「社会的うつ病」の治し方 (新潮選書)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106036743

作品紹介・あらすじ

軽症なのに、なかなか治らない。怠けるつもりはないのに、どうしても動けない。服薬と休養だけでは回復しない「新しいタイプ」のうつ病にどう向き合うべきか?精神科臨床医が、具体的で詳細な対応法のすべてを解説する。「自己愛」が発達する過程に着目し、これまで見落とされがちだった"人間関係"と"活動"の積極的効用を説く、まったく新しい治療論。

感想・レビュー・書評

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  • コフートの自己愛について、初めて認識でき、概要を理解することができました。

    「自己ー対象」の関係から生きていく上で大切な様々な能力を取り込み吸収すること、
    家族だけの関係では不十分だということ、など。

    環境調整や、出会いのきっかけ作りなど、ソーシャルワーカーである私にとって、とても学びの多い一冊でした。
    この本をきっかけに、環境調整についてもっと深めていきたいです。

  • 出版社から献本いただく。感謝します。

     落ち込んでいる。僕はデヴィッドソンスケール50点の(後述)ヘタレなので、極めて落ち込みやすい。訳の分からない人に何を言われても痛痒を感じないが、訳の分かる人に叱られるとかなり尾を引く。
     というわけで(どういうわけ?)、斎藤先生の近著である。
    「社会的うつ病」という近年多いマイルドな、しかし難治性のうつ病を基軸に、社会と病との関係性を論じた一冊。斎藤先生の本は「生き延びるためのラカン」以来。

    思いつくままにメモを
    ・社会の「心理学化」ーー>脳科学化の問題。
    あるセオリーで社会を全て説明することの息苦しさ。
    ・操作主義の問題。自律の欠如。いずれ操作されることが快適になってくる。
    ・薬漬けは問題だが、うつ病治療の基本や薬物治療
    ・心の強さは簡単には決められない。
    ・逆境を上手く乗り切るレジリアンスの能力。デヴィッドソンのスケールだと、一般人は平均80点、うつ病の人は60点以下。僕は50点だった(!)。
    ・民間療法も、プラセボ療法も、治れば良い。
    ・母親の基本的信頼感は大事。これが欠如し、自己愛性人格障害になることも。ただし、セオリーにあまりにどっぷりつかってもだめで、話半分くらいに。
    ・適度の欲求不満が人の成長を促す。
    ・孤独で才能が開花するのは、「美談」であって一般化できない。人は通常は孤独がネガティブに作用する。
    ・日本人は世界でも社会的孤立の度合いが強い。
    ・ネットでは孤独は避けられない。ネトゲ廃人のリスク。
    ・自己愛は科学の対象ではない。
    ・ブリーフセラピー
     うまくいっていることは続ける。
     うまくいかないなら、やり方を変える
     かつてうまくいったことをもう一度やってみる。
    ・境界型人格障害者は孤独が極めて苦手 誰の心にも境界型人格障害は住んでいる。
    ・境界型は、判断の基準が「黒か白か」しか知らない。つまり未熟。
    ・自己啓発にはご用心。誰でも変われるといいながら、失敗しても自己責任というのは問題。
    ・人間が変わるのに最も意味がないのは「決意を新たにすること」

    とまあ、ランダムに気になったところをメモってみたが、昨今のうつ病とその周辺を描写し、社会論にもなっているように見える。社会の変容が精神疾患の様相を変じていくという説明はとても理解しやすい。今の世の中の危うい部分が「社会的うつ」、発達障害(アスペルガー含む)、人格障害などいろいろな様相に影響を与えていく。身体性への言及は内田樹さんとシンクロする(ラカンだから?)。あと、音楽療法のところが興味深かった。今後どういう展開を見せていくか、楽しみ。

  • 今までに読んだ著者の本(主にひきこもり関連のもの)は、今一つ患者を客体化・対象化するような著者の視線が気に入らなかったが、この本に関してはそういうことはなかったので印象が変わった。
    ただ、人との関わりを通してうつ病(新型うつ病)が軽快したという事例がよくあったから他者とのつながりは大事だよね、という本書の主な主張に関しては、それって昔からある自助グループやセルフヘルプの考えと同じだし特に目新しいことでもないんじゃ?とも感じた。
    最後の方に書いてあった、声楽のレッスンを行った結果うつ症状の改善が見られたという内容は面白かった。「身体のレベルでの自己愛の修復」が本当にあり得るなら自分ももっと運動とかしようかしら。

  • 身近に新型うつ病の方がいるので、たいへん参考になりました。

    メカニズム
    ・彼らの自己愛の脆弱さ。(生きていて良いのだ)
    高いプライドと低い自信。
    自己愛が低いので、他人も愛せない。

    解決方法
    ・自己肯定的になれるためのストーリー構築
    ・①忘れる ②何か働くことでプライドを回復 ③毛づくろい(人薬)
    ・世間体は障害になりやすいのでご法度
    ・挨拶、誘いかけ、お願いごと、相談事

  • 著者は引きこもりが専門の臨床医
    「うつ病に関して2冊目に読む本」として

    <第1章 現代社会とうつ病>
    旧来のうつ病
    ・重症・・・無気力、抑鬱
    ・性格:責任感強い、執着気質→うつになって180度ひっくり返る
    ・きれいに治る
    新型うつ病
    ・比較的軽症
    ・性格:他責的、問題回避的→うつになって強まる
    ・難治性

    99年⇒08年 患者数が2倍以上に増加
    生物学的には説明できない。「社会的」な要因
    ・メディア ルーピング効果
    ・「生存」の不安から「実存」の不安へ
    ・世間一般の心理学化
     狂気の陳腐化、狂気へのセンサー過敏→軽症化
     すれっからし、狂気へのセンサー過敏→難治化

    操作主義、再帰性、マクドナルド化
    コミュニケーション偏重主義と過剰適応

    <第2章〜第4章>
    薬物治療、認知行動療法→(対人関係療法)、環境調整

    自己愛からレジリアンス(自然治癒力?)へ
    プラセボでも治れば結構

    自己愛を補強するのが「人薬」
    基本の人間関係は家族だが、人薬には家族以外の人間関係が大事
    非特異的な人間関係(通りすがり)すら治療効果がある
    自己愛「システム」固定的でなくダイナミック

    中井久夫「治療文化論」 友人関係の変遷をたどった論文
    「治療集団」的側面を持つ小集団
     近代精神医学では熟知者による治療は禁忌だが、より原始的な社会ではそうも言っていられなかったはず。

    <第5章〜第8章>
    周りの人間は、まず何にせよ否定せずに受け止めてやる。

    支援者を支援する→企業のラインへの支援
    リワークプログラム・・・仕事が薬になる。活動が大事。

    ベーシック・インカムには懐疑的。
    生活保護はケアがあるので社会復帰するケースが多いが、障害年金を受給するようになると復帰困難。
    収入だけでなく「生きる場」、社会とのつながりが必要→アクティベーション

    似て非なるもの
    気分循環症
    境界性人格障害
     対人嗜癖、行動化(自傷など)、他人を操作する傾向
     →思い当たる人がいる。。。
    発達障害
     アスペルガーなど
     安易に診断される風潮の反面、うつ病との誤診もある

    からだが大事・・・声楽療法、認知運動療法

  • 斎藤環氏については、NHKラジオの文化講演会でとても印象に残った講演だったので、それ以来何冊か読んでいる。
    今回のは、うつ病とその対応の解説の本である。病院に行くほどうつ状態にあるわけではなく、好きなことは勝手に自分でできるが、しなければならいこと(学校や仕事)はできない。そして暴言を吐いたり、自分勝手な行動をする。それに対し、諭したり、叱ったり、口論することが無駄であるという。今の状況を受け止め、安心出来る状態にすることが家族がすべきことだという。
    エッセンスは第5章「家族」のかかわり方にある。
    (中央図書館)

  •  心理学や脳科学の隆盛による「こころの視覚化」とポストモダンという「大きな物語の喪失」の時代背景が相まって、うつ病や統合失調症の症状が軽症化し、一方で操作主義が及ぼす実存的な悩みの増強による「軽症うつ、社会的うつ」が増加しているという考察。
     統合失調症の妄想も、宇宙の支配から隣人の盗聴へと「小さな物語」化しているという指摘が興味深い。

     ジェンダーが多様化した現代社会で、適切なバランスの自己愛の形成が家族や隣人、学校だけでは得られにくくなっているというのは実感としてある。コフートの発達理論=自己心理学、はとてもわかりやすく、今の時代を考える上でのポイントが整理されていた。

     「しつけ」と称する道徳や倫理観の押しつけと、学校に代表される画一化への要請が、周縁にいてズレを感じる人間にとって、結果的に依存先を奪い取っている可能性に大人の側が自覚的にならないと何も解決しないのではないか、と思った。
     ひきこもりの専門である筆者が、軽症うつと共通する精神病理を見出し処方箋を呈示する書であるが、この対処法は不登校の児にもそのまま応用可能だと感じた。しかし、デイケアや就労(就学)支援などのリソースは「不登校」では皆無と言っていい。それは、不登校が「病気」と認定されにくい原因の多様性を孕んでいることと、学校が職場よりも「帰属することを要請される縛りが強い」場所であることが関係あるのではないだろうか? やはり成人になってから表面化する問題ではあっても、根っこは発達過程の教育や育て方(親子関係)にある、そう強く感じさせてくれる書である。

     悲しいかな、親は子に対し、教師は生徒に対し「支配的」になるものなんだろうな。

  • 「人薬」の偉大さに深くうなずく。対面エネルギーに勝るものはない。「どう考えるか」「どうするか」が、具体的で良い。

  • 家族以外の親しい人間関係を築くことの大切さを感じた
    自我と自己の関係、自己愛からくる逃避がひきこもりなのだなと思った

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著者プロフィール

斎藤環(さいとう・たまき) 精神科医。筑波大学医学医療系社会精神保健学・教授。オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)共同代表。著書に『社会的ひきこもり』『生き延びるためのラカン』『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』『コロナ・アンビバレンスの憂鬱』ほか多数。

「2023年 『みんなの宗教2世問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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