神秘大通り (上)

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制作 : John Irving  小竹 由美子 
  • 新潮社 (2017年7月31日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (406ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105191177

神秘大通り (上)の感想・レビュー・書評

  • <上下二巻併せての評です>

    誰にでも人生の転機となった日というものがある。フワン・ディエゴにとって、それは十四歳のとき、父親代わりのリベラが運転していたトラックに過って足を轢かれた日だ。後輪に挟まっていた鶏の羽をとろうとしたところへ、サイドブレーキが引かれていないトラックがバックしてきた。足は潰れ、二時の方向に開いたままになった。障碍を背負って生きることにはなったが、それが自分の生きる方向を決めたことはまちがいなかった。彼は自分が行動するのでなく、他人の人生を観察し、彼らの人生を描く小説家になったのだ。

    メキシコのオアハカ。ゴミの山の麓に建つ小屋に、フワン・ディエゴは住んでいた。小屋はゴミの山のボスであるリベラがゴミの中から掘り出した廃材で建てられていた。用済みとなった本をゴミと呼んでは、本好きに叱られそうだが、読者の心に残ったものは、その人の中にいつまでも存在し続け、時にはその人を作る一部となる。だとすれば、本自体は捨てられることにより、他者の手に渡る。そして、次の読者もまた同じことをする。ゴミの山は、金属その他のリサイクル品に限らず、知識や情操を養う宝の山でもあるのだ。そういう意味では、文学や哲学、歴史書の埋まったゴミの山は、そこで育った作家にとっては創作の前線であり、補給路でもある。

    山の上からはゴミを焼く火から何本もの煙が空に上り、空にはハゲワシが舞い、地上では犬が吠える。犬の死体はハゲワシの餌食となり、最後はゴミと一緒に焼かれてしまう。時には人さえ焼かれてしまう。ゴミの山から金目の物を拾い集める少年たちはダンプ・キッドと呼ばれた。それが彼らの仕事だった。フワン・ディエゴはちがった。彼の漁るのは本だった。イエズス会の図書館が廃棄した他の宗派によるイエズス会批判の書であれ、小説、批評等の文学書であれ、彼はすべてを読んで、独学でスペイン語や英語を学び、自分の頭で考えることを学んだ。人は彼をダンプ・リーダーと呼んだ。

    彼には一つ年下の妹がいた。名前はルペ。グアダルーペの聖母からもらった名だ。喉に障碍を持つルペの話す言葉は兄をのぞいて誰にも理解できなかった。ルペは人の考えていることや、その人が負っている過去、時には未来まで読んで兄に話していたのだ。手に入るのは子ども向けの本ばかりではない。彼はそれを朗読して妹に聞かせる。大人も知らないことを語り合う二人の異様な兄妹はこうして育った。妹の言葉は他の誰にも理解できない。フワン・ディエゴは、人に聞かすことのできない悪口や都合の悪いことはわざと訳さない。二人のやり取りは傍にいても他人には分らないからだ。こうしてルペの言葉は予言や託宣のようなものとして人に伝わることとなった。

    ルペによれば、自分たちは奇跡なのだ。特に兄のフワン・ディエゴは。その奇跡を求めてか、何故か少年の周りには人が集まってきた。フワン・ディエゴに教育を与えたいと願うイエズス会修道士のペペ。足を轢かれた朝、アイオワから飛んできた神学生で、彼の教師となるはずのエドゥアルド・ボンショー。無神論者の整形外科医バルガス。良心的徴兵拒否者で体にキリスト磔刑図のタトゥーのあるグッド・グリンゴ(良きアメリカ人)。女性よりも美しいトランスヴェスタイト(異性装)の娼婦、フロール。彼らと巡り会うことで、フワン・ディエゴの人生は大きく動くことになる。

    それは、フワン・ディエゴを取り巻く人々にも言えた。彼らは一様に負い目を感じ、人生から逃げていた。バルガスは家族全員が乗る飛行機に酔いつぶれていて乗り遅れてしまった。その機が墜落し、全財産は彼が相続した。彼は自分が許せない。フィリピンの戦場で戦死した父のために良心的徴兵拒否者となるはずのグッド・グリンゴは、徴兵を逃れてきたメキシコで、メスカル酒と娼婦に溺れるメスカル・ヒッピーと... 続きを読む

  • 今年の「美しい装丁No1」だと思う。上下巻を並べて完成する絵柄、ターコイズブルーに金箔使い、物語中に出てくる動物たちのモチーフ。
    アーヴィングはいつも読む楽しみを与えてくれる。流行りの奇想やミニマリズムではなく、「ユニークな登場人物、奇想天外なエピソード豊富、ドラマチックな運命を辿るおもしろい長編小説」というクラシックな枠組みで小説を書いてくれる。私の大好きなスタイル。
    本書もそんなアーヴィング節が炸裂する。主人公は大きな&小さな災難にあい、彼が愛する人々は不運な目にあって次々に死んでしまい、謎めいた女性たちに愛され…読者に与えてくれる、切なくて愛おしい人生と死への思い。アーヴィングは老境にあるからか、いつも以上に死の色が濃いが、「驚きですらない」近しい死を描く。
    メルヴィルの白鯨、ホーソーンの非文字、ディケンズのデイヴィッド・コパーフィールド、ハーディのキャスタブリッジの町長、「小説を書くことについて、この4作品から学んだ以上の何を私は知る必要があっただろう?」フワン・ディエゴのこの言葉はアーヴィング自身のスタンスだろうと思う。

  • メキシカン文学者の人生を描くアメリカ小説。

    久しぶりだったので、いきなりアーヴィングワールドの洗礼を浴びました。
    主人公フワン・ディエゴの呼称がダンプ・キッド、少年、ダンプ・リーダーと最初の10ページ足らずで多岐にわたり、父親的存在のリベラもダンプ・ボス、エル・ヘフェなどと呼ばれることから、何が誰を指すかに神経を使いました。
    その上、聞きなれない地名と人名がごっちゃになってしまって、何度も読み返す羽目になりました。
    物語はアーヴィングらしく、現在と過去が入り混じりつつも核心に迫っていきそうな感じは衰えなしです。
    執筆はその前だと思いますがメキシコ大地震に言及するところがあったり、心臓病に関する示唆があったりと飽きさせませんね。
    下巻では過去の物語は妹やエドワードの死とサーカスでの生活と作家人るまでの話が出てくるのではないかと期待します。

  • とにかく装丁が美しい。
    うっとり。
    詳細は下巻で。

  • メキシコのゴミ捨て場で本を読みふける少年と人の心を読む妹、娼婦で掃除婦の母。やがて少年は作家となり約束を果たす旅に出る。現在進行の旅と少年時代の回想が入り乱れ、メキシコ、香港、マニラへ場所は移る。結末どうなるのだろう?‬

  • 過去と未来を行ったり来たり。
    ジャネット・ウィンターソン『ヴェネツィア幻視行』読みたい。

  • いつものアーブィング
    オチは
    下巻は飛ばし読み

  • メキシコ系アメリカ人作家として大成した主人公だが、幼いころはメキシコのゴミ捨て場で暮らすダンプキッズだった。
    心が読めるが会話のできない妹、心優しい女装趣味のゲイの娼婦、愛ゆえに堕落したアイオワ出身の司祭見習、旅先でつきまとう美貌の母娘、サーカス、犬、そして犬、犬。
    隅から隅までアーヴィング。
    装丁も美しいなあ。

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