- Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105058753
感想・レビュー・書評
-
音楽家の苦悩を感じつつ、音楽を分子生物学に持ち込もうとする発想に驚愕の叫びを発したくなるストーリー。
現在の主人公に起きている出来事、主人公の生涯、二十世紀音楽史という3つのストーリーラインを精妙かつ緊密に編んでいて、もう少し音楽に詳しければより楽しめたと後悔をしながら読みました…詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
音楽を通して描かれる逃亡劇と半生記。音楽に詳しい人ならもっと楽しめそう。怒涛のラストは圧巻でした。
-
20151016
-
音楽を文字で表す試みや作曲・音楽の歴史の部分は難しく苦手だが、日曜遺伝子工学で細菌に手を加えたことからテロリストに疑われた作曲家の、音楽という芸術に対する探求と人生のフーガ(遁走曲)は面白い。
-
リチャード・パワーズは凄く頭がよくて作家にならずとも頭角を現した人に違いない。テーマ(本書では音楽とバイオテクノロジー)の小説への折り込み方の深さは唯一無二と感じる。難解さにも繋がるためインテリすぎるよなあと思いつつも、緻密なテーマへの言及、巧みな構成、豊かな語りの能力の高さで物語に引き込まれる。
かくも容易にテロ疑惑が生じ、無実でも逃げ出し、メディアで陰謀説が盛り上がるという発想はアメリカ社会の皮肉だろうか。老音楽家のキャラクターと逃亡劇自体はドライブ感がやや乏しく、音楽小説としての魅力も「われらが歌う時」のほうが勝っていたとは思う。それでもラストの怒涛の語りから、もう一つの「仕掛け」を明らかにするうまさは圧巻。まさに、書評で誰かが表現していた通り、「オルフェウスのように後ろを振り返らざるを得ない」。
私は現代音楽やクラシックにまるで造詣がないため、数多の曲がイメージできないままだが、パワーズの音楽描写は言葉による音楽の成功例となり、YouTubeを開き聞かずにはいられない曲もある。戦時のドイツ軍捕虜収容所で究極の状況で作曲され演奏されたというメシアンの「世の終わりのための四重奏曲」、スターリンの独裁への秘められたレジスタンスだったショスターコヴィチの交響曲5番、小説の最後に鳴り響くリーバーソンの「ネルーダの歌」などは、文章を読むだけでも鮮烈な印象を残す。膨大な音楽への言及と最後のリファレンスは、期になればすぐYouTubeで聞ける時代ならではのアイデアだろうと思う。つまり、文字通りの意味で「音楽が鳴り響いている」小説なのだ。
YouTubeのついでにもう一点。58歳のパワーズだが、SNSやスマホなどの使い方が上手いのにも感心する。日本の若手作家を越えているし、村上春樹はスマホは使っているがSNSはやっていないそうで、テクノロジー絡みはほとんど触れない。 -
読むために聞こえる必要があるのは具体的な作曲家や作品の曲ではなく、純粋な「響き」ではないか?(いまよんでる)
-
読み切れたとはいえない。作者の該博な知識を俯瞰する能力はとうていないけれど、最初から最後までぎっしり詰まった音楽をめぐる記述を読むのは至福体験だった。しかも、ベートヴェンやモーツァルトなら他の小説でだって読めそうだが、本書では、現代音楽に関する言及が多い。メシアン、シュトックハウゼン、ケージ、ライヒ、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチといった、なかなか専門書以外ではお目にかかれないような作曲家が登場。
また、ロックやポップスと現代音楽が徐々に手を握りあう過程を描いた小説ともいえる。 -
バイオテロ、過剰警戒な社会、冤罪、このあたりはとても現代的なというか、パワーズエラいこと流行りに乗ったな、という印象は否めない。まぁ別に現代的なテーマで流行りに乗った小説やからアカンってことはないけども。で、オイラに音楽の素養というか教養というか知識がないので、そういうのがあればもっと色々ピンと来るんだろうな、という残念感もあり。音楽ではないけれども、作中にドイツ農民戦争の際のミュンスターのヤンの話が出てきて「これ、「Q」に出てきた話か!」とつながってスゴい楽しかったので、たぶんもっと色々な仕掛けを(特に音楽中心に)オイラの知識の無さで見落としてるんだろうな、という…
-
微生物の遺伝子に音楽を組み込もうとする音楽家の元に捜査官がやってくる。バイオテロの容疑がかけられ逃避行の旅へ出る。壮大な音楽小説でありながら家族、友人との関係性を見つめ直す作品。小説内で登場する約400曲の音楽リストは圧巻。