幸福の遺伝子

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105058746

作品紹介・あらすじ

彼女が幸せなのは、遺伝子のせい?鋭敏な洞察の間に温かな知性がにじむ傑作長篇。スランプに陥った元人気作家の創作講義に、アルジェリア出身の学生がやってくる。過酷な生い立ちにもかかわらず幸福感に満ちあふれた彼女は、周囲の人々をも幸せにしてしまう。やがてある事件をきっかけに、彼女が「幸福の遺伝子」を持っていると主張する科学者が現れ世界的議論を巻き起こす――。現代アメリカ文学の最重要作家による最新長篇。

感想・レビュー・書評

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  • パワーズは淡々と状況を描写しているように見せかけながら、読者の脳に秘密の詩を流し込む。

    〈彼は目を覚ました途端、猛烈な空腹を感じる。朝食がこれほど輝かしい出来事だと最後に感じたのはいつのことだったか、彼は思い出せない。壁のひびから染み入る冬の空気が彼を元気づけ、テーブルが素敵に見える。沸いたティーポットがボーイソプラノのように歌う。トースターで焼けるレーズンマフィンから白ワインのような芳香が漂う。彼は、まだ情報の波に洗われていない神話的な川に係留された屋形船に乗っている。そんな確かな感覚。ー(中略)ー彼は腰を下ろして食事をする。まるで祝日のようだ。自然治癒の日。目を閉じ、冬のイチゴを舌先に載せる。果実は海綿状で崇高だ。彼の当惑と同様に濃密なアラビカが喉の奥を刺激する。〉

    何気ない朝食のシーンがこんなにも美しい。
    全体を見渡すと物語なのに、焦点を絞っていくと詩になる。ベン・ラーナー『10:04』の印象に近いかも。

    〈無意味な細部と真空から自らを作り上げていくタイプの物語〉と本文中でも書かれていたけど、この小説の歩みのテンポをよく表した文章だと思う。プロットをこなしていくことに躊躇があるような書きっぷり。コントロールされた流れの悪さ。書き手にあたる人物がストーンなのだとしたら、文章全体が彼の性格を投影しているようで面白い。

    読み終わって本を閉じた時、改めて装丁の色味の美しさに目がいった。本を鞄から取り出すたびに、この装丁からほのかな幸福感を与えてもらっていたことに気づく。

  • 科学と哲学のあいだ。『オーバーストーリー』でファンになったので読んでみた。オーバー〜ほど深淵ではないものの、遺伝子と幸福の関係性を知りたくてどんどんページを進めてしまう。最初と最後のシーンが好み。神の視点の「私」を探りながら読むのも楽しい。

  • いつも幸せが溢れている女性の秘密は幸福の遺伝子だった?

    作家を志していたこともあるおとなしい男、その男の元彼女に似ている大人の女性カウンセラー、テレビの科学番組を担当する自由な女性、たくさんの会社を持ち遺伝子を研究している学者。
    幸福が横溢する女子学生の周りで繰り広げられるストーリー、作者が介入しながら進んでいく。

    幸せと何なのか。
    虚構、相関と因果関係。

    語りは難しくないが、理解するのは難しい感じ。

    アメリカ人はカウンセラーが大好きだけれど、すぐに不安になるし自信がなくなるのだろうか。幸せを探して、幸せを考えて、メディアを巻き込んだ大騒動になるほど、幸せに飢えているのだろうか。

    私は単純なので、幸せとは「愛と感謝」。それだけだと思う。価値観が違いすぎてついていけない所があったけれど、お話はすごく面白かったし、好きな終わり方だった。

  • 環境か遺伝か、古くて新しいテーマ。ゲノム研究が進んではいるが、当たり前だが、相互作用、インターアクションの結果であり、単純に言えないところがある。幸福度の指標自体が基準難しい。この物語は、状況にかかわらず、楽しく過ごせる人はどんな人なのかという問い。気分の浮き沈みは誰にでもあるし、その幅の問題?。オーバーストーリーに続くパワーズ二作目でした。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/2293

  • 文学

  • 誰もが望む幸福。
    幸福な大学生を巡って、教師、カウンセラー、科学者、テレビ関係者、宗教家たちが騒動を繰り広げる。
    幸福の遺伝子を同定し、最新の科学的技術を使って、幸福を得ようとする人間の欲望は、当然の権利なのか。
    そもそも幸福とは、どういうものなのか。
    考えさせられる。

  • 幸福であることは遺伝子で決まるのだろうか?
    幸福になれる遺伝子は存在するのだろうか?
    この問いを掲げながら、物語を書くこと、映像をとること、SNS世界の狭さが描かれていく。
    人生を歩むことが、自分の物語を持つことならば、私たちひとりひとりはどれぐらい創造して行けるのだろう。そして、それをどこに書くのだろう?SNSでフォロワーの居ないパブリックにポスト?宙に指で?

  • リチャード・パワーズは音楽なり神経科学なり、何かのテーマについて深く掘り下げつつ物語と結びつけるのだが、そのやり方の深さと頭の良さには舌を巻く。医師だっただから医療ミステリーと言った幅や深さではない。日本にはこんな作家はいない。その突出したインテリジェンスが、嫌味でも難解でもなく緊密に物語に結びつき、ドライブさせていくのだ。今回は遺伝子だ。「幸せになる」ための遺伝子は存在するのか?うーん、この才人には理系も文系も関係ないんだな。

  • 初めてこの作家さんの作品を読んだ。
    が、難しい。話は面白そうなのに、ページが進むごとにあたまがややこしくなっていく。人の多さと、物語の構造のためだとおもう。
    返却期限に追われて読破したけれど、最後らへんはよく分からなかった。
    時間があるときに、腰を据えてもう一度読みたい。

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著者プロフィール

1957年アメリカ合衆国イリノイ州エヴァンストンに生まれる。11歳から16歳までバンコクに住み、のちアメリカに戻ってイリノイ大学で物理学を学ぶが、やがて文転し、同大で修士号を取得。80年代末から90年代初頭オランダに住み、現在はイリノイ州在住。2006年発表のThe Echo Maker(『エコー・メイカー』黒原敏行訳、新潮社)で全米図書賞受賞、2018年発表のThe Overstory(『オーバーストーリー』木原善彦訳、新潮社)でピューリッツァー賞受賞。ほかの著書に、Three Farmers on Their Way to a Dance(1985、『舞踏会へ向かう三人の農夫』柴田元幸訳、みすず書房;河出文庫)、Prisoner’s Dilemma(1988、『囚人のジレンマ』柴田元幸・前山佳朱彦訳、みすず書房)、Operation Wandering Soul(1993)、Galatea 2.2(1995、『ガラテイア2.2』若島正訳、みすず書房)、Orfeo(2014、『オルフェオ』木原善彦訳、新潮社)、Bewilderment(2021)。

「2022年 『黄金虫変奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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