ナチスの楽園: アメリカではなぜ元SS将校が大手を振って歩いているのか

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105069711

作品紹介・あらすじ

アメリカと元ナチスのおぞましき蜜月関係――! アメリカ政府が、ソ連との冷戦に活用するため、大量の元ナチス幹部を秘密裏に入国させている――国家的不正に気づいた司法省特捜室の執念の捜査が始まった。必死に過去を偽る元ナチスたちと、何とか証拠を掴もうとする特捜検事たちの息詰まる攻防戦の行方は……? ピュリッツァー賞ジャーナリストが描く、驚愕の戦後裏面史。

感想・レビュー・書評

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  • 加害者には、もう忘れてしまうほど昔のことかも知れない。
    しかし、ユダヤ人にとっては何年経っても色褪せない。
    先日読んだ「もう一つの戦場」
    日本で唯一地上戦の舞台になった沖縄、世界で初めて原爆投下された広島、長崎。
    老いて出て来る当時の鮮明な記憶、
    イワシを焼く匂いを嗅ぐと人を焼く匂いを想起する。
    戦争の記憶を語り継ぐ事は、語る人に二次体験させダメージを与える。
    話を聞くから、10割分かるわけではない。
    実際に経験しないと、詳細は分からない。
    しかし、ホロコースト体験者、被爆者に語りは否定してはいけないのだ。
    実際に経験したのだから、己の理解に及ばなくても。

    終戦後、アメリカンは即ソビエトに対抗するため、ナチスの科学者や、ナチスの幹部をアメリカに移民させた。
    被害者であるユダヤ人を多数劣悪な環境の収容所に放置して、ユダヤ人の移民受け入れよりナチスを多く受け入れた。
    ナチスの多くはアメリカのスパイになりソビエトの情報を聞き出した。

    アポロの月面着陸を成功させた、フォン・ブラウンもアメリカが優先的に移民させた科学者だ。
    彼は、ユダヤ人を人体実験で殺害したり極悪非道な殺人者だ。

    ナチハンター、多くのナチスを受け入れて来たし、ドイツやイスラエルから彼らの情報を求められても、我存ぜずと情報開示をせず、利用できるだけ利用する。
    戦後35年経ちようやくアメリカ司法省は、特捜部を設立し、ナチを国外退去させようとする。

    レーガン政権の側近パット・ブキャナンは、年老いた元ナチを国外退去させる特捜部を廃止するよう行動する。
    いつまで罪を罰すれば良いのか?老いた元ナチを罰するのは、とほざきまくるが、
    それは加害者の論理。
    年老いたとしても、罰せられなかった者は正確に罰せられなければならないのだ。

    年齢ではない、やったんだろ?
    年齢とやった事は別の論理だ。
    過去は変えられない、罪を償わないといけない。

  • ナチスの楽園: アメリカではなぜ元SS将校が大手を振って歩いているのか 単行本 – 2015/11/27

    全てが忘れ去られている。全部、もう終わったのだ
    2016年11月30日記述

    エリックリヒトブラウ(Eric Lichtblau )による著作。德川家広訳。
    1965年ニューヨーク州シラキュース生まれ。
    コーネル大学卒業。ロサンゼルス・タイムズ、タイムズなどで活躍。
    その後ニューヨーク・タイムズでブッシュ政権下の米国国家安全保障局による令状なしの盗聴をスクープし、2006年のピュリッツァー賞を受賞。

    本書でも一部登場するアルゼンチンに潜んでいたクレメント(アドルフ・アイヒマン)を
    イスラエルの工作員が拉致しイスラエルにて裁判を受けさせる・・・という話が有名だ。
    (昔自分も世界まる見え特捜部でその話しを視聴した)
    しかしアイヒマンはかなりの珍しいケースだ。
    大半は悠々と逃げおおせていた実態があった。
    その新天地はアメリカ合衆国だった。
    紙クリップ作戦で多くのナチスの科学者達がアメリカのロケット開発に携わったことを思うと複雑な気分がするのは当然だ。
    (これだけのドイツ人科学者が助かり援助されている現実を考えると旧日本軍の731部隊が実験データを提供してあっさり無罪放免になっているのも全く至極当然という感じがした)
    嫌な思いがするだろう、しかし当時はソ連との冷戦がはじまっており状況が違った。
    ナチスの戦争犯罪人達も冷戦の恩恵を大きく受けたのだと言わざるをえない。
    トム・スーブゾコフ(最後は自宅への爆弾テロで大怪我⇒死亡)
    フォン・ボルシェヴィング(高齢になってから元ナチが判明、起訴されるものの取引で実質無罪?)

    本書後半から登場する狂信的とも言えるナチスハンターのイーライ・ローゼンバウムがV2ロケットの開発に携わったアルトゥ-ル・ルドルフを最終的に国外追放(西ドイツへ)したりしたが・・・
    (V2ロケット製造のドーラ工場での労働実態は虐待レベル)
    どれだけの意味があったのかは分からない。
    高齢や時効で重い処分がない場合も多い。
    1998年にニューヨーク郊外在住に元SS将校ヤーコプ・ライマーの台詞である全てが忘れ去られている。
    全部、もう終わったのだとしか言えない。
    そもそも冷戦間もなく紙クリップ作戦で科学者を大量に
    アメリカへ連れてきたこと、元ナチスを反共の同士としてCIAで重宝したことを考えればこれらの裁きのほとんどは自己満足としか言えないだろう。

    ナチス・ドイツ並みの蛮行を働いたベトナム戦争の米軍人達に至っては誰一人何一つ裁かれていない。
    戦争犯罪とは何かという根源的な問いに対する思いが沸き起こる。

    もちろんナチス・ドイツが行ったことは許されない。
    本書P359 にあるように戦後のアメリカを祖国と呼ぶ元ナチスなど、本来であれば1人も存在することを許されるべきではなかった。

    本書は巻末に人物索引がついており評価できる。
    海外の専門書という感じがして良い。
    原著にも写真はあまり無かったのだろうか?
    もう少し当時の写真や登場人物の写真が多く掲載されておればもっと良い本になっただろうにと思う。

  • 歴史
    戦争

  • アメリカ人ジャーナリストによる、アメリカ国内で生活している元ナチス将校の罪を調査・裁こうとした行動を記したもの。ナチス将校は、ユダヤ人の虐殺に関わっていたとしても、技術者をはじめ優秀な者を続々とアメリカに連れ帰り、対ソ連の対抗政策に組み込み、米国で活躍させていた。それを戦後30年以上経過してから、罪を暴いたり、裁こうとする活動が始まり、強制送還等の処置を行っている。
    本書の内容はジャーナリストらしく、発見したことを基に持論を展開していくわけではあるが、意義が見出せない。戦争犯罪は、原爆投下を挙げるまでもなく、敵味方関係なく頻繁に行われたわけであり、なぜナチスの罪のみを罰しようとするのか、それも戦後30年以上たってから米国に貢献している者を裁こうとするのかがわからない。無差別攻撃を行い、罪のない100万人以上の日本国民を虐殺しておきながら自らの罪は棚に上げ、なぜナチスといった一点のみに焦点を絞る意義はなにか。調査は精緻だと思うが、研究価値には疑問を持つ。
    「元ナチスたちは、正規のビザを発給され、渡航先で新たな生活を始める予定でいた。強制収容所の生き残りの囚人たちが、自分たちの救助に来たはずの連合国軍から苛酷な扱いを受けているかたわらで、数多くのナチス党員がヨーロッパを脱出していたという事実は、ヨーロッパ戦線における連合国の数多い失策のうちでも、特に見苦しいものだったと言えよう」p22
    「アイゼンハワー将軍が率いる連合国軍は、死体と汚物の放つ強烈な悪臭が敷地内に満ちていたにもかかわらず、彼らが収容所の外に出ることを許可しなかった。生き残った囚人たちをどう扱ってよいのか、誰にもわからなかったのである」p25
    「(ハリソン報告書)アメリカのユダヤ人に対する扱いは、ナチス・ドイツによるそれと似たり寄ったりである。違いがあるとすれば、アメリカが大虐殺をおこなわないくらいのものだ」p26
    「戦時中、米政府はコロンビア、グアテマラなどの中南米諸国を説得して、約4000人のドイツ系住民を米国に移送させている。米国に到着したドイツ系の南米人たちは、敵性国民として米国内の刑務所に収容された。米国市民権を持つドイツ系も、たとえどれほどアメリカ社会に溶け込んでいようとも、米国内から攻撃してくるかもしれないと、警戒の対象にされた。米国や中南米のドイツ系市民で、意味のある形でヒトラーと結びつきのある者などほとんどいなかったが、ルーズベルトとしては万全を期したかったのだ」p41
    「冷戦時代のアメリカでは、元ナチスであることがはっきりした者に対してさえ、政府はほとんど手を打とうとしなかった」p148
    「(ナチス高官)フォン・ブラウンのおかげでアメリカはロケットを打ち上げることが出来、シュトゥルクホールトのおかげでロケットの乗組員は宇宙でも生きていられた。このコンビがいるからこそ、アメリカの宇宙時代は幕を開けようとしていたのだ」p155
    「(フォン・ブラウンの戦後回想)ヒトラーは、驚愕するような知的能力の持ち主で、その魅力は磁石が鉄粉に対してするように人を引き寄せる。新ナポレオンさながらだ、と描写している」p158
    「(シュトゥルクホールト)まさかあなたは、科学者が戦争の責任を負うべきだと考えているのではないでしょうね」p162
    「アメリカ政府全体としては、元ナチス容疑者を捜査することとFBIの反ソ情報提供者を守ることとの間でどちらをとるかとなると、依然として反共努力のほうが重要視されていたのである」p218
    「(紙クリップ作戦)戦後、1万6000人のドイツ人科学者をアメリカに移住させた」p250
    「人をナチス呼ばわりするのは、名誉毀損としては最大級のものです」p279
    「(ユダヤ防衛同盟が爆弾テロ後の発言)私たちの行動ではないが、賞賛に値するのは事実である。暴力は憎むべきだが、時には必要だ」p284

  • ドイツのロケット科学者が多数アメリカに渡り、ロケット開発に携わっていたことは知っていたが、こんなにも広範に多くのナチの残党がアメリカに潜り込んでいたとは知らなかった。冷戦の影響とはいえ、あまりの節操の無さに驚かされる。
    また、その後ナチの追求に取り掛かり、暴いて行ったところもアメリカらしいと感じる。日本では政府が過去の過ちを認め、真逆の政策を進めることはまずあり得ないからだ。間違い無くもみ消されてしまっただろうし、国民も今さら良いのではという意見に傾きそうだ。

  • 第二次大戦後、多くの旧SS将校や関係者がアメリカへ移住したという。ある者は科学者としての知識を買われ、ある者は対ソのスパイとして。その後も長きに渡り平穏に暮らし、宇宙科学の功労者となった者もいたという。
    いずれも、アメリカの身勝手から生じたこと。タイトル通りそれだけの話かと思いきや、その秘密を暴き、国外退去に追い込もうとするジャーナリストや検察がいた。あくまで正義を貫こうとする人々が本書の主人公。
    ナチの犯罪はおぞましく許し難いのだが、数十年の時を経て、高齢になってからも追い込まれる旧SS関係者には
    単純な善悪では語れない、国家に翻弄された悲劇を感じた。

  • アメリカでのナチの犯罪に関わっていた(それもかなり深く)人物の受け入れ(大っぴらなものも秘密裡のものも)とその糾弾について。
    歴史叙述というよりはその渦中の人物に焦点をあてて各章が書かれている。たまに誰だったっけ?となってしまい前に戻ったり。

  • 米国国防総省やCVIAの手引きで入国した元ナチスが数千人規模でいた中で、ユダヤ人たちは収容所からなかなか解放されず、看守だったドイツ人と同じ部屋で寝たり、以前の看守がそのまま看守業務を続けることもあった。
    ヒトラー没後数年しても収容所から解放されなかったユダヤ人がいた。
    ヨーロッパの難民収容所の最高責任者はパットん将軍だったが、ユダヤ人は動物以下との差別意識丸出しだった。
    トルーマン夫人もユダヤ人を一度もディナーに招待したことなかったし、トルーマン大統領も私的な場ではユダ公と言っていた。
    ドイツが敗北した後も北イタリアではナチスがSS将校の軍服を着て作戦行動していた。
    イタリアでナチスの脱走を手伝ったのはカトリックと赤十字である。

  • スミソニアン航空宇宙博物館の展示物には巨大な白黒二色のV2ミサイルがあった。ナチスが造り上げた伝説的なロケット・ミサイルは戦後になってアメリカへ輸入されていたのだ。しかしスミソニアンにあるV2には革命的な技術に関する説明はあったが、V2が製造されたドーラ強制収容所がどれほど残酷な場所だったかについての言及は一切なかった。ミサイル建造の作業に従事した何万人もの奴隷労働者のこともなければ、ドーラで命を落とした約2万人のことも触れてなかった 。

  • 「The Nazis Next Door: How America Became a Safe Haven for Hitler's Men」の翻訳(2015/11/27発行、2592E)。

    本書は第2次大戦後、何千人ものナチス戦犯が何故アメリカに逃れられたのか、その経緯について何十人もの関係者へのインタビューや、機密解除された公文書をもとに書かれた書籍です。 
    一応、ペーパークリップ作戦でアメリカに連れてこられたフォン・ブラウンを初めとしたドイツ第三帝国の科学者達や、第三国経由でアメリカに帰化した強制収容所の看守、後にフランスに引き渡され終身禁固刑となるSDのクラウス・バルビー、西ドイツの対ソ諜報網を組織したラインハルト・ゲーレンその他についても触れていますが、実際にはアメリカに帰化した元SSのオトー・フォン・ボルシュヴィングと元武装SSの外国人義勇兵チェリム・スーブゾコフの二人のアメリカにおける暮らしとナチス裁判の経過について語った内容となっています。

    既に多くの元SSや元ナチス協力者が、第二次大戦後CIAの協力により、アメリカに渡ったことは知られていることなので、それ程、驚愕するような事実ではありません。 とは云え、アメリカに渡った元ナチスがどのようにアメリカ社会に溶け込んでいったのか知ることが出来ますので、興味深い内容の本ではあると思います。

    只、元国防軍の将軍で党員でもなかった筈のゲーレンをナチスと云っていたり、ナチスに協力した外国人義勇兵の将校であったスーブゾコフを武装SSの将校(外国人の場合、SS管理下の部隊に配属されても、武装SS将校として扱われなかった筈では?)としている上、ナチス裁判でもスーブゾコフは勝訴している他、幾つか気になる箇所が見られるので、書かれていること全てを鵜呑みには出来ないようにも感じました。

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