空高く (新潮クレスト・ブックス)

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制作 : 高橋 茅香子 
  • 新潮社 (2006年5月30日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (456ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900540

空高く (新潮クレスト・ブックス)の感想・レビュー・書評

  • 主人公のジェリーは、60歳手前の男性で、父から受継いだ会社を息子に譲り、リタイア生活を送っている。

    彼の楽しみは、中古で購入したセスナ機を操縦することで、空から見た地上には、ゴミや浮浪者、雑草、死にかけてるネズミもいない(見えない)。渋滞の高速道路を颯爽と滑空し、ジェリーは空を飛ぶのだ。

    ジェリーは空の果てを目指してるわけではない。数時間、空のドライブを楽しんで地上に戻る。羨ましい老後である。

    空から見える地上のように、人生が限りなく整っている人などいない。

    ジェリーの人生もそうである。2人の子供がまだ幼ない時に、韓国人の妻は心を病み、事故か自殺か判然としない死を自宅のプールで迎えた。
    プエルトリコ人のリタは、子育てに手を貸してくれながらジェリーも支えてくれた女性だったが、今は彼の元から去り、他の恋人がいる。
    子供たちふたりは、自立したが、息子の会社は最近傾きかけ、娘は妊娠と同時に悪性リンパ腫であることがわかり、治療を拒んでいる。
    父親は自分の下の世話もままなくなり施設に入っている。

    安定を得たように思えたジェリーの家族は個々の事情を抱え、秩序のゆるやかな軋みのなかで一つ屋根の下に集まり始めるのだった。

    ジェリーという主人公の一人称の語りでこの小説は構成されているが、前作の『最後の場所で』に続き、自分よりも年齢の高い人物を主人公に設定し、心情や事情を正直にジェリーに語らせるあたり、彼との奇妙な連帯感を読者は感じる。

    心の病気が進んでいく妻にもっとできることはなかったか?
    なぜ、妊娠中のガンの娘を自分のセスナに乗せたのか?
    帰ってきたリタは、ほんとうにそれで幸せなのか?

    人生は正しいことがすなわち正しいとは限らず、みんな、それなりに不器用に生きているのではないだろうか。
    前作、『最後の場所』でもみられた、人間くささのようなものをジェリーからは感じる。

    チャンネ・リーは、登場人物に明確な個性を持たせ、その鋭い感覚的把握で命を与えている。

    本書も前作に引き続き高橋茅香子さんの翻訳である。
    高橋さんには、『空高く』のあとがきを書こうとされているときに、私のブログにコメントをいただいた。
    ふたたび、高橋さんの訳で、チャンネ・リーの小説に触れられたことを嬉しく思います。
    チャンネ・リーの次回作に期待するとともに、また高橋さんの訳で彼の小説を堪能することを強く望む。

  • 何度も挫折しそうになりました。主人公の愚痴っぽい語り口や、長い文章に半ばイライラしました。が第9章あたりからそれまでの現在、過去のエピソードが一つにまとまったような勢いが生まれ、ラストまで一気に読めました。著者は若いのにどうしてこんなたそがれたものを書けるのでしょうか?深いです。読むのを止めないでよかったです。

  • 前作の『最後の場所で(Gestured Life)』から新作の発表を待ちわびていた。

    60歳は日本で言う還暦。韓国では特にこの歳の誕生日を派手に祝う。主人公のジェリーはまだ子ども二人が幼いときに韓国系の妻を自宅のプールで事故死で失う過去をもつが、それから今は引退し小型飛行機でのソロ・フライトが何よりの楽しみという初老というには、恋愛にも引退したファミリー・ビジネスにも波乱含みな男。
    ジェリーの語るイタリア系のファミリーツリー。それから自分の家族たち。男としての自我と孤独が、静かな押えたトーンで描かれるが家族が言い争うエピソードでさえ、とても心に残るものが大きい。
    ジェリーの心の振幅を一緒に揺れるような感じだ。
    また、東海岸の典型的なアメリカのライフスタイルが詳細に書き込まれているし、そのマルチ・エスニシティぶりが興味深い。

    最後のシーン。
    空を見上げる彼の心によぎるものを読み終える私たちも共にわかちあって物語が終わる。

    ALOFT

    私が感覚的に弾かれる言葉。

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