調書

  • 新潮社
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本棚登録 : 206
感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105106157

作品紹介・あらすじ

アダム・ポロ-人類最初の名前をもつこの不思議な男は、いったいどこからやってきたのか?太陽や海、犬やライオンとの交歓のなかに、奇妙な巡礼行を綴る、ル・クレジオ、衝撃のデビュー長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 《1963年出版。クレジオの処女作》

    繊細で鋭利なまでに描写された場面場面に卒倒しながら読み終えました。
    世界に身を投じてゆくと見えてくる 自分という個の存在がある一つの世界で大量生産で作られたものだ ということ。そして個人が個人の思想や文化や世界を持っていることを知るアダム・ポロ。他人をいつも観察し、自己の巨大化と厖大化を表に露わにし、アダム・ポロならアダム・ポロ。犬なら犬。ねずみならねずみ。海岸なら海岸。彼女なら彼女。そうやって他との世界との時間の共有と拒絶を繰り返しながら調書と呼ばれる物語(時間)を送っていくアダム・ポロ。彼の名前は人類最初の男であり、生命の同類であり、兄弟であり、合理的で普通の人間として描かれている。
    思考は突き詰めれば突き詰めるほど先端は細くなり、これ以上の思考の余地がなくなることを知っている。幾何学的に成立された世界で描かれる物語に凄まじいほどの戦慄を覚えました。

    (2009.07.11)

  • 2008年ノーベル文学賞受賞、ル・クレジオのデビュー作です。本文・あとがきとも、旧版そのままの出版。ちょっと雑な感じのフランス装が、今風でなくて素敵!でも、書店より大学生協書籍部の棚が似合う、いかにも売れなさそうなビジュアル(笑)。それにしては、表紙の写真はエリオット・アーウィットなんて使ってるんですよねー。

    自称「戦争帰り」の青年、アダム・ポロの日常を描きます。彼が南仏と思われる日差しの強い街をさまよい、いろいろなことに思いをはせる。そして時折、恋人(と思われる)、ミシェールへの思いを手紙のようにノートへつづる。ほとんどがこの繰り返しです。アダムは普通に日常生活を送っており、特に大それたことをしでかすというわけではないんですが、何気ない光景(でないものも多いけど)に遭遇して考えたり口に出したりすることが、とりとめもなくぐるぐる回ってあらぬ方向へ飛んでいきます。そしてミシェールあての「手紙」はどんどんぐちゃぐちゃになってきて…最初に抱く「この人、本当にヤバいの?」という疑問が確信に変わる(笑)。この乱れ飛ぶ思考が「あー、仏文!」という感じ。自意識の周りをぐるぐる回る語彙の豊富さに、「あー、ヨーロッパ人がおしゃべりなの、わかるー」と思ってしまいます(笑)。

    後半、少しずつ仕掛けがほどけてタイトルに近づいていきますが、一筋縄ではいきません。「?」感満点(笑)で、ただただことばに翻弄されて終わる作品との印象を受けました。「実験的で難解」との前評判だったので、少し緊張して開きましたが、わからないところはそれとして割り切ると(笑)、意外とページが進みます。ここが研究でなく小説として読む気楽さ(笑)。訳もやや手直しの必要を感じるものの、穏やかで品よく見事です。文中のタブロイド紙面は、今ならもっとリアルに作れますけど(笑)。

    絲山秋子さんが「ロック」と評されるのもうなずける、静かに見えてイカれた本です。それに何よりも、背伸びしていろんな本に手を出していた学生時代のニオイがして、初めて読んだのに懐かしい感じがしました。で、この☆の数です。

    -----[2008.12.7 未読リストにアップ時のコメント]-----

    夏ごろに、絲山秋子さんが雑誌の記事でご自身の「生涯ベスト本」と紹介されていた本です。私は絲山作品フリークではない(何せ初めて読んだのが『ばかもの』だし:笑)のですが、その記事がなぜか気になり、試しに書店へ行ったら絶版!でも、この秋にル・クレジオがノーベル文学賞を取ると速攻で復活(笑)。

    この装丁も素敵ですが、茶色のアルファベットをばーんと使ったベージュ系装丁の版があり、そちらのほうが断然シックでいいんですけど(もっといいのが篠田浩一郎訳のニザン『アデン アラビア』)。仏文はうっかり若者時代に読むと、その妖しいマジックにかかってしまい、人生設計をいささか考え直してしまいたい思いにかられます(笑)が、今読むのもまたよし、と思ってお取り置きです。

  • 難しい。アダムの語り。

  • 昔読んだ本

  • 最初から最後まで何が起きているのか、何が書かれているのか理解に苦しむ小説だった。この作品との相性が良くなかったかもしれない。全く楽しめなかった。読み進めるのが苦痛で、とにかく最後まで読み通すことだけを考えて読んでいた。こんな小説に出会うのは滅多にない。

  • 次読む→やっぱまた今度

  • 主人公を何物ととらえるのかに苦戦する一作です。前半までは主人公の独白調かと思っていると、どうも記された時系列はバラバラで、後半は主人公の名前や出来事の登場する記事、手紙、調査報告書なども掲載され、どうやら作品全体が主人公をどう規定するのかと言う事に苦戦しているという印象です。海の風景が印象的で涼しげです。(宮月)

  • 文学

  • キラキラと黄金色に輝く自分にとってのバイブル。

    信じられないかも知れないが、その文字列、エクリチュールが自分にはほんとに輝いてみえるのだ。美しい。

    暗い色に沈んだ湖面に、朝の陽射しが一瞬間白く割くようにして走る、眼の眩むような一筋の閃光。瞼の裏の乱反射。
    そんな感触。

    アダム・ポロ。ありゃ俺だ。

  • よく分かってないけど、読み終わって、いい意味でざわざわする感覚と、もしかすると個人個人のどうしても埋められない感覚を描いている小説なのかなぁ・・・。精神が錯乱している主人公のアダムと自分はそう遠くない場所にいるような気がした。

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