アムステルダム 新潮クレストブックス

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  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900090

作品紹介・あらすじ

ひとりの魅惑的な女性が死んだ。選ばれた男たちとの遍歴を重ねた途上で。元恋人の三人が葬儀に参列する。イギリスを代表する作曲家、辣腕の新聞編集長、強面の外務大臣。そして、生前の彼女が交際の最中に戯れに撮った一枚の写真が露見する。写真はやがて火種となり、彼らを奇妙な三角関係に追い込んでゆく。才能と出世と女に恵まれた者は、やがて身を滅ぼす、のか。98年度ブッカー賞受賞作品。

感想・レビュー・書評

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  • 再びイアン・マキューアン氏を発見した!
    私の大好きな作家だが、久しく彼の作品を読んでいなかった。たまたま手に取ってページを開いてるみると、これが面白い!
    アムステルダムは彼の作品を読み始めた頃の作品だ。この年になって再読すると、更に面白い。
    一人の女性の死からこの物語は始まる。名声も地位もある二人の元恋人が主人公だが、二人とも独善的で嫌な奴だ。そんな二人でも彼女がいたから彼らの関係は安定していたが、やがて二人は決裂し彼女の幻影と共に安楽死の名の殺人で死ぬ。喜劇。ブラックな苦笑いが浮かぶ喜劇。

  • イアン・マキューアンという名前のイギリスの作家が書いたイギリスが舞台の小説です。一人の死んだ女性と、その恋人だった3人の男性の関わり合いの物語です。

    最後のぎりぎりまで題名の「アムステルダム」の意味が分からずに読んでいました。イギリスなのになんでオランダの首都が題名なのか、気になりながら、物語の途中のそこここに、そのヒントは散りばめられていたのに、それに気付かずに読み進んでいた自分の浅読みを読後に思い知らされました。読んでいる途中は、そんなに面白いとは思わないというか、よくわからず読んでいたのですが、読み終わってああそうだったのかという感覚が、かえって快い読後感になりました。オランダってやっぱり異質な国なのですね、イギリス人にとっても。
    一筋縄ではいかない奥行きの深いイギリスの変態馬鹿男たちの立ち居振る舞いが、笑えると言えば笑えます。ビートルズにしても、英国王室にしても、多分似たり寄ったりの変態馬鹿男は跋扈しているはずです。私的には、他人事ではないとも言えなくもありません。一言でいえば変な小説です。いかにもイギリスです。お時間があればぜひご一読を。
    (自分のブログから転載)

  • ある意味平凡で善良な一市民の2人が、「特筆すべきも無いが非道徳な行い」によって足元を掬われ崩壊していく様を、徹底的に削ぎ落とされた文章で綴っていく。
    展開も着地点も読めないままに読み進めていくある種の緊張感は新鮮な読書体験だった。

    音楽家の仕事ぶりだけはやたら綿密に描写され、だからこその(笑ってしまいそうな)ラストの衝撃は圧巻だった。よく練られている。

    タイトルも含め機知に富んだブラックユーモア。
    好き。

  • ひとりの魅惑的な女性が死んだ。選ばれた男たちとの遍歴を重ねた途上で。元恋人の三人が葬儀に参列する。イギリスを代表する作曲家、辣腕の新聞編集長、強面の外務大臣。そして、生前の彼女が交際の最中に戯れに撮った一枚の写真が露見する。写真はやがて火種となり、彼らを奇妙な三角関係に追い込んでゆく。才能と出世と女に恵まれた者は、やがて身を滅ぼす、のか。98年度ブッカー賞受賞作品。
    原題:Amsterdam
    (1998年)

  • イアン・マキューアン作品。初。(贖罪は、積読中)
    「ああなるくらいなら自殺したはずだよ。」かつての恋人「モリー」の死に対するこの科白から始まる物語は、その言葉を自らが受けるように自殺(安楽死)させられることになる。
    モリーの死の原因におびえ、二人は「自分が”ああなった”場合、安楽死させてほしい」という約束を相互に結んだ。だが、”ああなる”状態は、いかようにも解釈できてしまった。1つの行為が、「彼の正義感」とも、「彼の狂気による乱心」とも。そして、後者の場合…。

    "自分が自分らしい自分であること"。これを他者に認めてもらうことができるのだろうか?「私のこの判断・意見は、自分の理性・感情から考えて間違っていない」ことを他者がそう考えてくれることは可能でしょうか? 見解の違いや意識の違いは、普段なら傷つけあうことがあっても、お互いを認めることができる。ただし、それは常であろうか? その”違い”を正確に判断できない場合、歪曲した場合、その人のその人らしさの否定にもつながるのではないか。ふと、そんなことを考えた。
    クライヴ:「降りてきた神」をつかみ損ねたのかもしれない。あるいは、手が届かなかったかもしれない。神が手を差し伸べなかったのかもしれない。それを知ったときは、原因を作るしか逃げ道はないのでしょうか。静かに降りるしかないのでしょうか。
    ヴァーノン:「本来公開しなかったもの」を、公開することによって、地位も仕事も失うことになった。どんな理由があれば、行為は正当化されるのだろうか。亡くなった彼女にとって。そして、非難したクライヴにとって。
    二人は、それぞれの社会・世界で、他者の生き方・考え方を尊重できなかったのかもしれない。理解できなかったのかもしれない。その違いを。だから、それを狂気とみなし、”ああなった”とみなし、…。
    ただ、生き残っていた場合、「ああなるくらいなら、…」、そんなことも思わせられる。

    印象的なフレーズは:
    ★いい論点ですな。しかし、実世界では正義のシステムも人間的な過ちをまぬかれないものでして
    ★友人たちの多くは適当と見た時には天才カードを出して、一部の人間にどんな迷惑をかけようとも結局は崇高な天職の厳しさに尊敬を増すことになるという信念のもとに、いろいろな会合をさぼっていた
    ★探していた音楽が、少なくともその音楽の形を知る鍵が聞こえたのだった。天の贈り物だった。
    ★ジャーナリズムはある点で科学に似ている。賢明なる反対論によっても葬られずに、かえって力を得るようなアイデアこそ最上であるという点で。
    ★自分は疲れ、才能をしぼりとられ、年老いてしまった。
    ★ベルが鳴って、それから沈黙。去っていった。一瞬、あのかすかなアイディアは失われた。

  •  “それぞれの過ちに―”

     ロンドン社交界の花形モリーが亡くなった。痴呆状態で迎えた哀れな最期だった。夫のいる身で奔放な性生活をおくった彼女の葬儀には、三人の元恋人たちも参列。やがて彼らは、モリーが遺したスキャンダラスな写真のために過酷な運命に巻き込まれてゆく。


     「悲しみだけのメロディーではなかった」クライヴ

     英国を代表する作曲家。道徳性を重んじ、故人の意思を尊重しようとする彼は、見つかった写真が世間の目に触れないよう事を運ぼうとする。彼の思う、モリーが本当に望んだこととは一体何なのか。

     「癌の万能薬というのは意味をなさない」ヴァーノン

     辣腕の新聞編集長。厳格で仕事第一の彼にとっては、今回の事件は他に類を見ない特ダネ。周囲の意見を押しのけ、是が非でも写真を手に入れようとする中で、彼は旧友のクライヴとも対立を余儀なくされていく。

     「われわれ全員がだまされていたんだ」ガーモニー

     強面の外務大臣。次期首相候補であり、政権交代を間近に控えた彼は、自らの保身のためなんとあっても醜聞は避けなければならない。あらゆる権力を行使して写真の存在を葬ろうと画策するが。

     イギリス文学の奇才、イアン・マキューアンによる洗練の極みの長編。一歩でも間違えば身を滅ぼす細い綱の上、果たして最後に笑うのは誰なのか。98年ブッカー賞受賞作。


     そんなお話。

  • テンポよく読み進められる物語。言葉が流れるように出てくる。

  • この作品の3年後に作者が発表した『贖罪』を読んだとき、「これはすごいものを読んだぞ」という気持ちになったし、すぐ前に書いた『愛の続き』では「じっと黙って理解したい」という気持ちになった。

    今作には『贖罪』のような骨太な読書体験はないし、『愛の続き』のようなピリピリしたスリルもない。
    あるのは「華やかでいて、その実空虚な都会の成功者たち」という類型的で平凡なテーマ。破滅の予感まで既知のものとして描くこの世俗にまみれたストーリーが、けれども、読んでいるうちにどんどん質量を持ってこちらに迫る。

    つまらない自己保身、実のないやり取り、おべっかや当てこすり、取るに足らない憂鬱、無意識の正当化、自己欺瞞。
    それと同時に描かれる、一瞬の美の訪れ、この世界は信用に足るものだという喜び、完全なものへの憧れ、計算も保身もない、心からの愛情。
    マキューアンが淀みない筆致で描く、ドロリとして身動きのできない世界の感触も、愚かしいほど純粋に「善いもの・正しいもの」を乞い求めるその姿も、どちらもよく親しみ、嫌悪してきた感情。

    シニカルで軽妙で、ふっと笑った後に溜息をつきたくなる小説。
    社会的成功も、気の置けない友人も、充実した人生も、すべては薄氷の上で成り立っていて、割れた氷の下には薄汚れた世界しか広がっていないとしたら、いったい何に依って生きていけばいいんだろう。

  • 新潮クレスト・ブックスは、サイト(http://www.shinchosha.co.jp/crest/)でチェックしてみると、なかなかそそられる本ばかりで、魅力的。
    あと、ソフトカバーなので、普通の単行本(ハードカバー)より小さめで軽くて、通勤読書族としてはありがたい。

    ある女性の葬儀で、元恋人の二人の男性が彼女の死を悼み、静かに悲しみを分け合っていた。一人は作曲家のクライヴ。もう一人は大衆紙の編集長ヴァーノン。
    そして、葬儀にはもう一人の元恋人、外務大臣のガーモニーもいた。
    社会的にも地位を確立した3人の男たち。
    一人の女性の死をきっかけにして、それぞれの人生が奇妙な回転を始める。

    いつの間にかひきこまれている、というタイプの話で、話自体も大人向けの雰囲気。
    サスペンスと言えるんだけど、こてこてのサスペンスでないところが好ましい。
    大人の男の見栄とか、言い訳とか、欲とかが、なんだかリアルで、生々しいんだけど、文章は抑制がきいていてさらりとしている、そのバランスが絶妙。

  • Amazon.co.jp

    プレイガールでならしたモリー・レインが、謎の退行性の病気がもとで40代にして亡くなり、集まった多くの友人や恋人たちは自分もやがて死ぬ運命であることを自覚する。高級紙「ジャッジ」の編集長ヴァーノン・ハリデイは、有名にして放埓(ほうらつ)な作曲家クライヴ・リンリーを説得し、安楽死協定を結ぶ。万が一彼ら2人のうちどちらかがモリーのような病にかかったときには、もう1人が死なせてやる約束である。この先、読者は『Amsterdam』(邦題『アムステルダム』)の結末はどうなるか―― 要するに誰が誰を殺すかという問題―― を考えながら読み進むことになる。 やがてモリーの恋人のなかでも最も有名な男、外務大臣ジュリアン・ガーモニーのスキャンダラスな写真が新聞社の手に渡り、さまざまな憶測のなかでガーモニーには罷免の危機が迫る。しかしこの後がマキューアンらしいところで、どちらかといえば不愉快な印象を与えるキャラクターのガーモニーが勝利を収める展開も不思議ではない。 イアン・マキューアンは卓越した小説の技巧の持ち主で、この作品は賞を総なめにしてもおかしくない。しかも、登場人物は次から次へとめぐらされる策略のなかで、妙に無機的な雰囲気を漂わせ続ける。

    メタローグ
    新潮社から刊行されるクレスト・シリーズで最も人気ある本作は、98年度のブッカー賞にも輝いた。冒頭のシーンは、モリーという恋多き女性の葬儀。そこに参列する彼女と恋仲だった、新聞の編集者ヴァーモンと作曲家クライヴの間に、いつしか男の友情が生まれ、お互いの運命を支配する奇妙な約束を取り交わすようになる。政治家のセックス・スキャンダルや、マス・メディアの行き過ぎた報道など現実社会の歪みと人間のエゴを浮き彫りにし、名作『黒い犬』などで見せた、辛口のユーモアと洗練された文章が、特異な性格の登場人物たちの人生を見事に彩る。この前年にブッカー賞を取り損ねた、秀作『永久の愛』の翻訳化も待たれる。(新元良一)
    『ことし読む本いち押しガイド2000』 Copyright© メタローグ. All rights reserved.

    内容(「BOOK」データベースより)
    ひとりの魅惑的な女性が死んだ。選ばれた男たちとの遍歴を重ねた途上で。元恋人の三人が葬儀に参列する。イギリスを代表する作曲家、辣腕の新聞編集長、強面の外務大臣。そして、生前の彼女が交際の最中に戯れに撮った一枚の写真が露見する。写真はやがて火種となり、彼らを奇妙な三角関係に追い込んでゆく。才能と出世と女に恵まれた者は、やがて身を滅ぼす、のか。98年度ブッカー賞受賞作品。

    内容(「MARC」データベースより)
    一人の魅惑的な女性が死んだ。選ばれた男たちとの遍歴を重ねた途上で。元恋人の三人が葬儀に参列。だが、生前の彼女が撮った写真が元で、彼らは奇妙な三角関係へと追い込まれてゆく。ブッカー賞受賞作。〈ソフトカバー〉

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著者プロフィール

イアン・マキューアン1948年英国ハンプシャー生まれ。75年デビュー作『最初の恋、最後の儀式』でサマセット・モーム賞受賞後、現代イギリス文学を代表する小説家として不動の地位を保つ。『セメント・ガーデン』『イノセント』、『アムステルダム』『贖罪』『恋するアダム』等邦訳多数。

「2023年 『夢みるピーターの七つの冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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