新潮選書 手妻のはなし 失われた日本の奇術

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  • Amazon.co.jp ・本 (359ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106036477

作品紹介・あらすじ

手妻、それは日本人が考え、独自に完成させたマジックのこと-古くは奈良平安期の散楽、猿楽に遡り、その後、大道芸として発展、江戸期に娯楽見世物となり大成した大衆芸能である。「水芸」「浮かれの蝶」「呑馬術」など精緻を極めるトリックの数々-時代の変遷と共に奇術としての芸はどのように進化していったか、また日本人はエンターテイメントとして何を求めてきたのか…唯一の継承者がその発展、消長を振り返る。

感想・レビュー・書評

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  • 10月13日、ライブラリー・ワークショップ企画「オススメの1冊~タイムトラベルフェア」で本を紹介することになりました。
    タイムトラベル……歴史関係でもいいか。時代小説でもいいな。そうだ、「手妻のはなし」があったな。というわけで今回はイベントで紹介した「手妻のはなし」という本を、ここでも紹介します。(手抜きではありません。記録です、記録)

    「手妻」。江戸時代を舞台にした小説を読んでいたらしばしば出てくるこの言葉。文脈からして「手品かな?」と推測できたけど、手品とどう違うんだろう、と興味を持っていたところ、「手妻のはなし」という本を発見しました。
    こんな本があるなんて!

    「手妻」とは江戸から明治にかけて行われていた日本独自のマジックのこと。「水芸」などはテレビでもおなじみではないでしょうか。

    この本の著者は、一度消えかけた「手妻」の技を復興し後世に伝えようとしている手妻の第一人者。
    手妻を語るため、古代の奇術(奈良時代!)から書き起こし、時代が下り社会の変遷の中で奇術がどう変わって手妻にいたったかを、多くの文献を引きながら紐解いて行きます。
    古い時代には芸能と宗教との結びつきが深く、奈良時代には「散楽戸」という音楽や奇術など芸能に関する役所があった、とか、江戸時代の貴族は「官位」を授けることで収入を得、身分の低い手妻師は官位を得ることで立場がよくなった、とか今まで聞いたこともない日本の歴史が次々と出てきて大変おもしろい。

    これらの話のもとになる文献というのが「吾妻鏡」「今昔物語」「和漢三歳図会」などなど……
    古典の授業で聞いたことがある!
    伝統芸能を受け継ぐということは、「歴史」を受け継ぐということなんですね。

    もちろん、書物だけでなく、自分の師匠や他の手妻師にも話を聞き、直接教えを請うています。それが昭和40年ごろのことで、当時の師匠は明治の生まれ。ということはその師匠の師匠は江戸時代の人ということもあったとか。
    昭和40年ごろは、まだ江戸時代の言葉が聞けた時代だった、という言葉に驚きました。

    手妻の魅力は仕掛けの面白さと所作の美しさ。そしてその所作にこめられた物語の無常観や叙情性。
    これは洋の東西を問わず通用したようで、江戸から明治にかけて、手妻は西洋にも活動の場を広げ、大成功をおさめたそうです。
    ところがその一方で、海外から多くの奇術師が来日するようになって人気を集め、その上日本国内では「明治維新」により、「日本文化」を否定するように西洋化を推し進める動きがあり、手妻は徐々に衰退していってしまうのです。
    日本には、世界に誇る洗練された文化があるのに、日本人がそれを否定してしまう……。
    とても残念なことです。

    この本で、手妻は文化庁の「本物の舞台芸術体験事業」で、平成19年度から学校で講演を行っていると紹介されています。
    「すばらしい!」と思ったのに、事業仕分けで仕分けられ、平成22年で終了したらしい。
    芸術は一朝一夕に利益を得ることとは無縁だから、いいのに。

    手妻最盛期の江戸時代、手妻など芸能をささえた観客は、下級武士や商人でした。
    彼らならきっとこういいますね。
    「野暮だねえ」


    http://opac.lib.tokushima-u.ac.jp/mylimedio/search/search.do?materialid=209003684

  •  手妻という言葉をご存知だろうか。手妻とは今でいうマジックのことである。
     本書には紙でできた蝶を扇であおいであたかも飛んでいるかのように見せる「浮かれの蝶」や縄抜けといった本当に種も仕掛けもないようなものや、刀の刃の上を素足で渡る「新つるぎの刃渡」といった何の仕掛けもないとしたら人間業とは思えないものまでさまざまな手妻が載っている。これらは江戸時代から明治時代にかけて手妻師(今でいうマジシャン)が行ってきた。書中では手妻師がどのように手妻をしてきたのかを当時の大衆の様子も含め記してある。
     しかし、私が最も印象に残っているのは「浮かれの蝶」に向き合う手妻師である筆者の姿勢である。「浮かれの蝶」はただ美しいだけの芸ではなく、その短い芸の中に蝶の一生が描かれている。その事をうまく伝えるために、伝統の芸に何度も改良を加える筆者の姿は伝統芸能を受け継ぐもののあるべき姿の一つだと思う。
     古くから伝わる日本の誇るべき伝統。そしてそれを変わらず、ときには現代に合うように改良をして継ぐ継承者の姿。本書を読んだあとは、一度手妻なるものをじっくりと見たくなることだろう。

  • 読み終わった後で手妻の動画をいくつかYouTubeで見てみたけど、俺はMr.マリックとかマギー司郎のほうが面白いし、びっくりすると思った。
    本はよくできてた。

  • 感想未記入

  • [ 内容 ]
    手妻、それは日本人が考え、独自に完成させたマジックのこと―古くは奈良平安期の散楽、猿楽に遡り、その後、大道芸として発展、江戸期に娯楽見世物となり大成した大衆芸能である。
    「水芸」「浮かれの蝶」「呑馬術」など精緻を極めるトリックの数々―時代の変遷と共に奇術としての芸はどのように進化していったか、また日本人はエンターテイメントとして何を求めてきたのか…唯一の継承者がその発展、消長を振り返る。

    [ 目次 ]
    第1部 呪術・宗教と娯楽の狭間―古代~平安、鎌倉、室町時代(散楽以前の幻戯―卑弥呼の鬼道から修験道まで;散楽―奈良時代の国立雑技団;阿倍清明―科学としての陰陽道;放下―布教がいつしか大興行へ)
    第2部 日本独自の民衆芸の誕生―江戸時代初期~中期(三人のスターたと―古の伝内、都右近、塩屋長次郎;手妻の誕生―娯楽芸としての発展;からくり人形―傀儡師の系譜;伝授本―元禄期、庶民生活の底力)
    第3部 芸の質から興行形式まで、工夫と円熟―江戸時代後期(小屋掛けと寄席の進出―華やかなりし文化文政の手妻興行;柳川一蝶斎と「蝶」―単純芸を作り変えた画期的発想;手妻の傑作「水芸」―究極のイリュージョンに)
    第4部 世界に名を轟かせた絶頂期―明治時代(松旭斎天一の登場―頂点を極めた男;パリの万国博覧会―世界に羽ばたく蝶の芸;江戸期からの脱却と新たなる波―日本文化の否定)
    第5部 失われゆく過程―大正、昭和、そして現代(一世を風靡した娘太夫、天勝―美貌のネタッ子;蝶のその後―そして昭和の手妻師たち)

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    [ 参考となる書評 ]

  • 牽強付会に過ぎる。
    最初に「推測は推測として書く」と宣言しているとはいえちょっと強引すぎ。
    話半分に見るのが吉かな。でも読み物として面白い。

    明治維新と手妻(ひいては日本の芸能)の衰退のくだりで「欧米追従のあまり日本の良さを蔑ろにしてきた」というような主張をしているわりに、同じような思考を捨て切れていないあたりがなんだかなあ。

    日本の独自性をやたらと誇るんだけど、基準がヨーロッパ。
    あの欧州様にもこんな芸はないんだぜ!だから日本はスバラシイ!
    こんな島国が欧州からたった数年遅れでこんなことをしていたんだぜ!
    のような、コンプレックスと表裏一体の歪んだ崇拝というか…
    手妻を誇るのも日本を誇るのも自分を誇るのも全部そんな具合。

    わざわざ相対評価にしなくたって普通に「いいもんはいい」でいいのに。
    でももはや戦後ではない頃に育った人としてはそうなっちゃうのかな。
    私の違和感は鹿鳴館を馬鹿にする昭和っこ的な感覚なんだろうか。

    ともかく面白さは伝わった。
    天勝さんをもっと知りたい。

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著者プロフィール

昭和29年12月1日東京生まれ。11歳で初舞台。以来、マジシャンとして活動する。文化庁芸術祭賞を受賞(昭和63年・平成5年・平成10年。うち平成10年は芸術祭大賞)。伝統的な古典奇術「手妻」を継承し、蝶のたはむれ、水芸等を今に残している。著書に、『タネも仕掛けもございません──昭和の奇術師たち』角川学芸出版、2010年、『そもそもプロマジシャンというものは』東京堂出版、2010年、『手妻のはなし──失われた日本の奇術』新潮社、2009年、など。

「2018年 『たけちゃん、金返せ。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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