未成年 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901226

作品紹介・あらすじ

輸血を拒む少年と、命を委ねられた女性裁判官。深い余韻を残す長篇小説。法廷で様々な家族の問題に接する一方、自らの夫婦関係にも悩む裁判官の元に、信仰から輸血を拒む少年の審判が持ち込まれる。聡明で思慮深く、しかし成年には数か月足りない少年。宗教と法と命の狭間で言葉を重ねる二人の間には、特別な絆が生まれるが――。二つの人生の交わりを豊かに描きながら重い問いを投げかける傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • おもしろ!!!!夢中で読んでしまった
    判決文の言葉選びの美しさにぞわぞわした
    頭の良い方ってセクシーですな、、フィオーナは60近いとはいえ背筋がピンと伸びたとても美しい方なんだろうなぁと想像して読みました。容姿ではなく滲み出る知性と少女のような内面が外見にも現れてる人なんだろうなぁと。
    病室でのシーンや彼からの手紙も、衝撃的な展開もすべてが好きすぎた、、
    彼の尊厳よりも彼の命を優先しますって言葉がエグい。しびれた、こんな判決文読んじゃったら自分の信仰も揺らぐわな

    アダムは信仰や神など関係なく自分を救ってくれた彼女を想うほど自分自身の信仰や家族の考えなどに揺れ動いて苦しくなってしまったのかなぁ、、なぜ彼があの決断をしてしまったのかあれこれ考える。辛いけどとても考えさせられるし信仰というのは日本人の自分には理解し得ないものがあるんだろうなと。
    思慮が浅い若造の自分では理解しきれぬところもあったので、おばあちゃんになったらまた読み返してどう思うか考えたい

  • 私には本作はハッピーエンドに想える.

    本作はフィオーナとアダムは常に二項対立で描かれている.

    パーソナリティという意味においては
    「社会的に極めて模範的な""マイレディ""だが,内面はその実まるで若娘のようなフィオーナ」
    に対して
    「外見はどうにも若い子供なのに,精神的には成熟しているアダム」

    自己由来では無い罪によって罰を受けると意味においては
    「夫の唐突な浮気によって別れを突きつけられるフィオーナ」
    に対して
    「輸血を許さない教義ゆえに座して死を待つアダム」

    両者は様々な心身的な応酬の果てに劇的な結末を迎えるが,共に「自らの罪が許される」という点で括られ,並立させられているように思う.

    つまりは
    「(親愛以上の)キスをしながら,夫に許されるフィオーナ」
    に対して
    「実質的には自殺で有りながら,天の国へ迎え入れられ,讃えられるアダム」

    といった感じである.

  • 裁判官としての仕事に真摯に向き合いながら、日々の生活を精一杯送るフィオーナ。
    若さ故に未成熟な自分の視界を広げてくれた存在に、さらに多くの期待をしてしまう(そう自分には映った)アダム。

    フィオーナが優秀な裁判官である以前にひとりの人間であるという部分も、未成年の精神の揺らぎも。人間の感情の不安定さがとても丁寧に描かれていると思った。

    仕事として真摯に向き合った結果、起こるひとつの出来事。
    人を救うという事に責任が付いてくるなら、どこまでが仕事として向き合う部分なのか。

    この小説に限った話ではないけど、人の心を文章にするということの凄さを最近よく感じる。

  • 先日観た『チルドレン・アクト』が思いの外良かったので、原作も読んでみようと図書館で。
    映像先行のため、文章が映像となって蘇ってくる。
    と同時に、小道具が違ったり、私には文章だけでは読み取れなかった場面が、映画ではより拡大されていたりと、記憶と目の前の文章が同時に立ち上がってくるような感覚があった。
    宗教と法律の対立はもちろん、子供を守ることや、子供じみた行いと言った意味も込められているのかもしれない。
    せっかくの意味合いが邦題だと伝わりにくいし、かと言って映画タイトルのようにカタカナ転記も技がない。(代案は無い)
    著者本人による脚本のせいか、映画は原作の拡大解釈というか、もう一つ先に進めたもののように思う。映画の方がより希望が感じられたので。思い切って話してみるとか、心のままに動いてみるとか。

  • 宗教上の理由から輸血を拒む少年と病院に輸血を認める判決を下す還暦間近の女性裁判官。二人の間の心の触れ合いが描かれる。無垢な少年の思いに戸惑いつつも理性的に振る舞う主人公が見せたほんの一瞬の「隙」。派手さはないが落ち着いた文章によって主人公の取り返しのつかない後悔が読者の胸に我が事のように迫ってくる。

  • イギリスの高等法院家事部で裁判官をつとめる59歳の女性フィオーナ・メイ。日々、判断の難しい案件を多数処理する忙しい身でありながら、自身も今現在、結婚生活の危機を迎えている。夫のジャックはここ数週間夫婦間の夜の営みが無いことを責め、人生最後のエクスタシーを得たいと妻に浮気を公認させようとするのだ。妻の仕事のことを知ってればそんなこと言えないんではないかと思うんだけど、欧米圏は違うんですかね……。
    そんなときに、エホバの証人信者二世の未成年の少年への輸血を認めるかどうかの案件が飛び込んでくる。
    それまで挙げられていた案件からも、社会と宗教の摺合せの問題は本当に難しいことが見て取れるが、これは更に少年が児童保護の対象から外れる18歳まであと3ヶ月であり、彼の非凡さや敬虔さもまた考慮に入れるべきだという訴えもあった。果たしてどう裁定しようというときに彼女が取ったのは、対象となる少年アダムと直接面談することだった。

    マキューアンの作品は『贖罪』もそうなのだけれど、ある些細とも言えるきっかけが思いもかけず運命を翻弄することになることがあり、あまりにも苦過ぎる時間を過ごさざるを得ない展開がありがちだな、と感じる。あれが無ければと後悔しても詮無く、その時はそうするしかなかったのだろうし、繰り返しその分岐点が来ても、また同じことをするに違いない。そのくらいやむを得ないことでもあったのだけれど。でも、これから生涯、この苦さを味わい続けていくことになるのだろう。それを、わたしたち読者も読むことで、その一部を受け持っているような気さえしてくる。

    マキューアンは初期のカルト的な作品も大好きなのだけれど、中盤からこっちの作品もそれぞれ素晴らしく、読んだ後に何年も、何度も反芻することが多いのです。また、作品ごとに取り扱う題材も様々で、特に昨今は専門性の高い題材を扱い人間の根源的な愚かさや滑稽さ、どうしようもなさを描くことが多く、その旺盛な執筆欲には毎回舌を巻きます。彼の作品を読むと、王道というのは常にアップデートされてこそ王道なのだなと感じる次第。これから発表されるだろう作品もまた楽しみです。

    この作品は映画化もされていて、マキューアン自ら脚本を担当したとか。ちょうど読み終えたタイミングで期間限定上映をしていることを知り、なんとタイムリーと喜んだら、首都圏は立川かみなとみらい。あまりにも極端で移動の時間もお金もかかるので、結局見合わせました。土曜日に行くタイミングがあればよかったのにな。

  • わたしもクリスチャンの両親の下育ったので、その教えが真理であることをそれこそ未成年の頃は疑わなかった。しかし成人して信仰を捨てた事がある。本書を引用すれば「世界はどんなに開かれた、美しい、恐ろしい場所」に変わる。しかし同時に絶望もするだろう。彼は捨てたにしろわずかな信仰心から自分が犯した罪への罪悪感、悪魔の攻撃の恐怖に包まれた事ではないか。結局彼が自殺したのは、そうゆうことなのではないかと思う。読ませる1冊だった。

  • 未成年の自己決定権について書かれた小説だと思っていたので、かなり拍子抜けしてしまった。

  • アダム、未成年。エホバの証人
    ギリック能力あり。大人びており、思慮深い。果たして彼の選択は、成人のそれと判断されるか?
    置かれていた閉鎖された世界の位置づけは?

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著者プロフィール

イアン・マキューアン1948年英国ハンプシャー生まれ。75年デビュー作『最初の恋、最後の儀式』でサマセット・モーム賞受賞後、現代イギリス文学を代表する小説家として不動の地位を保つ。『セメント・ガーデン』『イノセント』、『アムステルダム』『贖罪』『恋するアダム』等邦訳多数。

「2023年 『夢みるピーターの七つの冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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