祖母の手帖 (Shinchosha CREST BOOKS)

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  • Amazon.co.jp ・本 (141ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900984

作品紹介・あらすじ

1950年秋。サルデーニャ島から初めて本土に渡った祖母は、「石の痛み」にみちびかれて「帰還兵」と出会い、恋に落ちる。いっぽう、互いにベッドの反対側で決して触れずに眠りながらも、夫である祖父には売春宿のサービスを執り行う。狂気ともみまごう人生の奇異。孫娘に祖母が語った禁断の愛の物語。遺された手帖と一通の手紙が、語られなかった真実をあきらかにする。ストイックさとエロティックさが入り混じった不可解な愛のゆくえと、ひとにとっての「書く」という行為の気高さをゆったりとした語り口で描きだす奥行きの深い物語。

感想・レビュー・書評

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  • とても静かな言葉で、ある種の狂気とその幻想的で不可思議な美しさを綴ったイタリアの小説。予想外のラストに「えっ!そっち!??」と思わず声を出してしまった。
    でも不思議と肩透かしとは思わないのは、その静謐で美しい文体と、緻密に編みこまれた構成のおかげという気がする。

    物語は、孫娘が祖母とその家族の人生を語る、という形で、回想の物語として幾分時系列を乱して語られる。

    狂おしく「愛」を求めていたのに長年誰からも愛されず、第二次世界大戦中に家族のすすめで、生涯愛さなかった夫と30歳でようやく結婚した祖母。持病である「石の痛み」のせいでずっと子供に恵まれなかったサルデーニャ育ちの彼女は、40歳を前にして湯治治療のためイタリア本土を訪れる。
    そこで彼女は生涯の恋の相手となる「帰還兵」と出会う。そして、帰郷して9ヶ月後に、待望の男児を出産する。
    けれど、その生涯の恋は実は…。

    読み終わって色々な感情が胸に渦巻くのだけど、うまく言葉にできない。
    私の薄っぺらい人生の経験値と感性を凌駕しているということかもしれない。

    ただそれでも、かなり短い作品なのに、色々と要素が多く、けれどそれがとても丁寧に破綻なく融合されて形をとっており、とても技巧的な作品なのはわかる。

    その生涯であまりにも不可思議な「家族への愛」を幾つも築きあげ、そして「生涯の恋」をも作り上げた祖母の実態は、語り手である孫にも読者にも掴みきれない。

    でも、愛ってそういうものなのかもしれないと思わせる納得感と吸引力がこの作品には確かにある。

    もう少し年齢を重ねてから再読したら、もっと身にしみてわかることがあるのだろうか。
    とりあえず、こんな話を見事に形にした作者の技量と美しい文体に、この作者の別の作品をもっと読んでみたいと熱烈に思えた作品。

  • 古今東西、誰もが一度は胸にかかえる疑問、
    ”愛”とはなんだろうか?
    が、今さらのように沸き上がってくる。

    ”愛”とはなんだろうか?
    なぜ”愛”を求めずにはいられないのか?

    昔語りのような語り口。名前ではなく、「わたし」「祖母」「祖父」「父」「母」という呼称しか与えられない登場人物たち。
    よって、若い頃たぶん美しく魅力的であっただろう祖母が、自傷を繰り返したり、周囲に頭がおかしいと思われたりすることや、「売春宿ゲーム」すらも、生々しさは適度に散逸し、むしろ、迷いや渇望が宿命的に持つ哀しさが漂ってくる。

    祖母は、親の決めた結婚をし、相手である祖父とはベッドの中で出来るだけ離れて眠る。祖母と祖父は「売春宿ゲーム」でつながるのみで、愛を求め続ける祖母は、療養先で「帰還兵」と出会い恋に落ちるのである。

    ”愛”は言ってみれば「言い値」で、本人以外にとって異質だろうが受け容れ難かろうが、本人にとって”愛”ならそれは”愛”なのだな、と思う。

    作者の作品を出版しているノッテテンポ出版社の設立の志に違わず、まさに、「夜寝る前にくつろいで読む良質な本」。
    それも、大人が読める、大人こそが読んで満たされる本、と言えるだろう。
    読んだあとに、ジンセイの甘みと苦さが、静かにじわじわと沁みる。

    「言い値」がある幸せ、を(もっともっと)噛みしめるがいいよ、と「祖母」から言われたような気持ちになる。

  • サルデーニャの作家と言えば、ノーベル文学賞を受賞しているグラツィア・デレッダが有名(読んだコト無いけど)。。。

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    「サルデーニャの祖母が遺したノートには激しく秘めやかな「帰還兵」との愛の日々が記されていた。注目のイタリア作家による傑作小説。」

  • 祖母は手帖に人には言えない気持ちを綴り、自分が自分でいられるよう保っていた。その中で結石の治療のために訪れた温泉地で、「帰還兵」と知り合い恋に落ちる。
    こう書くとロマンス小説のようだが、実は親子三代による愛の物語として成立していて間口の広さに驚かされた。
    また章によって長かったり短かったりするのを不思議に思っていたが、解説を読んで納得した。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「間口の広さに驚かされた。」
      女性の強さ(私には上手く言い表す言葉が見当たりませんが)に感動しました。
      次の作品が翻訳されるのが待ち遠しいで...
      「間口の広さに驚かされた。」
      女性の強さ(私には上手く言い表す言葉が見当たりませんが)に感動しました。
      次の作品が翻訳されるのが待ち遠しいです。
      2013/06/28
  • 祖母の手帖読了。手帖が小道具としてきいている。語り手は「わたし」。自分が結婚することになり、2人の祖母のことを振り返る。人物描写でイメージがわくのは祖父でした。祖母は美人らしいけどイタリア人の美人…?て感じでイメージわかない。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「?て感じでイメージわかない。」
      えーーー私にとって美人と言えばクラウディア・カルディナーレ(ちょっと古過ぎたかな)。
      実は未読なので、違う...
      「?て感じでイメージわかない。」
      えーーー私にとって美人と言えばクラウディア・カルディナーレ(ちょっと古過ぎたかな)。
      実は未読なので、違うイメージかも知れません。
      2012/12/05
  • なんて、苦しい 最後の最後に冷えたナイフで突き殺されたような感覚
    愛とは苦しみと快楽と、喪失と充実が満ちては引いては波のように押し寄せて交差するものかもしれない
    けれど、如何にもこうにも愛というものに無縁な人はいる
    孤独を神に押しつけられる人もいる 前世で犯した大罪でもあるのかってくらい そうなのかも?
    泣きそうになりました、って最後の言葉……ほんとになあ

    情景として、爆撃機の迫る小さな村 みんな防空壕に避難していないのに、たった1人ケーキを作って炊事の煙が上がる
    なんでこんな静かで悲しいんだろう

    静かで美しい
    愛おしいけど寂しい
    月を見ると、手に取りたくなるから ならば最初から目なんてなければいい

  • 映画化された『愛を綴る女』を観てから読んだ。舞台は映画はフランスだけど原作はイタリア。映画よりもずっと良いと感じたのは、一人一人のバックグラウンドが丁寧に描かれていたから。家族との関係、政治や芸術との関わり、心にしまった深い秘密。哀しくて美しい物語。 「わたし」が、自分のルーツを探るように祖母の愛の遍歴を語っていくという手法。もう一人のリア祖母の物語もとても良かった。エンディングでは意表をつかれ、結局祖母は生涯誰からも愛されなかったのかと哀しくなった。そこはリア祖母は一瞬でも本物の愛を経験したことを秘密として持っていたことと対比されるのかな。
    「わたし」が父親に会ってみたいと思い行動に移さなければ、リア祖母の一瞬の煌めきは永遠にわからなかった。リア祖母は書かなかったし語らなかったから。そこも二人の祖母の対比になっている。ただ、帰還兵に「きみはおかしくない」と繰り返し言われたことで、祖母が救われたことは間違いないと思う。

  • ふむ

  • 祖母の手帖に書かれていたことについての話。
    かなりエロティックな本でした。
    でも結局それは祖母の空想でのことだということが最後の帰還兵の手紙でわかります。
    で、なんだったんだろう?という疑問だけが残りました。
    祖母はやっぱり理解しにくい人でした。こういう人もいるのだなというくらいの感想です。

  • 美しく魅力的なのに結婚できないでいた祖母。その祖母が書きつずった手帖の存在を知り、自分のルーツでもある祖母や父を知りたいと、手帖の事実をたどる孫娘。
    情熱的であるがゆえ、情緒的にもなりやすい祖母。それでも孫娘のとっては、最愛の優しき祖母。そんな祖母と、父の出生の秘密をたどりなが、孫娘が最後に知る真実。

    自由な祖母と、それをはるかに許容する祖父。最後の最後まで鍵となる祖母が唯一愛した帰還兵との関係。
    ラスト数ページで、あぁと言わせるストーリーに感服しました。

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