ふたつの故宮博物院 (新潮選書)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (231ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106036828

作品紹介・あらすじ

戦争と政治に引き裂かれ、「北京」と「台北」に分かれた、ふたつの故宮。同じ名をもつ東洋の二大博物館が、相容れない仲となって約半世紀が経つ。しかしいま、中国と台湾の歩み寄りが、両故宮をにわかに接近させつつある。数々の歴史的秘話や、初の「日本展」へ向けどのような水面下の動きがあったかを明らかにしながら、激動を始めた両故宮に迫る最新レポート。

感想・レビュー・書評

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  • 圧倒的に読ませる文章力。
    北京と台北の二つの故宮から、近代中国の悲哀と昨今の両岸関係事情をも包含したドラマを紡ぐその展開に思わず一気読みした。
    故宮の文物が中国大陸を彷徨い、最後に台湾まで渡ったその経緯は数奇に思えるが、文化は即ち政治であり、正統性を与えるものとして権力の象徴であった、中国の長い歴史から見れば、その流浪の旅もまた歴史上に繰り返されてきた一コマに過ぎないのかもしれない。混沌としているから、それを生き抜いてきた文物がより眩く見えるのか。
    辛亥革命から100周年の年に、二つの故宮展を東京国立博物館で統一させようとした平山郁夫の演出も味があり、日本が、その歴史的経緯からも主要な参画プレーヤーだということを改めて思い知る。
    台北の故宮が台湾の人から受け入れられるのか、台湾化と中華主義の攻防も、台湾の複雑な内部事情を物語る。執筆時から相当時間が経っているが、いまだに内容として褪せない。
    二つの故宮から、ここまで両岸、そして時に日本をも巻き込んだ歴史、政治、文化にわたるドラマを描けるものなのか。ただただ脱帽する。

  • ふむ

  • 一つの美術品が数奇な運命をたどる話は良く聞くけど、ハコである博物館そのものがひとつの生き物のように時代(政治)に翻弄される壮大なストーリーでめちゃくちゃ面白かった!

    王朝によって民族が入れ替わる中国にとって政治と文物は不可分なのね。


    惜しむらくはこの本が2011年に書かれていて2014年の東博が開催した國立故宮博物院の企画展について書かれていないこと。

    国立である東博が、日本が「国」として認めていない台湾の故宮の企画展を「國立」の表記のまま開催できた経緯を知りたいぞ〜!

  • 北京故宮と台北故宮のふたつの故宮博物館。
    辛亥革命により清国が消え、
    日中戦争勃発により文物の避難が始まるが、
    やがて国民党と共産党の国内紛争の中で、
    さらに迷走し、台湾省へと海を渡る。
    中国から来た人々を「外省人」と呼び、
    もともとからの台湾人を「本省人」と呼ぶ。
    台湾国内の政治は博物館建設にも影響を与え、
    民進党と国民党の政争に巻き込まれる。
    質の台北故宮、量の北京故宮の意味がよくわかった。

  • 「中は台湾に」「外は北京に」だと思っていましたが、北京にも相当の文物が残っているのですね。この本を読んで初めて知りました。

    そしてここ最近では、発掘も盛んんい行われていますから、北京ん方はどんどんその保管する文物を増やすのに対し、台湾の方は。船で台湾に持ち込んだものしかないので限界があります。とはいえ、実は台湾の方が有名な芸術作品が多い。

    本書を読んでたら両岸の博物院を観光するのも面白いかもしれません

  • 北京と台北にある故宮。その歴史は蒋介石の意志によるところが大きそうです。中華思想を体現する宝物として、文化資産が北京から出て、南京そして中国各地を転々とし、国民党軍の台湾への退却に伴い、船に載せ海峡を越えて台湾に運び込まれる!日本軍、中共軍との戦いの中で、良くあれだけの資産を損傷することなく、運び込んだという執念に驚きです。蒋介石にとっては三種の神器のようなものだったように思います。そしてこの2つの故宮の合体が今では大陸・台湾の和解という政治的な意味合いを持って語られることに歴史の皮肉を思います。元の黄公望という書家の風景画「富春山居図」という長大な絵巻の作品が焼け残って台北と杭州の博物館に分かれており2011年の文化交流として杭州から台北に片方が運ばれたというのは感動的な話です。しかし中華思想は元々台湾の本省人にとっては迷惑なものでしかないのも理解できました。人口700万人の島に200万人の本省人が49年に渡ってきたということは、考えてみれば恐ろしいことです。

  • 地元の図書館で読む。

  • ふたつの故宮の歴史を振り返ることで、中華思想について触れている。台湾の故宮に一度は行ってみたいなと以前から思っていて、その思いを強くしました。

  • 故宮博物館の文物とは、正統な歴史を持つ国としての証でもあるという見解は目から鱗。日本のような万世一系の天皇のもとという歴史の解釈がないゆえの文物へ固執具合が良くわかりました。二つの故宮博物館の文物が日本で一緒に公開される日を楽しみにしたいと思います。

  • 故宮博物院というテーマからみた台湾と中国

    台北と北京、同じ故宮がこの地球上に二つ存在する。
    どちらかホンモノか?それは、立場が違えばそれぞれの回答がある。
    そう、故宮も政治的運命に翻弄されながら存在しているのだ。

    もともと、北京にあった故宮博物院の文化財は日中戦争が激しくなり、箱詰され中国の奥地をさまよう。そして日中戦争後は共産党と国民党の内戦により蒋介石が重要な文化財を台湾へ運んだ。

    この二つの故宮という視点から、中国・台湾というものを理解するきっかけとなる力作だ。

    旅先で訪問した二つの故宮。
    この本を読んだ後の訪問は、また違った視点から二つの故宮博物院を楽しめそうだ。

  • (要チラ見!)

  • このところ、台湾に興味津々。台北故宮が展示施設というより、宝物の保管施設として建てられたことに注目。大陸から逃れてきた国民党があくまで一時的な避難地としてしか台湾を考えていなかったことを如実に物語っている。本省人と外省人の意識の違いの淵源がよくわかる。

  • 1977年に台北、2006年に北京の故宮博物院を訪れた。自分でもいろいろ考えることがあったが、この本を読んでみたい。

  • 北京と台北。戦争と政治によって引き裂かれた故宮の秘宝の運命をたどる壮大なノンフィクション。著者は朝日新聞の元台北特派員。

    故宮に収められている文物を所有することは、単なるモノを所有することではなく、そこから導かれる歴史、そして、権力の正当性を手に入れることだという。

    今後、中国と台湾の歩み寄りが故宮の歴史とどう絡み合っていくのか。個人的には、北京と台北の両方を集めた「日本展」の開催を期待したい。

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著者プロフィール

野嶋 剛(のじま・つよし):1968年生まれ。ジャーナリスト、大東文化大学教授。朝日新聞入社後、シンガポール支局長、政治部、台北支局長、国際編集部次長、アエラ編集部などを経て、2016年4月に独立。『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『認識・TAIWAN・電影――映画で知る台湾』(明石書店)、『蒋介石を救った帝国軍人――台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)、『台湾とは何か』『香港とは何か』(ちくま新書)、『新中国論――台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など著書多数。著書の多くが中国、台湾で翻訳刊行されている。

「2023年 『日本の台湾人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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