屋根裏の仏さま (新潮クレスト・ブックス)

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制作 : Julie Otsuka  岩本 正恵  小竹 由美子 
  • 新潮社 (2016年3月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901257

屋根裏の仏さま (新潮クレスト・ブックス)の感想・レビュー・書評

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  • 送られてきた写真と身上書だけを頼りに見知らぬ男と結婚を決め、日本から海を渡って米国へ嫁いだ娘たち。

    主語(主人公)をすべて「わたしたち」にして、三等船室からさわさわと娘たちの声が聞こえるようにして物語は始まる。
    わたしたちは港に着き、迎えに来た夫は、写真よりずっと年寄りだったり醜男だったり、貿易商や銀行員ではなく貧乏人だったりすることを知る。そうして、日系移民としての苦労の多いわたしたちの人生が幕を開ける。
    そっけないほど淡々とした語り口の「わたしたち」の言葉が重なり重なりしていくうちに、全米に散らばったわたしたちそれぞれが積み上げていった人生がゆるやかに繋がる。
    リフレインのように連続する短い文章の奥に、実は深刻なドラマもあることもうかがえるが、そこはさらさらと通り過ぎる。そうしているうちに読むわたしも「わたしたち」の中に溶け込んでいく。わたしもまた、若くて無知で貧しかった「わたしたち」のひとりになって、海を渡り、子を育て、子を産まず、きまじめに仕事をし、春をひさぎ、夫を愛し、夫を憎み、夫を裏切り、友を作り、愛人を作り、年をとり、人生を作っていく。
    同じ船でやってきて、それぞれの場所でそれぞれの人生を紡いだ「わたしたち」は、だが、戦争によって日系人収容所という同じ場所に追い立てられ、石を積むように作りあげた暮らしを、突然手放さざるを得なくなる。

    この本の魅力を伝えるのはとても難しいので、つい言葉が長くなる。少しでも気になった方は、ぜひ読んでほしい。160頁ほどで、すらすらと読める本なのに、深い深い余韻を残す。いつまでも「わたしたち」の声が耳に残る。

    この本は、岩本正恵さんが翻訳が未完のまま世を去られたので、小竹由美子さんが後を引き継いで完成させたものだという。訳者もまた「わたしたち」だ。
    本編を読了後、小竹さんによるあとがきを読み、一生懸命こらえていたものがわっとあふれ出た。電車で読んでいたので、上を見て涙をこらえねばならなかった。

  • アメリカに移民文学は多数あれど、日本人のものは少なかったのではないか。この端正な翻訳は素晴らしいし意義がある。
    戦前、写真だけを渡されて海外に渡った花嫁がWWⅡで収容所に連行されるまで。冒頭とラストの文章に胸打たれる。そして「わたしたち」として個を持たない彼女たち、控えめで大きな声を持たない女性たちが、異国で思いも寄らぬ運命に巻き込まれ思わずあげる小さな「声」に耳を澄ます。

  • 訳者あとがきで、小竹さんがルグウィンの書評を紹介して、詩のようなだと述べているのだけど、まさに。
    写真花嫁として、会ったこともない夫のもとへアメリカに渡った"わたしたち"が、異国で疎外され、苦労し、戦争という嵐に巻き込まれるさまを細切れのたくさんのシーンで描きとる。
    CMで色んな家族の写真をスライドショーにして流したりするのがあるけど、あれに似ている。
    会ったこともない家族。見たことのない場所。車のある風景…うちには自家用車があったことなんてないのに。それでもあのムービーに感じる郷愁。
    この小説にはぼんやりとした総体としての不安と疲弊とそれでも優しい風や笑い声がある。

  • 「わたしたち」の視点で語られる体験は、静かな口調で頭の中をかけめぐる。読み進めるうちに、少女たちがさざめく音に飲み込まれそうになった。表紙のような柔らかい雰囲気を残しつつ、激情をも含む不思議な力を持つ本。最初の1ページの引力が忘れられない。

  • アメリカに、嫁ぎに行った女たち。夢見て、打ち消されて、壊されて、黙って来る日も来る日も畑に出て家事をして休まず働いて、子供ができたりできなかったり、老けて奪われて。

    何にも知らずに、未来の夫となる男の写真だけを頼りに、船に乗って知らない土地に向かうって、想像するとひどく恐ろしい。

    彼女たちを待ち受けていたのは、上陸するまで思い描いていた夢物語なんかじゃなく、簒奪され酷使される日々なのだが、それを我が身の運命として受け入れ生き延びていった「私たち」の声が像が、淡々と積み重なってひとつになって届く。

  • 私たちと言う主語を用い
    個々の私の真実が幾重にも重なって
    一つに合わさった時に
    圧倒的な言葉のうねりとなって
    心に迫ってくる。

    簡潔な文章の重なりが詩的で美しい

  • 19世紀後半に始まった日本からアメリカへの移民が独身男性だったが、その相手として見合い結婚でアメリカへ嫁いだのが「写真花嫁」の少女たち。
    記録されなかった彼女「たち」の声を集め、「詠唱」のように語られた物語。独特なこの語り口がたくさんの少女「たち」を表現している。またそれぞれのエピソードが「わたし」「たち」として、自分のことのように書かれているのも特徴的。
    屋根裏に置くことを強いられた仏さまのように、忘れさせられようとする歴史を表に出させたことは、作者の功績。
    そんな作者と年齢が近いと知ると、こうした物語はもう私たち世代が掘り起こし、調べて書いていかなければいけないのだと知る。

  • 花嫁になるために海を渡った女たちの声声声。さざ波のように聴こえてくる。

  • 労働力としてアメリカに渡った男達と写真結婚で海を渡った女達の
    「わたしたち」という一人称複数で語られる物語

    写真とはまるで違う男達
    手紙で書かれていた裕福な生活のかけらもない過酷な労働
    通じない言葉
    同化を求められ消えていく文化
    発音しづらい名前は変わり、身体だけを求められる夫婦生活

    その中で小さな思い遣りの芽生えたり、子を授かったり、浮気をしたり、逃げ出したり、彼女たちの赤裸々人生が叙事詩のような言葉で紡がれる

    戦争という抗えない渦に巻き込まれ築きあげた全てを置いて収容所へ向かうわたしたち

    日常の中で刻々と迫り来る立ち退き命令に侵食される恐怖から逃れようとする淡々とした描写が、今のわたしたちの生活にも重ねられそうな現実感を持って迫ってくる

    移民、難民を拒絶しようとする風潮もある現代に「わたしたち」の立場に立つことで想像できることがあると思った

    向き合わないとわからない痛みを想像する術の一つとなる本だった

  • 【分類】933.7/O88
    文学のコーナーに並んでいます。

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屋根裏の仏さま (新潮クレスト・ブックス)の作品紹介

20世紀初頭、写真だけを頼りに、アメリカに嫁いでいった娘たち――。その静かな声を甦らせる中篇小説。百年前、「写真花嫁」として渡米した娘たちは、何を夢みていたのか。厳しい労働を強いられながら、子を産み育て、あるいは喪い、懸命に築いた平穏な暮らし。だが、日米開戦とともにすべてが潰え、町を追われて日系人収容所へ――。女たちの静かなささやきが圧倒的な声となって立ち上がる、全米図書賞最終候補作。

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