タイガーズ・ワイフ (新潮クレスト・ブックス)

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制作 : T´ea Obreht  藤井 光 
  • 新潮社 (2012年8月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900960

タイガーズ・ワイフ (新潮クレスト・ブックス)の感想・レビュー・書評

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  • バルカン半島に根を持つ、深い森のような物語

    紛争が繰り返される南東欧の地。
    子どもたちに予防接種を受けさせるため、僻地へと向かう若き女医のもとに、祖父が死んだと知らせが入る。
    女医である孫以外には自らの死病を隠したまま、辺境の小さな町で祖父は人生を終えたという。なぜ、何のために祖父はそこへ向かったのか。
    祖父の死の謎を探る彼女は、祖父がかつて話してくれた「不死身の男」の話と「トラの嫁」の話を手掛かりに、祖父の人生の「物語」の中へ分け入っていく。

    冒頭は、祖父と孫娘の話として始まる。孫娘が子どもの頃、動物園でトラを眺めるのが2人の習慣だった。祖父はいつもコートのポケットに『ジャングル・ブック』を忍ばせていた。祖父にとって、トラは特別な存在だった。かつていた、「もう少しでトラになるところだった」ろうあの少女「トラの嫁」もまた。

    冒頭の印象を裏切り、この物語は祖父と孫娘だけの物語には留まらない。
    まるで、迷宮の中をあちらこちらの部屋の扉を開けていくように、めまぐるしく視点が移り変わり、祖父や「トラの嫁」を取り巻く人々が背負う人生やその内面も描き出していく。

    祖父が幼少時を過ごした僻村には数多くの「迷信」が根付いていた。
    合理的であるということと、世界をすべて自分の枠組で理解できると過信することとは違うのだ、と思う。
    未知なるものへの畏れは「迷信」を呼ぶ。「迷信」は「伝説」を形作り、「伝説」は「物語」を産む。
    物語とともに生きていく人々。その生き様は、何と豊かであることか。

    全編に紛争の影は漂っているが、しかし、この物語は紛争に囚われてはいない。それとは逆に、紛争をも取り込み、呑み込んでしまうような物語だ。

    ちりばめられる東欧の風物が印象的だ。
    カトリックの祭である公現祭。
    蒸留酒であるラキヤ。
    「不死身の男」と祖父が楽しむ晩餐のデザート、トゥルンバやバクラヴァ、トゥファヒヤ、カダイフ。

    美しく、しみじみと哀しい。
    誰しも、自分の胸にしまっておくべき物語を持っているのだ。


    *トラの逃避行の描写がすばらしくて涙した。

    *戦火のストレスで自傷したり、仔を傷つけたりしてしまう動物たちが出てくるのだが、これは実話かな。なかなか想像で思いつくことではないと思う。痛ましいことだ。

  • 医師であった祖父は、石のようなはげ頭をしていて、胸ポケットにはつねに『ジャングル・ブック』を持ち歩き、動物園にトラを見に行くのを習慣にしていた。その祖父の生涯を織りなす、豊潤な物語の連なりから成る小説である。
     一人の男、一丁の銃、一匹のトラの背後には、さらにそれぞれの物語があって、戦争と死の濃い影に縁どられながら、互いの物語や現実と共鳴しあって、幻想的で豊かな世界をつくりだしている。旅先で、なんてことのないように見える小さな通りを歩きはじめると、その両側に奥へ奥へと心を誘う魅惑的な小路がいくつものびているのを発見することがある、そんな感覚を思い出す。
     いくつもの忘れがたく魅惑的なシーンがある。祖父が初めて語り手の孫娘ナタリアに「不死身の男」の話をしてくれる夜。起きている者はほかに誰もいない暗い街、「長い刃のようなすべすべの線路が輝いている」通りの向こうにうかびあがる、ゆっくりと動くゾウの影。そこで祖父は、誰にも話さずに胸にしまっておくべき物語があることを教えてくれたのだ。
     トラの嫁になった少女、死神を伯父にもつ不死身の男。彼らはおとぎ話の登場人物のようでいながら、戦争と死の匂う現実の中に立ち現われてくる。包囲され、明日には殺戮の現場となる美しいサロボルの街、ほかには誰もいない暗いホテルのレストランのテラス席で砲撃の音を聞きながら、誇り高き給仕が出すこの街最後の食事を、不死身の男ガヴラン・ガイレとともにする場面。それはあまりに美しく非現実的だが、実際に戦争では、あまりにも非現実的なことが現実になったのだった。
    祖父の幼い頃から絶えなかった戦火は、孫のナタリアの人生にも影を落とし続けているが、祖父が胸にしまってきた物語もまた、引き継がれていくのだ。親しみ深い死者たちの声とともに。何度もくりかえし味わいたい、胸しめつけられるほどに魅惑的で豊かな物語。

  • 丁寧に描かれたマジックリアリズムな雰囲気の過去のストーリーは、
    アメリカで暮らす著者の生まれた土地への強い欣慕を示しているのだろうな。
    デビュー作にしてこのクオリティー、素晴らしすぎます。
    2011 年 オレンジ賞受賞作品。

  • バルカン半島にある戦争が終わったばかりのとある国で、医者として隣国に向かう女性と、その祖父の話。現代も過去もとにかく骨太。少女は本当に虎の妻だったのか。それは最後まで謎のままで、それがまた想像力をかき立てる。

  • 冒頭部分は祖父との思い出話というていで何気なく始まる。ところが、『トラの嫁』と『死なない男』の話が語られ、語り手の孫との現在が縦横無尽に交差し、過去の場所が今この現在に違和感無く偏在する不思議。トラの吐く息がかかるような臨在感、ゴシック的な魔女でも現れそうな靄のかかった風景、因習にとらわれた人々の丁寧な描写、すべてが格調高く、読み応えのある物語だ。

  • “虎の嫁”と“不死身の男”。
    祖父が孫に語った不思議な不思議な物語は、戦火を経た今も孫のなかに息づくいている。

    でもちょっと肩透かしを食らった感じも。

  • 感想を書くのを忘れているうちに本屋大賞翻訳小説部門で1位になった!おめでとう!
    複数の物語が並行して語られ、次第にパズルのピースのようにはまっていくカタルシス。語り口のうまさも光る。虎の嫁と呼ばれた聾唖のムスリムの少女、不死身の男と祖父との邂逅、幻想的な物語と、戦火のバルカン半島を思わせるシビアな現実が重なる。虎の柔らかい足が、爆撃による瓦礫を踏む違和感、祖父と孫娘が夜中の無人の街路で象が歩くのを見る場面での静寂など、場面の空気が伝わってくるようだった。
    ここまでの優れた小説の著者が驚くほど若く(ついでに美人!)、翻訳者の藤井さんも若い。彼らがこの先差し出してくれる物語を思うと、楽しくなる。

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  • 幻想的な雰囲気の濃い、ファンタジックなお話でした。
    私はその雰囲気の濃さが気に入りました。

    この本が高評価を得ている「歴史と土地を描く」ということに関しては、確かにそうだし、すごかったと思います。
    ひとりひとりの物語が丁寧に書いてあって、ストーリーに奥行きが感じられました。
    しかし・・・私はあまり・・・。
    ひとりひとりの歴史物語が唐突に始まり、ただの説明文のように感じられ、おまけにだらだらと長く、リズムよく読めませんでした。
    退屈しながらその人の歴史を読んで、やっと物語が進んで面白くなってきたぞー!と思ったら、また歴史のコーナーに入って読む速度が下がる・・・ということを繰り返してました。
    物語自体の終わり方もまとまりがなく、物語自体の面白さを十分に活かせているとは思えず。
    読後は、なんのお話だったっけ?ってなるような、そんな本でした。

    幻想的な気分を味わうには秋の夜長のお供にするのがいちばんかと思います。

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タイガーズ・ワイフ (新潮クレスト・ブックス)の作品紹介

紛争の繰り返される土地で苦闘する若き女医のもとに、祖父が亡くなったという知らせが届く。やはり医師だった祖父は、病を隠して家を離れ、辺境の小さな町で人生を終えたのだという。祖父は何を求めて旅をしていたのか?答えを探す彼女の前に現れた二つの物語-自分は死なないと嘯き、祖父に賭けを挑んだ"不死身の男"の話、そして爆撃された動物園から抜け出したトラと心を通わせ、"トラの嫁"と呼ばれたろうあの少女の話。事実とも幻想ともつかない二つの物語は、語られることのなかった祖父の人生を浮き彫りにしていく-。史上最年少でオレンジ賞を受賞した若きセルビア系女性作家による、驚異のデビュー長篇。全米図書賞最終候補作。

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