記憶に残っていること: 新潮クレスト・ブックス短篇小説ベスト・コレクション (Shinchosha CREST BOOKS)

制作 : 堀江 敏幸 
  • 新潮社
4.02
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本棚登録 : 381
感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900700

作品紹介・あらすじ

新潮クレスト・ブックスでは、1998年の創刊以来、ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』、アリステア・マクラウド『冬の犬』、アリス・マンロー『イラクサ』、イーユン・リー『千年の祈り』など、世界に名だたるベテランから、デビューしたての新人まで、いずれ劣らぬ名手たちの短篇小説集をお届けしてきました。シリーズ創刊10周年を記念して、これまで刊行した短篇集のなかから10篇を厳選。堀江敏幸編の特別のアンソロジーをつくりました。現代最高峰の短編小説を堪能できる、とびきり贅沢な一冊です。

感想・レビュー・書評

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  • “世界最高の短編10作”という触れ込みで<新潮クレスト・ブックス>創刊10周年特別企画としてシリ-ズの全短編120篇から選び出された贅沢な短編集です。政治社会の貧困と疲弊、自然界の脅威が、恋愛・夫婦・家族の問題と絡み合い、日々の生活に悶々として生きる人々の姿が描き出されていきます。 心に深くしみわたり重厚な余韻の残る A.マクラウドの『島』、W.トレヴァ-の『死者とともに』、Y.リ-の『あまりもの』が特に印象的でした。

  • 新潮クレストブックスが創刊10周年を記念して刊行した短編集10編。角田光代氏の短評として「読むことの先に、ことごとく未知の体験がある。短篇でしか味わえない広がりと余韻がある」とある。確かにそうなのだが、短編であるがゆえにすべてのストーリーに同じように入り込むことは難しかった。
    今回はデイヴィッド・ベズモーズギス「マッサージ療法士ロマン・バーマン」、アリステア・マクラウドの「島」、イーユン・リー「あまりもの」に強烈な印象を受けた。『人権』とは無用の世界。生きていくことって容易じゃないよね。少し前の人たちは、いや今だってこんな風に生きている人たちがいる。角田氏の言葉を借りれば「読み終えてもなお、圧倒されるような光景と、幾多の濃密な生が私の内に残っている。」 
    一方、アダム・ヘイズリット「献身的な愛」では、安定な暮らしをしている姉弟さえも、危うさを抱えて生きている。編者のあとがきに「人は何かを失わずには何かを得ることはできない」とあるが、読み終えた今、まさしくと感じた。

  • 堀江さんの編んだアンソロジーというだけでまず読みたくなるよね。

  • まだ途中。
    でも短編小説ばかりだから、いくらかは読んだ。
    おもしろかった。

  • 『犬たちもいつものように吠えなかった。男が船のロープを埠頭につなぐためにかがむのが見え、そのとたん帽子が脱げて赤い髪が見えた。それは突然訪れた一風変わった春のエネルギーのように、四月の太陽にきらめいていた。彼女は湿った布巾を包帯のように手に巻き付け、それからすばやく布巾をほどいた』-アリステア・マクラウド『島』

    記憶の中のエピソードは、必ずしも時を越えて晶出する必要はないだろうと思うのだけれど、堀江敏幸の編んだアンソロジーには、揃いもそろって過去と現在のリンクが色濃く存在する短篇が並ぶ。しかし、ややもするとご都合主義臭が漂ってきそうになるそのような繋がりを、冷めた気分にもならずに素直に読み進められるのは、選ばれている作家の力量なのだろうと思うばかりだ。

    記憶に残っていること、というのが、忘れたようでいても自分が過去において下した決断と分かちがたく結びついていいるということを、どの作家も的確に描く。それが読む者に静かな共感を生む理由なのでは、と考えてみる。その決意は、エピソードそのものは忘れたとしても、主人公たちの人生を不思議とある定まった方向へ押し進めてゆく力を持つ。だから、このアンソロジーに描かれる過去と現在の結びつきを簡単に運命などと呼んでしまうのも憚られる気になる。主人公たちの、一本気な生き様が、結果として(だがしかし、それをまた必然と呼んでしまうのも何かが違ってしまうようにも思うのだが)過去を引き寄せ、記憶を手繰り寄せるのだ、と考えたい。

    ただし、記憶は過去をつくり変え一見必然的と見えるつながりを今と言う時間に縛りつけられた自分たちに見せているだけ、という疑念はそう簡単には拭い去れないのだけれども。

    堀江敏幸が最後に寄せている文章の中で、人は何かを失うことによって新たなものを得る、という総括をしているのだが、それは収支としては正しいけれども順序としてはどうなんだろう、という気がふと湧く。モノゴトの起こる順序として、この短篇集の中でしばしば描かれているのは、まず自らの手で何かをつかもうとする意思(たとえそれが無意識であったとしても)がある、ということではないだろうか、という思いが強くなる。

    サクリファイスがまずあって然る後に祈りが叶う、という図式は、むしろクレストに登場する作家たちの描く主人公の世代が否定したい親の世代の考え方、という定型が自分は見えるような気がする。主人公たちは何かを自らの意思で得る。そうしてその後自分たちが何かを失ってしまっていることに気付くのだ。ところが時を経てその失ったものの意味を改めて噛みしめてみると、親の世代たちの頑迷とも思えた教えの意味に気付く、という構図が多いように思うのである。それは堀江敏幸が指摘するようにクレストに収録される本の作家に多い移民二世代の特徴であるのかも知れない。

    失ったものによる苦悩を乗り越える時、記憶が甦り過去の意味を知る、というのが、きっとこのアンソロジーを編む堀江敏幸が意識的にか無意識的にか選ぶ一つの基準となっているだろう。そこに背景的に信仰というものがあるのが透けて見える。しかしそれは宗教的な信仰を必ずしも意味してもいないようにも感じる。世の中に変わらないものなど一つもなく、そういう予測不能の未来に備える教えは抽象化されて伝えられてきた。それは簡単には捨て去ってしまっていいものではない。そういう思いがきっと今と言う時間を生きる人々の共感を生む。そんなことを信仰心のない自分にも考えさせてしまうような短篇集である。

  • 色んな作家の短編集。大切なものは人によって違って大事にする方法も違って、でも失くした時の痛みは誰のものもよく似ているのかもしれない。

  • 記憶に残されることがある
    記憶に残すことで思い出を形作り今を生きる

  • 寝る前に一日一編ずつ読み、次の日にその物語のことをぼんやり思い出しながら日々を過ごした。しみじみと味わう。71

  • アリステア・マクラウドの「島」と、ベルンハルト・シュリンクの「息子」以外の8編を読んだ。ジュンパ・ラヒリの「ピルザダさんが食事に来たころ」(『停電の夜に』より)と、アンソニー・ドーアの「もつれた糸」(『シェル・コレクター』より)は既読のはずなのに全然覚えていないことに衝撃。

    『シェル・コレクター』のレビューで引用してるのが(↓)この短編からで、驚く。確かに読んでいる…! 全然覚えていない…!

    短く、潔いんだ、文章が。「マリガンの胸で熱く血がたぎる。リールが悲鳴をあげる。魚は跳ねる。」みたいな。

  • アダム・ヘイズリット「献身的な愛」
    姉と弟。森で首をくくって自殺した母親の死体を見つけてしまった姉は思わず弟の目を覆ってかばおうとする。その咄嗟の行為、その時のふたりのカタチ。それがこの物語の核になっている。

    アリステア・マクラウド「島」
    孤島に暮らすひとりの女性の生誕から死までを描いた力作。短編なのに非常に重厚。一方終わり方は爽やかでいつまでも心に残る佳作。

    ウィリアム・トレヴァー「死者とともに」
    ろくでなしの亭主に先立たれた女が通夜の席で慈善団体の職員に今の心情を吐露する。「夫婦であること」についての鋭い考察。

    新潮クレストブックスは二冊目。前作の『美しい子ども』ほどではなかったけれども、この三作品は非常に素晴らしかったです。

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