闇の中の男

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制作 : Paul Auster  柴田 元幸 
  • 新潮社 (2014年5月30日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105217174

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闇の中の男の感想・レビュー・書評

  • 随分久しぶりにポール・オースターを読む。話の組み立て方が相変わらず凝っている。物事の中で物語が展開するお馴染みのパターン。しかもそれは単なる入れ子の構造ではなく、物語が進むにつれ輪郭が曖昧になり入れ子の中身が渾然一体となってゆく。さすがにオースターらしい。途中までわくわくとした気分で高揚しながら頁を繰っている自分を意識する。

    しかし、途中から雰囲気が変わる。徐々に作中の人物に語らせる言葉に意図的な刺々しさを感じ始める。違和感が押し寄せる。剥き出しの感情、それも決して幸せな気分ではない。怒り。打ち降ろしようのない振り上げた拳。いらいらとした感情が登場人物の背後に蠢く。

    どろどろとした感情を小説に持ち込まないで欲しいとか、ポール・オースターらしくないとか言って拒絶するつもりはない。しかし、この焦燥感と怒りの感情は双方向の遣り取りを生み出さない。一方的に言葉を発するものから受けとるものへ作用する。そして、それを受け止め損ねた読み手を置き去りにする。むしろその峻別を意図しているのか。そう勘ぐる程に言葉が鋭い。

    もちろん、これまでのオースターの作品とてニューヨーカー的リベラリズムが基調となっていたし、政治的な色で言えば青を志向していることは明らかであったけれど、個人的な主張を読み手に迫るようなことはなかったと思う。恐らく違和感の元はそんなところにある。オースターが揶揄する人物が「お前の旗を見せろ!」と迫ったことと同じことを、主旨は違うとはいえ迫つている。その矛先の鋭さが、ことの良し悪し以前に拒む気持ちを駆り立てる。

    中盤までの複線化した物語は、結局何処へも辿り着かない。それはオースターの小説によくある二疋の蛇が互いの尾を食らって徐々にその輪を小さくしていく展開と見えるのに。その先に待ち構える空白を巧みに描いて見せてくれるのがオースターの魅力であると思うのだが、この本の中に仕組まれた二重三重のからくりは、まるでメビウスの環のように思わず魅せられてしまう程であるのに、途中で打ち捨てられたままとなる。そんな消化不良も手伝って久しぶりのオースターにやや呆然とした気持ちになる。

    作家自身の心の闇。9.11以降のニューヨーカーのPSTD。どうしてもそんなようなことを考えてしまうけれど、何かを力ずくで取り除こうとすれば、それは新たな心の闇を生む。為すべきことは、ひょっとしたら沈黙なのかも知れない。口を禁んでいれば、少なくとも誰かを傷つけることはない。消極的な自殺願望。そんな思いの狭間で、オースターは答えを保留する。その態度に唯一救いを見る。

  • 語り手の老人ブリルを中心にその家族構成が少し複雑なので、多少わかりずらい。更に、ブリルは自分自身にブリックが主人公の物語を語っており、それが全体に含まれている。

    ブリックは朝目覚めるとパラレルワールドのような場所にいる。それはFalloutのゲームが始まる前の、核攻撃以前の内戦状態のような世界だ。ブリックは、その悲惨な世界や運命をもたらした当の本人、ブリルを殺す役目を負わされるわけだが、結局果たせずに殺されてしまうのは、まあ妥当なんだろうが、残念と言えば残念。

    オースターにはこういう、物語を語ることそれ自体に対して言及する姿勢がある。読者は、ブリックはブリルを殺すだろうと期待する。ところが、あっけなくブリックは殺されて、おそらく本来語るべきブリルの話に戻っていく(これは献辞からみて妥当だろう)。

    そして、そもそもブリックの物語は、おそらく死んだタイタスに関係し、それは最近のテロリストとの戦争にも絡んでいるのだと最終的にわかる。もしかしたら、タイタスはオースターの「ガラスの街」で描いたクインに類していて、文学への希望も愛も(カーチャとは戦争に行く前に別れていたという)失って、そこにもしテロリストとの戦争があったらこうなるかもしれないという投影なのかもしれない。

  • 戦争は誰かの頭の中だけで作られているのか?

    それともこの戦いは、時の政府に対する反旗なのか?

    自分が抱える闇を消すために自分が殺される物語を作る…

    あちら側とこちら側を行ったり来たりしながらの物語は突然だけど、不自然さはあまり感じない

    感じたのは小さなつながりの中で育まれる小さな希望

  • 老いた男が眠れぬ夜を過ごす為に頭の中で物語を作り出す。物語の世界と現実の境は交錯しはっきりとしない。その世界は起こりうるかもしれない殺伐としたアメリカの未来だ。一方で老いた男は心に深く傷を負った孫娘に、亡くなった妻について語る。夫婦の歩みは山あり谷ありだが、そこには長年生きてきたからこその確かなものがある。現在を生きる私たちには不安な未来しかないし、先の見えない闇の中にいるのかも。それでもラストは、少しでもより良く生きるよう努力はできるって感じさせてくれる。

  • Man in the Dark 闇の中の男、男と訳されているものの、Manは一般に人である。作中の老人のみならず、人間全てが纏う闇とは何なのか。作中に限れば戦争や、浮気、喪失感、夜が闇にあげられるだろう。しかしそれは全て突き詰めれば人間にとっての、世界にとっての自然natureである。死者も正者もみな闇の中。

  • 小津安二郎の東京物語が作中で語られる。泣ける。映画を観たくなる。

  • 9.11をテーマとして2008年に出版された本の翻訳が今年とは、柴田さんが忙しいのだろうが、時間差がありすぎる。小津の「東京物語」の見事な論評があるあたりも、日本の読者にうけるだろうに、若手の翻訳者に任せてスピードアップしてはどうだろう。
    暴力的な社会の現実に病み疲れた人たちが眠れぬ夜に紡ぐ物語のさらなる暴力性、しかしラストには暖かな希望が。オースターらしい巧みなストーリーテリング。

  • 村上春樹さんのオススメ本です。
    とても楽しめました。

  • 3.11がなかったニューヨークの物語。あの事件は作家の創作活動にも大きな影響を与えたのだな。

  • 世の中はどうにもならないから、思うことしかできない。東京物語の台詞のように。いやねえ、世の中って。わしはあんたに幸せになってほしいんじゃ。

  • 作中作をあらすじというか、売り文句にするのは若干詐欺である気が否めないけれど、まあ、よしとしよう。
    内容に関しては、訳者が良いのかとても文章が読みやすく、そのせいで却って内容を余り覚えていない…。要再読。

  • 昔読んでいるのはすっかり忘れており、久しぶりのポールオースター。ものすごくインテリなんだろうな。この人。
    村上春樹がどうしても浮かんでしまいました。

  • 一気に読み終わってしまった。
    設定を理解したうえで、あらためて読んでみたい。

  • この場所はどこだろう、その角を曲がるとカートを押しながらさまようアンナがいるかもしれない闇の世界。311以降のアメリカ、ニューヨーク、あったかもしれない、五分後の世界。
    主人公の男は伴侶をなくし、その娘もさらに孫娘も共にパートナーは不在である。老人の物語のようでいて、そこで語られる小説のはざま、唐突に小津安二郎の映画『東京物語』の描写が出現する。妻を亡くした男が、亡くなった息子の嫁である義理の娘に再婚しろと勧めるシーン。

    そういえば、数年前に新宿の紀伊國屋ホールで、翻訳者の柴田元幸氏がムックMonkeyのポール・オースター号を記念して講演会を行った時、未だこの『闇の中の男』は翻訳中で、柴田氏は本を紹介しつつ、このオースターの本の中に描かれる映画『東京物語』のシーンを朗読したのだった。たしか映画のシーンもその場でスライドで上映され補足された。

    20世紀に人間が戦争によって引き起こした残酷なエピソードの数々が人生のささやかな一場面に過ぎないかのように語られる。(エウロペアナのように。しかしそれは確かに名前を持った人間の過去だ。)物語の中に入れ子に小説が存在するように見せかけて、それらがなぜ生成されているのかということは主人公の家族の過去が語られることで明らかになる。実際の戦地に赴かずとも間接的にアメリカ国民の家族と生活に傷跡を残した遠い国での戦争、それによって引きおこされる悲劇、それを映像で目の当たりにすることの現実。今に生きる人間はそれを受けいれることができるのか、果たしてその努力によって、わたしたちは、この「けったいな世界」を生きながらえることができるのか。

  • 勿論、この作品の白眉は「主人公オーガスト・ブリルの紡ぐ、ジョルダーノ・ブルーノ的多次元世界としてのメタ話中話」ではなくて「孫娘カーチャへ亡き妻ソーニャとの日々を語る眠れない未明」だとう思う。殊に、孫娘の誕生を機に二度目の同居をソーニャが決意する下りは伴侶持ちには感動的ですらある☆でも個人的には、話中話の主人公、手品師ブリック・オーエンとアルゼンチン妻フローラの話はスピンオフしてほしい。

  • 柴田元幸さんのおかげで、
    ポール・オースターの作品を次々と読めることに感謝します。

  • 痛ましい記憶を抱える老人が、毎夜、眠れぬままに、頭の中で物語を紡ぎ出す。その物語と、老人自身の人生が交錯し…。
    老人とその家族の物語、そして小説中で語られる物語が、入れ子のような構造になっているのは、オースター作品では毎度おなじみ。

    今回は、小説中の物語が途中でぷつっと途切れてしまって、小説の結末には絡まなくなってしまったのが、少し残念だった。それでも、老人の家族のストーリーが痛ましく、強烈な印象を残した。

  • ある文筆家が想像する物語と、その文筆家の人生の物語が不思議に交錯する小説。
    想像の物語は途中で途切れてしまうが奇妙な味わいが残る。
    悲しみの覆われた家族がゆっくりと再生の糸口を探っている様子がせつない。

    不可思議なエピソードを集めた本を出版しているポールオースターらしく、不思議な物語が作中にも登場して興味深かった。

  • 老いたからこそ、書ける作品なのか。前作の「写字室の旅」のように、作者が登場する作中作をとった、メタ的な実験作になっている。老いた作者を登場させることが、今のオースターのリアルなのだろう。ただ、作品自体は枯れておらず、作中作は911が起きていない一方、ブッシュがニューヨークを独立させた内乱状態にあるアメリカとなっており、また現実世界でもイラクへの派兵の傷跡があり、明快に怒っている作品だ。
    「このけったいな世界が転がっていく」このキーワードが、どうしょうなもない世界でもなんとか生きていこうとする姿を表している。

  • ある老人が、深夜の真っ暗闇の自室で物語を夢想するお話です。

    老人の家には、娘と孫娘も住んでいます。それぞれが大切なパートナーを失くし、孤独を抱え、夜眠れずに苦しんでいます。眠れない同居人の気配をお互いに感じながら夜が明けていくのをじっと堪えています。

    このお話は構成が凝っています。老人の回想シーンと夢想シーンが交錯しながら物語が展開していきます。

    失った人を思い出しては、呆然と立ちすくんだり自分を責めたりして苦しんでいます。それでも前を向かなければならないと気づいている彼らの姿が、読む人を切なくさせます。気づいていることに気づきたくない、と言えばいいのでしょうか。

    大切なパートナーに置いてけぼりにされても、息をしているからには、心臓が動いているからには、生きていかなければいけないのです。
    苦しいけれど、生きていくには、自分で自分を立ち直らせるしかないのです。

  • オースター「闇の中の男」http://www.shinchosha.co.jp/book/521717/ 読んだ。身近な人の死に深く傷ついている家族が慈しみ合い再生に苦しむ。孫の元恋人がテロ組織に惨殺されたYouTube映像を頭から追い出すために、毎夜頭の中で物語を作る主人公と自宅で映画を見続ける孫(つづく

    読後すぐは、あれオースターどうしたと思った、盛り込みすぎじゃないかと。でも本の帯(911のないもうひとつのアメリカ)に惑わされたんだな。出版社は反省して欲しい笑、全然違うでしょ。重大事件や事故について大きなことを語るのではなく、一家族という最小単位で描いたすばらしい小説(つづく

    米大統領選でのフロリダ州票の盗獲、911に続くイラク攻撃というブッシュ政権の一連の行動は米国知識層だけでなく他国の人たちの良心をも傷つけた。厄災に見舞われすぎのこの家族は世界中の傷ついた人たちの象徴。眠れぬ夜に孫が祖父の過去話を聞く後半は設定の妙。親子なら生々しすぎる(おわり

  • なんだろ。
    うーん、なんだろ。

  • ポール・オースターの作品は、だいたい読んでいるけれど、かなり珍しい作品のように感じた。たいていの彼の作品は、ストーリーが激しくかつ滑らかに展開するその流れに身を任せていれば、自然と読み終わってしまう、そうしたリーダビリティの高さがあった。一方、今回は「9.11がなかった世界」を、メタ小説的に2つの世界が交錯するという文学的技法を駆使しつつ描く一種の思考実験のような装いがあり、スムーズには読ませない。

    ただし、だから面白くない、ということは全くなく、むしろ、ゆっくりと読み進めるうちに、次第とその文学世界にはまっていく、そんな作品だった。
    9.11という災厄を1人の作家として真摯に受け入れ、感動的な「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」にような作品を生み出したからこそある作品という点で、オースターの作品を語る際に、重要なターニングポイントとなる作品のように思う。

  • 妻、娘、孫そして自分自身それぞれが痛みや傷を抱え生きている。そんな現実から逃れるように9.11が起きなかったアメリカの物語を夢想する主人公。絶望から救いを見出す家族の物語。小説内小説と地文の構造も巧妙。圧倒される読後感。傑作。

  • 環境の変化は確実に読書へ影響を及ぼす。祖父と孫娘の夜話にやられた。

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闇の中の男の作品紹介

ブルックリン在住のオースターが、9・11を、初めて、小説の大きな要素として描く、長編。ある男が目を覚ますとそこは9・11が起きなかった21世紀のアメリカ。代わりにアメリカ本土に内戦が起きている。闇の中に現れる物語が伝える真実。祖父と孫娘の間で語られる家族の秘密――9・11を思いがけない角度から照らし、全米各紙でオースターのベスト・ブック、年間のベスト・ブックと絶賛された、感動的長編。

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