読み進めるうちにどんどん登場人物たちの心に潜む孤独が大きくなっていき、内容も急展開をみせる。片桐の友人の石原のセリフが印象的だった。「そう・・・バレエをやっているときに会った気がするんです。多分、芸術とか、ほかのことでも自分を裏側まで突き詰めたらファンタジーに会えるかもしれない……そんな気がするだけかもしれないけど。」何か突き詰めようとするということは孤独なんだとはっとした。ファンタジーは神様というよりは生きとし生けるものたちの中に潜む孤独を具現化したものじゃないかなと思った。 -
最初は「ファンタジーって?」とイメージがまったくわかなくて、読みながら頭に入ってこなかったんだけど、だんだん話が進んでいくとファンタジーが溶け込んでいて、いつのまにか存在を気にすることなく読めた。
人間だれしも孤独とは一生付き合わなければならないわけで、だれかがとなりにいてもどこかに埋まることがないさびしさはあって、そこのところがこの物悲しい雰囲気とあいまってひしひしと伝わってきた。人間眠るときと死ぬときはひとりだ、そうなんだよね。人間は孤独ということに向き合うことをあまりしないけど、この作品を読むと少し向き合ってみようかと思えてくる。
河野も片桐もかりんも個として存在していて、混じり合うことになんとなく臆病になっている印象を受けたのだけど、だから最後の片桐の行動がよかったと個人的には思った。
だれかが秋っぽい雰囲気といっていたけども、たしかにそうだなあと思った。
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絲山作品は,男女の関係を描いたものが多いが,「孤独」というものを絶妙なタッチで描いている。
愛におぼれるでもなく、孤独にひた走るのでもない。
すぐそこに人肌の温度が感じられるからこそ、孤独が輪郭を表すのだ。
登場人物はみな,「人間は孤独である」ということを真っ向に捉えている。
孤独というものはそういうものだ。
彼らはその孤独を紛らわそうとはしていない。
他者のことを考えているようで,結局は自分の孤独について考えている。
それぞれお互いの目を見ているようで,
その視線は相手の目を透き通り、
自分の内面を見つめている。
敦賀の誰もいない海岸で,
みんなが思い思いの方向を,
遠い目で見ながら,
その視線は交わらない。
そんな情景が思い浮かぶ。
ファンタジーが,「孤独というのは人間の心の輪郭」のようなことを言っていたのが印象的だった。自分の中で,絲山作品ベスト1。
自分が本当にそう思っていないことを、幸か不幸か、書けてしまう作家はいる。
しかし、絲山さんのブログを拝見していると、やはりこの作品は彼女にしか書けないのだと思う。
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ファンタジーっていう、モンスターエンジンのネタみたいな神様のようなのものが出てきて話しは進んでいきます。
主人公は若くして宝くじに当たって、世捨て人のような暮らしをしている男。
ファンタジーと登場人物のやり取りが面白くて、笑いながら読んでいたら中盤から一気にシリアスに。
第130回芥川賞の候補になったということで、ひょっとしたらと思って調べたらこの回は綿矢りさと金原ひとみの20歳台ダブル受賞で沸いた回だった。
この二人の受賞作も過去に読みましたが、絲山さのこちら方が私は好きです。後半の物悲しさが、流れ行く人生を象徴しているような気がします。 -
「真実とはすなわち忘却の中にあるものなのだ」
文庫本葉書で引用されていたこの一節。ある人のイメージにぴったりだったので購入。
易しい文体で、絵巻物を見ているように情景が浮かび、さらに音や匂いまで伝わってくる。
淡い余韻の残る後味の良い小説でした。
「孤独ってえのがそもそも、心の輪郭なんじゃないか?」
この一節も好きでした。 -
登場人物 男:大金を手にして「接客は向いてなかったんだ」と会社を辞め、「海が好き」と敦賀に居を構える。部屋に浜の砂を敷き詰め、たまに釣りに行きその暮らしぶりは仙人のようだと言われる。 女:この男の元同僚。男のことを好きなのだが口にはせず、がさつな友だち関係を築いている。 女:男の恋人。住宅メーカー勤務。車が好きで福井県にドライブに来て男と知りあう。責任感があり仕事での評判も良いようだ。性格は割と淡泊。親兄弟とは疎遠。 ?:神様。ファンタジーという名で知られており、ひと目見ればそれとわかる人間もいれば、見えもしないこともある。食事等は人間と同様にとることができる。 図書館のファンタジーフェアにあったので手にとってみました。現実にありそうで、でもありえないことが起こる大人のファンタジーです。 優しいひとたちの相互の思いやりがたくさん絡まって生まれる物語。とても好きなのに、大人だからこそ恋愛未満になってしまう雰囲気が、なんとなく理解できます。大人って哀しいのかなと思います。 ラストは悲劇的に近いけど静けさに包まれていて、ただの悲しさに終わらない余韻を残します。
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人間は孤独だ。だから心が寄り添う人を求めるのだろう。
しかし必ず別れが来る。難しいよ、孤独を、愛する人の死を受け入れて生きていくのは。
哀しく静かな、やさしいメルヘン。 -
むわー。泣いた。