天下無敵のメディア人間―喧嘩ジャーナリスト・野依秀市 (新潮選書)

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著者 : 佐藤卓己
  • 新潮社 (2012年4月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (462ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037023

天下無敵のメディア人間―喧嘩ジャーナリスト・野依秀市 (新潮選書)の感想・レビュー・書評

  • 近現代日本のジャーナリズム史を見る上で極めて重要な人物だと思われるが、その活動範囲の広さや胡散臭さ、誤解などなどの理由によってほとんどまともに取り上げられてこなかった野依秀市の本格的研究書である。〝メディア人間〟として野依という佐藤氏の把握にはまったく同意。元祖ブラックジャーナリズムの野依として切り捨て、あるいは無視してきた今までの研究史を痛烈に批判している。

    ダイヤモンドの石山賢吉、『サラリーマン』の長谷川國雄、パトロンの1人であった渋沢栄一、三宅雪嶺などとの関わりも非常に興味深い。

  • 野依秀市(本名は秀一、1885-1968)という人についての評伝。この人物は大分・中津生まれの、大正から昭和にかけての言論人で、『実業之世界』『真宗の世界』『帝都日日新聞』などの発刊人として活躍した。しかしこれらの雑誌・新聞や野依の名前も、いまではほとんど知られていない。その意味では野依は負け組メディア(p.32)の人であり、著者の狙いは勝者からでなく敗者から歴史を学ぶことである。

    この野依という人物、極めて個性的というかアクの強い人間である。本書の「喧嘩ジャーナリスト」という副題が示す通り、野依にとって自身のメディアは論敵に対して徹底的に罵声を浴びせる場だった。その思想的立場は時代によって、論敵によって万華鏡のように変化する。ある人から見れば右翼であり、ある人から見れば左翼である。その都度、仮面が変わるのだが、かといって仮面の下の素顔など存在しない。仮面の下はまた別の仮面である(p.60f)。
    「野依秀一の言論とは、敵本位主義の喧嘩ジャーナリズムである。それは社会悪と見立てた相手を徹底的に攻撃し、その批判の過程で自己生成する行動主義と呼べるだろう。だから、野依式ジャーナリズムの内部に、守るべき絶対的価値、正義は存在する必要がない。論敵を否定する中で対抗的に価値は形成されるのだ。そこに野依式ジャーナリズムの瞠目すべき躍動感が生み出された。左翼からは「右翼への転向者」、右翼からは「左翼の隠れ蓑」と批判された理由も、この敵本位主義にある。」(p.86)
    おそらく、野依式ジャーナリズムは娯楽としてのジャーナリズムなのだろう。論難の舞台を設定して、敵と味方を明確に分け、どちらが勝つのかに注目させる。いまだと劇場型とも称されるだろう。野依式ジャーナリズムとは、ジャーナリズムがその本懐とされる権力批判を立て看板としながら、文化の商品化をするものだった(p.38)。そもそも野依自体、人に代筆させることが多かった。発言内容の真偽より、発言する媒体・著者名が重要だという発想を持っていたのであり、これは優れてメディア論的発想である。野依は自分自身を広告媒体と強烈に意識した宣伝的人間だ(p.24-27, 275)。多数の恐喝等による投獄の体験記、また自身の結婚話すら雑誌のネタにする。自分自身についての記事が多く、まさに自らがネタの宝庫なのである。

    言説や気性の激しさに似合わぬ四尺八寸七分(≒147cm)の身長(p.42)、幼少期からの虚言癖、金持ちへの関心、盗癖(p.46f)。野依は同郷の福沢諭吉の慶應義塾に夜学入学する。この慶應人脈を使って、学生のうちから政財界の重鎮とコンタクトを取ろうとするのだが、その際には紹介者として福沢桃介を利用した。どうやら福沢桃介の名刺を勝手に印刷し、懇意であると騙ったようだ(p.56)。

    こうした人間が果たしてどれだけ信用されるだろうか。ここが驚きだ。野依を学生時代から寵愛し、バックアップしたのは何と財界人では渋沢栄一、言論人では三宅雪嶺である。学生時代からこのような大物がその雑誌経営の支えとなっている。野依の出版物はさほど売れたわけでもなく、現在では忘却の彼方だが、関わっている人々は錚々たるものだ。『実業之世界』一周年記念で演説したのは大隈重信(p.81)。これは1909年、野依24歳のとき。この前年には大隈を始め、後藤新平、高橋是清、伊藤博文にまで突撃インタビューを行っている。1925年のことだが、かの日銀総裁・井上準之助に資金援助を乞うて(結局は川崎造船所専務の永留小太郎が資金を出したようだが)外遊。アメリカでクーリッジ大統領と会談している(p.234f)。1932年の『帝都日日新聞』の創刊費用は、三井や三菱財閥の人間、明治製糖、日本石油(小倉常吉)などから出ている(p.288)。ちなみにこの『帝都日日新... 続きを読む

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天下無敵のメディア人間―喧嘩ジャーナリスト・野依秀市 (新潮選書)の作品紹介

昭和前期から戦後にかけて「言論界の暴れん坊」の異名をとる男がいた。反体制も躊躇せず、戦時下は反東条の姿勢を貫き、一方で対米戦を過激に煽る。その結果、収監されることも一度や二度ならず。だが彼ほど大衆の感情、「世論」を体現した者はいなかった。表の言論史には現れぬ鬼才に焦点を当て、真のジャーナリズムとは何か、その原点を考える。

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