- Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105901370
感想・レビュー・書評
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表紙と装丁に一目惚れして買ったクセニヤ・メルニク『五月の雪』読了。かつて多くの強制収容所が置かれたシベリアの町マガダン。その役割を終えた後も人々は残り住み、家族という絆を連綿と紡いだ。時に一員が去り、時に死に、時に入れ替わりが生じてもー。戦後からソ連崩壊前後までを描いたゆるい連作短編集。
一編一編は正直に言うと、かなり苦手だった。日常に不満を感じているのに、少しでも夢想しようものなら現実に引き摺り戻される登場人物が居た堪れない、と思いきや、彼ら自身も(全員ではないが)結局デモデモダッテで何も行動を起こそうとしない。
何も起きないロシアの町の喜怒哀楽を描いている、と言えば聞こえはいいけど、とにかくそれが苦しくて仕方がなかった。せめて一度は選択して欲しかった。足掻いて欲しかった。結局作者が皿に乗せた「これぞロシア」を口にできる訳でもなく、ボーッと傍観させられているような。各キャラの心の中の結晶が欠けたり、組み替えられたり、細かな変化はしているのは分かったけれども、全く感情移入ができなかった。
ただ、最後に各編が緩く繋がっている事に気付くと、印象はガラリと変わる。描かれているのは個人の話のように思えて、壮大な一家の歴史だった。点と点が繋がり、曖昧ながらも美しい像を描く。その中でもがく祖母が、母が、子が、愛しく思える、そんな不思議な一冊だった。
「イタリアの恋愛、バナナの行列」ーまだ西欧の物が手に入り辛かった時代。イタリアのサッカー選手に口説かれた私は、恋と家族を天秤にかけー。「皮下の骨折」ー順風満帆なアメリカでの生活を得た私と、全く同じ町で生まれ育ちながらも、不遇に見舞われてしまう友人と。「魔女」ー偏頭痛に悩まされる少女は魔女の下へと向かう。「イチゴ色の口紅」ー早く結婚してイチゴ色の口紅を気兼ねなくつけたかった私はー。「絶対つかまらない復讐団」ー少年はマガダンの復讐団結成に思いを馳せる。気が散ってしまう、こんな簡単な行進曲も弾けないなんて。「ルンバ」数十年に一度の逸材を見つけたダンスコーチは少女にだけ甘い。終いにはー。「夏の医学」ーどうしても医者になりたかった少女は仮病を使い祖母の病院に入院するもー。「クルチナ」ーアメリカ人の男の下に嫁いだ娘が気がかりで、ついには渡米したおばあちゃん。「上階の住人」ーマガダンが誇るかつての大歌手の人生。詳細をみるコメント0件をすべて表示