狂気という隣人

著者 :
  • 新潮社
3.19
  • (1)
  • (6)
  • (16)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 50
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104701018

作品紹介・あらすじ

殺人に手を染めた触法精神障害者たちは、どのような生活を送り、その後、どう生きていくのか。警察から拒否され、病院をたらい回しにされた患者は、果たしてどう処置されるのか。そして治癒し社会復帰した者たちは、何故に、再び病院へと戻ることになるのか-。その「発症率」100人に1人!遮蔽されてきた、精神病棟の壮絶な現実を描く。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 精神病院の現場から、医師がその実態を綴ったという本書。

    体制や社会の意識など、精神障害に対する周囲の問題を提起しているのはわかるのだが、実際のエピソードや困っている実態について、単に思いつく順に紹介しているだけのような文が続き、まとまりに欠けていて著者が訴えたいことが何なのか、方向性が見えにくい。
    たぶん、こんな本を書いているくらいだから、精神障害者を取り囲む日本の体制の貧弱さや、社会の意識の薄さをもっと問題視して、国をあげて改善に取り組むべきだと言いたいのであろうが。(それらしき記述がされている部分もあるにはある)
    犯罪で容疑者の精神鑑定などが行われるたびに、著者が言うところの「人権派」と「保安派」の意見の対立がある。どちらの言い分も尤もな部分があって、一概にどちらが正しいと言えるようなものではないが、少なくとも触法精神障害者のその後の対応に、しっかりした体制を作り上げることは急務であろう。

    中盤の、88年の連続幼女誘拐殺人事件についてや、夢野久作の「ドグラ・マグラ」についての、精神科医の立場からの考察は非常に読み応えがあった。
    読みにくそうで、なんとなく手にしづらかった「ドグラ・マグラ」を読んでみようかなという気になった。

  •  「はじめに」の章で「20年近くの臨床経験を経て、精神病・精神分裂病という確固たる病気があるという確信は持てなくなっています。生物学的背景はあるとしても、正常な精神と「精神病」の間には明確な差異は存在するのだろうか、ごく薄っぺらで曖昧な境界があるだけではないのか、そんな風にも感じでいます。」とあるのを読んで不思議に納得しながら、読み進められた。

     第1章から第8章まで興味深く、考えさせる内容。実際の出来事を示しながら問題点やこれからの希望(あくまでも)を交えて淡々と書き綴ってあった。専門用語も多数あったが、ちゃんと説明しながら書かれていて、読みにくいとは感じませんでした。

     おわりにの章で「本書をきっかけとして、わが国においては「存在していないもの」として見なされてきた精神疾患に関して新たな視点を持ってもらうことが出来れば…」とあったのを重く受け止めていきたいと思いました。



          

  • 表紙からして、沈鬱な空気が満ちている。

    アンダーめな都会のビル群の写真があしらわれ(よく見ると陽が差しているんだけど)、タイトルの「狂気」の文字も赤く色塗られている。開く前から気が重くなる本なのだった。(じゃなぜ読むんだよ、というのは措いといて・・・)

    サブタイトルにある通り、現役の精神科医による、精神医療の現状報告である。

    東京にある専門医療機関「松沢病院」の病棟の様子から始まり、“精神分裂病”やうつ病の実際の症例、患者と自殺、あるいは犯罪との関連などが淡々と語られて行くが、抑制の利いた文体がむしろ沈鬱さを際だたせているようにも思える。

    著者の言いたいことは、日本の医療行政や、医療機関や研究体制そのもの、マスコミの対応、ひいては国民の理解などが十分とは言えず、また先進諸国の取り組みと比べて遅れているということだろう。

    中でも、国から補助金が出た時期に精神病院の数が大いに増えたとか、難しい(というより面倒な)患者は警察や検察、総合病院、救急隊も扱いたがらないとか、心神耗弱者の犯罪については、きちんとした議論もされず“臭い物には蓋”的な対応で終わってしまうとかいう話は、日本社会の未成熟さを開いて見せられるようで、暗い気持ちにいっそう拍車がかかる。

    “精神分裂病”患者は総人口の約1%に上り、うつ病患者は少なくともその3~5倍の患者が存在するという。この数は、ごくまれな一部の例外とは言えないものである(Wikipediaにも「珍しい病気ではない」という記述がある)。著者が主張する通り、社会的な取り組みを正面から議論すべき時なのだろう。

    なお、”精神分裂病”は2002年に「統合失調症」という名称に改められたが(単行本は2004年刊)、まだ社会的に認知されていないため敢えて分裂病の名称を使った、との断り書きがある。

  • 人の精神って、やっと少し分かり始めたばかりに位置するんだろう。そのくらい未知の世界。都立松沢病院で働いていた医師の体験した患者との関わりや、知識の乏しい一般の人々との見解の違いなど興味深く読んだ。
    6章の自殺クラブでは、私の思う「生きたくないと思っている人」の存在について確信のようなものが持てた。ただ、笑顔でまた学校に行こうと思うと言って退院した人が、ホッとしているはずの親を残して自殺してしまうのはやっぱり悲しいな…
    連続幼女殺人事件のMに対する意見はプロの精神科医でも意見が分かれたほど謎が多く、改めて診断の難しさを知り、また、読み終えることの出来ていない「ドグラ・マグラ」についても著者の見解が書かれてあり、やっぱり読んでみようかと思う気にもなった。

  • 積読

  • 都立松沢病院での体験を中心に、精神病に関しての社会や法、病院の問題点等を提起しています。一般の人と精神科医による精神病への理解のズレなども、いくつか有名小説などを例に取り、分かりやすく解説され、興味深い一冊でした。本書の半分以上を占める「触法精神障害者」(いわゆる殺人など、重大な犯罪を犯した精神病者)に関して、個人的に「人権派」と間逆の考えを持っているので…感想は封じておきます。

  • 真に狂気と診断されたわけではないが、日常に狂気めいた人は存在する。
    そのような人に言葉が届かないのなら、当たらず、触らずして関わりを避けるのみ。

  • 2007年5月23日

  • (メモ)「波」2004.9佐野眞一氏の紹介。「そして殺人者は野に放たれる」から精神病院へと連なった問題?

  • 精神分裂病の発症率は人口の1パーセント。しかもその数字は貧富の差、国などの地域差はなく、全世界で変わらないと言われます。どのような生活を営もうが、誰もが発症する可能性を持っているということです。また、少なくともその30倍の人々は「スキゾフレニック(精神分裂病的)」と呼ぶことの出来る、いわば予備軍と指摘する声もあります。
     それだけ身近な病であるのに、私たちはその実際を知りません。長いこと、多くの差別や偏見により閉ざされた世界であったのも事実です。精神病院もまた同様です。「こわいところ」「汚いところ」、そういったイメージで語られることも少なくありません。一方で巷では、精神障害者の犯罪が紙面を賑わせます。ところが、これもまた刑法39条により、その詳細は明らかにされません。確実に被害者は存在するのに起訴されることもなく、事件はなかったことにされてしまいます。つまり、あらゆる場面で私たちは何も知らされないし、知ることもなかったのです。
     殺人に手を染めた触法精神障害者は、どのような生活を送り、その後、どう生きていくのか。警察から拒否され、たらい回しにされた患者は、どう処置されるのか。治癒し社会復帰した者たちは、何故、再び病院へと戻ることになるのか……。本書は精神医療の現場について専門家が綴ったものです。
    著者の岩波さんは、東京都立松沢病院を始め、長年、精神病院に勤めてきた現役の医師です。生身で付き合った当事者だからこそ見ることが出来た、本当の世界がそこに描かれます。医師だからこその、冷静な人間観察の記録となっています。その凄絶な現実をお読み下さい。

全12件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

昭和大学医学部精神医学講座主任教授

「2023年 『これ一冊で大人の発達障害がわかる本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岩波明の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ヴィクトール・E...
高野 和明
湊 かなえ
フランツ・カフカ
岩波 明
宮部みゆき
吉田 修一
東野 圭吾
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×