- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106037320
作品紹介・あらすじ
食料・ドラッグ・エネルギー――「炭素」が世界を支配する! 農耕開始から世界大戦まで、人類は地上にわずか〇・〇八%しか存在しない炭素をめぐり、激しい争奪戦を繰り広げてきた。そしてエネルギー危機が迫る現在、新たな「炭素戦争」が勃発する。勝敗の鍵を握るのは……? 「炭素史観」とも言うべき斬新な視点から人類の歴史を描き直す、化学薀蓄満載のポピュラー・サイエンス。
感想・レビュー・書評
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炭素が主役なので、元素や化学がメインの話かと思いきや、どちらかと言うと、文化史。勿論、炭素を切り口として、人類がどのように社会を発展させてきたのかという内容で分かりやすく面白い。
スタートから説明が易しい。素人向きだ。
元素と元素が互いに結びつき、化合物と言うものを作る。紙ならばセルロース、食肉ならばアクチンとミオシン、衣服ならばナイロンやポリエステルといったように、身の回りのものは全てこの化合物の集まり。
中でも木材や皮膚、絹糸などの物質は有機化合物と呼ばれる。有機とは生命力が生み出したと言う意味。現在では有機化合物と言う言葉は、炭素を基本とした化合物と言う意味合いで用いられている。そう、ここから炭素だ。
砂糖の構造を一部変換することによってノンカロリーの甘味料にすることができる。また砂糖を酢酸と化合させれば苦い味、硫酸と化合させれば胃粘膜を守る医薬、硝酸と化合させれば爆薬に。
ブドウ糖=グルコースの分子が長くつながったのがデンプン。ホモエレクトスが初めて火を使い、加熱することで芋をふかし、米を炊いた。デンプンの鎖が緩んでいるので消化分解を受けやすく、摂取カロリーも増えた。同じ時期に人間の脳の容積が急拡大。そのかわり人間は粘化されていないデンプンを消化する能力を失った。多くの猿はどんぐりを生で食べられるが、人間だと腹を壊してしまう。デンプンの加熱調理を覚えたことが、人間にとって非常に大きなターニングポイントだった。
天然から発見されたもの、人工的に造り出されたものを合わせて化合物は7千万以上あるが、この内炭素を含むものは8割を占める。
ややそれるが、スケール大きく、興味深い話。
狩猟時代には1日3時間働けば必要な食料が確保できていたが、農耕開始後、労働時間はさらに長くなり、現在では8時間、10時間と延びている。
事情に迫られてやむなく農耕を開始したと考えるのが自然であり、おそらく急激な気温の低下により、多くの動物が絶滅したためというのが理由として想像される。
手軽にカロリー摂取できていた状態が、エゴにより、自らの食料を確保するための競争をせざるを得なくなり、労働時間や難易度が際限なく増していく。自然すらも所有して権利主張されれば、最早社会に組み込まれないものは、ただ一人では生きてさえいけない。飼い慣らされたのは、植物や動物ではなく、人間なのかも知れない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
人生で赤点を取った最初で最後(だと思う)の科目。何でも計算や記号で片付ける。授業中は意味不明すぎて、ずっとしかめっ面。
私にとって化学は相容れないどころか目の敵でしかなかった。
あれから10年。本書を手にとったのは、克服やないけど生活の中の「化学」くらいは知っときたかったから。
ポピュラーサイエンスと書かれているだけあってまぁまぁ読み易かった。数ある元素の中でも炭素ってどんな元素にも結びつけて化学式もごまんとあるらしい。ここではそんなオールマイティな炭素にちなんだ身近な物質(砂糖・ニコチン・エタノール等)の誕生を世界史と織り交ぜて紹介しており、文系人間(私の場合文系に逃げました人間)が読んでも大方理解できる。(化学式は相変わらず理解に苦しんだが…)
あれだけ毛嫌いしていた化学を書いた本なのに炭素がどんな風に結びついているのか、気がつくと凝視している。世界史も理系的観点から見直せる。意外な収穫が多かった。 -
炭素の歴史といえば、「火の発見/活用」による(食材の軟化で)脳の発達にはじまって
穀物栽培≒炭水化物食により定住、人口増加…。
大航海時代になると新世界植物、食物だけでなくタバコや酩酊草、ゴム…火薬の威力により植民地支配…/近代化学の定量分析で分子構成の一部解明…/
1856年、リン酸肥料確保の必要からアメリカは「グアノ島法」を成立させ、グアノ=海鳥糞のある島に領有をアメリカ人誰でも宣言可とした→ウェーク島やミドウェー島領有。
1898年、英国科学アカデミー会長就任のクルックスは「文明は窒素肥料枯渇で衰退」と宣言→空中窒素固定法開発を促した。それは成功したが、高性能火薬や毒ガスも開発され第一次世界大戦の悲惨さをもたらした。
砂糖(分子構造を少し変えるとカロリーがなく甘みを感じる物質=人工甘味料ができるが、なぜ甘みを感じるかはわかっていない)
香辛料、うま味成分であるグルタミン酸といった食品、
そしてニコチン、カフェイン、尿酸、アルコール(エタノール)といった嗜好品にまつわるもの、そして
エネルギー源としての、ニトロ、アンモニア、石油…最近実用化されたシェールガス
「第4形態」サッカーボール状粒子=フラーレンの発見は1985年、星間物質の研究から偶然に得られた。早くも1990年にアーク放電を用いた大量合成方法が発見され、すでに活用して多くの工業製品がある。 -
とても大層な本題だが、中身はとても読みやすい。
砂糖やカフェインなど身近な炭素化合物から、現代文明のエネルギーたる石油まで、性質や歴史を理解しやすく解説している。 -
教科書には載っていない逸話が多くとても楽しめた。また、作者の秀逸な表現がところどころに見られ、読んでいて終始飽きない良書だった。
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文明の発展や人口の増加が炭素化合物の獲得の歴史とどう符合するのかを分かりやすく論じている。文系の人でもわかる内容。生活とはこれ程までも炭素が欠かせなかったのか、と、改めて考えさせられる。食べ物に始まり、薬品、アルコール、カフェイン、石油、照明装置、テレビに至るまで炭素が発展を支えてきた。なぜカフェインを摂取したくなるのか?世界地中で飲み続けられるものには共通してカフェインが入っているのか?(お茶、コーヒー、コーラ)、ランナーズハイ、麻薬などとの共通点は?エネルギーは使い続けるだけでいいのか? 世界を大枠で捉える上で重要な一冊。
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化学の視点から見た世界史の話。面白かった。エネルギーを切り口にした「地球のからくり」に挑むと雰囲気が少し似ている。
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「炭素文明論」と、一見堅そうなタイトルですが、中身は人類にとって不可欠ないろんな物質が炭素を含んだ化合物であり、それらがいかに発見・利用されてきたかをわかりやすく説明してくれます。
とりあげるテーマは、でんぷん、砂糖、香辛料、うま味成分であるグルタミン酸といった食品、そしてニコチン、カフェイン、尿酸、アルコール(エタノール)といった嗜好品にまつわるもの、そしてエネルギー源としての、ニトロ、アンモニア、石油と章立てされています。
身近なとこに関わる話が多く、説明には化学式も出てきますが、うんちく的な話も多く、科学が苦手でもそんなに抵抗なく読み進められるはず。
しかしこうやって見ると、炭素は本当に文明の礎だなと思いました。割とどんな話にもつなげられそう。おすすめです。 -
世界史と有機化合物とを見事に繋ぎ合わせた傑作。過去に起こった様々な戦争が、実はたった一種類の有機化合物を巡っての争いであることも少なからず。このような観点で、化学の歴史も学べるなんて、まさに目から鱗。
もしこの現代になってアルコールが発見されたら、恐らくアルコールの摂取そのものが認可されないだろうというのは、確かにその通りと納得。
あとがきに書いてあるが、化学物質と聞くと世間一般には危険、汚染、悪者といったネガティブなイメージしか湧かないかもしれない。しかし、この世の人々の生活は全て化学物質・化学反応の進化の上に成り立ってるんだという著者の熱い思いには、同じ化学者として大いに賛同いたします。