中欧: ポーランド・チェコ・スロヴァキア・ハンガリー (読んで旅する世界の歴史と文化)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (369ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106018435

作品紹介・あらすじ

かつては「地理的に中央部にありながら、文化的には西、政治的には東に位置する、最も複雑なヨーロッパ」と呼ばれた「中欧」。西欧以上にヨーロッパ本来の香りを残すとも言われるこの地域の、多様な歴史と文化の魅力を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 「地理的に中央部にありながら、文化的には西、政治的には東に位置する、最も複雑なヨーロッパ」
    かつてはそう呼ばれたという地域、それが中欧である。
    本書ではポーランド・チェコ・スロヴァキア・ハンガリーの4国をこの「中欧」と位置づけている。

    本書を手に取ったのは、ここのところ、第二次大戦前後を描いた本や映画に触れていて、ナチスに蹂躙され、戦後は社会主義に取り込まれ、後に民主化へと舵を取ったという点で、この地方の特にポーランドとチェコの状況がよく似ているように感じたためである。
    全体を俯瞰してざっくりと歴史を解説している本がないかと探していて行き当たった1冊である。
    刊行が1996年といささか古い。であるため、空白部分を抱えつつ、1996年の時点で過去を眺め渡す本を読んだという感覚である。

    歴史に加え、都市ガイドや料理・祭りといった観光的側面や、美術・工芸・音楽などの文化的・芸術的側面も盛り込み、写真や図版も多い、やや欲張りな作りとなっている。そのため、旅行ガイドとしても歴史書としてもどっちつかずであり、中途半端に感じる向きもあるだろう。
    だが(自分も含め)この地方についてあまり知らない人にとっては悪くない入門書だと思う。

    4国のうち、ハンガリーを除く3国は、通訳なしでも言葉が通じるほど言語的に近い(ハンガリーはウラル語族、その他はスラブ語派の話者が多数派)。
    境目に位置するこの地は、西にとっては東、東にとっては西として、さまざまな勢力の襲撃に翻弄されてきた。
    似たような環境だが、それぞれの国はそれぞれの歴史を背負い、一つに括りにくい複雑さも見せる。
    「中」欧という呼称は地理的にはその通りだが、「東」が共産主義の象徴であったことを思うと、「東欧」ではなく「中欧」という呼び名を選ぶことには、地理的な意味以上の重みがあるようだ。


    政情が複雑であったこともあり、国外に活躍の場を求めた人も多い。
    中欧出身として西側に知られている文化人の中には、ルーツは中欧にあっても大半を国外で過ごした人も少なくない。
    古いところではコペルニクスがポーランド出身である。マリー・キュリーはポーランド人にとっては「ポーランド出身のフランスの科学者」ではなく「フランスで仕事をした、ポーランドの偉大な科学者」である。

    ガラス細工や料理、貴腐ワインなど、エキゾチックで興味深い風物も数多い。
    昔の古い風俗も残る。日本の田舎のような「懐かしさ」を感じさせる素朴な魅力も感じさせる。
    かつてのヨーロッパの残映も漂わせる、そんな地域であるようである。


    <以下、メモ的雑感です>
    *ポーランドの岩塩鉱山(ヴェリチカ)。何もかもが塩で作られた地底都市があるという。(この本刊行の時点で)局地的洪水が増えているため閉鎖も検討されているとのことだが、事情が許せばいつか行ってみたいなぁ・・・。

    *ポーランドはユダヤ民族との関わりが深く、ポーランドに住んでいなくても、多くのユダヤ人はポーランドに対して何らかのつながりを持っているらしいです。

    *スロヴァキアのクリスマス・イブの禁忌として、肉が食べられないとするのはまぁさほど意外ではないですが、その代わり、「精進料理」として鯉を食べるというのがちょっと不思議。魚の方が「屠殺」感覚が薄いってことですかねぇ・・・?

    *「ソラリス」のスタニスワフ・レムはポーランド人だったんですねぇ(この人は外へ出たわけではないですが)。あんまり意識したことなかったな。

    *ハンガリーはヨーロッパで唯一、人名を言う際、姓が先に来ます。こぼれ話的なコラムの中で、「文法的に、通常、修飾語が被修飾語に先行する、または”の”のつく所有表現において所有者が先に立つ言語においては、姓が先になるのが一般的」と述べられています。姓は修飾語にあたるため、先に来るようです。こうした言語では、住所も大きい方から小さい方に、日付も年月日になる傾向があるとのこと。へぇぇ。何か、例外もありそうな気はするけれど、とりあえずおもしろい。

    *巻末の参考文献や人名簿を見ているといろいろ惹かれることも多いですが、とりあえず、本書から派生して読みたくなったのは「東欧怪談集」とイディッシュ語作家シンガーの本かな。あんまり増やすとそもそも読めないと思うので(^^;)。

    • ぽんきちさん
      usalexさん

      そうですねぇ。
      よくも悪くもこの時点よりは現代化が進んでいるのかなぁと思います。
      機会があれば行ってみたいもので...
      usalexさん

      そうですねぇ。
      よくも悪くもこの時点よりは現代化が進んでいるのかなぁと思います。
      機会があれば行ってみたいものです。
      2014/04/06
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ベルリンの壁が崩れて暫くは、此の手の本が出ました。その中でもコレが一番均整が取れててお薦め。そして最右翼?が別冊宝島「中欧世紀末読本」です。...
      ベルリンの壁が崩れて暫くは、此の手の本が出ました。その中でもコレが一番均整が取れててお薦め。そして最右翼?が別冊宝島「中欧世紀末読本」です。。。
      2014/04/08
    • ぽんきちさん
      nyancomaruさん

      > 最右翼?
      それはそれでおもしろそうです。
      検索してみたら表紙がすごいインパクトでした。
      nyancomaruさん

      > 最右翼?
      それはそれでおもしろそうです。
      検索してみたら表紙がすごいインパクトでした。
      2014/04/08
  • 「中欧」と呼ばれる四カ国を紹介するガイド本。
    歴史の本かと思って読んだので少し物足りない。
    けれど歴史だけの本ではあまり触れられない音楽や建築、食文化なども紹介されていて、「歴史多めのガイド本」だと思って読めば興味深い。

    執筆陣の一部が「西側」視点すぎるのがやや気になる。96年出版なら仕方ないかもしれないけど日本人なのにな。

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