贖罪

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制作 : Ian McEwan  小山 太一 
  • 新潮社 (2003年4月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105431013

贖罪の感想・レビュー・書評

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  • 読みながら、いつものマキューアンらしくない語り口に不思議な懐かしさを感じていた。まるで、一昔前のイギリス女流文学でも読んでいるような気がしてくるのだ。時は1935年の夏、舞台はロンドン郊外に建つネオゴシック風の屋敷。

    不在がちの夫に代わり一家を守るのは妻エミリ。それとケンブリッジ帰りのセシーリアと13歳になるブライオニーの姉妹。今日はロンドンで銀 行に勤めている兄のリーオンが友人を連れて帰省する日。ブライオニーは兄に見せようと叔母の離婚が原因で家に来ている従姉弟たちを使って自分の戯曲『アラ ベラの試練』を上演しようとするのだったが…。

    セシーリアと庭職人の子のロビーは幼馴染み。二人は互いに惹かれ合っていることにこの日まで気づかなかった。花瓶に水を汲もうとして取り合 ううち、誤って割ってしまうという行為を通して、二人はそのことに気づくが、妹がそれを盗み見ていたことから話がややこしくなる。作家を夢みる少女は、出 来事に別の意味を見出したのだ。姉を毒牙から守ろうと暗闇で従姉を襲った人影をロビーだと証言するブライオニー。

    「人間を不幸にするのは邪悪さや陰謀だけではなく、錯誤や誤解が不幸を生むこともあり、そして何よりも、他人も自分と同じくリアルであると いう単純な事実を理解しそこねるからこそ人間の不幸は生まれるのだ」というブライオニーの言葉通り、祝祭的な真夏の噴水の前での愛の情景から始まった物語 は、錯誤が誤解を生み、その連鎖が一つの家族を崩壊させ、恋人たちを引き裂くという悲劇的な結末を迎える。

    五年後、兵士となったロビーはダンケルクにいた。恋人の待つ故国に帰るためドイツ軍の爆撃の中を逃げ続けるロビーの視点で描かれる第 二部は極めてリアルな戦争小説になっている。第三部はブライオニーの視点で描かれる。かつての自分の行為を後悔し、戦下のロンドンで見習い看護婦として働 くブライオニー。ゆるしを求め、姉のもとに向かうのだが、果たして贖罪は果たされるのか。

    純粋な愛の物語としても、作家志望の少女が犯した罪の物語とも、或いは一人の作家が自分が作家として立つきっかけを作った事件を、一生懸け て書き直し続けた未完の小説とも読める。果たして少女を陵辱した真の犯人は誰だったのかというミステリーとして読むことも可能だろう。作者はその手がかり をはっきり残している。

    それだけではない。小説形式に意識的なマキューアンらしく、この作品、特に第一部はヴァージニア・ウルフへのオマージュとも思える仄めかし に満ちている。ケンブリッジで学位まで取りながらも、まともな学位授与式も女性にはないとセシーリアが不満をもらすところなど、いかにもと思わせるし、晩 餐の支度に花を探しに行くのは『ダロウェイ夫人』冒頭の引用だろう。食事の支度における使用人との確執、ロビーを襲うシェルショックもそうだ。

    これまで、巧いなあとは思いながら、読後に何か苦味のようなものを感じていたマキューアンの小説だが、その正体は自分の創り出す世界に対す る作家のアイロニカルな視線にある。確かに現代において小説の中で衒いなく「愛」を描くことはマキューアンならずとも難しいにちがいない。舞台を大戦前に 置いたことで、それが緩和され、居心地のいいものになっている。末尾に、「ロンドン、一九九九年」という一章が来る。それまでの安定した小説世界をひっく り返してしまうような仕掛けで、このあたり、やはりアイロニカルなのだが後味は悪くない。小説の名手イアン・マキューアンの代表作と言うべき作品である。

  • 大好きなマキューアンの中でも本当に大好きで大切な一冊。
    読んだ直後の感想を発見したので貼っておく。

    これ、すごい。これこそ文学。
    まだ3月だけど、今年一番印象に残る本になりそう。
    これ読んでまた初めての読書体験してしまいました。上巻読んでいるとき、あまりの怒りで電車の中の見ず知らずの人にいきなり殴りかかりそうになり。(本そのものや作者への怒りは白石一文で経験済みですが)本の内容というか出来事にこんなに怒りを掻き立てられるなんて驚きだよ。あまりに頭に血が上ったので、電車の中で日能研の問題を解いてみたりもした。その勢いで下巻も一気に読んじゃった。1時30分に帰ってきてすぐ読み出して3時30分まで一気読み。
    わたしは小説を書こうと試みたことはないけれど、小説を書きたいと思う人はこういうのが書きたいのではないかしら?文学を志しているなら読んだほうがいいと思う。

  •  田園の屋敷の心温まる光景がじわじわと破局に向けて進んでいく展開が心苦しい。幸福を目の前にして引き裂かれる恋人たちのその後には第二部と第三部で2度胸を打たれた。小説家が登場人物を物語の中で幸福にするのは、それしか方法がないからだ、というのがとても切ない。〈神が贖罪することがありえないのと同様、小説家にも贖罪はありえない――たとえ無神論者の小説家であっても〉という一節が読み終わったあとにじんと来る。

  • ひたむきな少女の狂気的な感情、若い男女の愛、戦争の生々しさなどを丁寧に描出しながら進む物語は、たいへん素晴らしく引き込まれた。

    ブライオニーは、自分のついた嘘に、大事な人たちの人生を壊してしまった罪に、時に自分に都合よくではあるが、一生をかけて向き合おうとする。
    小説を書くこととそれを読む楽しみ、そして決して償うことのできない罪の重さを考えさせられる。

  • 第一部は、読みづらかった。緻密な描写。細かすぎる心理描写。読んでいてこれは外れかと思ったくらい。
    でも、だんだん情景がわかってくると、戦前のイギリスの風景が見えてきます。
    そんな中、この本のテーマの元となる事件が発生します。
    第二部・第三部はうってかわって読みやすくなりました。
    読み進めると...まるでミステリですね。
    最後のどんでん返し。なるほどなるほど。贖罪も明確になります。
    最初のハードルは高いですが、お薦めできる本です。
    後の楽しみのため、しっかり読んでください。

  • あぁ、そういうひっくり返しなのか。

    最後の誕生日パーティーで、あの二人の登場を待っていたのは私だけではないはず。(泣)

    オースティンを再読したくなった。

  • 映画版が後味の悪い作品ベスト10なんかに入っているので、マキューアンは好きなのだけど手を出せずにいた。
    しかし読んでみたところ…いいじゃない?
    後味、悪くないじゃない?
    続いて映画も見たけれど結末は同じ。
    まあ、誰もが納得のハッピーエンドにはならないとわかった上で読んだせいもあるだろう、けれどそれ以上に、マキューアンだものこのくらいやってくれなきゃ!という爽快感があったのだ。
    「甘美なる作戦」がやや拍子抜けだったのだけど、今回は気持ちよく終われた。
    いや、確かに後味悪いと言えば悪いのだけど。
    マキューアンの魅力の一つには、陰湿さがあると思っている。
    美学のある陰湿さ。
    この作品ではのっけからそれが全開で、屋敷の説明からもう、嫁をいびる上流階級の姑みたい。
    そこから、その屋敷にいる人々が克明に、やはり陰湿に描かれる。
    物語を動かすのは末妹の嘘なのだけど、そこに辿り着くまでにかなりかかる。
    読み終えて振り返ると、その嘘とそれが呼んだ罪はこの屋敷の人々の象徴のようなもので、末妹だけでなく皆が贖うべき罪人だったのではと思った。
    結末には、小説家という職業も関わっていて興味深いのだけど、自己を正当化、美化するために記憶を改変することは誰でも多かれ少なかれやっていること。
    とすれば、結局誰もが償うべきものを償わないまま生きている、そう言われているように感じた。
    この厳しさもまた、マキューアンの魅力の一つだと私は思っている。

  • ある女性小説家の人生を通し、小説家のエゴと現実の相克が語られる。作品のトーンは暗く重い。

    主人公の頭の中にあった秩序と空想の心地よい世界は、その完成を見ることなく、猥雑な現実に冒されてしまう。しかし、主人公の空想こそが現実を冒そうとする我儘な欲望を秘めていることが露呈し、そこに悲劇が生じる。これが物語の発端である。

    主人公の空想が現実に生きる人間の生をかき回し、歪めてしまった。それでも、身勝手な欲望を抱えながら彼女は小説を書く。老年の彼女の、小説家というものは身勝手なものだという述懐ほど小説家(≒近代的人間)の業を照らし出すものはないだろう。

    本書は第一級の文学であり、同時にメタ文学なのだ。

  • 強烈な印象を残した文学作品です。あんなエンディングとは。。読後いろいろと考えさせられます。私のお勧め文学の一つになりました。

  • 映画を先に見たが

    はるかに奥深い。

    ずっしりと読後感がある。

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贖罪の作品紹介

1935年夏、13歳の少女ブライオニー・タリスは休暇で帰省してくる兄とその友人を自作の劇で迎えるべく、奮闘努力を続けていた。娘の姿を微笑ましく見守る母、一定の距離を取ろうとする姉セシーリア、使用人の息子で姉の幼なじみのロビー・ターナー、そして両親の破局が原因でタリス家にやってきた従姉弟-15歳のローラ、9歳の双子ジャクスンとピエロ-らを巻き込みながら、準備は着々と進んでいるかに見えた。だが練習のさなか、窓辺からふと外を見やったブライオニーの目に飛び込んできたのは、白い裸身を晒す姉と、傍らに立つひとりの男の姿だった…。いくつかの誤解、取り返しのつかぬ事件、戦争と欺瞞。無垢な少女が狂わせてしまった生が、現代に至る無情な時間の流れの果てに、切なくももどかしい結末を呼ぶ。ブッカー賞最終候補。全米批評家協会賞受賞。

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