密会 (新潮クレスト・ブックス)

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制作 : William Trevor  中野 恵津子 
  • 新潮社 (2008年3月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900656

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密会 (新潮クレスト・ブックス)の感想・レビュー・書評

  • 「外国にいるほうが、自分の国の人間について書きやすい」
    当代切っての短編作家とされるトレヴァーだが、不況のなか職探しでイングランドに住み着き、そこで自国アイルランドなどを舞台にした小説を書いているという。

    なるほど、アイルランドを思わせる気候や風土、決して豊かではなかった頃のアイルランドで暮らす市井の人々の、その生きざまを静かに写し取ったかのような短篇集。

    各編、なぜかどうしようもなくやるせない人々ばかりが登場し、目の前に立ち塞がる人生に、その弱さを露呈しながらも生きざるをえない姿を前にして、ただなすすべもなく読み進む・・・そんな小説ではある。

    だが、ラストにはそんな主人公たちに共感する自分がいて、決して好きにはなれないのではあるが、いつのまにやらその苦しみや孤独に自然に寄りそっている。

    そこにもまた一つ・・・という感じで置かれたなにげないピースが集まって、見えてくる何がしかの人生の真実。生きてゆくというただそのことに、思いがけず尊さなど感じ取ってしまったのかもしれない。

  • ●未読
    ・「クウネル」2008.09.01号 p.62で江国香織が紹介・短編集
    ・短編「孤独」(7歳の子供の架空のお友達の名前(アビゲイルとデヴィ)のラストが意外、とのこと

  • 短篇集。どの作品ももの悲しく、孤独な人々が描かれているのに、読み終わっても憂鬱な気分にならないから不思議。自己憐憫に浸る登場人物がいないからかもしれない。ほんのささいな役でしか登場しない人物さえも、その人生が透けてみえるよう。何が、とうまく言えないのに、何だか好き・・・という、この感じ、子どもの頃、キャサリン・マンスフィールドの短篇を読んだ時に感じたような・・。自らの職業に懐疑的となっている神父と学習障害者の娘との対比が鮮やかな「ジャスティーナの神父」、図書館司書と未亡人との本をめぐる交情とその顛末を描いた「グレイスの遺産」、少女時代から両親と三人で外国を渡り歩いた女性の回想「孤独」、たった一度だけ聴いた音楽を終生、心のなかでよみがえらせ続けた田舎屋敷の召使の「ダンス教師の音楽」が特に心に残った。元夫と、その妄想話を定期的に聞かされる女性との関わりを描いた「路上で」は、男女関係の不可思議さを思う。
    ――A Bit on the Side by William Trevor

  • 鋭く胸を抉る話を特徴とするトレヴァーだが、この短編集において老成した著者の筆は鈍い痛みや暖かみを伴った刻印を私の胸に刻みつけるかのよう。一編を読み終わるごとにそれぞれの運命をそれぞれに背負った人物たちを見つめる作者の深いまなざしに圧倒させられる。特に絶品だったのが「孤独」。読み終わった後、不思議と胸に鈍い哀しみ、切なさと暖かさが同居していて、じんわりと心に染み渡っていった。こんな思いをさせてくれる物語はなかなか無い。入門編として国書刊行会の短編集をまず一冊読み、本書に取り掛かることを強くお勧めします。

  • 背表紙に「自分はあの時、たしかに愚かだった」とある。
    そう、誰でも過去に思い出したくない記憶、些細なことなのだが自分の愚かさが恥ずかしくてたまらず思い返さないように押し込めているが、夜中にふと蘇ってて頭を抱える記憶がある。トレヴァーはそんな愚かさを淡々と読者の前に差し出す。
    結婚相談所で出会う男女の話が印象的だった。劇場のバーでの待ち合わせも面白い。自称カメラマンで女性に運転させられるかにしか興味がなくタダ飯をせしめようとする男。対する女性はもういい年で、若い男性と二人でレストランにいる姿を知り合いに見せることで「女として終わってはいない」と自尊心を満足させる。救いようのないシチュエーションだが、どちらも淡い満足感を抱いて別れる。

  • 好きな内容じゃない。でも、ここには何かがある。一言で表現しようとするわたしと違う。一言で言えない、言い切れない何かを短編の形で描いている。来年の藤本義一賞にはこういう話でチャレンジしたい。

  • この本でウィリアム・トレヴァーを知りました。
    短編の巨匠。
    無駄のない研ぎ澄まされた文章に静けさと奥行きを感じます。特に余韻を残す物語が多く、読んだあと、心の中ではっきりとしないけれど爽やかな淡い感覚が広がってゆくのを感じます。
    ほとんどが悲しかったり、渋い物語なのに、感傷的にならず淡々と、しかしスッキリと読者にゆだねているあたり、感服します。
    彫刻もやっていたらしく、無駄のない文章にらしさを感じました。あとがきに載っていて、あぁやっぱりと納得したのは、まずは登場人物の詳細な情報までたくさん書き出し、削っていくというもの。今、大好きな作家のひとりです。

  • ひとつひとつ丁寧な短編だと思うが、調子が似ていて、数遍を読んだところで飽きてしまった。たぶん個人的にアイルランド系の文学が合わないのかもしれない。通読していないので評価なし。

  • 「現代のチェーホフ」と呼ばれる短篇小説の名手、ウィリアム・トレヴァーの短篇集。若島正がその著『乱視読者の英米短篇講義』のなかで「つまらない作品をひとつとして書いたことのない」と称えたトレヴァーである。死にゆく人の最期に付き添う姉妹が亡き夫の仕打ちを赦すことのできない妻の心を癒す「死者とともに」から、時間を盗むようにして束の間の逢瀬をくり返してきた恋人同士が別れることを決めるその日を描いた表題作「密会」に至る全十二篇。どれも外れのない読み応えのある名篇ばかり。

    読み応えがあると評したのは、一口に「面白い」といったのでは、トレヴァー作品の魅力を言い表したことにならないからだ。まず、尋常ならとても面白いとは言い難い人物がしきりと登場する。紹介所を通じて紹介してもらったばかりの相手に食事代を払わせようとする自称写真家(「夜の外出」)だとか、ストーカーのように別れた妻のあとをつけまわし、過去に自分が中傷された経緯を聞いてもらいたがる被害妄想気味の朝食係ウェイター(「路上で」)だとか、ちょっとつき合いたくないタイプの人物が少なくない。

    トレヴァーが書きたいのは、人を感動させたり、泣かせたりする「ちょっといい話」なんかではないのだ。かといって、暗くて憂鬱な人生を描くためにわざと卑小な人物ばかりを探し出しているわけではない。人物に寄せる視線が偏っていないのだ。トレヴァーの小説に登場する人物は、まず市井のどこにでもいるような人々である。裕福な人々も登場しはするが、だからといって幸福であるとは限らない。同様に貧しい人がいつも幸せであるわけでもない。どの人物も弱みや悩みを抱えて生きている。トレヴァーは、その心の脆さに目を向ける。まるで姿の見えない精霊か何かで束の間それらの人物の心のなかに入り、いっとき憂いや惑いを共にし、満足すればするりとそこから抜け出てしまう。いなくなる寸前、小説でいえば結末の部分に、神に近いものがそこにいたという少しばかりの温か味に似たものを残して。

    難しい言葉は使っていないのに、読んでいて何やらよく分からない気がする話も多い。ふつうなら、必要となる情報を出し惜しみしすぎるきらいがある。本当はもっとたくさん書いていながら、推敲段階で削れるだけ削っているのだ。小説として成立するぎりぎりのところまで削ぎ落としている。読者に親切な作家ではない。しかし、それが作品の中に不可解な部分を生み、その不可解さを解消しようとして読者は最後まで読み通そうとする。そして最後に至り、結末を締めくくる話者の言葉に有耶無耶でであったものが、すっきりした形に整えられたのを感じて納得させられてしまうのである。

    「ジャスティーナ・ケイシーだけは道理にかなっている。クロヘシー神父は、今度もまたもそう思い、その思いが繰り返し頭に浮かぶことを嘆かわしく思いながら首を振った。正直な話、道理も何もまったく理解できない娘なのだ」というのが「ジャスティーナの神父」の書き出しである。誰もが信仰心をなくしてしまった今日、ジャスティーナのように告解し、罪を償うものはいない。無邪気で皆に愛されるこの娘にどんな罪があるのか。姉のメーヴは何に苛立っているのか。読者はなかなか手がかりを得られない。皆が口を揃えていい娘だと言うジャスティーナには学習障害があった。メーヴは老人病を患った義父、パブ通いがやめられない夫の他に妹の面倒まで見なければならない。神父と一緒に静かに神の恩寵を祈りたくなる一篇。

    小説好きには、「グレイリスの遺産」がお勧め。突然遺産相続の話を受けたグレイリスは相続権放棄の手続きのため隣町の弁護士を訪ねる。妻の望む銀行家の出世コースを外れ、図書館の分館に勤めることを選んだグレイリスには、昼休みに小説好きの女性と話をするという密かな楽しみがあった。三年後、人の口の端に二人のことがのぼり... 続きを読む

  • 最高の短編作家として評価の高い、ウィリアム・トレヴァーの短編集です。
    読み始めた時は、その面白さがよくわかりませんでしたが、読み進むうちに人生の苦さや深さを感じさせる内容に魅力を感じるようになりました。
    12篇の中で一番好きなのは、「ダンス教師の音楽」ですね。(^^)

  • 静かな描写で、生きることの孤独や寂しさを想像させる。

  • (再読)決して多くを語らない男女の関係が、置かれている状況の描写で明らかになっていく手腕が見事。

    学生寮でカラスを飼っていた賢い学生がガールと呼ばれる年老いたメイドのことを気にしながらモームの『お菓子とビール』を読んでいる、というようなシーンがいい。こういうところが芸が細かい!

  • 英語で出た短編集を全訳した本なので、栩木伸明編訳の2冊より「よりぬき」度は低いかもしれないが、どの短編にもしっかり存在感がある。一言でいえない微妙な状況を、写真に撮るように文字にするトレヴァーの力量が素晴らしい。どれも苦い話なのに、粘り強い好日性がある。生き通すってこういうことなんだろうなという実感がある。次の四篇が特によかった。

    死者とともに:夫を亡くした女をアポなし訪問する姉妹。話すことの癒し。
    グレイリスの遺産:本読みには特にぐっとくる。思い出を美しいまま保つってこいうことかも。
    ローズは泣いた:さえない十代女子が寝とられ爺さんに向ける、語られない共感。
    密会:「グレイリス」の変奏。この潔さには声も出ない。

  • 大人の短編小説集。穏やかだけど、そこはかとなく、悲しい感じがする。

  • トレヴァーは短篇の名手で評価も高い。今回の『密会』も12編の短篇がおさめられている。
    表題作の「密会」は39歳と40代半ばの男女の不倫の恋の物語で、女性の離婚を機に微妙に揺れはじめていく関係を描いている。危険な恋も時間が経過するとある意味、安定し、それからどのような時間を紡いでいくかはそれそれだろう。
    短い物語のなかを一組の男女が、等身大で歩き出すような秀作。

  • アイルランドの土地のにおいと切り取られたような静かな人生の悲哀。

  • ジンセイの場面場面はただ静かに切り取られ、断片に残るのは苦みとでもいうような。
    心地よいような苦み。

  • 孤独や哀しみを湛えながら
    生きている人々を描いた短編集。

    Trevorは彼らを突き放すでも、
    やさしく包み込むのでもなく、
    遠くからただみつめている。

  • 人間って寂しいね。そう思うのと同時に、ああ生きるって素晴らしい、と思える。そんな小説たち。クレスト・ブックらしい上質な感触。

  • 自分はあの時、たしかに愚かだった
    アイルランドとイギリスを舞台に、執着し、苦悩し、諦め、やがて立て直していく男たち女たち。英語圏最高の短編作家と称されるトレヴァーが、静かなまなざしで描く、人生の苦さと深み。

    トレヴァーは、やさしく突き放しながらも共感に満ちた筆到で、平凡な人々の孤独、欺瞞、不義、老い、死といった、人生の荒涼とした風景を描き出す。この短編集12篇はいずれも人間の謎と闇を描いているが、トレヴァーはいい悪いといった決めつけをいっさいしない。読んでいると、登場人物に対する彼の同情と理解にときおり呆然としてしまう。そして読後に感じる胸のうずきは、登場人物たちの悲しい運命のせいなのか、それとも人間を見つめる一人の男のまなざしの深さに打ちのめされるせいなのか、わからなくなる。

  • どの話も印象的だけれど、いちばん最初の話に最初だからかいちばん驚かされた。読み終わったときに、いままで行ったことない場所に連れて行かれる感覚がある。絶望の果ての本人にだけわかる静かな幸福とか、孤独のつめたさの心地よさみたいなものがよい。

  • 言いたいこと言ってはいけないこと言ってしまったこと。

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密会 (新潮クレスト・ブックス)の作品紹介

早朝のオフィスで、カフェの定席で、離婚した彼女の部屋で、寸暇の密会を重ねる中年男女の愛の逡巡…表題作。孤独な未亡人と、文学作品を通じて心を通わせた図書館員。ある日法外な財産を彼女が自分に遺したことを知って…「グレイリスの遺産」。過って母親の浮気相手を殺してしまった幼い自分のために、全てを捨てて親娘三人の放浪生活を選んだ両親との日々…「孤独」。アイルランドとイギリスを舞台に、執着し、苦悩し、諦め、立て直していく男たち女たち。現役の英語圏最高の短篇作家と称される、W.トレヴァーが、静かなまなざしで人生の苦さ、深みを描いた12篇。

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