記憶に残っていること (新潮クレスト・ブックス 短篇小説ベスト・コレクション)

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制作 : 堀江 敏幸 
  • 新潮社 (2008年8月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900700

記憶に残っていること (新潮クレスト・ブックス 短篇小説ベスト・コレクション)の感想・レビュー・書評

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  • まだ途中。
    でも短編小説ばかりだから、いくらかは読んだ。
    おもしろかった。

  • 『犬たちもいつものように吠えなかった。男が船のロープを埠頭につなぐためにかがむのが見え、そのとたん帽子が脱げて赤い髪が見えた。それは突然訪れた一風変わった春のエネルギーのように、四月の太陽にきらめいていた。彼女は湿った布巾を包帯のように手に巻き付け、それからすばやく布巾をほどいた』-アリステア・マクラウド『島』

    記憶の中のエピソードは、必ずしも時を越えて晶出する必要はないだろうと思うのだけれど、堀江敏幸の編んだアンソロジーには、揃いもそろって過去と現在のリンクが色濃く存在する短篇が並ぶ。しかし、ややもするとご都合主義臭が漂ってきそうになるそのような繋がりを、冷めた気分にもならずに素直に読み進められるのは、選ばれている作家の力量なのだろうと思うばかりだ。

    記憶に残っていること、というのが、忘れたようでいても自分が過去において下した決断と分かちがたく結びついていいるということを、どの作家も的確に描く。それが読む者に静かな共感を生む理由なのでは、と考えてみる。その決意は、エピソードそのものは忘れたとしても、主人公たちの人生を不思議とある定まった方向へ押し進めてゆく力を持つ。だから、このアンソロジーに描かれる過去と現在の結びつきを簡単に運命などと呼んでしまうのも憚られる気になる。主人公たちの、一本気な生き様が、結果として(だがしかし、それをまた必然と呼んでしまうのも何かが違ってしまうようにも思うのだが)過去を引き寄せ、記憶を手繰り寄せるのだ、と考えたい。

    ただし、記憶は過去をつくり変え一見必然的と見えるつながりを今と言う時間に縛りつけられた自分たちに見せているだけ、という疑念はそう簡単には拭い去れないのだけれども。

    堀江敏幸が最後に寄せている文章の中で、人は何かを失うことによって新たなものを得る、という総括をしているのだが、それは収支としては正しいけれども順序としてはどうなんだろう、という気がふと湧く。モノゴトの起こる順序として、この短篇集の中でしばしば描かれているのは、まず自らの手で何かをつかもうとする意思(たとえそれが無意識であったとしても)がある、ということではないだろうか、という思いが強くなる。

    サクリファイスがまずあって然る後に祈りが叶う、という図式は、むしろクレストに登場する作家たちの描く主人公の世代が否定したい親の世代の考え方、という定型が自分は見えるような気がする。主人公たちは何かを自らの意思で得る。そうしてその後自分たちが何かを失ってしまっていることに気付くのだ。ところが時を経てその失ったものの意味を改めて噛みしめてみると、親の世代たちの頑迷とも思えた教えの意味に気付く、という構図が多いように思うのである。それは堀江敏幸が指摘するようにクレストに収録される本の作家に多い移民二世代の特徴であるのかも知れない。

    失ったものによる苦悩を乗り越える時、記憶が甦り過去の意味を知る、というのが、きっとこのアンソロジーを編む堀江敏幸が意識的にか無意識的にか選ぶ一つの基準となっているだろう。そこに背景的に信仰というものがあるのが透けて見える。しかしそれは宗教的な信仰を必ずしも意味してもいないようにも感じる。世の中に変わらないものなど一つもなく、そういう予測不能の未来に備える教えは抽象化されて伝えられてきた。それは簡単には捨て去ってしまっていいものではない。そういう思いがきっと今と言う時間を生きる人々の共感を生む。そんなことを信仰心のない自分にも考えさせてしまうような短篇集である。

  • 「島」「あまりもの」が特に素晴らしい。
    どちらの短編にも、閉鎖された世界の中でのある人物の一生が閉じ込められている。
    話さなければ、書かなければ誰も気づかない、凄まじい残酷と希望が混じりあった物語。
    特に「島」は、荒海の飛沫の音と匂いが、読んでいる間続いているようだった。
    この短編集で改めてジュンパ・ラヒリを読んだが、小説を読む楽しみをまた思い出させてくれた。
    珠玉の短篇とは、まさにこのこと。
    本の世界にどっぷり浸かった数日を過ごせた。

  • ジュンパ・ラヒリの作品に初めて出会ったのが、この本に収録されている『ピルサダさんが食事に来たころ』。「遠くにいる人を想う」という感情を、はじめて理解する少女の心の動きや過程が細やかに描かれ、何回読んでも感動する。
    この小説に出会って以来、ジュンパ・ラヒリの小説をつぎつぎと読み、新作が出るのを心待ちにするようになった。そんな作家が同時代にいることを幸せに思う。

  • 2015/08/09

  • 世渡り上手とまではいかないけれど、人生をあまり苦しまずに進むために、物事や感情を上手く流す癖がついた。
    これは皆海外の話だし、小説と重なるような経験も無いのに、感情をひとつひとつ救うような細やかな表現の文章に浸っていると、そうやって自分が何処かに置いてきたものにきちんと言葉を与えてもらった気がして、時に立ち止まり振り返りながら、ゆっくり読んだ。

    特に好きなのは『ピルザダさんが食事に来たころ』と『献身的な愛』。怖かったのは『記憶に残っていること』。
    堀江さんの解説もとても良かった。

    選択と喪失。まだ選択の方が多い人生だが、これから少しずつ喪失と向き合う機会が増えてゆくのだろう。その覚悟がまだできていない。

  • 10作どの短篇にも、それぞれに感覚の異なる余韻がある。
    少ない言葉から想起される、登場人物の周辺や未来・・・さまざまなことが読み手に任されている余韻。
    また、移民や内戦、砂埃の道・・・のような、日本的ではないものが色濃い世界を戸惑いながら歩いている感覚もある。そのうちにふっと話が終わって、異国にぽつねんと取り残される・・・そういう、余韻。

  • 新潮クレスト10周年記念の短篇アンソロジー。

    現代海外文学の中からえりすぐりを日本に紹介し続けているクレストブックス。その短編120篇から堀江敏幸さんが選んだ物語が残す深い余韻は人生の哀しさとかそういうもの。

    まだ読んだことがなかったアリステア・マクラウドがフェイバレットだけれど、すべての物語が愛おしい。

    最高の短編集。凄いなあ。

  • あまりもの、島、が好きです。短編集を読むことはあまりないけど、自分の性格とか気持ちと照らし合わせて読むことができていいものですね。

  • ユダヤ人移民が古くからの風習を捨ててまで新しい土地に順応していく話。アップルケーキを捨てに行くシーンが印象的。

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