切羽へ

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104731022

作品紹介・あらすじ

静かな島で、夫と穏やかで幸福な日々を送るセイの前に、ある日、一人の男が現れる。夫を深く愛していながら、どうしようもなく惹かれてゆくセイ。やがて二人は、これ以上は進めない場所へと向かってゆく。「切羽」とはそれ以上先へは進めない場所。宿命の出会いに揺れる女と男を、緻密な筆に描ききった哀感あふれる恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • 静かな島で、夫と穏やかで幸福な日々を送るセイの前に、
    ある日、一人の男が現れる。
    夫を深く愛していながら、どうしようもなく惹かれてゆくセイーー。


    かつて炭鉱で栄えた離島で、小学校の養護教諭であるセイは、
    画家の夫と暮らしている。
    無邪気な子供達。島の主のような老婆しずかさん。
    奔放な同僚教師・月江と恋人の本土さん。
    平穏で満ち足りた日々。
    小さな島で住む人のプライバシーも無い、何でも筒抜けだ。
    ある日、新任教師として赴任してきた石和の存在がセイの心を揺さぶる。
    彼に惹かれていくー。
    それを周りに気付かれない様に振る舞うが、
    秘めても、秘めても漏れ出してしまう…。
    セイの心の揺れを感じ取ったのは、夫と月江としずかさん。
    挑発的な態度をとる月江。
    逆に、何も言わず問いただす事も責める事もせず
    見守っていた夫。きっと念じていたと思う。
    その姿も良かったなぁ。

    島中に知れ渡っている。人目をはばからない
    月江と妻のある本土さんの姿が、
    対照的となってセイと石和の関係を際立たせていた。
    セイと石和の間には何も起こらない。
    静かに静かに物語が進む。
    心情の繊細さや島の景色や空気まで感じられる
    とても、余韻の残る物語でした。

    「切羽」とは、それ以上先へは進めない場所

  • 切羽とは掘り進めているトンネルの先のこと。
    繋がったら切羽は無くなってしまう。
    石和とセイとの関係性のことなのか...。

    優しい夫に不自由の無い生活。
    満たされているようで、心の隙間を乱すように石和の存在が浸食していく。

  • よかった。
    夫への想いはもちろんありながら、石和への淡い想い。直接的には書かれていないけれど、感じた。
    誰かの妻であることの不思議さ。夫のいろんなことを知っているけれど、何もかも知っているわけではないということ。
    あと、島の言葉がリズム感があってよかった。

  • 切羽や十字架、廃墟など色々象徴的なものが出てくるけれど、語り手の女性に共感できず、それらの意味も考えられず。私自身、恋愛小説が苦手なのかも

  • 妻でありながら、夫ではない男に静かに惹かれていく。
    自分の気持ちを悟られないよう、また食い止めようとしている姿が上手く描かれていた。
    後半、月江の色気への複雑な感情も繊細に読み取れ、タイトル「切羽」の意味が、読み終わった後も残る作品です。

  • 先日「静子の日常」を読みましたが、同じ作者なんですね。井上荒野さんの本にはまりそうです。題名になっている「切羽」とはトンネルを掘っていく際の一番先の部分。つまりまだ繋がっていないトンネルだけにあるもの。主人公の女性セイと島にやってきた石和先生の関係も繋がらないトンネルのようなものだった。それで本当に良かったと思う。島の子供たち始め、みんなが喋る方言が物語に温かさを加えてくれる。

  • 直接的ではないものの、じわじわと迫ってくるような性の描写が凄味があった。

  • 昔、1ヶ月ほど入院したことがあって、その時に母に「今期の直木賞買って来て」とお願いして差し入れてもらった作品です。

    読み終わった時に「はぁ」とうっとりするような溜息を漏らしてしまいました。
    とにかく物語の雰囲気がうっとりするぐらいの美しさで、目を閉じれば九州地方の小さな島の情景が鮮明に浮かんできます。

    特にめまぐるしい展開もないんだけど、それがいい。
    主人公の女性のたおやかな心の動きが、木々の息づかいのようにふわっと読者に届く。

    「切羽へ」というタイトルもよく物語を表していて、物語そのものが生きているのではと思わせるようなびっくりする作品でした。
    この作品が直木賞を取るのは当然ですね。

    繊細な人の機微を感じ取って欲しい作品です。

  • 静かな感じです。

    淡々としたなかにあたたかさもあって嫌いじゃないけど、ちょっと疲れました。

  • 少し読んだだけで「ああ、私はこの本が好きかもしれない。」と直感する一冊があります。
    それでその勘はたいてい外れない。

    なんか、センター試験に出るか出ないか、ギリギリのラインで起用されない小説、って印象。

    明朗で、淡泊で、みずみずしい。
    けど角度によって透度が違うから、受験者によって作品に感じる奥行きが変わりそうで、起用を却下されるような。

    一人で過ごしているときの主人公の感性は、澄み切った水みたいなイメージ。でも夫と二人の時間や、彼のことを考えている彼女がまとう雰囲気は、ちょっと白濁する。
    きっちり綺麗な色に染められるんじゃなくて、たまにうっかりミルクが混ざったみたいなその感じが、いい恋愛をしているんだなあと思った。



    切羽とは建設中のトンネルの突き当たりのこと。
    トンネルが完成したとき、向こう側の景色が見えたその瞬間に、切羽は消えてしまう。

    ただの二文字に、こんなに切ない気持ちにさせられるときがある。だから本を読むのかな。
    2008年09月04日 07:35

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著者プロフィール

井上荒野
一九六一年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。八九年「わたしのヌレエフ」で第一回フェミナ賞受賞。二〇〇四年『潤一』で第一一回島清恋愛文学賞、〇八年『切羽へ』で第一三九回直木賞、一一年『そこへ行くな』で第六回中央公論文芸賞、一六年『赤へ』で第二九回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に『もう切るわ』『誰よりも美しい妻』『キャベツ炒めに捧ぐ』『結婚』『それを愛とまちがえるから』『悪い恋人』『ママがやった』『あちらにいる鬼』『よその島』など多数。

「2023年 『よその島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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