量子革命: アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (527ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105064310

感想・レビュー・書評

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  • 第一章 不本意な革命
    量子という概念そのものがなかなか難しい。古典的な物理量が連続的で滑らかな変化をするのに対し、量子にはそれ以上分割できない基本単位が現れる。古典的な物理の概念では1と2の間は1.1、1.11・・・・といくらでも分割できるのに量子論では1の次は2だ。
    最初に量子を発見してしまったのはマックス・プランク。加熱された物体は温度が一定であれば同じ色の光を出す事が昔から知られていた。この温度と色の関係を調べる黒体放射の問題を説明できる式を導きだしたのがE(エネルギー)=hν(プランク定数x波長)でありエネルギーは不連続な値しか取れない。この時プランクは原子の存在をまだ信じていなかった。「事態は悪化している。われわれは量子論と折り合いをつけるしかあるまい。しかも、量子論は今後さらに勢力を増していくだろう」

    第二章 特許の奴隷
    1905年26才のアインシュタインは彼の言う所の「特許の奴隷」になって3年が経っていた。この年がいわゆる奇跡の年で光電効果(光量子)、ブラウン運動、特殊相対性理論の3つの異なる領域の論文を立て続けに発表している。これに匹敵するのは1666年のニュートンだけだと言う。(微積分、重力理論、光の理論)新婚で生活のためやむなくスイス特許局に勤務していたアインシュタインだが、理論物理学者には実験室は必要なく、ここで特許の審査に必要な批判的に考え、警戒感を怠らない能力に磨きをかけた。そしてそれと同じ態度で物理学と向き合うことになったのだ。

    光が波である事は知られていたがこの年アインシュタインがやったのは光そのものを量子化することだった。今では教科書に普通に光は波と粒子の両方の性質を持つとさらっと書いてある。しかし実際には原子が発見された後も光が粒子である事が受け入れられるまでには長い時間がかかっている。

    第三章 ぼくのちょっとした理論
    コペンハーゲン生まれのニールス・ボーアは門下から11人のノーベル賞学者を輩出したラザフォードに学んでいた。原子番号は原子核の電荷に等しいと言う説や後にノーベル賞を別の人間が取る事になるアイデアの発表はラザフォードに止められたが、アルファ粒子の散乱データーから原子核のモデルに量子を持ち込む理論を思いつく。

    第4章 原子の量子論
    ボーアのモデルはこういうものだ。正電荷の原子核と負電荷の電子は互いに引き合う。ではなぜくっついてしまわないのか?例えば惑星のようにぐるぐる回って遠心力で釣り合うと考えるのもうまくいかない。原子核を中心に円運動する電子はたえず放射を出し、エネルギーを失ってしまうからだ。原子核モデルに量子を持ち込むと言うのは電子が決まったエネルギーしか持てないようにすることで、基底状態の電子はそれ以上エネルギーを失うことはなくなり原子核に引き寄せられる事なく安定できる。学生時代にならって使ってはいたが未だにちゃんと理解できていない原子軌道はここから生まれたのだなあと少し恨めしい気分だ。

    第五章でアインシュタインとボーアが出会い量子物理学は発展を加速する。プランクがいやいやながらに予測したように。そしてハイゼンベルグ、パウリ、シュレーディンガー加わった。ボーア、パウリ、ハイゼンベルグは不確定性原理に基づき量子を確率的に表現する解釈を選ぶ。ハイゼンベルグは粒子と言う性質を表すために行列で量子力学を表した。それに対しシュレーディンガーとアインシュタインは量子の実在性を重んじシュレーディンガー方程式は波の性質を表したものだ。結局この二つの数式は等価であると言う事らしいのだがそれが理解できなくてもこの本の面白さには影響しない。量子と波の戦いはアインシュタインとボーアの哲学的な論争を生んだ。

    量子の世界というものはない。あるのは抽象的な量子力学の記述だけである。 ニールス・ボーア
    わたしは今も、実在のモデルを作る事は可能だと信じているー単なる出来事の確率ではなく、もの自体を表す理論を作る事は可能である。 アルベルト・アインシュタイン

    シュレーディンガーの猫という有名な思考実験がある。猫が入った箱がありゆっくりと崩壊し電子を発生する物質が入れてある。電子を感知すると青酸ガスを発生する装置がつけられていてある時間が経った際に50%の確率で電子が発生するとしよう。この時間ふたを開けないと猫が生きているか死んでいるかは分からない。ボーアの解釈は生きた猫と死んだ猫が半々の確率で重なり合った状態というものなのに対してアインシュタインは開けたら分かる以上実在(死んでいるか、生きているか)を表現する方法があると考えていた。「神はサイコロをふらない」と言うのはこのころアインシュタインがボーアにあてて書いた手紙で使った言葉だ。ボーアの解釈を様々な思考実験で攻撃するアインシュタインとその思考実験の欠陥を見つけ持論を防衛するボーア。ついにアインシュタインはボーアの解釈を論破できなかったのだが量子力学は恐らく正しいが完璧ではないと言っている。

    著者のマンジット・クマールがこの本のアイコンとして選んだのは1927年の第五回ソルヴェイ会議の出席者の写真。最前列中央にアインシュタインが座り招待された29人のうち最終的には17人がノーベル賞を受賞した物理学の黄金時代を象徴した写真だ。その招待状には「このたびの会議では、主に新しい量子力学と、それに関する問題を議論します」と書かれている。しかし講演者のリストにはアインシュタインの名前は無かった。「自分は話題が提供できるほど量子論の最近の発展に熱心に関わっていません。というのも、ひとつには、わたしはこの怒濤のような理論についていけるほど進取の気性に恵まれていないと言うことがあります。また、この新しい理論の基礎となっている純粋に統計的な見方を認めてもおりません」。また、ボーアも講演者リストには無かった。しかしこの時のアインシュタインとボーアの論争はその後も続き量子力学の新たな幕をあけた。

  • 本書の4章で取り上げられているボーアの量子論的原子モデルの誕生から今年でちょうど百年.その量子力学の百年の歴史をボーアとアインシュタインの論争を中心にいきいきと描き出した本.

    非常に面白くて,余暇の時間をつぎ込んで読みふけった.人間臭いエピソードが満載で,ノーベル賞級の天才たちがぎりぎりまで頭をふり絞り新しい理論を生み出していく姿にとても感動した.特にハイゼンベルクが師であるボーアに自分の主張を認めてもらえず,涙をながすところなど学者としてのすごい執念を感じた.本当に凄まじい.

    一方,ボーアとアインシュタインの論争は私にはあまりに哲学的すぎ,なかなか難しかった.

    先日読み終えた「ヒルベルト」では,20世紀初頭の物理学の発展が,ゲッティンゲンから定点観測されていたが,この本を読むことでその様子が立体的にわかった感じ.

  • 熱い。

  • 量子物理学を巡る巨人達の人間模様としてだけでも楽しめる。自分がアインシュタインとボーアの論点を理解できているか余り自信はないんですが。

  • ボーアとアインシュタイン。
    量子が見つかってから、現在に至るまで。
    よくわからんかったけど、おもしろかった。

  • 第1部 量子
    第2部 若者たちの物理学
    第3部 実在をめぐる巨人たちの激突
    第4部 神はサイコロを振るか?

  • マンジット・クマール『量子革命』新潮社、読了。本書は量子力学の歴史を概観する一冊。学の展開を追跡し、人物像を理解し、その背景に潜む哲学を理解するには絶好の一冊。「実在」をめぐる物理学者の論争が本書の山場か。もはや物理学内部だけでは済まされない。類書は多いが本書はおすすめ。

  • ミクロの常識を超える振る舞いをする量子の世界、その振る舞いに物理学者達も当惑し、どう解釈すればいいかと悩んできた。その学者たちの悩みと論争が実に活き活きと描写されていてひきこまれました。

  • 昨日から読書中。今朝の朝日新聞書評でも取り上げられてた。やめられない止まらない。量子論発見に至る初期の足取りを丁寧に追っているだけでなく、有名な科学者達の人となりも生き生き活写されてて、大変面白い。学生の頃こんな本読みたかったな。

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