パンタレオン大尉と女たち (新潮・現代世界の文学)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105145026

作品紹介・あらすじ

スピーディな時間的経過と場面転換、多彩な登場人物と様々なエピソード、鋭い人間観察と辛辣な社会批判…、奇抜で緻密でユーモラスな小説世界。

感想・レビュー・書評

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  • ペルーの村人たちは兵士たちによる婦女暴行の多発に怒りを募らせていた。軍部の対策は”婦人巡察官”つまりは兵士専門の移動売春婦部隊を作ること。抜擢されたのはパンタレオン・パントハ大尉。生真面目で有能で前途有望、腸と臀部に問題アリ。
    最初は戸惑ったパンタレオンだが持ち前のくそ真面目な凝り性を発揮し婦人巡察部隊をどの軍隊より完璧な規律で作り上げる。
    こんなスキャンダルかつ魅惑的な話が極秘でいられるはずはなく、娼婦たちは「堅実で素晴らしい職場!」と応募は殺到、軍隊は「早くこっちにも回せ!」、村人たちは「自分たちにもヤらせろ!」、報道者は「黙っててほしけりゃわかってますよね」などとやいのやいのと言ってくる。
    困ったのが上層部。もっと穴のあるシステムでよかったのに、なんでこんなにちゃんとやっちゃうんだ。
    同時に上層部を悩ませるのは宗教集団<箱舟(アルカ)>の集団。主催修道士は「世界の終末は近い!十字架にかけて神に祈れ!」と唱え、熱狂した村人たちは虫でも動物でも、はては人間まで十字架にかけまくってしまう。

    そんな混乱のなかますます真面目に婦人巡察官を仕上げ続けるパンタレオンに上層部は…。
    ===

    バルガス=リョサ(以外、マリオさん)初期のころの中編。
    マリオさんの小説では間違ってない人物が左遷されたり殺されたりしちゃうことが多いんだが、それでも読後感覚は悪くない。自分を通して左遷されたならしょうがないか、という感じで。
    文章構成もやっぱりマリオさんの風味が出まくっている。
    地の文、手紙、報告書、ラジオ放送という手法で一連の流れを組立てる。
    報告書なんぞは、パンタレオンが我が身を持って「1度の行為にどのくらい時間がかかるか?それにより何人の女が必要か?この薬は男の下腹部にどのような効果をもたらすのか?」などのあれやこれやを大真面目に研究したりして、真面目バカってのはこういうやつなんだよな、受け取った上層部も真面目に返信してて、本人たちの真面目さって横から見ると笑えるよね、などと。
    そもそもこのテーマだって相当笑えないのに、批判を交えながら笑うしかない話に仕立てているのが大したところ。
    場面や時間もまぜこぜ。第1章では「出勤前の朝のパンタレオンと家族の様子」「パンタレオンが首脳部に任務を伝えられる場面」「新任地に赴いたパンタレオンが早速軍隊付き神父に非難される場面」が入り混じっている。これにより最初からこの任務はふしだらで歓迎されてなくて破綻しそうな予測させられる。
    またいくつかの章の冒頭は、家族がパンタレオンを起こす場面となっていて、時間や家族の接し方が変わっていったりしていて、パンタレオンの立場の変化が見られたり。どちらにしろ最後は飛ばされた先でかなり大変そうだけど相変わらず大真面目にやっているようで、お元気で何より。

    ちょっと難なのが翻訳かな。
    身分や人種により言葉遣いの違いや訛りやコトの場面での赤ちゃん言葉を無理矢理変な日本語に当てはめているからいちいち引っかかってしまう。
    原語ではおそらくもっと自然に入り混じってユーモラスかつ人種の違いが分かるようになっているんだろうなと思うんだが。

  • ペルーのアマゾン地域に配置された兵士達による性的犯罪を防止する目的で、従軍慰安婦部隊の立上げと指揮を命じられた大尉が主人公。
    この大尉は、企画分析力・管理力が高く実直でもあり、命令した将軍の一人が後に<地獄のようなメカニズム>と述べるまでにこの部隊を成長させていく。それに伴い周囲との騒動に発展していく物語。また、同時期に起こる異端な終末論を唱える修道士を崇拝する狂信的集団の騒動ついても同時に語られる。この二つの物語を行き来することではじめは頭が少し混乱するが、段々と表と裏のリズムのように感じ、そして最後まで引き込まれる。
     
    はじめは戸惑っていた実直な大尉が能力(企画分析力・管理力等)を発揮して任務に没頭していくさまや、夜毎うなされる悪夢の内容、それに何度か挟まれる上層部への報告書の軍隊の格式ばった文体と内容(性的なもの)との対比、といったことがとても滑稽で面白い。
     
    笑いながら読めるのだが、軍隊や宗教を批判し、更にそれらを取り巻く堕落した社会を描いている実は重いテーマの作品だと思う。そんな重いテーマを扱っていながら、ユーモアが盛り込まれていることで話がするするするっと頭に入ってきた。バルガス・リョサはやっぱり凄いと思った。
    実際はわからないけど、この作品は相当な覚悟が無いと書いて発表することができないのではと勝手に思う。そしてバルガス・リョサはやっぱり凄いとまた思った。
     
    2014年12月現在、絶版or品切れ中なのはなんとももったいない。

  • ペルー出身のノーベル賞作家、比較的初期の作品とのこと。
    原題は「パンタレオンと女性訪問者たち」といった感じだろうか。
    ようするに慰安婦を組織する話なのだ。

    文体コメディというか、謹厳実直な将校が上官宛に送る報告書の体裁で描かれる「特殊任務」のユーモアが秀逸。
    隊員(女性)たちのいろいろな要求、そしていつしか部隊に対して芽生える誇りと忠誠心。

    そしてまさにこの物語の前半があるがゆえに、都合が悪くなると個人を切り捨てる組織の怖さ、そもそも組織に忠誠を尽くす、ということの意味(その愚かさや尊さ)などがよりはっきりと現れる。クライマックス、パンタレオンが行う演説の名場面ぶりはすさまじい。そしてあまりにもやるせない結末になぜか希望の光が指すのもいつものリョサ。

    表面的な加害者、被害者の図式のはるか先に著者の目は向けられている。
    いつもながら、すごすぎる。

  • 真面目な軍人パンタレオンに、秘密裏に言い渡された職務は、兵隊相手の売春組織を非公式に組織し運営すること。かくてパンタレオンはアマゾン奥地へ着任するが、持ち前のクソ真面目な能力を発揮し、期待されるレベルを超えて完璧な組織を構築してしまう。

    パンタレオンの慰安婦組織には次第に、地元のあばずれ女が職を求めて殺到し、また各駐屯地から訪問以来も殺到。あれよという間に、非公式な存在ではなくなり、毀誉褒貶の渦に巻き込まれてゆく。

    リョサ独特の実験的な構成が良い。軍の活動レポート(これが性的内容のクソ真面目な表現で笑える)、売春婦との会話、アマゾンのカルト宗教団体の活動の様子、などがコラージュ的に配列される。ペースをつかむまでは落ち着かない構成なのだが、お約束のツボを把握すると、心地よいお笑い装置と化す。

    それら、取っ散らかった有様は、ペルーの様々な社会の様相を映し出しているようで興味深い。軍隊と民間、宗教と卑俗、都市と秘境、男と女。

    リョサは多作な作家でありながら一つ一つの作品の質が高く、手堅い選択として貴重な存在。

  • 生真面目な陸軍大尉が受けた特命は、アマゾン奥地の駐屯部隊向けの従軍慰安婦部隊を設立することだった・・・。

    リョサが著作にユーモアを積極的に取り入れ始めた作品ということでも知られる。
    小説は通常の語りのほかに、手紙、軍の報告書、ラジオ放送、新聞といった様々な表現を取り入れモザイク的な様相を示す。特に陸軍の報告書、文章は堅苦しいのに中身は卑猥で下劣で、何ともバカバカしい(褒め言葉)。
    一方で、いつもの通り軍部への批判であったり、奥地と首都との文化的な隔たりであったりといった鋭い観察力で社会問題を痛烈に暴露する筆致も健在。

    個人的には、この小説は非常にリョサらしさが発揮されていると感じた。満足。

  • バルガス・リョサの初めて読んだ作品。
    パンタ大尉が妻といちゃついている場面の次の行が軍の打ち合わせの場面というように、場面が入り混じる文章校正で少し戸惑うが、慣れてくる。
    軍隊という組織の問題と社会の問題、人間の生態を理解していないと書けない、上等な喜劇。

  • 文章は硬いけれど書かれた内容は下劣で卑猥ですごく馬鹿馬鹿しい。それが笑いを誘う。
    場面と時間が複雑に入り組んで次々に変化する文章構成もとてもおもしろくて好きだった。

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