通訳ダニエル・シュタイン(上) (新潮クレスト・ブックス)

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制作 : 前田 和泉 
  • 新潮社 (2009年9月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900779

通訳ダニエル・シュタイン(上) (新潮クレスト・ブックス)の感想・レビュー・書評

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  • 名著。実在の人物を題材に反フィクションという手法でイスラエルという社会と彼を取り巻く人物を鮮やかに描き出す。
    「通訳」としてのダニエルはユダヤ人であることを隠してナチスの通訳を務めユダヤ人救済に尽力した「戦争の英雄」だが、本書はむしろ、キリスト教に帰依しイスラエルで活動した修道士としての活動が中心となっている。
    ダニエルはイスラエルで、ユダヤ人なのになぜキリスト教徒なのか、という、マジョリティであるユダヤ教徒からのプレッシャーと軋轢に巻き込まれる。当然、ユダヤVSキリストより激しい争いはユダヤ対イスラム教、アラブ人との間にある。歴史、宗教、人種の複雑な問題を抱えたイスラエルこそが、イエスが生まれモーゼが十戒を授かった「神」の土地なのだ。ダニエルはあらゆる「神」のもとでの平等を信じ実行しようとする、その揺るがない信念が胸を打つ。
    テーマは重いが決して辛気臭い小説ではない。ダニエルの人懐こくユーモアのある人間性は読んでいて楽しい。彼の周りに自然と引き寄せられる国籍立場時代を超えて多様な人々は、彼に長年寄り添う女性も、彼に「変人」といわれる夫婦も、手紙一枚のみの登場となる老人も、彼らの人生と人柄が生き生きと描写されている。ウリツカヤの小説家としての確かさが存分に味わえる。

  • ポーランドに生まれたユダヤ人、ダニエル・シュタインの半生を、本人やその周辺の人たちの手紙を通して描く。
    そしてダニエルの半生から描き出されるのは、
    『相互不理解とそれを認める努力』の物語。

    ダニエルはユダヤ人でありながら、戦時中の体験がもとでカトリックの司祭となり、そしてイスラエルに移住し教区を持つという非常に複雑なアイデンティティを持った人物。
    また、イスラエルという国自体もユダヤ人とアラブ人、ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒が入り交じる複雑なアイデンティティと、簡単に割り切れない歴史を持った国だ。
    ダニエルの周囲には、その一生を通して、異質な価値観や文化をもった人間が多数ひしめき合ってきた。

    宗教や国籍といった大きな話だけでない。
    本書には、親子や夫婦間の相互不理解に苦しむ人たちもたくさん登場する。
    彼らは社会の最小単位である家族内ですら、異なる価値観が原因で相手を理解できず、時に傷つけあう。

    カトリックも正教もユダヤも関係なく、唯一の神に祈る、共通の祈りの場を作りたい。
    その一心で活動を続けるダニエルの元に、そういった難しい生立ちの人たちが惹きつけられる。中にはダニエルの影響を受け身近な人との不和を乗り越える人もいれば、あるいはダニエルに反発を覚え離れていく人もいる。
    ダニエルの活動の全てが報われるほど現実は甘くはない。
    でも、相互理解の社会を目指すダニエルは、人々に対する希望と期待に満ちており、その明るくどこかユーモラスな性格が相俟って、軽やかな気分で読了できる。

    本書のタイトルは「通訳ダニエル・シュタイン」である。
    しかしダニエル本人が実際に「通訳」を生業としていたのはほんの一時期であり、人生の大半を「聖職者」として生きた。
    にも関わらずタイトルを「通訳」としたところに、著者の万感の思いが込められているようだ。

  • [25][131015]<m市

  • 上巻の印象から言えば、パウロ・コエーリョと同じ匂いがしてとても苦手。実在のユダヤ人の、ホロコーストを生き残って、他人に手を差し伸べ続けたカトリックの修道僧の話なので、神や宗教について、ユダヤの視点が書かれていてはっとする。私はパレスチナ問題について色々思うところがあるから。こういう本を好んで手に取っているわけでなくて、西欧では、宗教と生活は切り離して考えられない。それを肌で感じる。

  • ※『通訳ダニエル・シュタイン』下 参照

  • <ナチズムの東欧からイスラエルへ渡ったユダヤ人カトリック神父。寛容と共存に生きた奇跡の生涯。>

    なぜ人は争いあうのか?
    人種、性、政治信条・・・・この世界には数限りない人を分断するものが溢れています。
    なかでも宗教は、たくさんの救いをもたらすと同時に、たくさんの血を求めてきた。
    同じ“唯一神”を崇めながら反目しあうイスラム、ユダヤ、キリスト。
    (「ユダヤ人はアラブ人が滅ぶよう祈り、アラブ人はユダヤ人が滅ぶように祈ってるんだ。
     しかも同じ神様に。神様はいったいどうしたらいいんだい?」 本文中より)
    そしてそのキリストの中でもカトリックがあり、プロテスタントがあり、東方正教等多くの諸派がある。

    そんな不寛容と差別、無理解で満ちた世界に一筋の光を放ったのが神父ダニエル・シュタインです。

    実在の人物(!)オスヴェルト・ルフェイセンをモデルに描かれ彼は、
    ただただ誠実に、そして飄々と宗教や人種の垣根を越えていく。

    彼は言います。

    同じ人間だ。色々なものを削ぎ落としたその核が、同じならよいじゃないか、
    神への道は一つではなく、多様にあり、各々が各々の道で神への道を歩めばよいじゃないか。

    ホロコースト、コミュニズム、パレスチナ、イスラエル、そして教会権威・・・
    たくさんの壁を乗り越え、自分の道を貫いたダニエル、
    宗教・人種の橋渡しとなった彼はまさに「通訳」です。


    作者自身が作中、こんなことを述べています。

    「(この物語は)いつも通り、売れないものになるでしょう。
    それはおそらく、この至上主義の時代に作家が出来る最高の贅沢です」

    確かに手紙と資料で成り立ち、時系列や登場人物がバラバラなこの物語は多元的・重層的で難解。
    (訳者あとがき曰く、「まさに世界の多様性を表現しているような」)
    しかしだからといって、この物語の読む価値を認めないことには決してならない。

    ノーベル賞をあげててでも世界中の人に読んで欲しい。

  • ヨーロッパ、ソ連、イスラエル、アメリカを舞台にした大河小説。

  • 東京新聞書評より

    [評者]稲葉 真弓(作家)
    ■ユダヤの混沌と哀しみの声
     六百万人の犠牲者を出したナチスによるユダヤ人虐殺は、二十世紀最大の悲劇のひとつだ。しかし、奇跡がなかったわけではない。本書は、ゲシュタポの通訳をしつつゲットーから同胞ユダヤ人を脱出させ、戦後、カトリック神父となってイスラエルに渡ったダニエル・シュタインの生涯を、モンタージュ形式で綴(つづ)った大作。実在の人物オスヴァルト・ルフェイセン=「ブラザー・ダニエル」がモデルだそうだ。

     五部構成の本書は、彼の青春時代より、イスラエル時代に重きを置いているが、それは故郷イスラエルを追われたユダヤ人の混沌(こんとん)の歴史、かの地における民族宗教の複雑さを語るために必要な分量だったのだろう。

     アラブ人キリスト教、ユダヤ人キリスト教、ロシア正教、その他小さな宗派がそれぞれの教義を擁し、反発しあう複雑な世界で、宗派・民族を超えた「理解と寛容」の手を差し伸べる彼は、ある人々には聖職者、ときには異端者とみなされる。「どうしたら他民族を理解できるのか。人間性を失わずにすむか」。二十一世紀の課題でもある問いを問い続けた彼のすべてを見逃すまいと、作者が選んだ本書の構成は、じつに緻密(ちみつ)で多層的だ。

     なんと多くの「声」が満ち満ちていることか。ゲットーを脱出、後に抵抗運動の士となったユダヤ人女性リタ・コヴァチ、その娘のエヴァ・マヌキャン、同じくゲットーでの虐殺を免れた医師ハントマン夫妻、ドイツ人の犯した歴史的責任を贖罪(しょくざい)するためダニエルの教会で働くヒルダ・エンゲルなど。彼らが互いにやりとりする書簡や日記、手記、談話などから静かに力強くあぶり出されてくるダニエル像…。

     語り部(声)である人々の「ユダヤ的個人史」が本書の魅力である。その無数の「個人史」が、差別・迫害を受け続けたユダヤ民族の哀(かな)しみと、いまも世界にはびこる民族紛争、排他主義の虚(むな)しさを伝えてくる。

  • 図書館から借りてきました。

  • 下巻を読むべきかどうか悩んでいるあいだに上巻の記憶も薄れてきたので、断捨離本かな…。

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通訳ダニエル・シュタイン(上) (新潮クレスト・ブックス)の作品紹介

ダニエル・シュタインはポーランドのユダヤ人一家に生まれた。奇跡的にホロコーストを逃れたが、ユダヤ人であることを隠したままゲシュタポでナチスの通訳として働くことになる。ある日、近々、ゲットー殲滅作戦が行われることを知った彼は、偽の情報をドイツ軍に与えて撹乱し、その隙に三百人のユダヤ人が町を離れた…。戦後は、カトリックの神父となってイスラエルへ渡る。心から人間を愛し、あらゆる人種や宗教の共存の理想を胸に闘い続けた激動の生涯。実在のユダヤ人カトリック神父をモデルにした長篇小説。

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