- Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105217051
作品紹介・あらすじ
"ファントム・オブ・リバティ"、アメリカ各地で自由の女神像を爆破した男。彼はなにに憑かれ、なにを壊そうとしたのか。
感想・レビュー・書評
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死亡記事から始まる物語は、決して月並みなミステリー小説では無い。
語り手であるピーター・エアロンが、物語の主題であるベンジャミン・サックスについて、過去に知っていること、聞いたことを、事件が自分に近づいてきたときに備えて、急いでまとめたものといった、視点の固定がなされたうえで、物語が進む。
時代は1980年代。レーガン大統領が当選し「強いアメリカ」の時代、ピーターもベンも衰退するリベラル系の物書きで、社会からの疎外感と貧困の中、「民主主義の危機」と叫んでいるが、社会問題を主題とした物語では無い。
ピーターとベンの出会い、ベンの妻ファニーの苦悩とピーターとの不倫、芸術家マリア・ターナーのこと、パーティーでの墜落事故、森で起こった発砲事件
「普通」とは決して言い難いことの、論理的な説明ではなく、「愛情、疑心、贖罪、葛藤」といった「心」の変化と、実際に現れる「言葉」の微妙な誤差、その後の「行動」との因果が、怒涛の如く迫りくる。
自由の女神像と墜落
パーティーの夜の出来事とその結果は…
森の発砲事件とその結果は…
ピーターによれば「偶然の一つ一つの邂逅が、ベンの最期を必然とした」と…。
読み進めるにつれ、滔々と揺れて流れる心を味わう。
冷めた目で見れば、出てくる人はみんな「ウジウジして身勝手で面倒くさい人たち」です。
そこを楽しんで下さい。
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本のあらすじを読むとサスペンスや犯罪心理ものなかと思いき、よりもっとある人間の個性や、生き方というのがクローズアップ。語り部とその語られる人物両方の。
どちらかというと友情物語のような? -
冒頭に「事実と虚構を混ぜ合わせることを
許可してくれたソフィ・カルに感謝する。」とある。
また、「すべての現実の国家は腐敗している。」との
ラルフ・ウォルドー・エマソンの言葉も記されている。
爆死した友人の為に書き残そうとした物語。
そこに多くの人達の人生が絡む。
偶然なのか必然なのか?
事実なのか虚構なのか?
不在の真実を追い続ける無限ループ。 -
アメリカ各地で自由の女神像を爆破した男「ファントム・オブ・リバティ」。彼は何に絶望し、何を破壊しようとしたのか? 人生を、世界を変革することを夢見た男の物語
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失踪した友人が「ファントム・オブ・リバティ」として爆死を遂げた――新進作家から爆破犯へと変身した友人ベンジャミン・サックスについて、回想、伝聞を元に記録を紡ぐ作家ピーター。しかし彼が描くのは、サックスの人生をなぞる物語というより、ピーター自身を含むサックスを取り巻く人間たちの人生の輪が相互に絡み合う、一本ではなく複数の輪郭を持つ緻密で複雑な物語世界だ。様々な証言で綴られるサックスの物語は、最後まで何が真実で何が虚構か、女神像の爆破行為の理由は一体何だったのか、決定的な回答がないまま終わりを迎える。サックスの未完作品のタイトルでもある「リヴァイアサン」という表題は、ホッブスの著書のイメージが強いが、元はと言えば聖書に登場する怪物の名前でもある。あえて政治的な意味を持たせてのタイトルではなく、運命というには余りに乱暴な、偶然の繋がりやタイミングが起こす小さなきっかけが人生の輪と輪を結び合わせ、ほどき、思わぬ道筋へ押しやっていく、その止められない流れそのものに与えられたタイトルなのだろうと個人的には受け止めた。おそらくこの小説でオースターが描きたかったのは、回り続ける人生の輪の運動そのものであり、この複雑で美しい輪と輪の織り成す紋様には、明確なゴールは(そしてスタートも)必ずしも必要ではないということなのだろう。
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2010年8月13日購入
文庫で持っているような気もするが・・・
500円均一に魅せられて購入。 -
冒頭でいきなり男が爆死。かなりインパクトのある幕開けではじまる本書。爆死した男、ベンジャミン・サックスがなぜそこに至ったかという過程を、友人である「私」が語っていく、という物語です。「自由の女神」を爆破することに、日本人である私はあんまり意味を見出せないんだけど、アメリカ人にとっては、ナリョナリズムの象徴なのかなあ。まあ、とにかくベンジャミン・サックスにとって、女神の爆破は目的ではなく、たぶん、手段でもない。ストーリー的にはそんなに意味がないような気がする。自由の女神もベンジャミン・サックスの爆死も。「私」とベンジャミン・サックス、彼の妻をはじめとする女性たちの間の人間関係を緻密に描ききっている。さすがオースター。可哀想なベンジャミン・サックス。繊細すぎるのも考えものよね…とタヌキばばぁと噂される不遜な人格を持つワタシは思うのでした。絶対小説家にはなれない。
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「一人の男が爆死する」という何ともダイナミックな文でこの小説は始まり、その謎が徐々に明らかになっていく。人が如何にして行動へと向うか。友情や愛情の曖昧な境界線を人はどのように踏み越えていき、その過程で何を失ってしまうのか。自ら責任を感じた時の人の恐ろしさと面白さを惜しみなく教えてくれる一冊。