停電の夜に (Shinchosha CREST BOOKS)

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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900199

作品紹介・あらすじ

ロウソクの灯されたキッチンで、停電の夜ごと、秘密を打ちあけあう若い夫婦。病院での通訳を本業とするタクシー運転手の、ささやかな「意訳」。ボストンとカルカッタ、はるかな二都を舞台に、遠近法どおりにはゆかないひとの心を、細密画さながらの筆致で描きだす。ピュリツァー賞、O・ヘンリー賞、PEN/ヘミングウェイ賞ほか独占。インド系新人作家の鮮烈なデビュー短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • インドにルーツを持つ人々のインドやアメリカでの暮らしを丁寧に描いた短編集。

    等身大の登場人物たちが織りなす、余韻が残る奥深い物語であった。
    大した出来事が起こるわけではないけれど、現実にはそういうことがほとんどである。そんな何気ない日常生活の中で胸の内にわきおこる名前のつけられない感情を見事に描き出している。異国が舞台ではあるけれど、とても身近に感じられる物語。

    私もこんな風に、日常生活で感じる喜びや悲しみを表現できるようになりたいと思った。

  • アメリカが舞台でも、インドが舞台でも、インド系移民が登場する話でも、ラヒリが自らと向き合っている姿が垣間見えるようだった。

    ピュリッツァー賞受賞のデビュー短篇集だが、既に、何作か書いてきているかのような熟練さを感じた。
    そう感じた理由は、物語の設定の目の付け所が、ささやかで、よくそんな所を、みたいな細やかさがあったからだ。

    そこに、ラヒリ自身の人生が反映されている様が加わっており、これだけ作家自身のパーソナリティーが小説に表れる方も、珍しいのではないかと思った。
    視点を変えれば、それだけ自らと真摯に相対していることにもなる。

    日常生活における、異国、移民、異文化間で起こる、悲喜こもごもな出来事。そして結末は、一見、やりきれない哀しさだけが残るようにも感じられるが、そこはラヒリの視点が素晴らしく、ちょっとしたシニカルさで切り抜けたり、おしゃれな喜劇になったり、母国の人がインド系移民の人に大切なことを教えられたりと、なるところに、ラヒリ独特のしたたかさを感じるのである。教えられる結末に関しては、ラヒリ自身の望みなのかもしれないと思うと、なんだか切なくなる。

  • ラヒリの作品を初めて読んだ。
    時間の流れ方が美しい。
    人の心の揺らぎの描写も独特で引き込まれた。
    それぞれインドがルーツでアメリカに暮らす筆者の背景もあるのだろうか。癖になりそう。

  • 内容が似てるとかではなく、ヤマシタトモコさんの漫画とか、関係性や雰囲気を描く小説や漫画を好む方はこれも好きなんじゃないかと思うほどの描き方……文化の違いや国際性を振りかざす小説ではない。小説や海外の作品をそもそもそんなにという方も短編集だし読んで欲しいよ……。

    幸せなだけでも悲しいだけでもない、心の揺れ動きやすれ違いや思い合う関係性を描写した繊細さと大胆さというか。
    表題作がいちばん好きだったかな……。以下、心に残った「ここをこういう風に描写するのか……」とセンスにうっとりしてしまったところを書いておきます。解釈が拙いのは気にせずに。
    表題作『停電の夜』では、かつての妻の作り置き料理(とても凝っていた)を消費し作らなくなった妻に代わって作ってみたりする夫、という描写で2人それぞれと、関係性や時間の変化を描くところ。実際の時間の経過より遥かな時が経ったような。そして停電とそこでの打ち明け話という非日常に対する向き合い方の2人の違い。ネタバレしたくないけど安易にしないところが好き。
    『ピルザダさんが食事に来たころ』は、ピルザダさんの描写が、その当時のわたしの幼い目線にきちんと合った印象しか語られないこと。もちろん多少の補足はあっても、ピルザダさんの真意が多く伝わってくるわけでもないし、始まりについても終わりについても感傷に浸りすぎてない。もらったお菓子、自分がコートをかけていたこと。その描写で語るところ。
    『病気の通訳』は、登場人物のかっこわるさ。仲の悪さ。極悪でもなく善でもないままならなさ。動物も子供も可愛く描かないところ。
    『本物の門番』と『ビビ・ハルダーの治療』は、どちらもメインになる人物がやっぱり決していかにも性格が良いタイプではないところ。こういう話を、性格の悪さ?を地の文章で感じさせず味がある話にできるのは書き手が決してキャラクターを見下していないからだなと思う。
    『セクシー』『神の恵みの家』あたりは大人女性向けの漫画とかであっても不思議じゃないくらいだよね………家に置いてあるもの、服装、2人が食べるもの。一緒に過ごすこと、恋愛をすることの滑稽さと悲哀。大人っぽく振る舞っていても傍から見たら質の悪いおもちゃみたいな不倫での喜び。逆にどんなに子供っぽくても暮らしの匂いがする夫婦の喜び。そのどちらの描写も絶妙。
    『セン夫人の家』『三度目で最後の大陸』は、夫婦の間での上手くいかないこと、他人とぎこちなく知りあったりすること、とかそういう描き方がお上手だなと思った。

    どれも好きだけど、やっぱり表題作が好きだな。号泣してしまった。久しぶりに、胸がぎゅーーーっと苦しくなりました。絶対他の作品も読む。

  • まさしく私の読書の原点となった本。何年経ってもこれがベスト本です。知的で悲しくて不条理で愛おしい。立ち読みして胸が震えて抱えて買ったのを今でも忘れられない。こんな出会いを求めてずっと本を読んでます。

  • インドとイギリスやアメリカの距離に相似するようにして、家族間、夫婦間の心の距離が丁寧に描写されている。言葉の端々から感じる、作者自身の、その距離へのいとしさ。読後感が格別に良い。暗闇の中でさぐる境界線と、知ってはならなかったなにかの存在を、泣き笑いともつかない表情で見つめている登場人物たち。読者もきっと同じ表情をして、人間という存在をいつくしんでいくのではなかろうか。
    原題がA Temporary Matterである表題作には、特に心をつかまれた。決して”一時的”では済まないようなバウンダリーの危機の描かれ方、こまごまとした風景のひとつひとつが作り出す世界の調和が素晴らしいし、何より題名の語の選択がにくい。『ピルサダさんが食事に来たころ』に登場するキャンディーの少女の淡い記憶、『神の恵みの家』で発掘されるキリスト像、『病気の通訳』で交わされる、丁度良い距離感での会話に、飛んでゆく紙切れ。そんな、言葉にされない些細でどきどきする秘密が、短編全体に流れる寄せては返す人との距離を象徴しているように思う。
    ハッピーエンドと言えるエンディングは少ない。しかしなにか読者に慰みとなるような光の粒が、見ず知らずの土地の空気にちらつくのが、見える。それが幸せなのだ。
    無性にこの本を読んだだれかと、暗闇の中で語り明かしたくなった。見えないけれどおんなじ顔をして、ふっと溜息をつきながら。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「心の距離が丁寧に描写されている。」
      時折、胸に痛みを感じつつ、感情の流れが上手く表現されているので、頷きながら読みました。。。
      「心の距離が丁寧に描写されている。」
      時折、胸に痛みを感じつつ、感情の流れが上手く表現されているので、頷きながら読みました。。。
      2013/02/27
    • 4oclock-hazelさん
      ありがとうございます。
      ありがとうございます。
      2023/04/05
  • とてもとても評価の高い作品だけどやはり短編は苦手だった。半分しか読んでないけどセクシーは好き。

  • 両親とも、カルカッタの出身。様々な視点、立場から人生の悲喜こもごもを見ている。
    お涙ちょうだいというよりは、人生を客観的に見ており、不思議な感じがする。

  • 人生初のインド文学(短編)。
    希望は続かない。愛は真実じゃない。分かってるようで分かりたくないことを耳元でそっと囁いてくれるような、そして慰めてくれるようなお話がつまっています。停電――とまではいかなくとも、ひっそりとした夜に読みたい一冊。

  • 今年のマイベスト小説

    人間はこんなにも悲しみと切なさに満ちあふれているんだな、としみじみ思いました。

    切り取られた場面は、どれも何気ない日常なのに。

    それでいて、読み終わった後
    自分の周りの景色が少し変わったような気がします。

    既婚者におすすめ

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ジュンパ・ラヒリの作品

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