墜ちてゆく男

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105418052

作品紹介・あらすじ

2001年9月11日、世界貿易センタービルは崩壊する。窓外には落ちる人影。凍りつく時間。狂乱と混沌。愛人をつくり、ポーカーに明け暮れ、何かから逃走するように生きてきたエリート・ビジネスマン、キースはその壮絶なカタストロフを生き延びる。妻と息子の元に帰った彼は新しい生へと踏み出すかに見えたが-。現代アメリカ文学を代表する作家が初めて「あの日」とその後を描く。全米の注視を浴びながら刊行され、大きな話題を呼んだ「あの日」への返歌、新たなる代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 9.11のニューヨーク。タワーから墜ちてゆく人、事故後それまでの人生がかわっていった人、パフォーマンスとして建築物にぶら下がって墜ちてゆく人を演ずる人…色んな人の物語が細切れに描かれているのは、個々の物語を紡ぐことがこの時のニューヨーク(というかアメリカ)には必要だったのか?解説を読まないと自分には難しくてつながらなかったかも…

  •  小説ラストの、テロリストからキースへの意識の転換はすごいなと思った。またラストと冒頭がしっかりつながっており、冒頭で妻の前に現れたとき〈顔も服も血まみれ〉だったキースが誰の血をかぶっていたのか、タワーで何を目撃したのか、落ちる男は誰だったのかが最後の数ページで明かされていて全部がつながり、おもしろい。
     私小説のような形で同時多発テロを描いているので、〈個人〉に襲い掛かった9.11を丹念に追えて良かった。最後に上空からひらひらと落ちてくるシャツの描写が圧巻だった。キースの中に死者ラムジーが食いこんだ瞬間だと思う。

  • 訳者あとがきを読むと全体構成がわかるのだが、読書中は睡眠時遊行症に生ったかのような不思議な浮遊感に襲われる。9.11をテーマにした作品という予備知識はあったものの、デリーロ氏は酷く回りくどい抽象的な世界に読者を放り投げる。。しかしそこにあるのは小説世界ではなく現実世界。連関なく断片的に繰り広げられる会話、無意味なまでのディテール描写、それらの積上げがリアリティを生み、小説に同一化する感覚を与えている。

    ドン・デリーロ氏は毎年のノーベル賞候補。好みが分かれる小説であるが作家としての凄みが伝わってくる。

  • これまで、映像や文字のメディアで、9・11同時多発テロを扱った作品における米国市民の嘆き、悲しみ、怒りに多々触れてきましたが、その度に、その絶望に共感する一方、日本人である自分には彼らにどこか同化しきれない「距離感」を感じるのも正直なところでした。
    その「距離感」は、社会の歴史の違いからもたらされるものかもしれないし、宗教観の違いからくるものかもしれないし、単に「他所の国の出来事」であったからなのかもしれません。

    あの事件を直に体験し、事件を境に変わっていく一つの家族の物語を描いたこの小説を読んでも、やはりこれまで度々味わってきた「距離感」を覚えずにはいられませんでした。
    その一方で、矛盾する話ではありますが、彼ら米国市民が味わった絶望的な悲しみを、この小説を読むことで「擬似体験」できた気もする。
    けっして分かりやすい小説とは言えないけど、その分かりにくさの分だけ、そして、一つの家族に焦点が当てられているがゆえ、この「擬似体験」は可能になったように思えるのです。
    すぐれた小説であることは間違いないと思います。

    一点だけ、途中途中でテロリスト側のイスラム青年を描くパートが挟まれるのは、個人的には余計なもののように感じました。

  • 文学

  • 9.11が各個人にどのような変化をもたらしたかを、以前と以後を対照させながら描いていきます。あの出来事を小説家が描くとこうなるということに納得させられました。

    これだけの技量があると、あの出来事が各個人に変化をもたらしたのか、あの出来事が各個人の本性をあらわにしたのか、わからなくなります。冒頭と結末のつながり、そして結末での視点の転換など、現実の出来事を題材にしても、やはり小説として読み応えがあります。

  •  ビルから墜ちてゆく男、ブリーフケース、ビル・ロートン、パフォーマンスアーティスト、ポーカーゲーム、セッション、ドイツ過激派、記憶…。

    「ただ、あれは“以前”のことだし、今は“以後”なんだ」(p286)。

  • 9.11後のアメリカを真正面から描き切ったドン・デリーロの問題作。冒頭、テロに巻き込まれ訳がわからないままダウンタウンから避難する主人公の描写は、脳内にその映像が浮かんでくるほどリアルで生々しい。このとき主人公は思考が停止して何も考えられない状態に陥っているのだが、未曾有のテロに巻き込まれたときの人間の反応というのは実際こういう風なのだろうと思った。
    また、上岡氏の訳者解説にある通り、旅客機がツインタワーに突っ込む瞬間テロリストと主人公がクロスオーバーする描き方は鳥肌が立つほど巧い

  • 9.11を題材にしたことに興味を持ったが、出版は2009年、タイムリーではない読書。事件をパーソナルに捉えた物語でやや分かりにくいが、ツインタワーの描写は異様に生々しく、つい最近の出来事だったことを思わせる。

  • この本好きだー!彼と彼女というシンプルな主語の使い分けから、イメージが他の登場人へと広がっていく感じがしたし、日常を描くことによって、9・11のシーンが現実的に感じられたなぁ・・・。時間軸の描き方が柔軟なところも良かった!

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著者プロフィール

1936年、ニューヨークに生まれる。アメリカ合衆国を代表する小説家、劇作家の一人。1971年、『アメリカーナ』で小説家デビュー。代表作に、本書『ホワイトノイズ』(1985年)の他、『リブラ――時の秤』(1988年/邦訳=文藝春秋、1991年)、『マオⅡ』(1991年/邦訳=本の友社、2000年)、『アンダーワールド』(1997年/邦訳=新潮社、2002年)、『堕ちてゆく男』(2007年/邦訳=新潮社、2009年)、『ポイント・オメガ』(2010年/邦訳=水声社、2019年)、『ゼロ・K』(2016年)、『沈黙』(2020年/邦訳=水声社、2021年)などがある。

「2022年 『ホワイト・ノイズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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