偶然の音楽

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105217044

作品紹介・あらすじ

すべてを投げ出し、あてもなく彷徨った。傷だらけのギャンブラーに出会うまで-。現代アメリカ文学の旗手オースターの、エッセンスと魅力あふれる傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • オースター初読み。
    おぉ、なんという読後感。
    『白い犬とワルツを』の装画・塩田雅紀さんを追って、訳・柴田元幸さんということもあり、手にとってみましたが、アタリでした☆
    仕事も家族も捨てて、1日中車でひたすら走る生活、ポーカーで全財産を失い、住み込みで石を積み上げ壁を造る毎日…。主人公・ナッシュの置かれた境遇を自分に置き換えて想像してみるとき、果てしない不安と羨望の気持ちが生まれます。
    ポッツィの生き様や、フラワー&ストーンの莫大な財産、そして得体の知れない使用人マークス。
    それぞれに行く末が気になる人物ばかり。
    タイトルに絡んで、文中幾つも出てくる曲を聴きながら読みました。なかでもやはり「神秘な障壁」は印象的。
    車を走らせる疾走感と、巨石を積み上げる忍耐力、相反する気持ちを併せ持った読書でした。
    そして、突然音楽が鳴り止むかのようなエンディング。それはないよと思う一方で、鮮やかな結びだという気持ちも。読み手を翻弄する、素晴らしい作品だと思います。
    なんだかこちらも何かに試されている心持ちでした。
    機会があれば、オースター作品を手に取りたいと思います。次は3部作かな。

  • 私にとって初めてのオースター作品。当時名前も知らず古本屋で装丁とタイトルに惹かれて手に取った一冊だった。これが読んでみてびっくり、歯切れが良くて抑えが利いた独特の文体、決して語りすぎず、そのリズムでぐいぐい引き込まれていきました。すべてを投げうってサーブに乗ってアメリカ大陸を疾走する主人公、このまま突っ走るのかと思いきや突如動きの停止した不思議な世界に迷い込む。あり得ないようなストーリーなのにこのリアリティはなんだ!こんな話を書くアメリカ人がいたんだ、と関心しました。その後多くのオースター作品を読みましたが、これは今でも好きな一冊です。

  • 語られている内容に、ものすごい起伏があるとは感じられないのに(仕事やめて車でハイウェイ走り続けて、全財産を賭けでスって、ていうえらい展開なのに)引き込まれる運びのうまさ

    自分の人生を壊してしまいたい、という衝動にぶつかったときに、人はどうするか?という疾走
    読後に何も得た気はしないのに、かなりおもしろかった

  • 濃厚で惹き付けられた。でも、あーだこーだ先を勘ぐる癖がついちゃったのか、しっかり物語に集中できなかったような気がする。
    それぞれの出来事がシンボル化されていて、一つの神話みたい。
    神話だから、これはどこででも起きうるおはなし。

  • どこへも行けやしないのに、どこかに行きたくなる気持ち。

  • 賭け事が始まるまではそろそろとしか読み進められなかったけど、ゲームが終わってからはイッキ読み!あとがきに映画の話も紹介されていて、それが今週土曜日にキネカ大森で日本初公開される「ミュージック・オブ・チャンス」。ほぼ20年後に上映に至ったことを柴田さんはどう語るだろう。

  • 突然の大金によって、もともと持っていた虚無感が助長され、すべてを捨てて旅に出た男。
    途中、相棒と出会い、ポーカーの勝負に負けて奴隷みたいなことになったりするが。
    車で走ることに、それも危険なことを楽しんでしまうことに何かの狂気を感じるが、それも人生だ。
    なんか不思議な話だった。

  • 「まる一年のあいだ、彼はひたすら車を走らせ、アメリカじゅうを行ったり来たりしながら金がなくなるのを待った。こんな暮らしがここまで長く続くとは思っていなかったが、次々にいろんなことがあって、自分に何が起きているのかが見えてきたころには、もうそれを終わらせたいと思う地点を越えてしまっていた。十三か月目に入って三日目、ナッシュはジャックポットと名のる若者に出会った。(略)だから、彼はこの見知らぬ若者をひとつの猶予として見た。手遅れになる前に自分を何とかするための最後のチャンスとして捉えた。」(『偶然の音楽』書き出し)

    「結果的に、僕は破滅の一歩手前まで行った。持ち金は少しずつゼロに近づいていった。アパートも追い出され、路頭で暮らすことになった。もし、キティ・ウーという名の女の子がいなかったら、たぶん僕は餓死していただろう。その少し前にキティと出会ったのはほんの偶然からだったが、僕はやがてその偶然を一種の中継地点と考えるようになった。それを契機に、他人の心を通して自分を救う道が開けたのだ、と。」(『ムーン・パレス』書き出しの一部)

    一人の作家の近作と、その前作の冒頭を比較してみた。このあまりに酷似した書き出しは、どうだろう。一作の序文にも相当する書き出しをかくも似通ったスタイルで書き始めてしまう作家がかつていただろうか。使い回しのシチュエーションは、またしても遺産だ。思いがけず手にした金を消尽させるという衝動に身を任せた男が偶然の機会を巧みに捉えて、新しい世界を生き始めるというものだ。オースターの主人公は、動機がどうであれ、自分で始めたことを自分で始末をつけることができない。このまま放っておいたら僕は自滅してしまうよ。誰か来て、と手放しで助けを呼んでいる幼児のようだ。もし偶然の機会に恵まれなかったら、そこで身を滅ぼしてしまうことも受け容れるだろうが、話を続けるためには、救い主が現れるしかない。かくして毎回よく似た主題による変奏曲が繰りかえされることになる。

    同一主題による変奏に執している作家にいつも同じ主題じゃないか、という批判はばかげている。問題は主題にあるのではない。繰り返しの中にある差異にこそあるのだ。そういう意味では、前回のそれがヴィクトリア朝英国小説風であったとすれば、今回のそれはカフカ風不条理劇の趣きが漂う。

    父の遺産を手に入れたころには妻に逃げられ、一人娘は義兄の家に預けてしまっていた。今更連れて帰ることもできず、ナッシュは新車の赤いサーブを駆って、アメリカじゅうを放浪する。車を走らせている時だけは幸福でいられたのだ。ジャックはギャンブラーだった。金持ちのカモに招待されているが、手持ちの金を盗まれてしまったと悔やむ青年に、出資するから一口乗せろと提案するナッシュ。二人は、宝くじで当てた二人組みの金持ちの館に車で向かう。しかし、そこで二人が出会うことになるのは、博打の借金のかたとして、一万個の石で壁を作るという作業だった。

    ローレル&ハーディに喩えられる成金長者は、実に現実味を欠いた存在として描かれている。ハリウッド映画のセットじみた邸宅には、二人の趣味の部屋があり、ひとつには、製作途中の都市の模型があり、もう一部屋には有名人が一時使ったガラクタが所狭しと展示されていた。さらに庭の向こうにはアイルランドの城砦を崩して運んだ一万個の石の山が聳えていた。車まで賭けた勝負に負けた二人は、移動手段も資金もなくし、石壁造りで支払う契約を取り交わす。

    自分の権力が掌握する世界の縮図として創られつつある都市の模型には、そこで暮らす人間たちも配置されていた。ナッシュは、内緒で金持ち二人の人形を取り外し、ポケットに入れて持ち出すが、後でそのことを知ったジャックは異様に恐れる。ナッシュは人形を燃やすことで何の力もないことを分からそうとするのだが、それ以来、二人は姿を見せなくなる。

    五十日で完済されるはずだった借金は、必要経費が差引かれ、期日が来ても払い終わらない仕組みになっていた。石壁造りに自分なりの意味を見出していたナッシュとちがい、ジャックは耐えられず逃亡を企てる。契約が果たされるのを信じて苦役に耐えても、いつも何か障碍があらわれて、それを邪魔する。金網と鉄条網によって囲まれた閉鎖空間の中で、手押し車で石を運ぶしかない囚人のような毎日。傍には一日中、銃を持った監視人が見張っている。契約は果たして果たされる時が来るのだろうか。

    オースター作品には珍しく、謎解きも辻褄合わせも一切なし。解釈はご自由に、という決着のつけ方。たしかに、こういう終わり方もあるだろうとは思いつつ、いまひとつ納得いかない気分が残るのも事実。まるでしりとり遊びのように、いつも何かしら前作に出ていた人物や書物が再登場するのがきまりになっているオースターの作品。前作では『最後の物たちの 国で』のヒロイン、アンナ・ブルームの名が囁かれていたが、今回はクープラン作『奇妙(神秘)な障壁』の一曲が響いている。ナッシュの造った石壁を想像しながら聴いてみた。なかなか味わいある小品であった。

  • 単純作業のくだりがたまらんなあ

  • 買ってからかなり経ってからの、久しぶりのポール・オースター。淡々とドライな感じで進んでいくストーリーにはまり、あっという間に読み終えてしまった。ラストの締め方がかなり余韻が残るけど、何かの作品でポッツのその後が出てきそう。

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