アニルの亡霊

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制作 : Michael Ondaatje  小川 高義 
  • 新潮社 (2001年10月31日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105328030

アニルの亡霊の感想・レビュー・書評

  • 【再読】
    一回目→2001/10/
    二回目→2007/9/13
    三回目→2015/3/23

  • アジア、中東系の作家さんの文章はなんでこんなにも美しいんだろう。訳者さんの文章力もさながら、流れるような文体、細かい情景描写。。。スリランカでの隠された内戦という重いテーマながら、現地の風景が目に浮かぶ。結末に切なさを感じながらも、原書をぜひ読みたいと感じた。

  • 「「ユングは絶対に正しいことを一つ言った。われわれの思考は神にとらわれている。その神と同じ側に身を置いてしまうところに間違いがある」 これがどういう意味であるにせよ、何となく深みのある警告のように思われて、彼らは心に留めておいた。」-『鼠』
    記憶の断片は、前後をバラバラにして並べられたとしても、互いに触手のようなものを伸ばして繋がろうとするように見える。もちろん、記憶の断片自体が能動的にそのような因果関係を作り出そうとするはずもなく、その感覚は断片を受け取った側の人間の意識が自動機械のように作り出す感覚だ。人は全く関係のない二つの出来事の間に、ありもしない関係性を「発見」してしまう。そんなオートマトン的関係性構築の仕掛けを意識的に打ち壊そうとし、記憶の断片の間を錯綜する糸を断ち切ろうする作家がマイケル・オンダーチェだと思う。

    断片を脈絡もなく示しておいて、謎解きの遍路へ読者をぐいぐいと引っぱることもできるだろうに、と思う。しかし、少なくとも意図的にそういう一つの企まれた方向に読む者を追い込まない態度がオンダーチェにはあるように思う。それでも、自分の中のオートマトンはしつこく断片どうしを縫いつけようとする。これらの記憶の断片は一つのストーリーを綾なすものとして読むべきものなのか、それとも、人生には触手が半分伸び欠けたままに放り出された記憶の断片が、意味はどうあれ、あちらこちらに散らばっているのが自然であるのだとする作者の意図を汲み取るべきなのか。そのどちらとも読みかねる。その掴みどころのなさが、実はオンダーチェの魅力であるのかもしれない。

    例えば学術的文献を読む際に、よく警句としても言われることだが、技術論文のような論理性が必要以上に強調されている文章からでさえ、人は読みたいものしか読みとらない。それは決して意図的に読みとらないのではなく、読み取れない、というべき事実だ。そうしてみると、オンダーチェの小説から何を読み取る(あるいは読み解く)かは、結局のところあまり突き詰めて考えても仕方がないことなのかも知れない。作家の意図がどこにあるのかを問うことは、正しい問いではないのかも知れない。意図はどうあれ、それは読むものに委ねられてしまっていることなのだろう、と思うのだ。

    あるいはそれでよいのかも知れないと思いつつ、心の奥にある小さな引掛りにいちいち気を取られる。スリランカの強烈な自然と内戦下の非常さが、物語の展開いかんに係わらず、こちら側の脳の中に侵入しようとしてくるのを意識してしまうのだ。憤りはそこかしこに、ある。だからといって、何かが意図的に糾弾されているようではない。そして、その憤りを読み取ったとしても、問題の根源は一つの視点からだけでは決して見通すことができないことも同時に理解される。そうは思うのだけれど、それでも、オンダーチェがこの作品を通して、読むものにその憤りの存在を知らしめることを、やはり意図していたのではないかという思いが、打ち消してみてもしつこく湧き上がるのである。

    そして、てっきりカナダの作家であると思っていたオンダーチェが実は主人公の一人であるアニルと同様の過去を持つ人であると知るに至って、ますますその思いが強くなるのである。

  • 著者の故国スリランカを舞台に静かに語られる虐殺の記憶。語り口がすばらしいです。

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アニルの亡霊の作品紹介

内戦の深傷を負うスリランカで、生死を超えて手渡される叡智と尊厳-。オンダーチェ渾身の傑作長篇。

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