千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)

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制作 : Yiyun Li  篠森 ゆりこ 
  • 新潮社 (2007年7月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900601

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千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)の感想・レビュー・書評

  • 中国の人はみんなこうなのか、
    それともこの人物たちがみんなそうだからなのか。
    熱くて、なんというか皆何かにとても執着している。
    自分が心を懸けている対象に対しての、愛情の注ぎ方が半端じゃない。
    愛している人への遠慮がない。
    度を過ぎて親切。
    日本人は遠慮しちゃうんじゃないか、もっと。と思った。
    そんな熱さが私にはすごく新鮮だった。

    とはいえ、なんだか中国てそうなんだなーとかそんな感想を持ったわけではなくて、こうして個人の物語として受け取れることに意味がある。

    物語は個人を伝えるメディアであれる。
    その人に寄り添える。
    そうでないやり方なら理解できないだろうあれやこれやを、私たちは物語という受け取り方をすることで理解することができる。
    物語はやっぱり必要なんだ。

    言葉にできないものを描く。
    そりゃ難しいよ。だって、言葉にできないことを書くのだから。
    でも、それが物語が存在する一番の所以ではないか。
    言葉にできないから、物語るしかないのだ。

  • イーユン・リーのデビュー短篇集。第一回フランク・オコナー国際短篇賞を受賞した、その完成度の高さに驚く。どれも読ませるが、読んでいて楽しいと感じられる作品が多いわけではない。むしろ苛酷な人生に目をそむけたくなることのほうが多いのだが、読み終わったあとの索漠とした思いの中に、真実だけが持つことのできる確かな手触りと哀しい明るさのようなものが残っているのを感じる。誰の人生にも人それぞれの秘密が潜んでいて、周りが考えるほど単純なものではない。リーの筆は、ときに厳しく、ときには優しく、人々によりそって、固い殻に覆われた外皮の奥にある核を明るみに出す。全十篇のどれも捨てがたいが、親と子の結婚観をめぐる考え方のちがいが対話を通して浮かび上がってくる作品が少なくない。

    「市場の約束」も、その一つ。三十二歳になる、三三(サンサン)は、大学を出てからずっと生まれ育った町の師範学校で英語を教えている。夫も恋人も親しい友人もいない。母親はそんな娘を心配し、幼なじみで結婚してアメリカに行った土(トウ)が離婚したから、結婚したらどうか、と学校までやってくる。母は旅の客相手に屋台で煮玉子を売っている。他の店とはちがい、茶葉と香辛料をふんだんに入れたそれは絶品だ。

    三三と土は結婚の約束をしていた。天安門事件の頃、大学に美人で評判の旻(ミン)という同級生がいた。学生運動のせいで就職がふいになった旻のために、土と偽装結婚して渡米する策を授けたのは三三だった。ところが、二人は三三を裏切り、本当に結婚してしまう。そのことを知らない母は結婚しない娘の気持ちが分からない。母を悲しませていることを知る娘もまた悲しい。そんな三三の前に一人の男が現れる。男の商売は、金を払った相手にナイフで体を切らせることだった。映画のような幕切れがひときわ鮮やかな一篇。

    「死を正しく語るには」は、リーの子どもの頃の実際の思い出が生かされていると思われる。武装兵士に警備された核工業部の研究センターに勤務する父と教師の母を持つ「わたし」は、リーの出自に重なる。その「わたし」は、夏と冬の一週間だけ、ばあやの住んでいる胡同(フートン)にある四合院で暮らすことができた。胡同の子どもたちの暮らしは、秘密のベールに覆われた研究所の子どもたちのそれとはまったくちがっていた。原爆を落としたトルーマンや失脚した劉少奇の名前が、遊び唄の中に出てくるのだ。

    地主階級だったせいで、親が決めた甲斐性のない男と結婚してしまったばあやは、その不甲斐なさを詰りながらも夫を愛していた。同じ四合院に住む北京の庶民階級に属する人々が、夕涼みに出てくる中庭での会話や、鶏をつぶして煮込み料理を作ったり、君子蘭を大事に育てる様子など、おおらかで、開けっぴろげで、それでいてつつましやかな、昔と変わらない中国の人々の飾らない暮らしぶりを、今は成人した女性の回想視点で綴っている。文化大革命や天安門事件といった大文字の歴史の裏に隠された日の当たらない庶民の暮らしぶりを描くとき、リーの筆はあたたかくやさしい筆致をしめす。無頼を気取る宗家の四兄弟でさえ、懐かしく思い出される対象となるほどに。

    表題作「千年の祈り」もまた、心の通じない父と娘の関係を描いている。結婚してアメリカに暮らす娘の離婚を聞きつけた石氏は、なぜ離婚したのかを娘の口から聞きたくて、観光を理由に渡米する。結婚したら夫婦は何があっても共に暮らすものだと昔気質の父は考えている。ロケット工学者だった石氏は、秘密を漏らすことを禁じられ、家族にも無口で通してきた。両親が不仲であったことを娘は知っていた。会話のない家庭は上手くいかない。夫と別れたのも、父と会話ができないのもそのせいだ。

    石氏はアメリカに来てから公園で出会ったイラン人女性と通じない言葉で度々会話をしている。言葉... 続きを読む

  • 文革~天安門~資本主義化を経た中国を背景に「孤独」を抱えた物語が10篇。
    主人公は、ゲイの青年だったり、小学生に恋心を抱く女性だったり、孤独な女教師だったり、毛沢東そっくりに生まれた男だったり。
    文革の時代を過ごした人々についてが非常に興味深い。

    余韻を残す優れた作品で人にも勧められる作品だろうけど・・・・、
    うーん、どうもお行儀がよいというか、優等生的といいうか、何か物足りない。
    「市場の約束」の最後のように「狂気」を描いていてもどうも狂った感じがしない。

    フラナリー・オコナーと似ているようで、あのぐっとつかみかかるものがない。
    いや、本当にうまい作品だし、いい作家なんだけどねぇ。

    ロックでいうと、パンクしててもお行儀がいいポール・ウェラー的。

  • 現代中国の人の感情や思考、習慣にこの本を通じて初めて触れた。
    そう意味で私には色々なエピソードがとても興味深かった。

    また著者はアメリカで執筆しているので中国の共産体制や毛沢東礼賛を皮肉って見せる。その切り口が上手。


    切ない物語がたくさん詰まっていて、良かった。

    ある人が他の人には伝わらない労りや後悔を抱えてる、切ないってこーゆーことだよねって思う。

  • 「誰かと同じ舟で川を渡るためには、三百年祈らなくてはならない。・・たがいが会って話すには―長い年月の深い祈りがあったんです。」

    再読。
    堀江敏幸の紹介文に惹かれて読んだ短編集。
    近代以降の中国のお話を手にしたのは、これが初めてだと思う。
    著者は米国在住だけれど、登場人物たちの感情の動きには、欧米圏とはまた違った風にさらされてきた視線が活きている。
    大きな流れに飲まれて、自らが「小さな」「一部」であることを知って生きてきた人々。そして急に流れから自由になったときにうまれる、一種の諦めにも似た戸惑い。
    そんな彼らに、望む望まないにかかわらず人はひとりであるって普遍的な真実がおりかぶさって生まれた話の数々です。
    ラヒリとよく比べられているようだけど、見せる世界はロイに近いのかなと思った。
    読後感ははらりと切れて、良い意味でおいてけぼりにされるようでした。


    「死を正しく語るには」は、現世が天国での生活への準備だととらえるキリスト教圏では新鮮だろうなと思う。「それでも生きてほしかった」、と思う主人公のあたたかい祈りが沁みました。
    あとは表題作の「千年の祈り」が好き。父の考え方と、娘の言葉が、自分の過去に語りかけてきた。
    「自分の気持ちを言葉にせずに育ったら、ちがう言語を習って新しい言葉で話す方が楽なの。そうすれば新しい人間になれるの」。


    他も印象的だけど、感覚よりは想像力で読む部分が多かったと思います。
    まだ私が感じ取ったことのない人生の真実が、たくさんあるということでしょう。

  • 静かだけど、強くかなしい。

  • 日常の過酷さを包む一枚の毛布

    淡々と、静謐な印象を受ける文体で、確かに読み応えがある。
    人生は不条理で、厳しくて、自分の思うとおりになんて一つもいかない、そんな話ばかりですが、鬱々とした気持ちにさせるわけではなくて、どこかカラリとしていて、いい意味で感情が揺さぶられない印象の作品でした。

    宦官を排出してきた村の視点で描かれる共同体の声が、とても印象に残りました。

  • 世界中で起こる紛争やら衝突やらのニュースを見ていると、考え方の違いや利害の衝突、自国の国益といったことばかりについ目が行きがちです。
    中でも、中国というお隣さんは、その国民性をおもしろおかしく報道されることが多いので、外見は似てても中身は全然違う国だわ、と感じる機会が多い。
    だけど、このイーユン・リーの描く小説を読むと、まったく逆のことを思います。
    主人公たちが背負っているものや状況は私とは全然違うけれど、彼らの痛みや悲しみはすごく理解できる。外側にあるものは全然違うけど、中身は同じだ、と強く感じます。
    これこそが物語や小説のすごいところだよなぁと海外文学を読むたび思います。
    自分の中に、いつの間にか作り上げている国境の壁みたいなもの(トランプ氏じゃなくて、自分が作っている)が少し小さくなる。

    この本は短編集ですが、収録作品すべて良かったです。全部。ほんとにぜんぶ。
    私には、物語が、描かれている世界が、宝石みたいにキラキラしているように見えました。人間の内側からほのかに発光しているものが文字を通して再現されているみたいに。

    収録作品はどれも好きですが、特に、「あまりもの」と表題作の「千年の祈り」が良かったです。

    「あまりもの」はもう切なくて切なくて泣けました。
    「これが恋というものだろうか」だなんて。いきなり不意打ちを食らった感じでした。
    主人公の見つける喜び一つ一つに胸を突かれました。
    少年に対してだけじゃなく、もはや会話すらできない寝たきりの老人に対し、いつの間にか愛情に似たものを注いでいる姿を読んでいると、人というのは愛されるだけじゃなく、愛することも必要な生き物なんだろうか、と考えてしまう。

    「千年の祈り」は、中国のことわざ「修百世可同舟」がとにかく印象的だった。
    「誰かと同じ舟で川をわたるためには、300年祈らなくてはならない。互いが会って話すには、長い年月の深い祈りが必ずある」っていう考え方。好きだなぁ、と思った。
    あの人とも、この人とも、ああ、私たちは祈って祈ってやっと出会ったのかなぁ、なんて。もっとちゃんと人との縁を大切にしなくちゃ、って毎度思うことを改めて思う。

    この小説の主人公、父親の抱える「秘密」は、娘が考えているような裏切りとか過ちからきたものじゃない。でも、それを娘に説明することができないのが、読んでいて切ないです。
    言葉というのものの重要性と無力さとを両方思い知らされます。

    この二つの作品に限らず、すべてが切ない物語ばかりなんですが、同じく中国系のアメリカ人作家、ケン・リュウの小説ほど救いがなくはないのが、ほっとします。
    ケン・リュウの「紙の動物園」も同じくらい素晴らしい短編集だったけど、あっちは悲しすぎて悲しすぎて、読むのがつらかったです。
    でもイーユン・リーのこの小説集は、同じく人間の悲しみを描いてはいるんだけど、もっとずっと救いがあって、どの小説も、ある意味ハッピーエンドなのがいいです。
    最近は、年をとったせいか、悲しすぎる小説は読んでいてしんどいんですよね・・・。

    最後の訳者の解説も良かったなぁ。
    下手な小説家とかが解説を書くと、変に奇をてらって中身のない解説になっていることが多いのだけど、翻訳者が書く解説って素晴らしいものが多い気がします。
    その作品を一番理解している人だからかな。

    中国語ではなく英語で小説を書くことについて、著者が第一言語の中国語では書けないが、第二言語の英語なら表現できると言っていた、と解説にありましたが、これはいろいろと考えさせられました。
    少し分かるような気がする、と思う。
    私にも、英語(第二言語)の方が心理的に言葉にしやすいことって絶対にあるなぁと思う。

  •  世界の名作が読める『新潮クレスト・ブックス』の一冊。北京出身でアメリカ在住の作家イーユン・リーの全十編からなる短編集です。主人公は皆、市井の中国人。共感できる一編があるはずです。
    (一般担当/take)

  • ラヒリ以来の衝撃を受けた短編集。
    中国出身の作家が描く、中国では出版不可能な物語の数々。

  • 中国を主に舞台にした小説でも、社会と個人というテーマが短編全体に流れているような気がしていて、そのテーマや風習はそれぞれ事情は違えど、他の色々な国も抱える問題だったような気がする。いくつかの短編は長編でも読んでみたい。

  •  中国の市井の人の暮らしぶり、しぐさの表現がすばらしい。映像を見ているかのような感覚になった。
     書かれている多くの人は、隣近所の目を気にしながらも、それから隠れるかのような孤独な人物が多い。
     障害の娘がいる夫婦の気持ちが少しずつ、ずれていく話の「黄昏」。宦官を祖先にもつ村から出た独裁者に似た顔をもつ男の話の「不滅」。正しい正しくないに関係なく死が存在する「死を正しく語るには」。後者の2作品は、文革という現代中国なくして書けない作品だったと思う。
     母語の中国語でなく、英語であったからこと、より客観的に文学という極みに至ったのが納得できる。

  • それぞれの人の、それぞれの愛の形を、静かでありながらとても熱く描いた短編集。心が穏やかになるような、でも、どこか切なくなるような、そんな話がたくさんあった。

  • 自分の大切な人にも読んでほしいと思ってしまった作品。
    とりあえず、母親に貸しました。どんな感想を聞かせてくれるかが楽しみ。

  • ダ・ヴィンチ プラチナ本 2007年12月号

  • 中国の人々の孤独を表した短編集。
    彼らの抱える孤独や苦しみや時に孕んだ狂気が癒えるわけではないのが生々しい。

  • 静謐で、中国ならではの経緯があって、思いやりがあって、すごくすごく良い。

  • あまりもの/黄昏 */不滅/ネブラスカの姫君 */市場の約束 */息子 */縁組/死を正しく語るには */柿たち/千年の祈り

  • 短編ですが、読みごたえありました。それと、複雑な感情を話し合うという意味で、読書会向きの本だったと思います。

  • しんとして切ない話ばかり。
    現代中国文学作品(にカテゴライズされるのか微妙だけど)を読んだのは初めてだが、面白かった。
    ラッタウット・ラープチャルーンサップの『観光』を読んだときと同じ読後感

  • 中国という国の息苦しさ。アメリカンドリームの虚しさ。多分誰もがかかえている孤独

  • 静かな佇まいといった文章、装丁でいい感じ。
    翻訳小説を読んでいるという気分にも浸れた。
    原書は英語で書かれたらしいが、なるほどそんな雰囲気。
    中国でのお話もトーンが違う気がした。
    短編なので読みやすく、統一した世界観のようなものが
    受けとれた。本のタイトルとなったラストの「千年の祈り」が
    いちばんすき。マダムとのつたないやりとりが微笑ましく、
    温かいし、マダムの装い、雰囲気の記述がいい。
    私もそんな女性に晩年なれたらと思う。

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