人生の段階 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (151ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901363

作品紹介・あらすじ

誰かが死んだことは、その存在が消えることまでは意味しない――。最愛の妻を亡くした作家の思索と回想。気球乗りは空の高みを目指す。恋人たちは地上で愛しあう。そして、ひとつに結ばれた二人が一人になったとき、遺された者はもう生の深さを感じられない。―― 有能な著作権エージェントにして最愛の妻だったパット・カバナをとつぜん喪ったバーンズは、その痛みに満ちた日々をどのように生きたのか。胸を打つメモワール。

感想・レビュー・書評

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  •  気球の歴史を書いているのかと思いましたが違いました。いや、しかし、やっぱり気球の歴史なのかもしれません。うーん、どうすればいいのでしょう。
     手練れの小説家の「喪失」を巡る自己凝視は気球で飛ぶフランスの女優の話になるというのがジュリアン・バーンズなのですね。そんなふうに言っちゃいけないのかもしれませんが、なんとも、まあ、うまいものです。
     ブログにうだうだ書きました。覗いてみていただければ嬉しい。
      https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202111180000/

  • 3部構成
    史実
    小説
    エッセイ

  • 妻を(正確には最愛の妻を)なくした作家の記録。
    感傷を超えた先の、いっそ淡々とした風なのだけど、傷は一切癒えてなんていない。まだ生傷のままだ。瘡蓋になんてなっていないし、瘡蓋にしたいのかもわからない。
    このことを説明する前に気球に関する2章がある。
    ないとつながらないし、かといってぴったりくっついてもいない。(「組み合わせたことのないものを二つ、組み合わせてみる。それで世界が変わる。」という幾度となくでてくる文章みたい)

  • 3部は60すぎて妻を亡くしたバーンズの心情の告白だが、これほど痛切な愛のメッセージを読んだことがない。自殺を考えたバーンズに対しては申し訳ないが、長年愛し愛された二人ともが、ほとんど羨ましい。
    私は独身で自分の愛する家族を持たないし、親兄弟の死にはこれほどの喪失感や嘆きを感じないことが分かっている。バーンズの言う分水嶺をまったく越えないままに一生を終えるのだ。

  • 亡き妻の回想録と思いきや、いきなり気球の話が始まります。3部構成の本の中で、直接妻のことを語っているのは第3部だけなのですが、無関係に思えた1部と2部の気球の話が、つながってくることに驚きました。
    物語は、どのパートも様々な断片を集めたような構成ですが、それがとても効果的だと思いました。

  • 3編の小品からなる作品集だが、最後の作品「深さの喪失」に、本書のメインテーマが書かれている。
    愛する人と出会い、その最愛の妻を突然の癌で喪う。その時の心の動きを、妻を喪った作者が、5年後に振り返って書き綴る。
    ただし、彼は妻を喪った事実を乗り越えたわけではない。
    喪った妻と同居する方法に折り合いをつけだだけなのかもしれない。

    人とと出会うことは、いつか別れが来ることを、私たちは最初から知ってはいる。
    しかし、一般的には知っていても、誰もその喪失の覚悟を持っているわけではない。ましてや、それが所謂天寿を全うしたという年齢まで達していない場合には、その事実は残されたものの心をえぐり傷つける。
    心は愛する人の喪失を乗り越えることなんかないんだよ。

  • 江藤淳が妻亡き後に死を選んだとき、私はショックだった。どれほど偉大でどれほどのことを成しても、愛する人を亡くした苦しみには堪えられないのかと。落胆した。

    だからここでジュリアン・バーンズが「もし私が自殺すれば、それは妻をも殺すことになる。だから自殺はできない」「私の自殺で妻は二度目の死を迎え、私の中にあるまばゆいばかりの妻の記憶は、浴槽の水が赤くなるにつれ薄れていく」「私は、妻が私に望んだはずの生き方をしなければならない。」と思うに至ってくれて、本当によかった。
    ここに昇華してくれて、本当によかった。

  • 人生の段階 ジュリアン・バーンズ著 個人の経験が神話へと飛翔
    2017/5/6付日本経済新聞 朝刊

     2008年、作家ジュリアン・バーンズの妻が脳腫瘍で亡くなる。著作権エージェントとして働く彼女は、バーンズの公私にわたるパートナーだった。その5年後に刊行された本書は、妻パットに捧(ささ)げられている。
     しかし妻が登場するのは、3部からなる本書の第3部のみである。第1部は、19世紀後半に気球で冒険した人々のドキュメント、第2部はイギリス軍人で気球乗りのフレッド・バーナビーと、やはり気球に乗ったことのあるフランスの大女優サラ・ベルナールとの架空の恋物語。そして第3部では、妻を失った作家の心境が率直に綴(つづ)られている。
     一見すると、内容もジャンルもバラバラなものを寄せ集めたようだが、読んでみると不自然さを感じない。それは簡潔で陰影に富む文体の説得力のためだけではないだろう。実際、この3部の主題は緩やかに交錯している。「高さの罪」と名づけられた第1部では、気球が人間にもたらした自由と危険が語られる。神の視点で地上を見られるようになった一方、墜落の衝撃は計りしれない。本書における気球とは、現代の生のメタファーである。
     第2部では、この宿命的な飛行と恋愛が結びつけられる。「ある者は芸術で、ある者は宗教で、だがほとんどは愛の力で」人間は神々の高みに達する。しかし同時に、「すべての恋愛は潜在的に悲しみの物語」でもあると作者は言う。イギリス軍人とフランス女優という、あり得ない組み合わせの恋愛のなかに、バーンズは出会いの奇跡と悲哀を凝縮する。こうして飛行と恋愛、そして生の悲しみを導入してから、おもむろに本書は妻の思い出を語る第3部へ移行するのだ。
     本書の冒頭では、「組み合わせたことのないものを二つ、組み合わせてみる。それで世界が変わる」と述べられている。こうした奇跡には、彼と妻との出会いも含まれるし、本書における様々な主題の交錯も含まれるだろう。ゆえに本書は、個人的な経験を現代の神話へと飛翔(ひしょう)させる試み、深く傷ついた心がそれでも飛び続けるための喪の作業として読むことができる。墜落の衝撃と痛みを知った人には、深く訴える作品である。
    原題=LEVELS OF LIFE
    (土屋政雄訳、新潮社・1600円)
    ▼著者は英国の作家。著書に『終わりの感覚』(ブッカー賞)など。
    《評》東京大学准教授

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