神の火 (新潮ミステリー倶楽部)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (525ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106027475

感想・レビュー・書評

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  • 「神の火」とは原子炉の火。原子力にまつわるあらゆる人々の目に映るものと、心の動きを描く。初版平成三年発行。氏の表現のあらゆるテクニックと、いつもながらの念入りな取材からの正確な表現が、作品の語る深みを増している。チェルノブイリ事故から数年後の、その密かな悲劇と、日本の原子力の様々な深層部の問題を垣間見る。

  • 終了日:2012・7・8、…そう、これだ!久しぶりにどっぷり浸かれた、この心のざわつき。

    正直最後の侵入あたりはおぼろげだったから、息を呑むような臨場感。だが、大の男二人で原チャ2ケツ、素っ裸で陸に上がる等、シリアスな場面に残る滑稽さが絶妙。
    島田がベティさんと対峙するあたりは苦しかった。
    草介が、柳瀬に律子に良に、と呼びかける所も辛いというか、なんというか。
    侵入直前の水仙もそうだったが、なんとも辛い。
    そして江口のふらっとした去り際。憎らしい。
    でも、あの写真と金太郎あめの魂の誘惑の記憶、には考えさせられるところが多い。

    だがしかし。だがしかし。
    読み終わって久々に涙が出て、リビングにいたから思わず逃げ出して自室でしばらくうーうー唸ってました。
    そう、そう、これなんだ…!「神の火」はエンディングが凄まじく心にくる。
    罪を重ね空虚を重ね、ようやく全てを捨てた一人の男が見いだした懺悔との対価の自由。
    彼が最後に、白と灰色の世界に見た幻想は希望、あるいは救済か。
    とにかく最後のシーンに涙が止まらない。
    最終的には家族というものに行き詰まるんだろうなあ。

    結論:読んで悔い無し。島田がどこまでも愛しい。良も日野も、江口まで、愛しい。

  • 彼女の文章は、ほんとに剛直で、女性の文章と思えない。
    また、テーマ自体も女性が選ぶものではない。
    ここに新たな変化があるのかもしれない。

    原子力発電という強力な科学の進歩は、
    様々な精神的な不安定を導き出す。
    そして原爆という沢山の人間を殺害する能力の存在が、
    少なくとも原子力発電には、連想される。

    原子力発電は、怖いという。
    そんなに怖くないなら、
    東京に原発を作ればいいとも言われている。

    この本の中でも、原子力発電が、
    平和を前提とした構造物であることを意味しており、
    これをミサイルで攻撃したら、
    ひとかたまりもないことをいっている。

    日本の原子力発電は、世界一安全であるといわれているが、
    チェルノブイリの事件、そしてスリースマイルズの事件など、
    何らかの事故が起こることは、考えられる。
    原発に関わる沢山の技術者が存在しているが、
    人間の考える知恵は、つねに限界性を持ち、絶対ではない。
    つまりやはり原発は、安全とはいえない。
    あらゆる場合を想定して、つくられなければならない。

    原発のことについては、あまり詳しく知らない。
    動燃(動力炉・核燃料開発事業団)は、
    高速増殖炉の開発をしている。
    プルトニウム利用の技術開発を中心に据えて、
    電力会社の原子力発電推進を進める役割。
    実験炉「常陽」原型炉「もんじゅ」野開発・運転費など、
    95年度までに1兆1500億円を使っている。
    高速増殖炉が、実用化されるまでの
    つなぎとして位置づけられていた、
    プルトニウムを燃料とする
    原発(新型転換炉)の計画が昨年中止された。

    使用済み核燃料を再処理して、
    プルトニウムを利用する「核燃料サイクル」を推進している。
    LNG火力発電の1キロワットの原価が9円、
    石灰火力・石油火力では、10円であり、
    原子力発電も、発電原価は9円、
    そのうち20%の1.8円が、ウラン核燃料費になる。
    しかし、プルトニウム再生が2倍になるとすれば、
    コスト的メリットがなくなる。

    今後どんな方向に行くのかよくわからない。
    時代が決めてくれる。

    いわゆる無計画の計画と言うべきか。
    だんだんとキャンバスの中が埋まってきている。

  • 元原子力工学研究者であり、旧ソ連のスパイとしての顔も持つ緑の眼の男・島田浩二
    謀略の日々に訣別し、全てを捨てて平穏な日々を選んだ彼のもとへ、ある日を境に様々な人間が現れては、謎に包まれた原発襲撃プラン<<トロイ計画>>の名を告げていく
    アメリカ、北朝鮮、ロシア、日本の四ヶ国による苛烈な諜報戦の中で
    己が身をカードとして国際政治の激流に翻弄されながらも
    鉄壁の警備網を超え、コンクリートの城の奥底に眠る神の火の蓋を開こうとした男達の物語


    題名の「神の火」とは、神話のプロメテウスの知恵の火を指します
    初期の作品なので若干文章の熱が高く、全体的な雰囲気はリヴィエラや黄金に近いです
    取材の際は一切メモを取らないことからカメラ・アイ能力を持っているとまで言われる作者の執拗で偏執的な描写は
    現役の原発関係者達も驚ろかせたというから本当ド変態


    リヴィエラ~でもそうでしたが
    普段はインテリ中年祭りが常の高村作品の中でも
    スパイものになると女性キャラクターがとても鮮やかになる印象があります
    個人的には江口爺がダントツでいっとうしょうでした
    ジゴロでデカダンでロマンスグレー!ひゅーひゅー!
    また作者の眼球フェチっぷりが顕著な一冊でもありました
    同じく海でも、わが手に~とは真逆の美しさを持ったラストにも注目です
    大幅改訂された文庫版では島田と良とイリーナの関係が大きく変化しているそうなので
    そちらも読み比べてみようと思います

  •  原子力は人類が手にした叡智なのか。神のみに与えられた「火」なのか。
     
     震災を乗り越えた日本人にとっては、それ以前とは異なる読み方になっているのではないか。それが作者の本来の意図により近づいたのではないかと想像する。
     原子力という力。しかしその力を振るうための準備は整っているのか。平和を前提に、さまざまなリスクに片目をつぶり、経済効果のみに目がくらんでいるのではないか。

     元スパイが原子力という大きな波にもまれ、ソヴィエト、アメリカ、北朝鮮の各国が権謀術策を繰り広げる。が、スパイ小説というジャンルで読もうとすると的外れな思いがする。
     淡々と続く内省が、読み急ごうとする読者の思いにブレーキをかける。

  • 週刊ブックレヴューで、児玉清さんが「高村さんの書く小説は、食べ物がおいしそう」というコメントをしていたが、そのとおり。
    ウォッカを飲んでレバにらが食べたくなった。
    細かいところがていねいに書かれているので、登場人物の個性が際立ち、魅力的である。

  • 前半と後半の2部構成
    ハーフに生まれてしまった主人公の葛藤と開放の物語
    最後はちょっとやりすぎかも、、、

  • 中年男2人組が敢行する敦賀(かと思われる?)原発襲撃。周到に準備された計画で原子炉はあっけなく占拠される。原発の仕組みや建屋の構造を徹底的に調べ上げた著者高村薫の執念もすごい。最後の「爆弾とライフル」のアクション場面よりも、途中に出てくる「原発運転プログラム解析→システムの弱点を攻撃」というシミュレーションの方が怖ろしい。1991年に初版が出たとは思えないくらい、現在的。今回はハードカバーの初版を読んだが、文庫化に際しての改定・追加部分が読みたくなったので文庫をネット注文(品切れ・増刷中)

  • 主人公の孤高感がたまらない。
    この作品を読むと間違いなく、冷凍庫でとろとろにしたウォッカで熱々の中華や若狭かれいを食べたくなってくるのだ。

  • 正直つまらんなーと思いながら読んでたけど、読み終わるとストーリーからキャラから色々覚えてる不思議な本だった
    ふつうの技術者がいろいろあって突然核融合炉に飛び込みたくなる話
    主人公の隠し子(かもしれない人)が散々名前出てきて結局登場しなくて妙な余韻が残った

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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