ナチスの楽園: アメリカではなぜ元SS将校が大手を振って歩いているのか

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105069711

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  • ナチスの楽園: アメリカではなぜ元SS将校が大手を振って歩いているのか 単行本 – 2015/11/27

    全てが忘れ去られている。全部、もう終わったのだ
    2016年11月30日記述

    エリックリヒトブラウ(Eric Lichtblau )による著作。德川家広訳。
    1965年ニューヨーク州シラキュース生まれ。
    コーネル大学卒業。ロサンゼルス・タイムズ、タイムズなどで活躍。
    その後ニューヨーク・タイムズでブッシュ政権下の米国国家安全保障局による令状なしの盗聴をスクープし、2006年のピュリッツァー賞を受賞。

    本書でも一部登場するアルゼンチンに潜んでいたクレメント(アドルフ・アイヒマン)を
    イスラエルの工作員が拉致しイスラエルにて裁判を受けさせる・・・という話が有名だ。
    (昔自分も世界まる見え特捜部でその話しを視聴した)
    しかしアイヒマンはかなりの珍しいケースだ。
    大半は悠々と逃げおおせていた実態があった。
    その新天地はアメリカ合衆国だった。
    紙クリップ作戦で多くのナチスの科学者達がアメリカのロケット開発に携わったことを思うと複雑な気分がするのは当然だ。
    (これだけのドイツ人科学者が助かり援助されている現実を考えると旧日本軍の731部隊が実験データを提供してあっさり無罪放免になっているのも全く至極当然という感じがした)
    嫌な思いがするだろう、しかし当時はソ連との冷戦がはじまっており状況が違った。
    ナチスの戦争犯罪人達も冷戦の恩恵を大きく受けたのだと言わざるをえない。
    トム・スーブゾコフ(最後は自宅への爆弾テロで大怪我⇒死亡)
    フォン・ボルシェヴィング(高齢になってから元ナチが判明、起訴されるものの取引で実質無罪?)

    本書後半から登場する狂信的とも言えるナチスハンターのイーライ・ローゼンバウムがV2ロケットの開発に携わったアルトゥ-ル・ルドルフを最終的に国外追放(西ドイツへ)したりしたが・・・
    (V2ロケット製造のドーラ工場での労働実態は虐待レベル)
    どれだけの意味があったのかは分からない。
    高齢や時効で重い処分がない場合も多い。
    1998年にニューヨーク郊外在住に元SS将校ヤーコプ・ライマーの台詞である全てが忘れ去られている。
    全部、もう終わったのだとしか言えない。
    そもそも冷戦間もなく紙クリップ作戦で科学者を大量に
    アメリカへ連れてきたこと、元ナチスを反共の同士としてCIAで重宝したことを考えればこれらの裁きのほとんどは自己満足としか言えないだろう。

    ナチス・ドイツ並みの蛮行を働いたベトナム戦争の米軍人達に至っては誰一人何一つ裁かれていない。
    戦争犯罪とは何かという根源的な問いに対する思いが沸き起こる。

    もちろんナチス・ドイツが行ったことは許されない。
    本書P359 にあるように戦後のアメリカを祖国と呼ぶ元ナチスなど、本来であれば1人も存在することを許されるべきではなかった。

    本書は巻末に人物索引がついており評価できる。
    海外の専門書という感じがして良い。
    原著にも写真はあまり無かったのだろうか?
    もう少し当時の写真や登場人物の写真が多く掲載されておればもっと良い本になっただろうにと思う。

  • 第二次大戦後、多くの旧SS将校や関係者がアメリカへ移住したという。ある者は科学者としての知識を買われ、ある者は対ソのスパイとして。その後も長きに渡り平穏に暮らし、宇宙科学の功労者となった者もいたという。
    いずれも、アメリカの身勝手から生じたこと。タイトル通りそれだけの話かと思いきや、その秘密を暴き、国外退去に追い込もうとするジャーナリストや検察がいた。あくまで正義を貫こうとする人々が本書の主人公。
    ナチの犯罪はおぞましく許し難いのだが、数十年の時を経て、高齢になってからも追い込まれる旧SS関係者には
    単純な善悪では語れない、国家に翻弄された悲劇を感じた。

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