薄情

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 444
感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104669073

感想・レビュー・書評

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  • 娘を亡くしても「おとうさん」「おかあさん」と呼びあう山井夫妻の、虚無的な密度の薄さが切ない

  • 神主という職業を継ぐ事を宿命づけられている男を通じて、地方の閉鎖性と居心地の良さ。
    都会への憧れと地元への執着。狭いコミュニティーの中での立ち回りの難しさがテーマです。
    これといった山場があるわけではないのは純文学なんで当たり前なんですが、純文学が苦手な僕もなぜか絲山さんには惹かれるものがあります。
    この本もテーマ程陰鬱な空気は無くてとても淡々としています。
    神主という仕事自体がレアで、この本を見ると、それだけでは生きていけず他の仕事をしなければならないのに、縛りだけは多く、時間的に拘束され続ける職には就きにくい。そりゃ鬱屈もするわという感じです。
    「薄情」という言葉は僕の胸にも刺さります。自分自身薄情だという自覚がありまして、一部の人以外には心の中が非常に冷淡な気がします。
    さて、この薄情という二文字、非常にパワーのある言葉で、もし色々な人からこの言葉を投げかけられたら相当へこむでしょう。嫌ですよね薄情って言われるの・・・。

    この主人公が色々な事に無関心であるところを薄情と表現しているのかと思ったら、そういう訳でもないんですね。最後まで読むと色々な事に薄情は含まれていて、情って何なんだろうかと少々考えてしまう本です。

  • 日常。
    爆発的な何かが起こるわけでもない。
    ただ、その日常の中で、変わっていくもの、変わらないもの、が心の変化に繋がる。
    当たり前にそこにいる人は、当たり前にずっとそこにはいない。
    今日は、当たり前じゃない。

  • ジャンル的には私小説なのかもしれないが、作者は女性であるから…

    最近は所謂大衆文学といわれるモノばかり読んでいるので、「その後、鹿谷や蜂須賀はどうなったんだょ」的ツッコミもいれたくなるが、それを言っちゃお終いな訳だな(「薄情」というタイトルもそこから来てると思うし…)。

    ただ、こういう展開ならば、もう少しロードムービー的な無味乾燥を徹底しても良かったかとも思う。
    主人公が時折東京に行く性癖や、バイト先で知り合った恋人との邂逅は不要だったような気もするし…

    逆に、終盤でヒッチハイクの高校生を拾う場面は、まさにテーマに沿ったものだったとも思える。
    むしろ、あの青年と一緒に出羽三山まで行っても良かったような気もするが…

  • 父の本棚から拝借した一冊。
    絲川さんの作品は初めてです。

    どんな風にレビューを書けばいいのかなぁとぐるぐる考えていた時に帯にあった「滋味豊か」という表現が目に留まり、なるほどしっくりくるなぁと思いました。
    滋味豊かな小説です。

    群馬に暮らす宇田川はいずれ叔父の跡を継いで神主になる予定だが、叔父が引退しないのでいい年齢ながらも定職に就かずにいる。
    世間に馴染めない、という諦観を抱えながらも完全に割りきれているわけでもなく、いつも頭の中で何かしらの事を考えてはそれを止めてみたりしている。
    そんな彼が時折足を向けるのが、東京から来た木工職人・鹿谷さんの工房。
    「変人工房」という別名があるくらい、そこには“自由”な人々が“自由”に集っているのだった。
    しかしながら巡っていく季節と共に宇田川を取り巻く人たちに静かに少しずつ変化が生まれー。

    タイトルの「薄情」が何を指しているのかは読み手次第なのかな、と。
    最初は冷めた印象の宇田川を形容しているのかと思いましたが、彼は少なくとも私の考える「薄情」な人ではなかったです。
    地方都市特有の人との距離感、現代における人間関係の希薄さ、そういう中にあって抱える寂しさや人恋しさ、羨望などの感情、一言ではうまく表現ができないあれこれが、詰まるところ「薄情」に見えるのかもしれません。
    そんなことを考え「させられる」というか考え「させてくれる」作品です。

    それにしても、こんなにも地名が出てくる小説は読んだことがないと思います。
    それなのに説明過多というわけではなく、目の前に群馬の美しい山々の風景が広がる、作者の描写力に脱帽させられる一冊でもありました。

    たまに自分以外の本棚を覗いてみるのも楽しいですね。

    2020年20冊目。

  •  ただ、神様への祈りだけは足し算だったらいい、と、かれは思う。だったらおれは0でかまわない。むしろ0でいい。余計なものを足す必要はない。そのままで届けばいい
    (P.70)

     誰かを抹消してしまうような薄情さと、よそ者が持つ新しさを考えなしに賛美することって、根源的には同じなんじゃないか
     なにもかも表と裏で、同じことなんじゃないか
    (P.251)

  • どこにでもいる若者が世間や友人と関わりながら、自分を見つめ直していく様に共感を覚えました。

  • 群馬県高崎市に住む宇田川静生の単調な日常をひたすらリアルに描いた長編小説。彼を取り巻く人々や地理の描写など、地方都市に住む者には既視感を覚えるほどだ。特に大きな事件が起こるわけでもなく、日々は淡々と過ぎていく。読んでいてつらい気持ちにはならなかったが、楽しいとも感じなかった。タイトルの意味は……。ああ、そういうことなのか。

  • 地方に住み、地元で働き、でも都会のことはチラホラわかっていて、なんとなくバランス保って生きてるような感じだけど、ふとこのままでいくのかなと思ったり、外から来る人と関わってみたり、内輪のコミュニティに嫌気がさしつつ、でもそこに属して少し安心してる自分がいたり…。

    群馬在住ではないけど、同様に地方に住む人間として、わかるなぁってところも多々あり、じんわりと身に染みるお話でした。

    特にラストがしみじみ良い。

    冒頭を読んだ日、母の実家あたりを雪かきする夢をみました笑

  • 65ようやく羽化出来そうですね。こういう世代が増えてる。お付き合いが難しくなりましたねえ。

著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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