ひとりの体で 下

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制作 : John Irving  小竹 由美子 
  • 新潮社 (2013年10月31日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105191160

ひとりの体で 下の感想・レビュー・書評

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  • 自分は何者なのか、悟り始めたビリー。作家となり、ニューヨークで暮らすようになるが、友人や元恋人たちにエイズ禍が…。大切な人々を病や事故、自殺などで次々と失い、自身も老いを迎えヴァーモントへ戻るビリー。継父の教え子と出会い、その保護者的役割を引き受けたり、セクシャルマイノリティの若者たちのため、政治的活動にも参加するようになる…。若き日には自己のアイデンティティを確立しようと、自分のことばかりにかまけてきた彼は60代になり初めて他者や社会としっかり向き合うようになった。

    作家の生涯を自伝形式で赤裸々に描き、性的志向をまず分類化しようとする大衆からの好奇の目や差別、マイノリティであるがゆえの葛藤などを綴った本作はアーヴィングにとって「政治的な」作品となった。

    この作品を発表した後、彼の息子が同性愛をカミングアウトしたそう。けして彼のために描かれた訳ではないそうだが、こういった作品がLGBTの人々に寄り添ったものであることを感じる。

  • 性と個人のあり方を詳細に書き込んでいるところがいいです。LGBT、HIV、若き日のことと過去の邂逅。すべて鮮やかです。一般受けはしないですが、素晴らしい作品です。

  • バイセクシャルの老作家の回顧形式の小説。

    舞台はバーモンド州の片田舎で、物語の2/3は高校卒業までで、主人公の性愛が目覚めるまでをじっくり描いて、自分もその時代は同性にも友情だけでなく恋愛感情が混じっていたかもと思ってしまいました。
    後半は、エイズによる死をはじめとし、次々と登場人物やその周りの人たちが亡くなっていきます。
    たしかにエピローグ的な勢いで、自然的原因ではない死の連続です。
    回顧小説ゆえにか時間軸があちこち飛び交うだけでなく、後半は主人公以外の登場人物が幽霊を見たりして現実空間からも少しずれたりしますが、その異常な性や生がそこにあると感じさせる圧倒的な筆力はさすがです。
    アイテムも北米田舎町、図書館、小説家、寄宿学校、レスリング、演劇、逃げた父親などのおなじみのものも含めてうまく使われています。
    LGBTは自分個人としては生理的に受け入れられないのですが、この小説を読むと寛容になるべきと思わされます。
    寛容的と思われる米国でもこのような歴史やいまだ残る偏見があるのに対し、日本はさらに非寛容すぎる気もします。
    ただ、人類的に見て、その寛容性は正しい方向なのかということも考えさせられます。
    久しぶりにすごい小説に出会いました。

  • アーヴィングが幾つになるまで長編を出し続ける事が出来るかはわからないが、この作品が後期の作品に入ることは間違いがない。サイードが言うところの晩年の作品と言う意味でだ。

    彼の物語の語りとしての技量は現代文学の最高峰にある。前作もそうであったがそのための反動としてか、いささか文章は読者の上から語られ始めてはきている。悪く言うところの説教臭さと言うところであろうか?とことんまで文体を追求している村上春樹との大きな違いそこにある。玄人以外には少々退屈になってしまうような語りも存在することは確かだ。

    しかし、物語の発展と描写にかけては何処に不満を持てばいいだろうか?
    美しき二人のトランスジェンダーのレスラー達。そしてエイズで死に行く友人達の描写は小説の素晴らしさをどこまでも痛感させてくれるものだ。

    主要な登場人物はほぼ「一般的な」性規範からは外れるものであることは間違いない。設定だけを要約すれば違和感を感じることは確かだろう。けれども、要するにこれは良くできた物語なのだ。本当に素晴らしい書き手が書いたフィクションはノンフィクションよりもより強固な世界観を持つ

  • バイセクシャルであるビリーの回想録は時間も場所もあっちこっちいくのでちょっと混乱した。マジョリティの中でマイノリティがいることさえ黙殺されていた時代から現代の中で忘れていたAIDSの恐怖が生々しかった。彼が投げつけられ言われてきた多くの言葉たちと彼が培った姿勢「僕たちは、すでにこういう僕たちなんだ、違うかな?」「ねぇ君、僕にレッテルを貼らないでくれないか――僕のことを知りもしないうちから分類しないでくれ!」が心に残った。

  • 最近のアーヴィングの小説には読んでいて思わずはっとして、目がページから離せなくなってしまうような瞬間というものがなかったけれど、この本にはある。最後のアンチクライマックス的な、しかし静かに物語を閉じていく最後も心に残る。

  • 悩みに悩み様々な人と知り合い、自分のセクシャリティを確立したビリーはやがて小説家になる。当時AIDSは未知の病で為す術もなくかつての恋人達や知り合いが亡くなっていく。アーヴィングは、死を描くのも性を描くのと等しく丁寧に綴っていく。上巻であまり印象が良くない登場人物にも、それぞれに幕引きがあるのがとても良かった。ビリーが教えられ与えられ得た事は、作中の若者達や私達に瑞々しく力強く伝わった。

  • 難しいテーマに、この人は相変わらず果敢に、軽やかに、取り組むなあ。上巻で思わず付箋を貼った言葉が、最後に毅然と現れてきて、巧いなあ、ちゃんと落としてくるなあ、そして信頼出来るなあ、と改めて感じたことよ。

  • 全編を通して、静かな小説だったな、というのが印象。

    エイズ・パニックがどういうものだったのか知らないけれど、最初期、エイズがどのように出現したのかという風景がここには書かれていると感じた。しかしそれはマスコミなどが暴き立てるような騒々しいものではなく、あくまで一人の人生のある結末、終着点として静かに描写されている。
    そこで主人公と他の人々を分けているのは、(避妊具の差があれど)ただ運が良かっただけ、ということなのかも知れず、その人々を見る主人公は、そこに自分の姿を重ねている。そしてその視線を通じて、この小説を読むものもまた、自分の姿をそこに重ねることになる。

    この小説に描かれているセクシャル・マイノリティたちの姿もまた、(やや登場人物にそういった人間の比率が高すぎるようにも感じるけれど)、他の場所でなされるようなスキャンダラスなものでは無く、自分にありえたかも知れない生の形だと、静かにさしだされている。

    著者の他の作品や、作中で紹介された作品も読んでみたいと思った。
    (それにしても、最近はLGBT「Q」と書く、というのは初めて知った。どれくらい一般的なのだろうか)

  • 上巻は手探りで読んでいたのだが後半からだんだんと物語が展開していき、続きが気になる!というタイミングで下巻につづく。
    やおいからは遠く離れており、トップとボトムが攻めと受けいう意味に気がつくのに時間がかかった。あと、主人公の母親が行っていたプロンプターというのは舞台での立ち位置を決めたり役者が台詞を忘れたときに指南する役のことです。演出とはまた違う。

    両性愛者が、同性愛者とのコミュニティに受け入れられないという疎外感。かつての同級生で主人公と一緒に旅行に行き、その後はクリスマスカードだけのやりとりで会っていなかったアトキンスとの再会、そして病床のシーンは圧巻。あらためてアーヴィングは「きつい」シーンを描くのが凄い。感服である。
    この本は60年台から現代に至るまでのアメリカの歴史を描いている。同級生がベトナム戦争にとられ、ケネディが撃たれ、俳優のレーガンが大統領となり、同性愛者が病魔に冒され、なつかしい人々は年を取り、別れを告げ、それでもわたしたちは生きていく。人生はシェイクスピアになぞられ、人間関係は『ボヴァリー夫人』に重ねられる。

    エイズ患者とどう向き合うかというのは世界的に80年代における大きなテーマであったかと思うが、マイケル・カニンガムも『めぐりあう時間たち』や『この世の果ての家』でこのような80年代の空気を描いていたと思い出す。フランスだとまさにエイズの当事者になりながら書き続けたエルヴェ・ギベールの作品なども思い出される。

    もはやアーヴィングはもはやこの後に新作がでるかどうかもあやぶまれる歳になってしまった。この作品ではディッケンズ、シェイクスピア、フローベールの著作を読んでいないと作者が小説に仕込んだ意味が分かりにくいところがあるだろう。逆に、ある程度の読書の経験を前提としているのであれば、そういった読者を満足させる作品を書くことのできるアーヴィングに敬服する。同性婚は認められる社会になりつつある。そして何よりも、このような作品を受け止められるアメリカ社会に嫉妬する。

    主人公が両性愛者であるがゆえにある種のコミュニティには受け入れられないという疎外感を持ちながらも、それゆえに愛情と性愛だけの関係ではく、同性も異性にも対して強い友情で結びつく関係もあり、特に幼なじみのエレインの存在には救いがある。

    レッテルを貼らないで、自分を分類しないでという主張。こういった物語を必要としている人、興味深く読める人、日本に生きるセクシュアル・マイノリティの人々がこの本を手にとることがどのくらいあるのだろうか。願わくば、どうかこの作品がひとりでも多くの必要なひとの手に渡る機会がありますように。

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美しい図書館司書に恋をした少年は、ハンサムで冷酷なレスリング選手にも惹かれていた――。小さな田舎町に生まれ、バイセクシャルとしての自分を葛藤の後に受け入れた少年。やがて彼は、友人たちも、そして自らの父親も、それぞれに性の秘密を抱えていたことを知る――。ある多情な作家と彼が愛したセクシャル・マイノリティーたちの、半世紀にわたる性の物語。切なくあたたかな、欲望と秘密をめぐる傑作長篇。

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