五月の雪 (新潮クレスト・ブックス)

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制作 : Kseniya Melnik  小川 高義 
  • 新潮社 (2017年4月27日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901370

五月の雪 (新潮クレスト・ブックス)の感想・レビュー・書評

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  • 小川高義さんが訳したあたらしいロシア系米国作家の物語、読まないわけにはいかない。
    ロシアの、その名を聞く人が聞けば「ああ…」と思い当たるいわくのある小さな町。そこに暮らし、かつて暮らしていた人たちの物語の連作集である。
    一篇、二篇、と読み進めていくにつれ、さっき読んだ物語の登場人物が顔を出す。さっきはさらりと出ていたその人の若いときであったり、すっかり年を取ったときであったり。そうして幾人もの人々それぞれに物語があったのだと気づく。
    著者はラヒリの作品に出逢い、「カレーとボルシチという違いはあっても」深く共鳴し、本作を書きはじめたという。なるほどと思わせる味わい。
    まだ若い作家だが10年をかけて本作を完成したという。これからどんな作品を生み出していくのか、楽しみにしたい。

  • 作者の生まれたマガダンという町。ロシア北東部といっても、広大なロシア連邦のことだ。どこだろうと思って地図を開くと、意外に日本に近い。オホーツク海に面した港湾都市。カムチャッカやアラスカという地名がよく出てくるはずだ。マガダンにはソ連時代に収容所があった。流されてきた文化人や芸術家が釈放後もそのまま居つくことがあって、地方都市ながら、極北の地ではあっても、文化的には恵まれていたのだろう。

    医師となった祖母オルガ、父を捨てて地方の文化人であった男と出て行った母マリーナ、航空関係の仕事に就き、まずはアラスカへ移動、今はロサンジェルスで引退生活を送る父トーリク、有名なテノール歌手の支援者でもあった祖父、といった家族の一人一人を視点人物にして、作家自身と思しいソーニャの家族とそれを取り巻く友人、知人を含む一種のファミリー・ヒストリーを、短編連作小説風に仕立て上げたのが、『五月の雪』だ。

    連作と書いたが、人物も時間も直接的につながっているわけではない。しかし、よく読んでゆくと、ああ、これはあの作品に出てきた彼女のことだな、と分かるように書かれていて、再読時には、あれやこれやがつながって完全なジグソー・パズルの絵柄が浮かび上がってくる仕掛けだ。

    例えば、スキーの事故で骨折したトーリクが黒海沿岸の保養所に出かけたとき、出会ったのがマリーナ。回想視点で書かれた、この時の話が「皮下の骨折」(2012)にある。現時点で父と母は別居はしているがよりは戻っている。一方、上階に住むテノールの歌手のことを祖父が回想する「上階の住人」(1997)では、母は家を出、映画監督に部屋で同居中だ。父が何かとそれについて愚痴るのだが、相手の男は腐しても、母のことはまだ恋しいらしく、何やらおかしい。

    時間の順序が前後しているので、初読時は人物相互の関係がよく分かっていない。全く関係のない別の短編のつもりで読んでいる。むしろ、そう読んでもらいたくて、この並び方にしたように思われる。というのも、作家の分身であるソーニャはまだ若く、物心ついた時にはアメリカに移住している。語るべき素材は、家族から伝え聞くロシア時代の暮らしがほとんどである。しかも、母方の祖母には祖母の、父方の祖父には祖父の別の暮らしがあり、語るべき事柄は無数にある。

    外国文学を読む面白さの一つに、自分の国とは異なる自然や食物、料理といった日常生活の細かなあれやこれやにふれる喜びがある。近くて遠い国という言葉があるが、ロシアもその一つだろう。しかも、社会主義時代のソヴィエト連邦は「鉄のカーテン」が敷かれていて、暮らしはおろか、何も知ることができなかった。同じように中国からアメリカに渡ったイーユン・リー、あるいは、著者が影響を受けたジュンパ・ラヒリら移民としてアメリカに渡った作家の作品には、故国に対する割り切れない感情が滲む。

    クセニヤ・メルニクには、リーに見られるほど政治的な問題意識は感じられない。収容所の存在も、どちらかといえば懐古的に語られる。それよりも問題は物不足の方だ。「イタリアの恋愛、バナナの行列」(1975)は、そのものずばり。モスクワの叔母を訪ねたターニャが、飛行機で乗り合わせたイタリアのサッカー選手に誘われたデートに出かける途中、見つけたバナナの行列に並び、時間に遅れてしまう。そのバナナも空港で見失うという、花より団子、虻蜂取らずの両主題をそつなくまとめた一篇。

    一線を退いたダンス教師が、一人の若い生徒に才能を見出し、夢中になることで、失いかけていた若さや情熱を再び手にする姿を描く「ルンバ」(1996)も、ファミリー・ヒストリーの周縁に位置する物語。若い才能に入れあげた教師の思いが、思春期の娘の反抗心や好奇心に翻弄される滑稽さを描く、古典的といってもいいストーリーだが、ルンバのラテン的な情熱が、どちらかといえば沈滞し、陰鬱なロシアの極東地帯の田舎教師を一時的にせよ、奔騰させる。その娘アーシャの母が、ソーニャの父トーリクの親友トーリャンの初恋の人、というから、スピン・オフを見ているような気分だ。

    ソーニャが主人公として活躍する唯一の作品が「夏の医学」(1993)。おばあちゃんのような医師になりたいという夢を持つソーニャは、ある夏のこと仮病を使って祖母のいる大病院に入院する。好奇心剥き出しの少女が、仮病のばれていることも知らずに、医師や看護師との間で繰り広げるやり取りが、何とも狂騒的で、なるほど作家になるような少女というのはこんなことを考えているものなのだな、と納得させられた。

    余談だが、ロシア人は本当にボルシチが大好きなのだな、と改めて思った。何かというとボルシチが出てくるからだ。やはり、寒さゆえだろう。アメリカに来てもパーティとなると大鍋でボルシチを作る。まあ、アメリカといってもアラスカのフェアバンクスだから、ロシアと緯度は何ほども変わらないのだが。結婚してアメリカに移住した娘の家を訪れた母が娘夫婦に感じる違和感を描いた「クルチナ」(1998)は、移民として母国以外の国に暮らす娘を思う親心を描いて胸に迫るものがある。

    親の願いでピアノの前に縛りつけられている少年の胸中を描く「絶対つかまらない復讐団」、医者でも直せない偏頭痛を直してもらうために魔女に家を訪ねる少女の思いをつづった「魔女」と、子どもの気持ちを描かせると俄然文章に生き生きしたものが宿るのは、著者が1983年生まれ、とまだ若いせいか。しかしながら、祖父母の世代、父母の世代の考え方や感情の揺れなど、巧みな筆使いで描き分ける力量も備えている。将来が楽しみな書き手の登場である。

  • 見知らぬロシアの極東の過去から現在を
    あっちこっちと進む物語
    みんな過去をもっているから、時間は複雑に絡みあう。

    そしてとても魅力的なサブタイトルたちなの。
    イタリアの恋愛、バナナの行列
    皮下の骨折
    魔女
    イチゴ色の口紅
    絶対つかまらない復讐団
    ルンバ


    最後まで読んで、訳者あとがきを読んで、
    そうかつながってるの?ってもう一度読み直したくなる。

  • ぼんやりと照らされるように赤い記憶が漂う

  • かつてシベリア強制収容所が置かれたロシア極東の町マガダン。
    古くは1958年から、最近では2012年まで、長くこの町に暮らした家族と、流れ着いた人たちの人生が交わる九つの短編。
    ジュンパ・ラヒリの『停電の夜に』にインスパイアされたそう。未読なので読まねばだ。

  • 時系列はバラバラだが、全編で織りなされる一家の数世代の歴史。
    「イチゴ色の口紅」が私は一番気に入ったのだけれど、これが最も古い時代になるのかな。

    生まれた土地を離れて、別の土地へ行き、そこで居場所を見つけそこの言葉を身につけて暮らしていく…そこには悲喜劇がついて回る。
    まあ誰にとっても、生きていくとはそういうことでもあるけれど。苦しい境遇の中にも、なんだかうっすらとユーモアもあり、じんわりと沁みてくるものもあり。

    ちょっとラヒリに似た雰囲気を感じながら読んだのだが、やはりご本人「ラヒリの物語に恋して」とのこと。

  • ロシアの極東の町マガダンにおける時代と歴史、人間模様。

    素敵だった。

    連作になっているものもあり、時計の針がグルグル回るように様々な時へ運ばれる。

    人々の生活と心の陰りが染み出してくる。

    その中で瞬くもののひとつひとつが哀しげで、でも優しく力強くキラキラしている。

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五月の雪 (新潮クレスト・ブックス)の作品紹介

目を細めると、今も白い雪山が見える――。米国注目のロシア系移民作家が描く、切なくも美しい9篇の物語。同じ飛行機に乗りあわせたサッカー選手からのデートの誘い。幼少期の親友からの二十年ぶりの連絡。最愛の相手と死別した祖父の思い出話。かつて強制収容所が置かれたロシア北東部の町マガダンで、長くこの土地に暮らす一族と、流れ着いた芸術家や元囚人たちの人生が交差する。米国で脚光を浴びる女性作家による、鮮烈なデビュー短篇集。

五月の雪 (新潮クレスト・ブックス)はこんな本です

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