ガラスの街

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105217136

感想・レビュー・書評

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  • オースターの初期作品、ニューヨーク3部作を読んでみました。どれも面白い作品ですが、とくに印象的だったのが本作。
      詩人として活動していた35歳のダニエル・クイン。かつては妻をもち、幼い息子の父でもあった彼は、ある日最愛の2人をこの世から失います。そのころから、クインは身を隠すようにひっそりと生き、ウイリアム・ウィルソンという覆面作家として探偵小説を細々と執筆。そんなある日の夜、彼のもとに、ポール・オースターという名の私立探偵に助けを求める奇怪な電話が架かります……。

    「ニューヨークは尽きることのない空間、無限の歩みから成る一個の迷路だった。どれだけ遠くまで歩いても、どれだけ街並や通りを詳しく知るようになっても、彼はつねに迷子になったような思いに囚われた。街の中で迷子になったというだけではなく、自分の中でも迷子になったような思いがしたのである。散歩にいくたび、あたかも自分自身を置いていくような気分になった」

    そういえば、人で溢れかえる街を歩いていると、ときどき誰からも干渉されない心地よい空間に入ったようで開放感を覚えます。それと同時に、ふと自分が目の前から忽然と消えてしまっても誰も気づかないのでは? 現実感を失い、まるで透明人間のようになっていくようなふわふわとした群衆の中の孤独を覚えます。果たしてこんな奇妙な感覚は私だけかな?
     
    この作品のプロットは凝っていて、シデ・ハメーテという第1作家の書いた「ドン・キホーテ」を、第2作家の作中セルバンテスが編集して「語り手」となった、あの壮大なメタフィクション小説、「ドン・キホーテ」にインスパイアされた作品のようです。
    しかも「ガラスの街」では、いろんな顔のオースターが登場しますが、どれもがオースターであって同時にオースターではない、他者性と虚構のメタフィクション。それはまるで街中の幾重にも映りこんだガラスに浮かぶ自分と、自分ではない男のよう……。

    ディテールのこだわりもあって、探偵小説「仕立て」で書かれているのですが、決して探偵小説ではないということがすぐにわかります。しかも読み始めてしばらくすると、私の脳内はそわそわと落ち着かなくなってきて、さらに読み進めていくうちにフォーカスしていく男の顔が浮かび上がると、もう久しぶりの邂逅に思わず安堵の吐息がもれました。「存在」を探し求める永遠の異邦人フランツ・カフカ。オースターを読みながら、カフカ作品群を思い浮かべているうちに、ふっと、奇しくも2人は遥か遠いルーツを同じくする作家だと気づいたのでした。

    でもオースターの作品は、決してカフカのそれのように難解ではありません。隠れている人間の潜在記憶を喚起させることのできるオースターの詩人としての才気、それを美しい文章にすることができるストーリーテラー、いとも軽やかに私たちを物語の世界に誘ってくれます。ほんと、さすがですね♪

  •  物語の舞台はニューヨーク。間違い電話をきっかけに、ポール・オースターという私立探偵になりすまし事件を解決することになったクイン。スティルマンを尾行し、スティルマン家を監視し続けた末、クインという一人の男はニューヨークの闇に消えてしまう。探偵小説(と一般的に論じられている、でも純文学のように感じた)でありながら、事実は明らかにならないし、探偵は何も解決しない。とても不思議な読後感だ。
     この物語は、消えた男の手記(赤いノート)に沿って第三者が綴ったものであり、その記録の正しさを証明する手立ては一切ない。全て創作かもしれないし、クインという男が存在したかも定かではない。
     記憶って、水面に映った景色のようにゆらゆらしたもんなんやなあ。自分の存在って、客観的で社会的な証拠がないと証明できないんやなあ。こんな不思議な話もニューヨークならさもありなんと思ってしまうほど、舞台として他には考えられない。そして、ポール・オースターの表現力と柴田元幸氏の巧みな訳文(むっちゃ読みやすかった!)が、一層ニューヨークの闇を感じさせてくれる。装丁もとってもすてき。

     残念だったのが、物語の肝となりそうなバベルの塔やコロンブスの卵、ドン・キホーテに関する知識を私が持ち合わせていなかったこと。このあたりに造詣が深ければ、著者の意図にもっと寄り添えたのだろうか。

  • 謎の電話によって探偵業を引き受けた作家が、仕事にのめりこむあまり、自分をなくし、消えて行く物語。

    ロジカルな説明はないし、意外な展開だけど、ふんふん読まされてしまうのはさすが。
    むかーし読んだのの新訳だけど、こんな話だったんだな。

    途中、ドン・キホーテをひいたり、ことばと事物のずれみたいな話が出てきて、哲学っぽい。それが、たぶん話の鍵になっている。

    でも、謎の依頼人夫婦はどこいったんだろう。

  • 私は職業探偵が出てくる本が大好物なので、基本的に萌えながら読みました。探偵萌え。別に謎とかはどうでもいいけど探偵が好き。
    神の言葉、バベルの塔、迷路みたいなNY、探偵、探偵小説、小説。おもしろい。そしてなんか悲しい。訳者あとがきを読んで、また悲しくなった。でも小説だから、いいんだろう。

  • 柴田元幸氏の再翻訳版。
    探偵小説の枠組みを使って書かれた、
    ポストモダンで透明感のある迷宮に迷い込む。
    自己の存在の不確実性、不条理、喪失感を描いたメタな作品。
    イイ作品、イイ作家である。

  • 図書館の本

    内容(「BOOK」データベースより)
    ニューヨークが、静かに、語り始める―オースターが一躍脚光を浴びることになった小説第一作。

    ああ、こうなるのか、という展開。
    これは目からうろこでした。とてもおもしろかった。
    このポール・オースターは続けて読んでみたくなりました。

    新しい言語ね。すごいなぁ。
    そして人体実験。
    それが探偵を介した物語になるんだなぁ。おもしろい。

    ニューヨーク3部作続けてよみたいと思います。

    City of glass by Paul Auster

  • ほぼ完璧なんじゃないかと思える小説。足りない部分もないし、余計な部分もない。ニューヨークの地理について詳しければより楽しめるのだろうけど。
    別の訳者の翻訳を初めて読んだのは15年以上前だと思う。
    言語についての哲学的考察が楽しい。

  • ニューヨークという大都会の孤独感、自分が自分であることの危うさ、物が物として機能することの意味、そしてすべてを覆い尽くす喪失感。
    最後まで判らないところがいっぱいあった物語でしたがとても素敵な小説でした。
    文章の素晴らしさこれは訳者の力が大きいんでしょうか?
    「シティオブグラス」と読み比べてみたくなりました。

  • もうすでに内容が曖昧だから思い出したら…

  • ▼「街の句読点と化した」という日本語は実にいいなあ。格好いい。
    ▼好きだなあ。ポール・オースター。何が好きってことかわかんないんだけど、文章がいいのかな。ビビットがある。あと、ひとつの不可思議な謎が、ずっと同じ味を保ったまま、長いこと続く。
    ▼「さらにまた、恐れずに言うなら――どこでもいい、この世界の外であるなら」。
    ▼読了。いい気分。とにかく面白かった……謎は解けなかったけど、それがあるべき形だと思った。
    ▼言葉の意味が移り変わる、意味をなさなくなる、不透明になると、一番に戻ってくるのは五感に支配された世界なのかなあ、と思った。(09/12/21 読了)

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