週末 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
3.15
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900908

作品紹介・あらすじ

かつて赤軍派テロを首謀した男が、恩赦を受けて20年ぶりに出所した。姉は郊外の邸宅を準備し、旧友たちを呼び寄せる。密告者は誰だったのかと訝る元テロリスト。遠い日の失恋に思いをめぐらすジャーナリスト。9.11テロについて考え続ける英語教師。旧友たちの和解を願う女性牧師。そして、邸宅に現れた謎の若者。やがて苦い真実が明らかになり、未来への祈りが静かに湧き上がる-。『朗読者』の著者による「もう一つの戦争」の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 「かつてテロリストだった男が、20年ぶりに出所した週末。
    正しいと信じた闘いが決定的に損なったものを、人はどのように償いうるのか?」

    ーーという裏表紙の文言に惹かれて読み始めたが、予想は裏切られた。
    私は、「かつて命をかけて信じたことによって自分の人生のあまりに長い時間を失い、その過程で、かつて信じたことへの疑念をもつに至った男の葛藤と救済の物語」なのだろうと思ってしまったのだが、全く違った。
    私が勝手に期待しただけなので、作品には罪はないのだが、主題の回収の仕方も「え!それ?」という終盤だったので…星2つ。

    彼の出所が突然決まり、ブラコンが過ぎる姉によって集められたかつての友人達。それぞれの思索が交錯しながら、物語はすすむ。
    登場人物の一人である元テロリストの内省の深まりはなく、どちらかというと生きるのが不器用な人間の表層に見える。
    登場人物達がかつての仲間との再会に戸惑ったり、予想外な出会いになったり、「この週末」を非日常として捉えいつもの日常に思いを馳せたりするくだりは、ある程度年齢を重ねた者には共感とともにいろいろ考えさせられる時間ではあった。
    美しい表現や、読み応えのある情景の展開は所々あるので、文学作品としては良質、かな。ただ数人の人物造形はなんだかご都合主義というか違和感があった。主題との距離感も、法律家だからなのだろうか?微妙な印象。(もちろんそういう距離感で素晴らしい文学作品もあるのだけれど。ちょっと違う)

    ちなみに、テロリスト本人も、元仲間達のほとんども高学歴で裕福な家庭の子息。先日読んだ『テロール教授の怪しい授業』を裏付けるようで、フィクションなのに妙にそこだけはリアルを感じた。

    別作品では『朗読者』しか読んでないが、あの作品は恋愛作品のようで、下敷きとしてアウシュビッツが出てくる。匂わせるだけでなく、著者が正面から戦争やテロリズム、暴力や正義について書いている作品があるのなら読んでみたい。

  • 大統領の恩赦で出所した元テロリスト。その出所を祝って、姉は旧友たちを田舎の屋敷に呼び寄せる。かつてのテロリストの仲間、弁護士etc。それぞれの思いを持って集まったメンバーと、出所した元テロリスト。かつての恋、テロの真実、裏切り。徐々に明らかにされていく真実と、現実。
     恩赦となった元テロリストの未来を見据えて、心に触れる作品。
     
     「朗読者」もそうだったけれど、淡々と書いているようで、徐々に昇り詰めていくようなシュリンクの描き方は、読む者を引きつけます。ナチスや9.11とのかかわりが描かれ、欧米人の罪の感覚が伝わるような気がします。

  • うーん、わからない。

    収監されたドイツ赤軍派の活動家が20数年ぶりに釈放れ、初めての週末を旧友とすごすという筋にまずひっかかる。
    志をいまだ捨てない革命家と、かつての同志といえども、すでに一般人となった者たちが再会を果たすなんてありうるのだろうか?
    そしてその場で革命における正義について議論されたりするのだが、革命家がまるで時代遅れの意識を引きずった道化みたいに描かれているのも違和感がある。

    赤軍世代にうまれながらも、傍観者として時代を過ごした作者の革命に対する距離感に由来するものだろうか?

    桐野夏生さんの「夜の谷を行く」がよほどリアルだった。

  • 劇がみているかのような物語だった。舞台は田舎の古い屋敷。恩赦を受けた元テロリストが招かれて、週末をすごす。集まったのはテロリストの姉、友人、弁護士、息子・・・。それぞれの立場と思いの違いが描きだされて切ない。過去にはもどれない。過ちを過ちと認めることの厳しさ、償いとは可能なことなのか、赦すとはどういうことなのか、そんなことを思った。思いの数だけ正義がある。週末を終えそれぞれの日常へ帰っていくところで物語が終わるのだが、柔らかな光が射しているように感じられた。

  • ベンハルト・シュリンクの「朗読者」を読んで涙したので、今回はテロリストの話かと思って手に取ってみましたが、ちょっと設定的に無理な感じがあって、私の中ではいまいちでした。

  •  20年前に逮捕された赤軍テロリストが恩赦を得て出所する。その姉が彼を出迎え、かつての友人たちを集め山荘で週末を過ごすことを計画した。

     読み始めたころ、登場人物と略歴が憶えきれず一覧表にしようかなと思ったくらいだが、中盤あたりから各々のキャラクターが立ち、僕の脳内で行方不明になる者もおらず、すっかりおなじみのメンバーになっていた。

     閉鎖された空間で次々に思うことを口にしていく、まるで演劇の舞台を見ているようだ。皆のセリフも舞台のセリフのようで、文学の深みに欠けるように感じる。

     静かな展開で、ところどころに穏やかな起伏がありテーマも文学的ではあるけれど物足りない印象だった。

  • いろいろ考えさせられるし箴言が多い。朗読者もそうだけど,賢い人なんだろうなと思う。
    登場人物が多いから名前が頭に入らなくて,何度も読み返す羽目になった。登場人物一覧をつけた方がよいのではと思う。原作にはついてないんだろうけど,名前に馴染みがあって頭に入りやすい原著を読める人とは違う訳だし。

  • 国家権力による暴力で虐げられる人々。暴力には暴力で抗おうとするテロリズム。大いなる目的のためには、命を犠牲することはやむを得ないという考えは正しいのか。縛られた体制を変えようとしても、言葉では何も変わらないという事を見せつけられた人間は、国や世界に絶望し狂気へと一歩を踏み出す。罪を犯し、恩赦により、壊そうとした社会に戻ってきた一人のテロリスト。彼が成そうとしたものは何なのか。何かが変わったのか。長い時間、隔絶されていた人々との関わりで、彼が見出したものは、本当に彼が望んでいたものだったのだろうか。

  • 151110読了。
    シュリンク作品の中では驚くほど穏やかで、緩やかな、最後まで幼少期の回想立ったんじゃないかっていうくらいの、静かな週末の話。
    けれども主人公は20年間服役してまさに出所したところのテロリストで、好奇な目で見る友人やその家族、今の職をいかして弁護してくれるもの、当時は知らずとも遠くから案ずるもの、いろいろな人々が、主人公とその姉によって集められて週末を過ごす。
    なんでもない恋の再燃や、新しい恋の芽生えや、思想の乖離、また畏怖を唱えるこどもの世代まで、緩やかな曲線のなかで少しずつ疣が飛び出るように話は連なっていく。
    最後の主人公の告白は、ちょっと衝撃的で、でもその展開に安心したりもする。
    他のシュリンク作品に比べたら物足りないかもしれない。でも腹八分目が、かえって心地よい。

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著者プロフィール

ベルンハルト・シュリンク(ドイツ:ベルリン・フンボルト大学教授)

「2019年 『現代ドイツ基本権〔第2版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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