ペンギンの憂鬱 (新潮クレスト・ブックス)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900410

感想・レビュー・書評

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  • 舞台はウクライナ・キエフ。短編を専門とするしがない小説家ヴィクトルは、動物園の閉鎖をきっかけにペンギンのミーシャを飼い始める。
    そんなヴィクトルの元に死者の追悼記事を書く仕事が舞い込む。まだ生きている人たちの、さまざまなエピソードを元に、「死ぬ準備」をする奇妙な仕事。
    そんな彼はギャングの「ペンギンでないミーシャ」の一人娘のソーニャを預かることになり、そして友人の警官・セルゲイの姪の二十歳のニーナをベビーシッターとして迎え、やがてより深い中になる。不思議な共同体の中で、彼の奇妙な仕事の核心へと近づいていく。憂鬱症で病気の治療をしたミーシャは南極に帰れることになったところで、不思議な形で本作は終わる。

    淡々と、奇妙な世界に巻き込まれ、危険にも呼び寄せながら、現実がよくわからないままに、どんどん進んでいく世界。ウクライナという異国が舞台ですが、非現実的故の親近感がある。ペンギンのミーシャの存在がこの作品にシュールな魅力を与えています。
    狭い家の中をペタペタと歩き回り、冷凍の魚を食べ、4歳のソーニャと交流し、犬に絡まれ、川沿いに遊びに行き、白黒という特徴からギャングの葬式に呼ばれるミーシャはなんだかちょっと笑える。確かにちょっと村上春樹氏の作品っぽいかも。面白かった。
    (一応続編があるようですが、そちらは評判がいまいちで翻訳もされていないよう)

  • ソ連政権崩壊後のウクライナ、キエフ。情勢は未だ不安定。マフィアも暗躍するそんな街で、作家を目指すヴィクトルは恋人に去られ、憂鬱症のペンギンと二人(?)きりで暮らしていた。そんな彼が短編を持ち込んだ新聞社から、要人の死亡記事を書かないかとの打診が来る。まだ存命の有名人の追悼記事も書き溜めるようにまでなった頃には、彼が記事を書いた要人が、ことごとく不審な死を遂げている事に気付く。そして、彼に近しい人達も一人、また一人、と姿を消していきー。

    舞台となっているキエフについ最近行ってきたばかりだったのでとてもタイムリーな作品だった。ソ連崩壊後の不穏な空気が充満するキエフと、先日行ったロシアとの緊張感漂うキエフ、程度の差こそあれど得もいえぬ不安感が付き纏うのは同じか。ペンギンのミーシャが緩衝材として一役買っているものの、ヴィクトルの一見平和な生活にも終始暗い影が落ち、緊張感が拭えない。最後のヴィクトルの運命には「えーっ」と声を出してしまった程。マジでミーシャがいなければとんだダークな作品になってた所だ…。日常の中の非日常を味わいたい方は、是非。

  • ソ連崩壊に伴うウクライナ独立直後の社会不安、汚職要人暗殺等の政治的混乱を背景にした、追悼記事作家ヴィクトルと憂鬱症のペンギンのミーシャ、四歳の少女ソーニャ、ベビーシッターのニーナの奇妙な共同生活。集団で行動するペンギンが集団から離された時の戸惑いを、ソ連から離れたウクライナの生活環境の変化への不適応の日常に擬して描かれる。
    「この人生、なんだかしっくりこない」自分の足元を見て歩きながら思った。「それとも人生そのものが変わっちまって、前と同じくシンプルでわかりやすく見えるのは外側だけなのか。中身はまるでメカニズムが壊れたみたいだ。見慣れたものだって、中身はどうなってるんだかわかったものじゃない。ウクライナのパンだろうと、公衆電話だろうと。何だろうと見慣れたものの表面を剥がすと、目に見えないよそよそしいものが隠れている。どの木をとっても、どの人をとっても、中に異質なるのが潜んでいる。ただ子供のときから知っているような気がするだけだ」
    掲載されない生存している要人の追悼記事を書くことに悩み、「俺の仕事はいったいどんな意味があるんだ」と尋ねると、編集長はこちらを見つめて目を細めた。聞かないほうが身のためだ」編集長は低い声で言った。「どうとでも都合のいいように考えておけばいいじゃないか。ただ、よく覚えておくんだな。仕事の意味を知ったら最後、お陀仏だ。映画じゃない。知りすぎてお陀仏になるんじゃない。逆だよ。君の仕事も、ついでに君の命もう必要ないって段になったら、そのときすべてわかる……」そして、追悼記事の謎が明かされていく。

  • ペンギンと金髪の女の子のかわいらしい表紙と憂鬱症のペンギンと暮らす作家という設定に惹かれ読んでみたいと思っていた。文庫化されるのを待っていたけれど、本屋さんで見かけて表紙だけで購入決定。まさにジャケ買い。

    動物園から引き取ったペンギンと暮らす作家。
    売れない作家である主人公は新聞の死亡記事を書く仕事を引き受ける。
    それをきっかけに事件に巻き込まれていく。

    こう書くとミステリーという感じがするが、本書はそういう面白味よりもペンギンと暮らす主人公が預かった少女と共に暮らしていく様を読ませる作品といったほうが正しいように感じる。

    ペンギンの描写がかわいらしく、少女の描写も愛らしい。
    やはり動物と子供という組み合わせは最強。間違いなし。

    物語と直接関係はないが、作中でコーヒーを淹れて飲むシーンがある。
    わたしはコーヒーが余り好きではないが、たまに飲むときはカップにインスタントコーヒーを入れ温めたミルクをドバドバ入れて作る。一般では湯を入れて作るのだと思う。
    作中で主人公は、コーヒー沸かしにコーヒー粉と水を入れて火にかけ沸騰して泡立ったら火を止めてカップに移すとある。
    本書の原作者はウクライナのひとらしいので、ウクライナではこうやってコーヒーを淹れるのだろうかと面白く感じた。

    ひとり暮らしの主人公が引き取ったペンギンと暮らす。
    ペンギンは群れで生きる動物であるのにたった一匹で人間と暮らすものだが、そういう動物と孤独な男が暮らすところで、群れからはぐれたペンギンと社会からはぐれた男という設定が生きてくると感じた。
    そこへ更に親と離れた孤独な少女が加わるため、どこにも属さない孤立したものたちという状況が際立つ。

    この作家は他にも動物の出てくる作品を書いているらしいが、他の作品も読んでみたいと思わせる一冊だった。

  • 20年以上も前のウクライナにあって、ロシア語で描かれた作品。物語の世界はどんより曇ったように憂鬱、ミステリアスで寓話的。ペットのペンギン(憂鬱症を患っているらしい)の存在が主人公ヴィクトルや読者にとっても救い。 意外に感じたのは、登場人物のフラットな人間関係。『近くの他人』をすんなり受け容れる。これは作者の創作としての主人公の性格か、それともソ連邦崩壊後の不安定なウクライナの政治体制を反映した、この時代独特のものなのだろうか。

    言語がその言葉を話す人々の地域性や文化に与える影響は大きいと思う。平和な時代なら、作者がロシア語で本を著す意味はあっただろうに、ウクライナの多様性を壊し民族主義に向かわせたロシア。何とも残念。当時のウクライナの置かれた微妙な立場が透けて感じるような本でした。

  • ウクライナのキエフ(キーウ)でペンギンのミーシャと暮らす売れない小説家のヴィクトルは、ある日、出版社から「十字架」を書く仕事を依頼される。
    不穏な空気+ペンギンの物語→

    1990年代、ソ連崩壊後のウクライナが舞台。戦後の日本にしか住んだことのない私には最初、とても不思議な気持ちになった。
    家の外の世界はとても殺伐としているのに、ヴィクトルのキャラとペンギンのミーシャがその世界から少し浮いていて、それがとても絶妙。一気に読みやすくなる。→

    でも、ペンギンのミーシャは動物園が閉園するタイミングでヴィクトルが貰い受けているわけだし、この時点で今の日本にはない感覚なんだよね。
    終始この「感覚はわからないけど、何となくわかる」みたいな感じが魅力的なお話(語彙力なさすぎなんだけど伝わってー!)

    読んでよかった(語彙力喪失)

  • 毎日クルコフ氏のSNSを見て無事を確認している。この本とは発売当時に出会い、私を新潮クレスト・ブックスへ導いていくれたうちの1冊(もう1冊は『朗読者』)。今手元にないので応援の気持ちを込めて購入。当時はペンギンと暮らすという設定に魅かれて読んだ。新聞の追悼記事を匿名で書く作家のヴィクトルとうつ病のペンギンのミーシャと妙な縁で預かることになった少女ソーニャとその子守として雇った娘ニーナの疑似家族的4人暮らし。私もペンギンに胸を膝に当てて甘えて欲しい。ヴィクトルに常に付きまとう死の影が作品全体にも不穏な影を落とす。当時はソ連崩壊直後の混乱と暗さを表現していると思って読んだが、今またウクライナはロシアの暴力下に。頁を繰り始めてすぐにキエフ、ハリコフ、オデッサと最近馴染みになってしまった地名が並ぶ。こんなに連日ニュースで見るようなことになるとは。そしてキエフ市内の大通りも。今どうなっているのだろう。クルコフ氏はペットの猫とハムスターと国内避難。キエフでは動物園に食料を持参したり、動物を引き取る市民が(それにしても豹って!)。クルコフ氏のツイッターに爆弾が降り注ぐ下にペンギンがいる絵が。一日も早く戦争が終わるよう祈る。

  • ソ連崩壊後の不穏な空気の残るウクライナを舞台にしていて、主人公はペンギンを飼っている売れない作家です。この時点で惹かれました。ウクライナの作家の本を読んだのは初めてです。
    業界にいるので、死亡記事を事前に用意するというのは身近な事柄でしたが、それが物語の軸になっているのは新鮮でした。いつも何気なく接していることが、物語になりうるというのは日常での想像力をかき立てられます。
    ペンギンがとってもキュートです。ちなみに著者は別にペンギンを飼ったことはないそうです。そりゃそうだろうなとは思いましたが、どこか意外にも感じるほど描写はリアルです。ペンギン好きとして推せます。

    中盤以降はなんとなく話の進む方向が分かるのですが、最後の場面は予想外でした。ただのストーリー的なゴールではなくて、示唆的な終わり方でした。陰鬱で暗い雰囲気が全体を覆っている本書ですが、私はラストのワンシーンのおかげでかなり前向きに感じました。
    暗い事柄をを淡々と捉えているような主人公の描き方は印象的でした。どこか色彩のないのが当たり前というか、周りの色に呑まれながら生きている、そうせざるを得ないという感じでしょうか。リアリティを感じました。

  • 旧ソ連崩壊後の、なんだか不気味な時代のお話。
    小説家のヴィクトルは、憂鬱症のペンギンと暮らしているが‥‥
    ラストはとても良かった。
    銃や殺し屋が登場したりと、当時のウクライナの治安の悪さというか不安定さの様なものが窺えた。

  • ファンシーな感じの表紙に、どんなアンニュイなペンギンが出てくるのかと思いきや、とんでもなくダークな小説だった。

    売れない作家と憂鬱症のペンギン、作家の友人の娘。
    ペンギンと娘のシーンがなければ、本当にダークな小説で終わっていたと思う。
    当時の情勢は、私にはよく分からないが、不穏な空気が醸し出されていて、どんよりとした気分でページを捲っていた。

    ペンギンの元気がないから(自分の周りもおかしいことばかりだし、暗殺的な意味で)、どうにかして南極に返してやろうと、作家は色々手を尽くすけど、最後の最後で…結局作家はどうなったんだろう、ペンギンと娘は??

    どんよりとした気分で、と書いたが、それでも作家はどうなるんだろうと、ハラハラした気持ちで読み進めていた。
    ダークグレーのような、鈍色のような雰囲気の小説だった。

    こんなこと書いたら、村上春樹の愛読者には怒られるだろうが、どことなく村上作品に通ずるような読後感だった。
    でも私も村上春樹作品は好きである。

    続編はあるが、原典と英訳しかないので、英語がよく分からない私は読めない。くやしい。

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