われらが歌う時 下

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制作 : 高吉 一郎 
  • 新潮社 (2008年7月30日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (558ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105058722

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われらが歌う時 下の感想・レビュー・書評

  • たとえば、小さいころ雑貨屋で母のスカートの裾を掴んでいた記憶。理由も由縁もなにも知らないのに、両親の信念を執念深くなぞっていることに気付く瞬間とか。もうどうやったって尋ねることはできないが、父には誰にも話さなかったなにかがあるのではないかとか(心当たりがあるわけではない)。曖昧だけど心のかなり底のほうにゆらゆらとどまっているもの。
    小説やマンガや映画の、まずは設定があり、そこからはじまるストーリーがあり、それを最後まで知るのが「読んだ」「観た」ってことではなくて、それがどんな味かを知るのが「体験」じゃないのか、とおもう。
    設定は「亡命ユダヤ人の物理学者とソプラノ歌手志望の黒人女性が野外コンサートで出会った。第二次大戦中彼らは結婚した。さて息子二人と娘に何が起こるやら」であり、「長男は天才テノールだった」も含めてもいい。そのあとアメリカで混血児たる彼らを何が襲うかといえば、執拗なディテール描写と想像力で再構築された現代史上の大事件たちなわけだ。
    その情報量はもちろん驚嘆の対象ではあるけれど、すべてでもなければ中心でもない。中心にあるのは、親がどういうつもりか知らんが与えた自分の体が、薄明の向こうからよくわからんものにどつかれつづけるその不可解さだ。
    ジョナが、父が、母が、何を求めていたかは結局共感をもって理解することはできなかった。いくら近しくても、時間と死の壁を隔てた向こうはぼんやりして不可解だ。そこまでは私も感じていたこと。
    だけどそれを整理しながら、わかりきることはない中でできるだけ整理しながら、もう時間がきてしまうので次に渡さなきゃならない。そういう時が来るんだということは、まだ私の知らないこと。でもこれからたぶんわかることなんだろう。
    ものすごく長い時間をかけて少しずつ、体験することができた。おもしろかった。

  • こんなに深い壮大な物語だけど読み終わった感想としては「長かった」というのが正直なところ。面白いけど、読んでるときはこの厚さ長さはしんどかった。重かったし、カバンのなかに入れると。

  • 人種問題、時間論、そして音楽。どれをとってもリサーチが十分にされており、かつ物語の展開にも独自のひねりが加えられています。

    しかし、それだけと言ったら失礼にあたるかもしれませんが、読み手の情緒を引き出すための何かがあれば・・・。

    『舞踏会へ向かう三人の農夫』のような語ることへの初期衝動を感じさせる作品ではないですが、秀作であることは確かです。

  • 音楽のうねりと物語のうねりが互いに浸食しながらの壮大な物語だった。時間論が単なるうんちくでおわらなかったり、途中、時間旅行の話がでてきてSFな方向にいくのかと身構えたけれど、デイヴィッドの時間論のその先が証明される、ラストにかけての流れは圧巻。量子物理学の知識や音楽の素養がなくても、理不尽な差別を肌で感じたことがなくても、それでも胸うたれるのは家族という軸があるからかもしれない。

    音楽を母国語とする者たち、バッハ。 「どの方角に望遠鏡を向けても、必ず違った波長を見つけることができる」



    素晴らしかったしなんといっても文章がいいのだけど、『囚人のジレンマ』や『舞踏会〜』のときのような衝撃や脳を刺激されるかんじはなかった。
    とてもよかったし、すばらしい。ただ、すばらしい=すごく好き、はまた別物なのだなと。

  • 読了するのにまるまる5ヶ月かかる。文章が濃密すぎて読み飛ばせないのだ。でも素晴らしい。ろくに音楽用語など知らないのに、音楽が聞こえてくる文章に圧倒される。『囚人のジレンマ』での家族コーラス描写が好きだったので、期待していた。それが裏切られる事はなかった。ニーナ・シモンのYouTube動画に感動した時期と重なったりと、不思議な縁を感じる。

  • 家族、アメリカ、MJ

  • これだけの内容で これだけの厚さ本を読む楽しさを ぎっしり詰めた本だと思うそれでもどんなに 細かに事件について書いてあっても結局 人種差別のことなんか 実感できない映画で見ようが 本で読もうが わかんないなぁ と思う

  • オバマ次期大統領と、その人を今選んだアメリカという国を理解するのはとても難しいし、アメリカの現代史を丁寧に学んだところで理解には至れそうもない。リチャード・パワーズの「われらが歌う時」はそれが理解できるようになる稀有な本だ。この本、今読むべきだと思う。
    オバマ氏とは違うけれど、亡命ユダヤ人の父と黒人の母を持つ、音楽に長けた兄弟を中心にした物語。才能をどこまでも延ばすことで黒人(一滴でも黒い血が混ざっていれば黒人、という考え方は今なおアメリカでは普通)であることを超えることができる、という考え方で育てられた子どもたちがやがてそれを実現し、白人も黒人もアジア人もユダヤ人もなく、人類があるだけだということに気づくという話。もちろん今のアメリカはそんなことに気づいているわけではなく、相変わらずだとは思うけれど、オバマ氏を選出できるまでには育った。
    読むのはけっこう大変ですが、今までのパワーズの本に比べたらずっとわかりやすいこと請け合います。

  • 決して読みにくくはないのだが、密度が濃いせいか、読み進めるのに一苦労。黒人に対する人種差別の問題、音楽について、“時間”についてが、ユダヤ系ドイツ人デイヴィットと黒人のディーリア夫婦、その三人の子どもたち(ジョナ、ジョゼフ、ルース)、ルースの二人の息子、そしてディーリアの両親という4世代におよぶ家族の歴史と絡み合わせて語られていく。
    量子物理学の話がちんぷんかんぷんでも、音楽の素養がなくても、理不尽な差別を肌で感じたことがなくても、それでもこの物語に胸うたれるのは、家族の問題という軸があるから。異質なもの同士が夫婦になるということ、子どもをどう育てるかということ、親から子への、子から親への思いの数々・・特に、子育ての方針をめぐって絶縁状態にあったディーリアの両親の死後、本書の語り手であるジョゼフの元に届いた叔父からの手紙には、確執を抱えてもなお消しさることのできない家族への気がかり、思いが描かれていて、胸がつまる。
    また、冒頭より再三ほのめかされていた、ディーリアとデイヴィットが初めて出逢った時に共有した未来のヴィジョンが何であったのかが明らかになるラスト、それと同時にルースへのデイヴィットの遺言の真の意味が明かされるシーンには涙が出た。
    ディーリアが甘んじなければならなかった様々な屈辱、公民権運動の実際、殊に、エメット・ティル事件を扱った章の印象は強烈。
    ――The Time of Our Singing by Richard Powers

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