忘れられたワルツ

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 88
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104669066

作品紹介・あらすじ

その曲を弾いて、姉は家を出て行った――。「今」を描き出す想像力の最先端七篇。戻れない場所までは、ほんの一歩にすぎない。あの日から変わってしまった世界が、つねにすでにここにあるのだから。私たちが生きる「今」を、研ぎ澄まされた言葉で描出する七つの結晶。絲山秋子は新たな先端を切り開きつづける。

感想・レビュー・書評

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  • オーロラを運ぶ女と遭遇する「葬式とオーロラ」、見ず知らずの駅に降り立ってしまう「NR」が面白かったです。え、いつの間に非現実に入り込んだのだろうという不思議な世界観でした。一風変わった人たちの人生の一場面を垣間見るストーリー。少し辛い過去を抱える登場人物の不穏な空気の中にも、ふと笑える会話もありで、そうか、そうだったと、所々共感してしまう。ヤンキーとチャラ男の違い、ブリーフとトランクス論。
    ほんのり震災の要素が絡まっている。過去と今とは違う、もうふつうなんてなくなった。5年後のふつうなんて想像できない。そうだな・・。
    直接的ではないのに、後でふわりと響く独特な雰囲気でした。今日の地元紙、日曜の本の紹介の頁に著者の紹介が載っていた。なんという偶然。

  • 恋愛は雑用だと言い切るアラフォー女性 金子の「恋愛雑用論」、強震モニタばかり眺めている魚住と井出(美人)…女2人のパジャマパーティー的な「強震モニタ走馬灯」、恩師の葬式へ向かう巽とオーロラを運ぶ女性の一瞬の交流を描く「葬式とオーロラ」、理屈っぽい彼氏にアスペルガーと指摘される女性の「ニイタカヤマノボレ」、見たことも聞いたこともない駅から帰れない(ノーリターン)になってしまう中年サラリーマン2人の「NR」、ストレス性の痒みの発作に襲われる風花の「忘れられたワルツ」、齢七十を超えて女装の鍛錬を積んだ増田と退屈しきった神の「神と増田喜十郎」。
    相変わらず、よく分からない世界観です。共通テーマは震災かな。

  • 絲山さんの短編集を久々に読む。つかみどころのなさが不思議と心地よく、静けさの中に漂うユーモアとそっけなさと哀しさの加減が絶妙であった。
    好きだったのは「恋愛雑用論」「葬式とオーロラ」。絲山さんの描く、さばさばしていてやや理屈っぽい女性のキャラクターがツボである。
    全体を通してのキーワードは「震災」。3.11をストレートに書いたわけではなく、もっと離れた地域で「あの日」はどのように捉えられてたのかが客観的に伝わってきた。うまくは説明できないけど、絲山さんなりの「あの日」への寄り添い方が丁度よく感じられて、何だかほっとする。
    タイトルにもなっている、リストの「忘れられたワルツ」を聴いてみたくなりました。

  • よかったです!(#^.^#) 今までの絲山さんのもので一番笑えたし、哀しかった。 伊坂幸太郎さんによる帯の「今年一冊しか読めないのならば、この本を読めばいいような気がします」には賛否両論あるでしょうが。.
    どこかキレた普通の人(って変な言い方だけど)を描く短編集。

    一番好きだったのは、最後に収められた「神と増田喜重郎」。
    “経験を積んだ”女装者である喜重郎は、自然で目立たぬ女装を心がける70歳超えの独身男。
    長年、地元のプロパン屋で働いてきたが、同時に市長となった高校の同級生だったタカちゃんの「雑用係」を社長公認で務めた。
    このタカチャンがね、いいんですよ!



    「死んだら終わりだぜ!ホンノキだぜ!」が口癖で、(でも結局、喜重郎より先に死んじゃったけど)、
    ふと、
    「なぜぼくを雇おうと思った?」と聞いた喜重郎に、「うん、その質問が何年も出ないからだよ」と答える。
    「早く年よりになりたいなぁ。引退してさ、なにをやっても耄碌ですまされるようになったらこっちのもんだぜ。」なんて。

    そして、「年取ったらバカ騒ぎしようぜ」と言ってたのに耄碌するまでは生きなかったタカちゃんは、あくまで喜重郎の生涯の脇役でしかないんだけど、そして、こんな風に記していると、なんか上から目線のイヤな奴に勘違いされそうなんだけど、絲山さんのノリシロの多い文章の中で、とても好ましい&喜重郎を語るにはタカちゃんでしょ!と思えてくるという…。

    タカちゃんの七回忌のあと、彼の未亡人の田鶴子が、
    「ねぇ、マスダ、今度女同士で遊びに行きましょうよ」と温泉に誘う。
    もちろん、喜重郎は驚くわけだけど、
    「お婆さん同志が旅行に行ってなにが悪いかしら」と言うそのサバサバした物言いが、あ、この人好きだなぁ、と思わせられてしまうところもよかった。

    う~~ん、私の感想が下手くそで、うまくタカちゃんにしろ、田鶴子にしろ、肝心の喜重郎にしろ魅力を伝えられてない気がします。
    結構引用も多くしているのに、行間の持つ力に負けてる・・?

    この短編集全体に渡って、人とのコミュニケーションがあまり上手ではない、というより、あまり求めていない人々が出てきて、その淡々とした生き方が鼻につく、人をバカにしている、と感じる読者もいるだろうなぁ、なんて思うから、さっきから何度も書き直してみてるんだけど。

    で、「神と喜重郎」の、“神”の方なんだけど、これが正真正銘の神様!なんですよ。

    祈りが多すぎる人の世は神にとって若干棲みづらい、なんて思ってたりする神。

    で、温泉旅行で、喜重郎は田鶴子に、「タカちゃん、神を見たって言ってました」と地酒を飲みながらふと告げる。
    車の鍵がなくて困っていた時に歩道橋から降りてきて鍵をくれ、御礼を言って名前を聞いたら、
    神です、精神病のシンと書く、と言ったというエピソード。
    すれ違う時にものすごい大勢のひとが歩いているような靴音がしたから、本物の神だと確信したタカちゃんがそのことを話したのは喜重郎だけで、それを聞いて、「マスダが聞いてくれてよかったわ。私だったら、そんなの気のせいでしょって頭ごなしに否定してたと思うから」という田鶴子。


    その後、一人で歩いていた時、歩道の段差に躓いてバランスを崩した喜重郎に
    「ばあちゃん、大丈夫か」と腕をとってくれた神。
    「ごめんなさい、ありがとう」と感謝しつつも、なぜか手を伸ばしてくれた相手にではなく、神に感謝しているような気がしていたのである、というあたりもとても好きでした。

    これは、きっと好みの分かれるお話、でしょうね。


    ただ・・・7編中、ひとつだけ「ニイタカヤマノボレ」だけは好きにはなれなかったかな。
    アスペルガー症候群を取り上げているんだけど、(最近、多いよね。これまであまり知られていなかったハンディキャップだから、小説家にとっては新分野として宝の山みたいなものなのかも。)コミュニケーション能力の低さを一般人からは理解不能宇宙人のように描かれると、これって、当事者やその家族が読むことを想定してないな、なんて、いつもの私だったらそんなモラルっぽいことは考えないんだけど、一学年に何人かはいるというハンデであるだけに気になったんでした。

  • 短編集。
    震災が共通項となっているが、正面からそれを描いているわけではない。
    どの物語にもどこかにあの3.11の影が現れる。
    しかし、タイトルの「忘れられたワルツ」は、よくわからなかった。妹は精神的におかしくなってしまっているのだろうか。姉と母はもういないのだろうか。
    そうだとするととても悲しい話だったが、一番印象に残った。

  • 知人にすすめられた一冊。短編集です。

    恋愛雑用論
    強震モニタ走馬燈
    葬式とオーロラ
    ニイタカヤマノボレ
    NR
    忘れられたワルツ
    神と増田喜十郎

    少しずつ東日本大震災が絡んでいた。
    どの話にもこれといったオチがなく、カットアウトするように終わってしまうのですが、そこがまたこの短編の世界をつくりあげているのかなぁ。
    すでに内容うろ覚えなのですが、葬式とオーロラが良かったかな。恩師の葬儀にむかう途中、高速道路のSAで出会った女性。彼女はトラックでオーロラを運んでいると言った。

  • 最後の、神様が出て来る話が良かった。

  • 震災にまつわるような、きっかけにしつつも遠巻きにしているような、そんな短編集。当たり前にありそうで、少し不思議な要素が混じっている。でもその「当たり前」と「不思議」の境界線なんて、もともと曖昧なものだよねと、そう思わされるような一冊。最初の方の短編は、絲山さんのイメージとちょっと違うかなと思っていたのだけれど、途中から最後にかけては、やっぱり絲山さんだなと思うような感じで、あの、なんというか少し病んでいるような、危うい方に片足だけどっぷりと浸かっているような、そんな感覚。それはそれで、「ここでしか読めない」ものではあるのだけれど、この前半の部分こそが私としては面白くて、今後の絲山さんにも期待だわと、生意気にも思ったのでした。

  • タイトルはリストの「忘れられたワルツ」から。短編集。
    なんというか絲山さんの作品はどれもそうだといえばそうだけど、一見普通で、でもこんな小説は読んだことないっていうのばかり。特に「NR」と「ニイタカヤマノボレ」は凄味があった。
    どちらもあらすじだけだと都市伝説的な要素が強いんだけど、都市伝説ってそもそも人々の不安や不満が形になったものという説もあるから、全体に充満する、今の時代の言葉にしにくい不安がこういう物語の形を作るのかなと思ったり。

  • ごちゃごちゃ御託を並べても、とどのつまり、ひときれのパンとチャップリンの映画があれば人生に必 要なことはだいたいそろう、と思ってるんだけど(カッコつけてみた)、絲山秋子の小説を読むと、ここにもだいじなことが詰まってるっていつも思う。好き嫌い、面 白い面白くない、とは別次元の詰まりかた。嗚呼、御託を並べてしまった。『忘れられたワルツ』読み終わった。ほんと、伊坂幸太郎氏の帯のとおりだ。

    村上春樹がクラシック音楽なら、絲山秋子は、すべてをさらけ出すロックンロールだ。強くて、やさしくて、弱くて、躍動してる。

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著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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