トマス・ピンチョン全小説 メイスン&ディクスン(上) (Thomas Pynchon Complete Collection)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (542ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105372026

作品紹介・あらすじ

世は植民地時代。領地紛争解決のため、天文学者チャールズ・メイスンと測量士にしてアマチュア天文学者のジェレマイア・ディクスンは大地に境界を引くべく新大陸に派遣される。後世にその名を残す境界線、すなわち、のちにアメリカを南部と北部に分けることとなるメイスン‐ディクスン線を引くために-。アメリカの誕生を告げる測量道中膝栗毛の始まり始まり。驚愕と茫然が織りなす、飛躍に満ちた文学の冒険。ノーベル文学賞候補常連の世界的作家の新たな代表作が、名翻訳家の手によりついに邦訳。

感想・レビュー・書評

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  • めちゃくちゃ苦労してようやく読了……しかしどれだけアタマにはいっているか……

  • 天文学者メイスンと測量士ディクスンの二人が織りなす珍道中は「東海道中膝栗毛」を思わせる。最愛の妻を亡くした鬱病気質のメイスンと陽気で社交的な田舎育ちのディクスンの遣り取りはまずまず。アメリカ上陸後、ベンジャミン・フランクリンが出てきたあたりから面白くなる。永久機関の時計を呑み込んだ男の腹の中で時を刻み続ける針の音に妻が耐えられず寝室を別にするという、いかにもピンチョンらしい高尚なのか阿呆なのか一目では判別のつかないエピソード(というかギャグ)は楽しめる。あとは機械仕掛けでありながら糞をする鴨に性的な興味を向けられたフランス人シェフの話も良い。でも、それ以外あんま楽しめなかった。『V.』や『ヴァインランド』のようなわくわくドキドキ感がないのだよなあ。下巻読まずに評するのはあれなんでこの辺でやめる。

  • 466/542頁くらいまで読んでやっとノリが分かってきた。いやいやくたびれた。最後の守護鴨は笑った。

  • 難解な小説で、犬が喋ったところを最後にほぼ何にも読めない。それでも情報量の多さみたいなところにピンチョンらしさは感じる。翻訳は漢字使い過ぎで暴走族の当て字みたいに見えちゃう。とりあえず近々下巻。

  • ピンチョン版[四千万歩の男]。妻を亡くしてから奇行が目立ち、毎週(金)に処刑場へ絞首刑見物に出かける変人天文学者メイスンと、身なりは軍服なれど猫背でしまりの悪い測量士ディクソン。金星観測チームで知り合った二人はその後、南北アメリカ境界線確定の測量に出る。牧師チェリコークが甥姪にその道中を語るのだ。軍港ポーツマスを出港する際、博学な犬や謎の女占い師と出会うなど史実虚実を織り交ぜた展開と、d(book)/bookを積分したらlogbookになるといった、ヒトを喰った小ネタが散りばめられている。金星観測が長い!

  • 第1回(2011年度)受賞作 海外編 第6位

  • メイスン&ディクスン。脚韻を踏んで調子のいい響き。ロミオ&ジュリエット、ジキル&ハイド、フラニー&ゾーイ。二人の名前の組み合わせを表題にした作品は数多ある。丸谷才一は『文学のレッスン』の中で、作品を評価する点における登場人物の魅力をもっと評価するべきだというようなことを言っていたが、人物の名前がタイトルになっているということだけ採りあげてみても、この作品の魅力が人物の創造にあることが分かるというもの。もっとも、この二人、実在の人物。メイスン=ディクスンと口に出せばその後には(線)ラインとくる。後に南北戦争で敵味方の領地を分かつことになる自由州と奴隷州を分断する境界線を引いたのがこの両名。今でもその境界線のことをメイスン=ディクスン・ラインと呼ぶのだそうだ。

    そのメイスンが書き残した日誌を下敷きにしながらも、史実がどれくらい残っていることやら。フランクリンやワシントンといった有名人から耶蘇(イエズス)会の密偵、王立協会の面々その他胡散臭い酒場の客まで数え上げたら切りのない野放図なまでに大量の登場人物。その中には人語をしゃべる英国博学犬や人間に恋する鋼鉄製機械仕掛けの鴨、果ては幽霊さえ出てくる始末。厖大な資料を駆使して、同時代の歴史的事件から天文気象の話題まで網羅しつつも脱線、逸脱の繰り返し。千一夜物語よろしく語り手の話す物語の中の登場人物が次の物語の話者になる入れ子構造になった小説で展開されるのは全くの法螺話、与太話、SF的な地底国探検譚、あっけにとられるほどの荒唐無稽な話をでっち上げた、これは二十世紀最後の稀書であるとともに、紛う事なき傑作。

    一つ一つのエピソードを煮詰め、それに相応しく手を入れたら綺想の短篇、手に汗にぎる冒険譚がそれこそいくらでもできるだろう。こんなに簡単に繰り出して見せてもいいのかと思うほど贅沢なネタ満載の文学ショー。前作『ヴァインランド』で、その語り口の巧さに舌を巻いたものだが、今回の作品は、構想の規模、想像力の奔放さ、表象の華麗さで、その上を行く。

    主題は勿論題名に象徴されているように奴隷制にある。黒人奴隷は言うに及ばず、米蕃(インディアン)対策に見られるアメリカの負の歴史。またアメリカ独立以前の英国その他植民地を持つ国家なら避けて通ることのできない人間の自由に対する迫害、圧迫の歴史。これほど超重量級の作品にしては珍しいほどストレートな主張が小気味よい。下巻最後の方で、ディクスンが奴隷商人に見舞うパンチに快哉を叫びたくなるのは盟友メイスンだけではあるまい。生硬になりがちな主題を、珍妙な道具立てと喜劇的な意匠で演じて見せたところに面目があると見た。

    弥次郎兵衛と喜多八、ボブ・ホープ&ビング・クロスビー、と洋の東西を問わず凸凹コンビ二人の珍道中を描いた物語が面白くないわけがない。王立天文台長助手のチャールズ・メイスンは、亡妻が忘れられない憂鬱気質の人物で、地味目の服に鬘を被った小太りの星見屋。それに対するダラムの田舎町の測量士で教友会(クエーカー)のジェレマイア・ディクソンは、派手な赤の軍服めいた服装に三角帽を被ったのっぽで酒と女好きの楽天家。ひょんなことからこの二人がコンビを組むことになり、王立協会の命でスマトラや聖ヘレナ、果ては新大陸まで観測、測量の旅に出る。

    二人の性格が対比的に構成されているのは無論のこと。行く先々で対立し、喧嘩しては仲直りしながら、やがてどちらも相手がいなくては自分が自分でいられないような仲になってゆく。小説の中では、次々に登場する奇矯な人物達の奇想天外な振る舞いに目を奪われがちだが、その蔭で、二人の人物像とその関係性がゆるゆると変容し成長を遂げていく。そのためにこそ、この長大な長さが必要だったのだ。小説の終わりが近づく頃には、この二人の好人物に寄せる読者の愛情は確かなものに育っているはず。

    翻訳は柴田元幸。大文字を多用した18世紀英語風の原文を黒岩涙香調の漢字にルビ振りという擬古文調で見事翻訳し果せている。頻出する漢字に閉口する向きもあろうかと思うが、慣れてくれば「費府」は、いつの間にかフィラデルフィアと読むし、「伊太利麺麭」はピザのことだな、と表意文字の解読に長けた日本人のこと、ルビなしでも読んでいる。それより、時代がかった言い回しで展開されるやりとりの中に浮かぶ今日的な笑いの妙味を味わっていただきたい。訳者渾身の訳業である。

  • 2013/2/22購入

  •  『トマス・ピンチョン全小説』第1回配本作品。<難解>と称されることの多い著者だが、本書の物語は単純明快だ。名もなき天文学者と測量技師が南北戦争前のアメリカ大陸を歩き、のちにメイスン-ディクスン線と呼ばれる長大な線を引く、その珍道中の一部始終が語られる。
     全編がユーモアで彩られながら、その実本書には重いテーマが沈殿している。だが、とりあえず我われにできるのは、そこ(小説内世界)に仕掛けられたマジックに酔い、次々に現れる無数の登場人物の言葉を追い、いつの間にか奪われていく現実との遠近感に別れを告げることだけだ。そうこうする内に、<もう1つの歴史>が目の前に立ち現れる。
     あふれる諧謔、頓智、直喩に隠喩に語呂あわせ。著者が<怪物>と呼ばれる理由が、イヤというほどわかる壮大な代表作。

  • 再読。

    いつの間にか発売延期になってた「重力の虹」の代わりに読み始めたら、意外といろいろ面白い発見あり。 ちょっと、こなれたピンチョン。

    とりあえず下巻へ。

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トマス・ピンチョンの作品

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