あなたはひとりぼっちじゃない 新潮クレストブックス

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制作 : 古屋 美登里 
  • 新潮社 (2004年5月25日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900397

あなたはひとりぼっちじゃない 新潮クレストブックスの感想・レビュー・書評

  • 題名は感傷的だし表紙は白熊がかわいいのだけれど、けっこうハード。主人公は病気だったり同性愛者だったりで、簡単に分かち合うことのできない心の痛みを抱えている。その痛みはどれも苛烈であり、読んでいる方も心臓なのか胃なのか、実際におなかに痛さを感じるような読書になった。

    しかしとても痛いのに、登場人物たちは背筋を伸ばして舞台から去っていく。名もない人の気高さを見た気がする。

  • 原題は<You Are Not a Stranger Here>。「異邦人」や「よそ者」を意味するストレンジャーよりも、「ここで」を意味する<here>が気になる。その「ここ」とはどこだろう。それは、この短篇集の中なのではないだろうか。ここには、現代アメリカやイギリスだけではない、世界のどこにあっても身の置き所のないマイノリティ、端的にいえば同性愛者や精神疾患を患う者がよそ者ではないと感じられる世界がある。

    メリーランド州ボルチモア生まれの七十五歳の老人が遺書を書き終えた後、親類縁者の家に立ち寄りながら最愛の息子の住むカリフォルニアまで旅に出る。途中アリゾナに住む姪に借りたサーブを駆って大陸横断の旅だ。一見するといい話のようだが、とんでもない。工学博士号を有し、二十六もの特許を取得したこの老人、実は精神を病んでおり、国税庁の調査対象者であり、親類縁者の鼻つまみ者である。もちろん車も返す気など毛頭ない。

    何しろ傲岸不遜。医者を敵視し、周りの人間は完全に自分よりばかだと見下している。だが、息子だけは愛している。当のグレアムもまた父を愛してはいる。ただ、四年ぶりに再会した父の奇行には手を焼く。ドン・ペリをダースで注文したり、一泊六百八十ドルもするスイートに宿泊したりと、やることがぶっ飛んでいる。しかもその間、新しいアイデアについて声高に語り、グレアムに「ゲイであることはどんなものなんだね?」と質問したりする。

    話者は完全にこの躁状態の人物の中にいて事態を物語るから、ドライブのかかった文章が猛スピードで駆け抜け、じっくり落ち着いて考える暇がない。そう。読者の立場は息子の立場と同じなのだ。父と暮らしたかったのに置き去りにされた。やっとのことで自分の思いを打ち明けた息子は泣きながら寝入ってしまう。実は息子も精神を病んでいて、自殺の恐怖に怯えている。息子の寝顔にやっと父親らしい感情を見せるラストが切ない。

    狂騒的なユーモアが炸裂する巻頭の「私の伝記作家へ」、やはり精神を病んだ青年のインタビューを書き起こした「父の務め」、殴られても蹴られても相手を振り向かせるために向かってゆく被虐的なゲイの少年の破れかぶれの愛をハードにつづった「悲しみの始まり」をはじめ、いずれも尋常でない世界に生きる人々の日常を描き出す。その中で、姉弟の過ごす初夏の一日を慈愛の眼差しで見守る「献身的な愛」は澄明な光に溢れた愛すべき佳篇。

    ロンドンの法律事務所に勤めるオーウェンは、早くに両親に死なれ、自分を守るために五十歳半ばまで独身を通してきた姉を愛している。ヒラリーもまた、母親の首吊り死体を見せないように弟を抱き寄せて以来ずっと愛してきた。二人の間にベンが現れるまでは。アメリカの新聞社に勤めるベンは取材を通じて出会ったオーウェンと親しくなり、姉弟の家やウィンダミア湖の別荘を訪ねるようになる。

    ベンもまた早くに親を亡くしており、男と暮らした経験もあるバイだった。今は妻子とアメリカに暮らしているが、かつての日々オーウェンはベンを愛していた。ベンから姉に書かれた求愛の手紙を隠したのも嫉妬からだ。そのベンから会議で渡英したので、二人の家を訪ねたいと連絡があり、六月の日曜日、ヒラリーは朝から料理に飾りつけに忙しい。オーウェンはそんな姉にいつ真実を打ち明けようか、と悩んでいた。

    隣人の不意の訪問の途中、ベンから電話がかかってくる。会議が長引き、訪問できなくなったという。オーウェンがとり、姉に渡す。すっかり日の落ちた庭に出て、二人で夕食を取った後、後片づけをする弟を一人残し、姉は部屋にこもる。静かな嗚咽が漏れてくる。姉の泣き声を聞きながら、オーウェンはベンからの手紙の束を姉に渡すことを決める。

    姉を案じて田舎で暮らす弟。その気持ちを嬉しく... 続きを読む

  • 原題はYou Are Not a Stranger Here
    ヘイズリットは、すべての読者に向けてこの言葉を書いたそう。

    稀有な力を持つ人、現実と自分にしか見えない女性に心揺さぶられる人、生命の淵に立ち尽くす人…

    彼が切り取った人生は、「ふつう」とは言い難い。
    それでも、全ての人が抱える、普段は言葉に表すことのない感情に溶け合う何かがあると思う。

    状況は壮絶。
    それを捉えるのは静かな筆致。
    美しい訳文。

    とにかく言葉に目が止まる短編集。


    「これまでは言葉をつくして自分の置かれた状況を説明してきた。いまもそれを繰り返そうと思えばできる。…この先あと何回くらい、自分はだいじょうぶだと、自分でも信じてもいない約束をすることになるだろう。」/「War's End」

    『それ、温かいんだろ。きみの首にかかっていて温かくなっているんだ。』/「The Volunteer」

    登場人物たちは、それぞれに現実や自分の内側に苦しみ、自分からあるいは誰かが築いた壁を乗り越えようともがき、命と必死に向き合っている。
    言葉や描写から、生身の人間の生命力や体温を感じずにいられない。

  • 第3回バーチャル読書会の課題図書は、アダム・ヘイズリットの「献身的な愛」です。読書会について、音声でご紹介しています。https://www.youtube.com/watch?v=4MARusaJBGY

  • 雰囲気がとても好きです。さみしさ的なものにすごく共感できた。「悲しみの始まり」が好き。

  • ここんとこ何作か読んだ朝倉かすみさんがTwitterでこうつぶやいていたのですよ。
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    『あなたはひとりぼっちじゃない』(アダム・ヘイリズット)(新潮社)をわたしは愛してやまないのだが、絶版っぽいので、いわゆる「おすすめ本」を紹介する機会があってもなかなかおすすめできないのだった。
    http://twitter.com/crocodile_baby
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    ほおぉ…?それはどんなお話だ??と思って、図書館で検索かけたらあった!、…で、読んでみたというわけ。
    これも短編集なのだ。
    なるほど、彼女の著作のシチュエーションをアメリカやイギリスにするとこんな感じだろうか?
    それにしても、つくづくアメリカ人は精神を病む確率が高いなぁ…と感じる。

  • 英文で読むのと、和訳で読むのと、また感覚が違うんだろうなと思う。

    澄んだ痛み、とよく描写されるとおり、
    透明感のある文章で、
    それはきっと作者独自の言葉の方がリズムとして伝わってくる。

    違う世界の住人の物語でなく、痛みそのものの物語。
    深みというより、事実を突き出された時の感触。
    一読して一息ついたときに、題名を改めて見ることによってまた見えてくるもの。

  • にほんごたいとる萎える〜

    静謐で美しく
    なによりその悲惨さがたまらなくすき☆☆☆

  • アダム・ヘイズリットってすごい書き手だな、と思う短編集。
    さらに、この本の魅力のおおかたは、訳者の古屋美登里の技量によるように思う。
    海外作品というのは、訳によってどうしても、一枚壁紙を貼られるような感覚でしか届かないのが苦しく思うときがあるのだが、
    これはまっすぐに文学的に読めて、とてもおもしろかった。
    個人的には、この装丁がちょっと嫌かな。
    きれいなんだけど。過剰かな。

  • タイトルから類推して、優しく包み込んでくれる甘ったるい人生本…ではない。だがそこが良い。ピュリツァ賞の最終候補まで残ったというこの本には、世間からはみだした父をもつゲイの息子、心に病にかかえる人と向き合おうとあがく医者、両親をなくしてずっと独り身の弟と姉など…みなどうしようもなく孤独で、そこには決して「物語的な/絵に描いたような」優しさは存在しない。
    現実の過酷で絶対的な孤独を体験したもの同士が試みる切ない行為のうちからうまれる、ほんのひとときの慰撫がある。そう、私もあなたも孤独ではあるが、「ひとりぼっち」ではないのだ。

  • ………何て言ったらいいんでしょうか。
    言葉の一つ一つに音があって、作品が一つの音楽になっているような感じがしました。
    翻訳者が違っていたら、きっとこんな作風にはなっていないと思います。
    今までにない恋愛小説(本当に恋愛小説と言ってもいいのでしょうか?)を、是非この本を読んで体験してみてください。

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