あなたを選んでくれるもの (Shinchosha CREST BOOKS)
- 新潮社 (2015年8月27日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105901196
感想・レビュー・書評
-
映画監督であり、女優であり、作家でもあるミランダ・ジュライの不思議なインタビュー集。
ミランダの家には毎週火曜日にフリーペーパーの『ペニーセイバー』が届けられる。脚本執筆のスランプに陥っていたミランダは、その小冊子を熟読するうちに、ふとここに売買広告を出すのは一体どんな人たちなのかと興味を覚える。そして、とうとう手当たり次第に彼らに電話して、インタビューのアポイントを取り始める。
本書にはその12人との邂逅が、たくさんの写真とともに掲載されている。売り物も、革ジャケットからオタマジャクシ、赤の他人のアルバムと買い手がつきそうにないものばかり。当然、売り手自身も個性的で、小銭をセイブするために広告を出している人ばかりではない。
本書はまた、ミランダの映画『ザ・フューチャー』ができるまでを描いている。そこには、クリスマスカードの表紙部分を『ペニーセイバー』で売りに出していた老人ジョーとの、あまりに忘れ難い出会いがあった。
実のところ、読書中はミランダの上から目線がひたすら鼻についた。結婚や子どもをつくることが、人生を物語るに足るものにするという言葉にも反発を覚えた。インタビュー相手へのあまりに辛辣なコメントには、ここに載っている人たちは自分がどう描かれているのか知っているのだろうかと心配になるほどだった。
ただ、よく考えてみると、ミランダは己の感覚を飾らずに表現しているだけなのだ(もしかすると、飾らない風に飾っているのかも知れないが…)。おそらく、あのインタビューの場にいたなら、私も同じような嫌悪感や恐怖を感じるだろう。それを書く勇気がないだけで。
結局、読み終えた後も消化し切れずに、また取り出しては何度も読み返している。なぜこのタイトルにしたのかも気になる。最近ではあまりしたことのない不思議な読書体験が続いている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
テレビで長嶋有さんが薦めていていつか読もうと思っていた本。
好きだなーと思うところとそうでもないところがあった。男の子の話がいちばん好きだったかな。最後の男性の写真でぐっと来た。津村記久子さんが好きになるというのも分かる気がする。 -
インタビューに答えてくれる人達のキャラが強烈すぎて、本文が喰われてる感あった笑
-
単なるインタビュー集とは言い難い。一般人(割と普通ではない)とのやり取りや筆者の正直過ぎる感想、筆者自身の脚本執筆の行き詰まり等、全部が相まって最後に光がさす。他人との関わりは面倒くさいが面白い、ということを再認識させられた。多様性などと綺麗事言ってないで、ミランダのように扉を叩けたらカッコいい。
-
アメリカの新聞に個人が載せれるリサイクル品譲渡/販売欄があり、脚本執筆に行き詰まった作者が興味をひかれた人にアポをとって話を聞きにいくインタビュー集。作者の自意識の葛藤がうーんとなる部分もあったけど、フィクションみたいな色々な(かわった)人が現実にいることの説得力がよかった。写真も良い。
-
西加奈子だか、誰か作家が薦めていた本で読みたいと思っていた本。小説のつもりで借りたらインタビュー集だった。広告を出す人は一体どんな人なのか、どんな人生を送って来たのかをインタビューする。
-
素晴らしく映画的。
フリーマガジンに変なものを「売ります」と出品している人たちにインタビュー、見えてくる本当にいろいろな人生のあり方、絶望の形。著者のスランプも相まって、pathetic な気持ちになってくるけど、最後の出会いが奇跡を運んで、救われる。
日本でもメルカリの出品者に取材していったらこんな経験できるかしら。いやいや、かなり殺伐としそう… -
映画の脚本に行き詰まり、現実との接点を見失いかけていた
ミランダ・ジュライが、「ペニーセイバー」(売ります買いますというやつね)に広告を載せてる人たちに電話をかけては取材に行くという、まあいちおう、ノンフィクションの部類でしょうか。
彼女が出会う人々は、トランス中のMTFだったり、足首にGPSをつけてるヤクの売人だったり、写真の切り抜きで想像の家族を作っている引きこもりの青年だった李、とんでもなくぶっとんだキャンピングカーの住人だったりと、驚くべき人たちなのだが、どこか小説の登場人物たちのような感じがするのは、ややロマンチックなトーンで撮影された写真のせいだけどもなく、おそらくは、他人と話しているときでも実はつねに自分とだけ会話しているようなミランダの文章のせいなのでしょう。
現実の世界に触れたいんだといいつつ、実は自分の中から一歩も外に出て行かない感じが、言葉は悪いけど自意識過剰な中二病っぽく、それでいて最初からカメラマンと助手を連れていって取材費も払うあたりも、ちゃっかりしてる感じもあって、まあ結局いつものミランダ・ジュライだよね。
と思っていたら、最後に思いがけない展開に。たしかにこのジョーという人物はほんとに魅力的。そして彼が亡くなったあとに登場する彼の奥さんが話してくれるエピソードがまた、いい。
これでミランダが現実世界と向き合うようになったというわけではなく、たぶんちょっぴり触れ合い方が変わったんだろう。まあこういうぶっちゃけかたも彼女の描きだす世界の中にあるといえばそうなのだけど。それにしてもここに書かれた人たち、怒らなかったかしらねえ。